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外国人による日本論・日本人論
  - 30歳までに読んでおくべき日本に関する名著 (3)
  - 『知られぬ日本の面影』『菊と刀』『日本人と日本文化』『ジャパン・アズ・ナンバーワン』 | BOOKS & MAGAZINES #009
Photo: ©RendezVous
2021/09/27 #009

外国人による日本論・日本人論
- 30歳までに読んでおくべき日本に関する名著 (3)
- 『知られぬ日本の面影』『菊と刀』『日本人と日本文化』『ジャパン・アズ・ナンバーワン』

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Callicarpa
日本の古典文学の研究者

目次


1.プロローグ

『20歳までに読んでおくべき日本に関する名著』シリーズではこれまで、
(1)『本居宣長と小林秀雄』
(2)『日本人が英語で書いた日本論・日本人論』
を紹介してきました。

現代に生きる私たちが「日本のアイデンティティ」「日本らしさ」を考える際、これまで紹介してきた本居宣長の国学、内村鑑三の『代表的日本人』、新渡戸稲造の『武士道』、岡倉天心の『茶の本』などを参照するのは、そこで取り上げられている価値観や美意識、哲学や道徳などが現代の日本にも通じるところがあるからではないでしょうか。その「日本のアイデンティティ」とは、明治維新という波瀾の時代を乗り切り、日本が近代化に突き進む中でも根強く生き延びてきた精神のことです。

今回は、外国人による著名な日本論・日本人論を紹介します。西欧からすると、日本という国は昔から“ファー・イースト"(極東)の国として辺境の地と認識され、日本の文化は神秘的で不可解なものとされてきました。明治維新以降、日本を訪れた外国人の目には、伝統を重んじながらも急速に近代化できた日本はますます不思議に見えたのでしょう。そんな彼らが日本と日本文化を欧米の人々に向けて解説を試みたいくつかの名著を取り上げます。


2.『知られぬ日本の面影』小泉八雲/ラフカディオ・ハーン(著)

近世の江戸時代の日本が、明治維新以後、近代化に励み、西欧に追いつくことができたのはなぜだったのか。明治時代を生きたギリシャ生まれの作家・小泉八雲は、日本の国技、柔術(柔道)に着目しました。

小泉は、1890年にアメリカの出版社の通信員として来日しますが、トラブルにより契約を破棄し、英語教師として教鞭を執るようになります。翌年1891年には、講道館柔道の創始者で当時は高等中学校の校長を勤めていた嘉納治五郎の紹介で熊本市に英語講師として赴任します。そこで嘉納が学生たちを指導していた柔道場に足を運んだ小泉は、敵の力を利用して敵を打ち倒す「逆らわずして勝つ」ことが柔術の本質であると学びます。そして小泉は、そのしなやかさこそが日本という国の強みであり、近代化を通して西洋文化を取り入れながらも同時に自国の文化を守り続けられている理由であることに気づくのです。

『知られぬ日本の面影』
小泉八雲が1890年に来日後、初めて著した作品集です。出雲地方と松江でのエピソードを中心に、日本の習慣、言い伝え、風景、国民性などについて自身が抱いた日本の“ファースト・インプレッション"を綴った名著です。小泉は近代化する中でも依然と受け継がれる日本らしさに着目しています。西洋的な唯物主義とは対照的な日本らしさこそ、彼が1904年に亡くなるまでの14年間を日本で暮らすと決めた理由だったのではないでしょうか。

著者について

小泉八雲/ラフカディオ・ハーン(1850年~1904年)はギリシャ生まれの新聞記者、紀行文作家、随筆家、日本研究家、日本民俗学者です。幼少期をアイルランドで過ごしたハーンは厳格なカソリック文化の中で育てられ、フランスやイギリスで教育を受けます。19歳に渡米し、やがて新聞記者として働くようになり、1890年にアメリカの出版社の通信員として来日しました。その後、英語教師として教鞭を執りながら欧米に日本文化を紹介する著書を数多く執筆しました。その中でも、特に日本の伝統的な怪談話をまとめた『怪談』などで知られます。1891年に松江藩士の娘・小泉セツと結婚、1896年に日本国籍を取得し、小泉八雲と名乗るようになりました。


3.『菊と刀』ルース・ベネディクト(著)

大東亜戦争の際に、日本を知るために、アメリカ軍の命令により、ルース・ベネディクトなどの文化人類学者が日本文化の調査を行いました。(彼女らは実際に日本に訪れることはできなかったので、日本に関する文献などを熟読したり、日系移民との交流を通じたりして日本文化の解明に臨みました。)

ベネディクトの研究を元に1946年に出版された『菊と刀』は、現在では批判される部分があるものの、当時は、日本のインテリにとてもインパクトを与えました。

『菊と刀』
本書は、戦争情報局の日本班チーフであったベネディクトがまとめた報告書『Japanese Behavior Patterns(日本人の行動パターン)』を基に執筆され、1946年に出版されました。日本文化の価値体系の独自性を強調しており、日本文化を外的な批判や社会の受け止め方を意識する「恥の文化」とし、欧米の文化を宗教に基づいた内的な良心を意識する「罪の文化」と定義したことが大きく注目されました。有事における日本の行動をベースに日本の本質を解明しようとしている点など、現在では、本書に対する批判的な意見は日本国内外に多いことも事実です。しかし、アメリカ文化人類学史上初の日本文化論となった本書は、戦後においてアメリカ人が日本に対して抱いてきたイメージを大きく形付けた一冊として、一読すべき書籍です。

著者について

ルース・ベネディクト(1887年~1948年)はアメリカの女性の文化人類学者です。1934年の著書『文化の型』において文化を総体的なものとして理解することを提唱し、全ての文化は優劣で比べられるものではなく対等であるということを説きました。


4.『日本人とユダヤ人』山本七平/イザヤ・ベンダサン (著)

戦後、日本は高度経済成長を遂げ、物質的には豊かになりますが、人々は徐々に心が満たされていないことに気づき始めます。70年代に入り、再び日本人とは何か、というアイデンティティの問題に直面します。

こうした中、1970年に山本七平が“イザヤ・ベンダサン"というユダヤ人を模したペンネイムで『日本人とユダヤ人』という本を出版しました。

『日本人とユダヤ人』
日本育ちのユダヤ人という設定の著者・イザヤ・ベンダサン、訳者・山本七平とクレジットされている本書は、日本人とユダヤ人の文化や精神性を対比することによって「日本人とは何か」ということを考察している日本人論です。自らは無宗教であると思い込んでいる日本人は、実は神ではなく人間の都合を重んじた「日本教徒」であると山本は論じています。仏教や儒教がなぜ日本独特の形で解釈され、なぜキリスト教やイスラム教が根付かなかったかについて説いています。本書は1971年に第2回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞しました。

著者について

山本七平(1921年~1991年)は、日本の書店主、評論家です。主に第二次世界大戦後の保守系評論家として活動しました。日本社会と日本人の行動様式をコントロールする「空気」というものの正体の解明を試みた『「空気」の研究』で知られます。「イザヤ・ベンダサン」は山本七平のペンネイムです。『日本人とユダヤ人』のヒットを受け、その後しばらくこの名義の書籍を多数発行しました。


5.『日本人と日本文化』司馬遼太郎、ドナルド・キーン

山本の本の成功以降、“日本人と〇〇○"というような日本論と日本人論の本が多く出版されますが、その中で注目すべき本は、人気の歴史小説家・司馬遼太郎と、日本文学研究家で東日本大震災後に日本人に帰化したドナルド・キーンによる対談集『日本人と日本文化』です。

対談集であるため、難しいテーマもわかりやすい言葉で論じられており、読みやすい一冊です。

私にとって特に興味深かったのは、2人の意見が分かれる「日本人のモラル」についてのやりとりです。キーン氏は先進国の都市の犯罪率が年々上がる中、日本がその点において“先進国並みでない"のは儒教の影響が大きいのではないかと見ています。しかし司馬氏は、日本に見られる儒教の影響はわずかであり、日本のモラルの高さは「恥」の文化にあると論じます。

また、巻末にはキーンが翻訳家の視点から本居宣長の日本語の難解さについて語り、日本人は「何が日本的であるか」について心配し過ぎる傾向があると指摘しています。この意見については誰もが同意することでしょう。

『日本人と日本文化』
司馬氏とキーン氏が1970年代初頭に行った対談記です。2人は日本人のアイデンティティ、日本の戦争観、外国人からみた日本、江戸の文化など多岐にわたるテーマについて語り合っています。1996年に2人は続編の対談『世界のなかの日本 十六世紀まで遡って見る』を行い、そちらも出版され、人気となります。

著者について

司馬遼太郎(1923年~1996年)は大阪府大阪市生まれの日本の小説家、ノンフィクション作家、評論家です。産経新聞社の記者として在職中に、忍者を題材にした長編小説『梟の城』で直木賞を受賞しました。幕末維新を先導した坂本竜馬を主人公とした『竜馬がゆく』、幕末に京都の治安維持に当たった新選組の副長であった土方歳三の生涯を描いた『燃えよ剣』、近代国家として歩み出した明治時代の日本を描いた『坂の上の雲』など、数々の歴史小説で知られます。

ドナルド・キーン(1922年~2019年)はアメリカ合州国出身の日本文学者、日本学者です。長年コロンビア大学名誉教授として教鞭を執り、日本文化と日本文学について数多くの著書と訳書を残しました。2008年に文化勲章を受賞し、2011年の東日本大震災を契機に、日本国籍を取得し、日本に永住する意思を表明しました。


6.『ジャパン・アズ・ナンバーワン』エズラ・ヴォーゲル(著)

最後に紹介する本は、高度経済成長後の日本人の心をくすぐったアメリカの社会学者・エズラ・ヴォーゲルの著書『ジャパン・アズ・ナンバーワン』です。日本独特の経済システムや社会制度が肯定的に書かれており、日本人の自尊心をくすぐり、70万部を記録するベストセラーとなりました。

『ジャパン・アズ・ナンバーワン』
アメリカが“アイデンティティ・クライシス"に直面していた70年代末にヴォーゲル氏が執筆した著書です。「新聞の発行部数の多さに見る日本人の学習への意欲と読書習慣」など、戦後の日本の高度経済成長の要因を分析し、アメリカがそこから得るべき教訓を説いています。2000年には続編『ジャパン・アズ・ナンバーワン―それからどうなった』が発行され、“失われた20年"の真っ只中にあった日本に当てた教訓が綴られています。

著者について

エズラ・ヴォーゲル(1930年~)はアメリカ合州国の社会学者です。日本と中国を中心に東アジアの研究に従事してきました。2014年には「アジアの固有かつ多様な文化の保存と創造に顕著な業績をあげた個人又は団体」に与えられる福岡アジア文化賞を受賞しました。


7.エピローグ

『ジャパン・アズ・ナンバーワン』で取り上げられる日本の高度経済成長とバブル経済はその約10年後に破綻することとなります。その後の“失われた20年"(ないしは30年)で日本経済は低迷するものの、その間、日本文化はむしろこれまで以上に世界進出し、認められてきています。

そんな日本に魅了された外国人による日本論・日本人論は、書籍や新聞記事のみならず、『ロスト・イン・トランズレーション』や『ラスト・サムライ』といった映画という形でも世に送りだされ続けています。近年では海外からの観光客や在日外国人が、日本の街や日常の様子をユーチューブやSNS上で盛んに拡散しています。

しかし、こういった欧米人が注目する「日本像」「日本人像」を見ると、相変わらず日本が「ミステリアス(不思議)」で「エクゾチック(風変わり)」な国として描かれているものが多いことが分かります。これは依然として西欧文化が主流とされる世界情勢を反映していると同時に、日本文化がいかに特殊であるかを物語っているのではないでしょうか。このコラムで紹介する名著の中には、日本の本質を見事に射抜いている見解もあれば、あくまで西洋の観点から捉えた日本らしさも綴られています。

こうした状況を複雑にしているのが、日本人が今でも欧米に対して抱くというコンプレックスでしょう。日本人は「外国人にどう見られているか」が常に気になってしょうがないのです。内田樹は『日本辺境論』で、日本は世界標準に準拠しようと努力し、「他国との比較を通じてしか自国の目指す国家像を描けない」国であると言っています。実際に『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が日本で大ベストセラーとなりました。

今回紹介した書籍は、どれも一読する価値のある名著ばかりですが、こういった日本に対する偏見や日本人が抱くコンプレックスを念頭に置きながら読むことで、「本当の日本」を垣間見ることができるはずです。また、「日本とは何か」ということだけでなく、「アジアとは何か」「西欧とは何か」ということについてもより理解できるのではないでしょうか。


BOOKS & MAGAZINES #009

外国人による日本論・日本人論 - 30歳までに読んでおくべき日本に関する名著 (3)


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