1.プロローグ
本屋というものは、宝箱とびっくり箱とを合わせたようなものではないでしょうか。
ぶらっと入った本屋さんで見つけた1冊の本が、人生を変えてしまう事もあります。しかもそれが、本来探していた本の隣にあったりするのです。
もちろん、オンラインの書店で本を購入する事もありますが、本屋さんの存在は、僕にとっては、全くの別次元の存在なのです。
昨年、久しぶりにカリフォルニアの実家に戻ったのですが、子供の頃によく行った書店は、大手チェーンの一つの店舗を除いて全て無くなっていました。しかもその大手チェーンの店舗の中に入ったところ、本棚の1/4以上が空っぽになった状態でした。
日本でも、アメリカでも書店離れ、書籍離れは、深刻で、アメリカでも日本でも書店というものは、年々激減しています。
しかし、書店には、オンラインショップでは、決して代替できない機能があるのです。
書店には、1つ1つ個性があり、書店員さんの好みとかもよく現れるものです。
なので僕は、近くの書店をできるだけ多く周ることにしています。そうすることで、予想もできない素晴らしい本に出会うことができるのです。
2.青山ブックセンター 本店
青山学院大学の前にある国連大学の奥の地下(B1階)にある青山ブックセンター(ABC)本店は、とてもよく利用する書店です。エントランスから入って右側にある特集のコーナーは、他店では、絶対にありえない唯一無二の個性があります。
エントランスの左側には、洋雑誌のコーナーがあり、美しい写真の表紙の雑誌にクリエイティビティが刺激されます。
場所柄、料理や旅行のコーナーや写真集、美術系の書籍も充実しています。
以前は、もっとクリエイティブ/デザイン関係のコーナーが充実していたのですが、最近のクリエーターやデザイナーは、WEBだけで資料を集めてしまうようで、エリアを縮小せざるをえなかったのでしょう。
しかし、そのコーナーは、現在ギャラリーやセミナーの教室になっています。作家やクリエーターのワーク・ショップや講演が充実しており、青山本店の魅力の1つとなっています。
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青山ブックセンター 本店
3.TSUTAYA TOKYO ROPPONGI
企画や翻訳の仕事をしていて、夜中に“煮詰まる"と自転車で、六本木の『TSUTAYA』に行くことがよくあります。
真夜中に代々木公園を通り、表参道を登り、根津美術館の横の坂を下り、霞町(大昔はこの辺りは良く霞が出たためこのような町名になったようです)の交差点を抜け、六本木ヒルズまで走ると、昼間とは全く違う東京を感じることができます。
1階で本や雑誌を眺め、2階でCDやDVDを手に取り、再び1階のスターバックスでディカフェのコーヒーを頼み、屋外のテーブルでコーヒーを飲むと、なんだか力が湧いてきます。
クラブ帰りの外国人モデルや仕事帰りのキャバ嬢などが交わす、他愛無い会話もある種の気分転換になります。
28時(早朝の4時)まで、営業しているので、閉店近くまで粘っていると初夏には、白々と夜が明けてきます。そんな中、スズメが足元に落ちているパンくずを食べているのを見ていると、とても清々しい気分になります。
帰り道は、六本木トンネルの壁の絵の横を通り、青山通りまで走り、再び表参道を下って、代々木公園まで来るルートを使います。
東京の早朝を自転車で走るという経験は、何かとても“夢"を感じさせてくれるものです。
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ツタヤ トウキョウ ロッポンギ
4.代官山T-SITE
代官山T-SITEは、書店だけでなく、様々な施設が集まった、とても楽しい空間です。
最近では、買わなくても本や雑誌を自由に読めるようなっている書店が、増えてきましたが、代官山蔦屋書店ほど、そのことに徹底している書店はありません。一人の時は、「スターバックス」でコーヒーを買い、雑誌を何冊も読ませてもらっています。
打ち合わせの時には、2階の「Anjin」をよく利用しています。
小さなセミナーやライブなども頻繁に行われていて、とても面白い施設だと思っています。
T-SITEの敷地にある「IVY PLACE」は、昼間と夜とでは、全くことなる顔を見せてくれるカフェバー・ダイニングでTPOに合わせて、様々な使い方ができます。
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5.MARUZENジュンク堂 渋谷店
書籍離れによる出版不況が続いており、大手書店も経営が厳しいようです。池袋に本店のある、『ジュンク堂』と日本橋の老舗書店『丸善』は、2015年に合併しました。
渋谷の東急百貨店・本店の7階には、文具を中心とした丸善と書籍を中心としたジュンク堂が併設されています。
池袋のジュンク堂本店ほどではありませんが、かなりの数の書籍、雑誌を揃えており、企画や翻訳のための大抵の資料は、この書店で集めることができます。
試読用のイスもあるので、本の内容をチェックするのに役立っています。
キャッシャーの前の特設コーナーの“理系の本”のセレクションがとても個性的で気に入っています。
因に、ジュンク堂という名前は、創業者の父親の「工藤淳」を「淳工藤」としたところからとのこと。
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MARUZENジュンク堂 渋谷店
6.ブックファースト新宿店
ブックファースト新宿店は、東京モード学園、HAL東京、首都医校が入っている新宿駅西口にあるモード学園コクーンタワーの地下1階と2階の2フロア、1,000坪の大規模な書店です。
2フロアを歩くだけで、ちょっとしたウォーキングになる程の広さです。
この 2フロアを隅から隅まで、丁寧にチェックすると全世界の知識を手に入れたような感覚に陥ります。
この書店のお気に入りは、新書のコーナーです。新刊がジャンル別であったり、出版社別であったりと、工夫が感じられる見せ方になっています。
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ブックファースト新宿店
7.紀伊國屋書店 新宿本店
新宿東口といえば、僕にとっては何と言っても、伊勢丹メンズ館と紀伊國屋書店、それに紀伊國屋ホールです。上智大学に留学していた時から、少し演劇をかじっていたので、紀伊國屋ホールには、何度も足を運びました。
文学座、俳優座、劇団民芸、演劇集団円、こまつ座、トウキョウウォードヴィルショーなど多くの劇団が公演を行った舞台は、憧れの場所でもありました。
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8.Books Kinokuniya Tokyo
新宿高島屋(タカシマヤタイムズスクエア / なぜか渋谷区)の6階には、紀伊國屋書店の『Books Kinokuniya Tokyo』という洋書店が入っています。7階には、『紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA』という僕の行きつけの“芝居小屋"も入っています。(現在、ニトリが入っている1~5階も以前は紀伊國屋書店でした)
この6階の洋書コーナーは、おそらく僕の知る限りでは、東京で洋書が一番揃っている場所で、長期滞在している外国人にとっては、必須の書店だと思います。
紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAは、紀伊國屋ホールと並んで、演劇人にとっては、憧れの舞台の1つです。
また、紀伊國屋は、2つのホールの運営だけではなく、紀伊國屋演劇賞という賞を1966年から設立しています。この賞の素晴らしいところは、紀伊國屋が経営しているこの2つのホール以外であっても、東京の劇場で上演されたすべての演目がその対象となっているところです。
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ブックス キノクニヤ トウキョウ
9.エピローグ
代官山T-SITEにて。
「最近は、本屋さんには若い人が全然いないね。電車の中でも、本を読んでいる人は、たまに見かけるけど、雑誌を読んでいる人は、全くいないね。」とMickey K.がつぶやく。
「雑誌なんかは、スマホやネットで月額1000円もしないで、読み放題ですから。」と僕が答える。
「でも雑誌って、1頁1頁じっくり、めくっていくのがいいんじゃないの?見たことのない世界が次々と表れる感じで。」とMickey K.。
「今の人には、フルサイズの雑誌は、重すぎるんですよ。だから、印刷物だって縮刷版の方が人気なぐらいなんです。」と僕は、 Mickey K.に女性ファッション誌の縮刷版を手渡す。
「この雑誌の表紙の写真、ピントが合ってないよね。」とMickey K。
「そうですね、今は全部デジタルですから、一応は、修正してあるんじゃないんですか、これでも。」と僕。
「ピントが合っているモノをボカすことはできても、ボケたものを修正することはできないんだよ」と少し怒り気味にMickey K。
「きっと後で修正のできるデジタルの撮影に慣れてしまった若手のキャメラマン(Mickey Kはよくこう言う)は、フィルム時代の緊張感を知らないから、こうなるんだろうな。」と続けるMickey K。
「フィルムって、そんなに難しかったんですか?」と誘い水を出す僕。
得意げな表情に変わるMickey K。「カラーフィルムには、大きく分けてトーシロー(素人のことをMickey Kはこう言う)向け、つまりプリント用のネガフィルムとプロ用の印刷物向けのポジフィルム(リバーサルフィルムともいう/スライド用フィルム)ってのがあって、ネガフィルムは、大体の露出でも写るんだけど、ポジだとちょっとしたミスで全く写ってないことがあるんだ。ポジだと太陽の光と電球の光と蛍光灯でもフィルムの種類を変えたり、専用のフィルターをかけなければならなかったりするんだ。」
うんうんと頷く僕。Mickey Kは続けて。
「しかも現像してみるまで、本当に緊張するんだよ。都内ならプロラボ(プロ用の現像所)で1~2時間で現像できるから、撮り直しもまだ可能だけど、海外ロケの時なんかは、本当にドキドキものだったんだよ。」
ホウと相槌を打つ僕。続けてMickey Kが、「何百万っていう取材費をかけたって、1枚も撮れてないことだってあり得るんだ。フィルムは、生モノだから、温度が高かったりすると変な色になったり、するんだよ。それに加えて空港での持ち物検査のX線が大敵なんだ。」
なんで?という顔をしてみた僕。続けるMickey K。
「X線対策で、鉛の袋に入れたりするんだけど、それがかえって怪しまれて、すごく強いX線をかけられることもあるんだ。だから、手荷物で係員にX線検査しないように丁寧に説明しながら、頼むしかないんだ。でも、何百本ものフィルムを持っているとなんだかそれも怪しいよね。まだ、先進国ならわかってくれるんだけど、南の島とかだともう大変でね。」
Mickey Kの話はまだ続く。
「確かにデジタルカメラって、便利なんだけど、写真に魂を込める感じにならないんだよね。何十枚も撮っておいて、後で、レタッチをすればいいって思って撮っているのと、失敗したら、それこそ取り返しのつかないことになるっていうのでは、根本的に心の入れ方が違うよね。」
僕は、納得して答えた。
「それって、駅のホームで歩きスマホをしている若い人と同じですよね。彼らって、間違ってホームから落ちても、リセットボタンを押せば、リプレイできるって思っているでしょうからね。」と僕が話すと。
Mickey Kは、「デジタル化したことで、利便性を手にした結果、リアリティを失ってしまったんだよね。今の人は、食べ物だって、同じ。コンビニの弁当やファミレスは、安くて便利だけど、あれは“栄養補給"であって食事ではないよね。食材を買ってきて、手をかけて調理して、みんなで笑って食卓を囲むことがきっと幸せなんだよね。」と語り続ける…。