1.プロローグ
これまで紹介してきた、渋谷~原宿エリアにルーツを持つセレクト・ショップの多くは、20~30歳前後をターゲットとしているのに対し、30~40歳代の富裕層をターゲットとしているセレクト・ショップも東京には存在しています。
その代表は、1989年に伊勢丹と契約し新宿に出店した『バーニーズ・ニューヨーク』(現在は、ゼブン&アイ・ホールディングスの傘下)ではないでしょうか。現在は、新宿店のほか銀座本店、六本木店、横浜店、神戸店、福岡店を出店しています。男性、女性ともにハイセンスな富裕層にとても高い人気を誇っています。
銀座4丁目の交差点にある、“銀座の顔"とも言える『和光』もある意味、日本を代表するラグジュアリーなセレクト・ショップと言えるかもしれません。あの有名な時計塔は、『服部時計店』(現在のセイコーホールディングス)の小売店として、開業した時からのシンボルなのです。
日本人であれば、誰でも知っている建物なのですが、中に入ったことのある人は、それほど多くはないかもしれません。販売面積も小さく、商品数も少ないのですが、そこにある品々は、どれも厳選されたものばかりです。
東京の“本当のお嬢様の嫁入り道具"は、和光で選ばれるとさえ言われています。
ラグジュアリー・セレクト・ショップ
2.バーニーズ・ニューヨーク
1923年に創業された「バーニーズ・ニューヨーク」は、ニューヨーク独特の多様性のレンズを通して、アメリカ人向けにヨーロッパの生活感を提案している高級デパートです。
1960年代ごろからは、高級スーツのスペシャリストとして男性顧客を魅了し、70年代に「ジョルジオ アルマーニ」を初めてアメリカに導入すると世界最大級のメンズストアへと成長しました。その一方で、ウィメンズ部門も同じ頃に設立されました。80年代からは、アーティストにディスプレイ用の装飾設備を作ってもらったり、ポップアップ・ギャラリーを開催するなど、アートとの関係性を深めました。今もなお、アメリカのセレブ御用達のお店として有名です。
1989年に伊勢丹の出資によって株式会社バーニーズジャパンが設立され、1990年には『バーニーズ ニューヨーク日本1号店』を新宿にオープンしました。現在は株式会社セブン&アイ・ホールディングスの子会社となっており、日本国内には東京を中心に6店舗を展開しています(アウトレットを除く)。
「選べよ、固執するな。」という理念のもとに、有名ブランドの別注品や、新進のデザイナーとのコラボ商品を展開しています。オリジナル・アイテムのデザインもとても洗練されたデザインで、ネクタイやトートバックなど、人気商品が多いです。
<SHOP INFO>
バーニーズ ニューヨーク銀座本店
3.和光
銀座中央通り沿いにある「和光」は、皇室御用達であることでも有名な最高級なデパートです。1881年に「服部時計店」として創業され(現在の「セイコーホールディングス株式会社」)、主に輸入時計と宝飾品を販売するお店としてスタートしました。現在は「WAKOウォッチ」「WAKOブライダル」などのオリジナル・ブランドを始め、厳しい目で選び抜かれた国内外の腕時計、ジュエリー、婦人・紳士用品、テーブルウェアなども取り扱っています。ネオ・ルネッサンス調のビルの上にある時計塔は、銀座の一つのシンボルとして長年愛されてきています。
<SHOP INFO>
銀座和光 本館
青山通り、骨董通り周辺には、大人のためのセレクト・ショップがいくつもあります。その中でもオススメのショップを紹介したいと思います。
4.ストラスブルゴ
イタリア、フランス、英国やアメリカなど、それぞれの国柄が感じられるブランドを集めたセレクト・ショップです。1990年に大阪市で設立され、1997年に東京へ進出し、現在は東京と大阪を中心に12店舗を展開しています。イタリアの生地メイカー「ラルディーニ」のスーツ、同じくイタリアの生地メイカー「キートン」のネクタイや、英国の高級革靴のブランド「エドワード・グリーン」など、超一流品ばかりを取り扱っています。また、“ヴィンテージ・シック"な大人のカジュアル・ライン「&WORKS」と、特別な日に着たい最高の一品を提案する「ICHORAI」、旅をする時に着たい快適さがありながらもスタイリッシュなデザインの「JOURNEYMAN」など、複数のオリジナル・ブランドも展開しています。
<SHOP INFO>
ストラスブルゴ 南青山店
ストラスブルゴ 銀座店
5.タトラス&ストラダエスト 南青山店
イタリア、ポーランド、そして日本の企業の協業による、ミラノに拠点を置いた、高級ダウンウェアのブランド「タトラス」と、同ブランドが展開するセレクト・ショップ『STRADA EST』が一体となったショップです。イタリア語で“道"を意味する“STRADA"と“東"を意味する“EST"からブランド名が由来する「STRADA EST」は、イタリアをはじめとするヨーロッパを中心とした、世界中のハイ・ファッション・ブランドの世界観を日本人に向けて提案しています。地下1階には“チョイ・ワル・オヤジ"に人気の「タトラス」のダウン・ジャケットが並んでいます。
<SHOP INFO>
タトラス&ストラダエスト 南青山店
6.ブリティッシュメイド
英国の伝統的なクラフトマンシップを日本人に向けて紹介するセレクト・ショップです。「グレンロイヤル」のブライダル・レザーのバッグや小物、「ラベンハム」のキルテッド・ジャケット、「チャーチ」の革靴、「ドレイクス」のネクタイなど、英国の老舗ブランドの逸品を数多く取り扱っています。流行に左右されないクラシックなデザインは、長く愛用し、親から子供へと受け継いでいきたい“本物"ばかりです。
<SHOP INFO>
ブリティッシュメイド 青山本店
7.ヴァルカナイズ ロンドン
“英国の伝統的なアーケイド街のような、買い物体験ができること"をコンセプトとした日本のセレクト・ショップです。バルカナイズド・ファイバー(硬化繊維)で作られたトラヴェル・ケースのブランド「グローブ・トロッター」を始め、英国王室御用達のステーショナリー・ブランド「スマイソン」、現代の英国紳士にふさわしいスタイルを提供する「ハケット ロンドン」、老舗アンブレラ・ブランドの「フォックス・アンブレラ」など、英国発のモダン・ラグジュアリーの名品が揃っています。私のお気に入りは「スマイソン」ですが、定番商品のダイアリーやノート以外にも、革の小物もとても魅力的です。先日、『ヴァルカナイズ・ロンドン青山店』で「スマイソン」のダーク・ブルーのお財布を購入しました。また、青山店には『ヴァルカナイズ・ザ・カフェ』も併設されており、手作りのマフィン、スコーン、アップル・パイなど、イギリスを感じられる焼き菓子をいただくことができます。
<SHOP INFO>
ヴァルカナイズ ロンドン青山
8.エピローグ
今では、小売業界における劣等生と言われる業態“デパート・百貨店"は、かつては人気のセレクト・ショップでありました。
80年代までの“デパート・百貨店"は、日本国内はもちろん、世界中の新しいメイカーやブランド/デザイナーを発掘し、最新の流行・トレンドを提示してくれました。ヨーロッパのブランドであれば、日本橋の『高島屋』や『三越本店』、最新のファッションであれば、『伊勢丹』、『ラルフ・ローレン』といえば、『西武』といった具合に。
しかし、90年代以降、“デパート・百貨店"は、独自の開発力を失い、大手アパレルに店先(テナント)だけを貸すビジネス・モデルに転換(後退)してしまいます。
その方が、短期的な経営手法としては、リスクが小さいのですが、こうしたやり方は、“デパート・百貨店"の持っていた、“キラキラ感"や“ワクワク感"を失う結果となります。
バブル崩壊後、セレクトショップの努力やより大きい資本によるショッピング・モールの増加により、“デパート・百貨店"は、そのブランド力を完全に失ってしまいます。
その結果、それまでライバル関係にあった“デパート・百貨店"が相次いで合併しなくては、存続できない事態にまでなりました。
21世紀になると、地方都市では次々と閉店される店舗が続いています。
渋谷でも駅前という最高の立地にもかかわらず。渋谷西武もいつもガラガラです。
そんな中、新宿の伊勢丹メンズ館は、とてもチャレンジングな店作りをしており、常に新しいブランドや新しいデザイナーの商品にも出会うことができます。
銀座エリアでも、『ギンザ・シックス』『東急プラザギンザ』などが“攻め"のショップセレクションをしていますが、ショップの配置やレイアウト・デザインがイマイチなので(店と店との連動性が良くない)、購買意欲が低下してしまいます。
“デパート・百貨店"は、再びワクワク感を取り戻せるのでしょうか。