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KAZOOを創った小説と東京の書店
  - 『ガープの世界』『重力の虹』『砂の女』 | BOOKS & MAGAZINES #001
Photo: ©RendezVous
2021/06/15 #001

KAZOOを創った小説と東京の書店
- 『ガープの世界』『重力の虹』『砂の女』

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KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.プロローグ

BOOKS & MAGAZINES #001では、僕を形成した文学作品3冊を紹介します。ティーネイジャーの頃に人生は悲劇であると同時に喜劇である教えてくれた青春物語、大学生として読んだ時に迷路に迷い込んだかのような錯覚にさせられた超大作、そして日本文学の世界へと吸い込まれるきっかけとなった近代日本文学の傑作を取り上げます。


2.『ガープの世界』ジョン・アーヴィング(著)

『ガープの世界』という小説は、現代アメリカ文学を代表する作家、ジョン・アーヴィングによるものです。

この物語は笑えると同時に悲劇的でもあり、引き込まれる魅力があると同時に超然としています。何より、壮大です。野心的な小説家の一生を描いたこの長い物語は1982年に映画化されていますが、その映画も長編です。

本来、19世紀に発達した小説というエンタテイメントは、この小説のように長い時間がかかるからこそ楽しいものでした。しかし、最近の日本の小説は、チープなキャラクターとわかりやすいトリックばかりで、とてもがっかりするものが多いような気がします。

例外はあります。例えば、ジョン・アーヴィングの『熊を放つ』を翻訳した村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』もそうして長いからこそ、楽しい作品の一つと言えるのではないでしょうか。


3.『重力の虹』トマス・ピンチョン著

UCLAに在学していた時にハマったアメリカの作家の1人が、トマス・ピチョンです。ピチョンの最高傑作であり、現代アメリカ文学の代表作とも言えるのが『重力の虹』です。

複雑なストーリーと全世界を網羅しようとするそのスタイルは、小説というものの限界に挑戦しているかのようで、その挑みはドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』]にも通じるところがあります。とても感銘を受けた作品です。

また、ピチョンの作品には、もったいぶったものを風刺する手法としてとして“KAZOO" が用いられていることも、僕を虜にした理由なのかもしれません。


4.『砂の女』安部公房(著)

安部公房の『砂の女』は、日本の近代文学において、間違いなく代表的な作品のひとつと言えます。

またE・デール・ソーンダーズによって英訳された翻訳本もまた、日本文学の翻訳作品として代表的なものと言えるでしょう。

E・デール・ソーンダーズによる翻訳は、日本的な世界観を英語によってみごとに表現しており、僕が翻訳という仕事に就こうと思ったのも、この翻訳を読んだからです。

また、安部公房本人による脚本を使った、勅使河原宏監督の映画も忘れられない作品です。

今やDVDでも入手困難になっていますが、機会があれば是非一度ご覧になってみてください。


5.東京の書店について

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東京で生活するメリットの1つは、書店が充実していることです。僕がアメリカにいた頃、アメリカの本屋といえば、個性が全くない大型チェーンか、品揃えもセレクションも全くもって充分ではない小型店ばかりでした。

大半の本棚には犯罪スリラー、恋愛モノのペーパーバックや印刷も紙も悪い低俗な雑誌があるぐらいで、大型店舗は徐々に活気がなくなる一方でした。日本の書店とは全く比べ物になりません。(最近は個人経営の書店が繁盛しているようですが。)

確かに、その分、大学の図書館は充実しているのですが、出版に関しては、日本はとても偉大な国であることは確かなことです。(個人的には、一部に反対もある再販制度があるおかげだと認識しています。)

アメリカで『Amazon Kindle』などの電子出版に人気があるのは、こうした背景があるからなのでしょう。

僕は、本は電子版ではなく、印刷物として所有したいので、本屋にはよくいきます。できるだけ、小さくて持ち運びやすい文庫本(これもまた日本の宝です)ではなく、ハードカバーを買うようにしています。

洋書を入手するには、新宿のタカシマヤタイムズスクエア南館にある『Books Kinokuniya Tokyo』へ行きます。

日本語の専門書や新書(このスタイルの出版物は日本特有のもので、これも日本の宝の1つです)を探すときには、『新宿のブックファースト』と渋谷の東急本店の7階の『ジュンク堂』によく行きます。

写真集や雑誌を買うと行きには、青山ブックセンター本店や代官山の『TSUTAYA』に行くことが多いです。

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6.エピローグ

最近は、本屋というよりもカフェや家電、Tカード屋といった趣の“TSUTAYA"ですが、この“蔦屋"という名称は、歌麿、写楽などの江戸時代を代表する浮世絵の版元に由来すると一般的には、言われております。

しかし、BigBrotherによると創業者の増田宗昭氏の祖父が営んでいた置屋さんの屋号が本来の由来とのこと。

このことを考えると、銀座のコリドー街と並んで、代官山のT-SITEと六本木のTSUTAYAが、東京で有名なナンパの聖地となっていることは、当然なのかもしれません。

BigBrotherは、小学生の頃は、最近オシャレなショッピングや食事ができることで人気の神楽坂の近くに住んでいて、当時は政治家が来るような黒壁に囲まれた料亭がたくさんあり、置屋さんも随分あったとのこと。昼間なども踊りの稽古の三味線が、路地に響いているような風情のある街だったそうです。

因みにBigBrotherの小学校時代の初恋の相手は、そんな置屋さんのおとなしいお嬢さんだったそうです。


BOOKS & MAGAZINES #001

KAZOOを創った小説と東京の書店 - 『ガープの世界』『重力の虹』『砂の女』


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