1.プロローグ
現在の日本の教育システムは、明治時代に作られた“富国強兵"のためのカリキュラムに、第二次世界大戦後の“工業化社会"のためのスキルを加えたものであり、完全に時代遅れのものになっていると言わざるをえません。
しかも、戦前までの“軍国教育"(ウヨク的教育)と戦後の“戦後民主主義教育"(サヨク的教育)が折衷されたものとなっています。
その結果“個人主義"を目的としながら、“同調圧力"を強いるという歪んだ状況が生まれ、イジメや妬みが生まれやすいシステムとなっています。
それでも、このことは、高度経済成長やその後のバブル経済の間は、その矛盾が表面化することなく、看過されてきました。
しかし、バブルが崩壊し、冷戦構造も崩壊する中で、世界は、“工業化社会"から“情報化社会"にパラダイム・シフトしていきました。90年代後半からは、コンピューター/インターネットが爆発的に普及することによって世界は、“高度情報化社会"に突入することになります。
こうした状況の中で、欧米各国は、大学を中心に教育システムを変更し、その変化に対応してきました。
21世紀に入り、社会主義の限界が示されたことによって、“金融資本主義"が急速に拡大しています。これに対しても欧米各国は、大学を中心に対応してきました。
アメリカの大学は、MBAのプログラムを強化し、ICTの技術を活用した“金融資本主義"を中心とした“新しいパラダイム"のためのノウハウを提供しています。
一方、日本では、ゆとり教育の導入、人口減少による受験者数の減少(大学入学定員の増加)、大学の大衆化(大学への進学率の上昇)に伴い、より以前に増して、教育の質の低下が甚だしくなっています。
世界各紙の“世界の大学ランキング"においても、日本の大学の地盤沈下は、激しくなっています。
日本では、戦前から現在に至るまで、“理想"を教えることが、目標となってきました。(戦前は、“皇国日本"、戦後は、“自由と平等と平和")
一方、欧米、特にアメリカでは、“現実"についての“技術"を教える事、つまり“お金持ちになる方法"を教える事が、大学の役割となっています。具体的には、ビジネス・スキルを身につけさせるのです。
アメリカの富裕層の家庭では、かなり早い段階(小学校ぐらい)から、ビジネス書を読ませる習慣があります。
日本では、ビジネス=“金儲け"=悪いこと、というイメージがあるようで、小学生がビジネス書を読むことは、ありえないと考えるようですが、これからの時代を生きる上において、ビジネス・スキルは、不可欠な教養の1つです。
日本人の親は、“英会話"を子供に習わせたがりますが、人工知能の発達を考えれば、あと数年で日常会話、ビジネス会話レベルであれば、スマホで通訳ができるようになるので、英会話能力は、不要となるでしょう。(個人的には、文学的な翻訳は、AIでは不可能と考えています。)
これから、世界をフィールドに働ける人材を育てるには、子供のころ(小学生や中学生)からビジネス書を読むことをオススメします。
今回は、大学生、ビジネスマンは、もちろんのこと、小学生、中学生、高校生にも読んでほしいビジネス書の名作を紹介します。
2.全ての人に読んでもらいたいビジネス書 4冊
●デール・カーネギーの2冊 『人を動かす』『道は開ける』
日本で“カーネギー"といえば、ニューヨークにあるカーネギー・ホールを創った、鉄鋼王のアンドリュー・カーネギーを思い浮かべる人が多いでしょうが、この本の著者のデール・カーネギーは、直接は関係のない人物です。
しかし、デール・カーネギーの1936年に出版された「人を動かす」という書籍は、アメリカ人にとって、鉄鋼王と並んで有名な存在です。
自己啓発(セルフ・ディベロップメント、またはセルフ・インプルーヴメント)という言葉は、今では、日本でもアメリカでも少し“いかがわしい"感じの意味合いを持ってしまっていますが、本来の意味からすれば、“ビジネス・スキル"だけではなく、“生き方"、“幸福"にいい影響を与えるものと言えるでしょう。
宗教、倫理が薄らいでいる現在の日本人にとっては、この時代における人生の指針となる2冊では、ないでしょうか。
●松下幸之助 『道をひらく』
●稲盛和夫 『生き方 – 人間としていちばん大切なこと』
アメリカのビジネス本の名作が“カーネギー"だとすれば、日本のビジネス本の名著は、松下電器(現パナソニック)の創業者松下幸之助の『道をひらく』(1968年)と京セラ/KDDIの創業者の稲盛和夫の『生き方 – 人間としていちばん大切なこと』(2004年)の2冊が、まず挙げることができます。
カーネギーの著作がユダヤ教、キリスト教から発展した、合理性に支えられているのに対して、この日本の経営者2人の思想の背景には、儒教と仏教があります。
この2冊は、社会人はもちろんのこと、中学生にも読んでもらいたいと思っています。生きること、働くこととは、何かという問題を早い時から考えることが、一生を最も幸福にするからです。
3.小学生・中学生にも読んでもらいたいビジネス書4冊
●『チーズはどこへ消えた』スペンサー・ジョンソン著
日本社会は、“子供は子供らしく、大人になっても子供らしく"いることを求める社会のような気がします。
社会人になっても、キャラクター・グッズのステーショナリーを使ったり、ゲームやアニメが好きでも“普通"のこととされています。
アメリカでは、“子供らしく"いることは、人間として認められないばかりではなく、“頭が悪い人"とさえ思われてしまいます。
ですので、大抵のアメリカ人は、早く大人になりたいと思っています。
小学生のうちからでも、ビジネスとは何かということについて知ることは、人間になるための、大人になるためにとって必要なことと考えています。
国内外の多くの大企業の社員教育にも用いられたこの本は、小学生であっても“頭さえよければ"ビジネスの本質について知ることができる良書です。
●『仕事は楽しいかね』デイル・トーデン著
“旧約聖書"によるとアダムとイヴは、神様に食べてはいけないと言われていた“智慧の実"を食べてしまったことで、天国から追放されました。その罰として「labour」を課せられたとされています。この labourにはアダムの場合は「労働」 (physical labour)、イヴの場合は「出産時の陣痛」 (childbirth labour)という二つの意味があります。
旧約聖書は、ユダヤ教とキリスト教の聖典であるので、とても多くの西洋人にとって“労働"というものは、神の罰として、感じられているのです。
キリスト教徒の中でもヨーロッパに多いカソリックの人たちは、その意識がより強いので、少しでも早くリタイアしたい、夏休みは長く取りたいと考えています。
アメリカ人に多いプロテスタントは、“勤勉"に働くことは美徳であって、その努力によって、得た収入は、とても尊いものであると考えています。
日本では、仕事も労働も同じような意味で用いますが、単語においては、「job」「labour」と、「work」とは、かなり意味合いが違います。前者は、まさに罰としての賃金を得るためにしかたなく働く仕事であり、workは、日本語でも、ライフワークというように、(神が与えた)“やるべきこと"というニュアンスを含みます。
こうした文化的・言語的違いをふまえて、この本を読むとまた、一味違った感想を持てるのではないでしょうか。
●『金持ち父さん、貧乏父さん』ロバート・キヨサキ著
“ユダヤ人が世界の金融市場を牛耳っている"という都市伝説/陰謀論は、半ば合っていて、半ば合っていません。
確かに世界の多くの金融機関は、ユダヤ人やそれに関わる人々によって設立され、運営されています。
このことは、歴史的、宗教的背景を知ることで理解できます。
キリスト教では、中世まで、“お金"というもの、正確には、“金利"というものを“罪"と考えていました。
一方、ユダヤ法では、ユダヤ人がユダヤ人から金利はとってはいけないが、ユダヤ教徒以外からは“金利"をとって、お金を貸してもいいとされていました。そのため、ヨーロッパにいるユダヤ人は、中世から金融に携わっていたのです。そして、その結果、富を蓄えたユダヤ人が差別されたのです。このあたりの感覚は、シェイクスピアの『ベニスの商人』を読んでみればよくわかります。
宗教改革によって、キリスト教における“お金"、“金利"についての考え方が変わることで、それが“資本主義"を生み出しました。
西洋の歴史というものは、“お金"、“金利"というものをどう捉えるかということが大きな軸となっているのです。
●『ユダヤ人大富豪の教え』本田健 著
日本人には、“お金は悪いもの"という感覚がある一方、“どんな手を使っても儲けたもん勝ち"、“全てはお金でなんとかなる"という考え方を持っている人が多くいるように感じられます。結果として、“お金持ちは、きっと悪いことをして、お金を儲けたに違いない"という思考になっているのだと思います。
でも、“お金はないよりは、あった方がいい"ということは、当たり前な事実でしょう。“どのような方法でお金を集め"、“どのような方法でお金を使うか"が問われるべきなのではないでしょうか。
ユダヤ人が金融の分野だけでなく、科学・数学といった分野や、映画・芸術の分野においても成功者を多く出している理由は、ユダヤ教という宗教が教育をとても大切にしているからだ、と考えられます。
ユダヤ教では、合理的に論理的に思考・行動することが、生活の中に組み込まれるようになっているのです。
そして、子供の時からきちんとお金の大切さを教えているのです。
4.高校生・大学生にも読んでもらいたいビジネス書 4冊
●『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』キングスレイ・ウォード著/城山三郎訳
日本人の父親は、仕事が忙しく、家族との交流の時間が極端に短いように見えます。平日はもちろんのこと、休日の公園でも父親と子供が遊んでいる姿を見かけません。
アメリカでは父親は、息子にキャッチボールを教えること、ビジネスやお金のことを教えることが、1つの習慣となっています。
日本では、偏差値の高い学校を出て、有名な大企業に就職することが“最も良い人生"と考えられていますが、アメリカでは“自分にしかできない方法で、自分の会社を作ることが"、最も良い人生と考えられています。
●『20歳の時に知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』ティナ・シーリング著
日本の大学の先生たちにとっては、他人が読んでもよく分からないような難しい論文を書くことが、出世の方法だと聞いています。アメリカにおいては、どれだけビジネス的、金銭的成功をもたらす、ノウハウを学生に伝えられるかが、教授にとっての出世の近道となっています。
アメリカの大学においては、抽象的で金銭的なメリットの見えにくい研究は、疎んじられ、具体的かつビジネス的に有利な分野が積極的に研究されています。
KAZOOの生まれ育ったシリコンバレーにあるスタンフォード大学は、まさにそうしたアメリカらしい大学の1つです。MBAのコースがとても有名で、この本もそのプログラムから生まれたようです。
僕は、こう言ったいわゆる“実践的でプログラミング的"なアメリカ文化よりも、“抽象的でロマンティック"な日本の文学に興味を持ったのですが。
●『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう』マーカス バッキンガム, ドナルド・O. クリフトン著
日本の社会は、減点主義でできています。長所より短所を見つけ出し、それを徹底的に叩くことが“絶対善"だと信仰しているようにさえ感じられます。欠点、失敗を絶対に許さず、どこまでもそれを追求することに“悦び"さえ見出しているように感じられます
教育現場においても、会社においても、政治の場においても。
こうした“思想・宗教"が、欠陥の少ない工業製品を生み出し、同調圧力による画一的なファッション・スタイルを生み、パワハラを生み出しているのではないのでしょうか。
一方、アメリカでは、長所を伸ばすことを小さい時から求められます。周囲の人とは違った個性が求められます。何もしないで、じっと待っている人は軽蔑され、失敗を恐れず挑戦する人物を尊敬します。失敗があっても勇気と自信のある人物こそが、リーダーとなりうるとアメリカ人は考えるのです。
●『論語と算盤』渋沢栄一著
戦前の日本には、江戸時代から続く儒学の伝統が残っていました。儒学には、確かに江戸幕府や天皇制を維持するような「忠」という概念があったため、“戦後民主主義"の社会においては、“儒学=悪"というような捉え方がされています。
しかし、儒学の中心概念は、「君子」とは何かについての考え方であります。「君子」とは、立派な人、統治者のことで、今で言えば、エリートやリーダーのことです。
儒学という学問を打ち立てた孔子の言葉を集めた『論語』は、まさにエリート論であり、リーダー論なのです。
儒学や論語を知ることは、日本をはじめ、韓国、中国を含む東アジアの思想を知ることにもなるのです。
日本のエリートであるべき、政治家、官僚、法曹人、医者、学者のモラルが低下しているのは、儒学を教えなくなったことが原因であることは、明らかなことです。
5.大学生・新人社会人にも読んでもらいたいビジネス書 4冊
●『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』 スティーブン・R・コーヴィー著
この本を書いたコーヴィー氏が、数多くの文献を調査、研究することで、見つけ出した「7つの習慣」は、時代を超える力を持っています。
キリスト教の一派であるモルモン教を信仰するコーヴィー氏は、多くの哲学、思想を研究した結果“人格主義"という概念にたどり着きます。
日本人の多くの“成金"がお金は持っているのに“幸せそうに見えない"のは、人格に欠陥があるからなのだとコーヴィーならば考えるでしょう。
日本人の“成金"はお金の力で他人を支配することで、優越感を持つことだけを考えています。周囲の人々はお金の力に対して、媚びたり、同時に妬んだりはしますが、尊敬することに注力はしません。
真の成功とは、他人から尊敬される人格を持つことなのではないでしょうか。
●『「原因」と「結果」の法則』 ジェームス・アレン著
努力をしないで成功した人は、一人もいません。しかし、努力をすればすべての人が成功するわけでもありません。
本書は、1902年に英国で出版された本で、自己啓発本のルーツとされている本です。
因果論(原因と結果の間には、一定の関係が存在するという原理)が、西洋において注目されたのは、近世・近代になってからですが(古代ギリシャのアリストテレスの四原因説を除けば)、東洋においては、2500年前の古代インド時代から普遍の原理として広く受け入れられていいます。
ニーチェの“永劫回帰"という概念も東洋思想においては、“輪廻転生"として2500年前から、広く知られた智慧です。
西洋が近代・現代を通じて得た論理的な科学的知識は、東洋においては、“悟り"という形式で、遥か古において、認知されていたのです。
近年、注目されている“ビックバン"、“マルチバース"、“ダーク・エナジー"、“ダーク・マター"、“反物質・反粒子"といった現象は、仏教の経典の中でも特に有名な“般若心経"の世界そのものなのではないでしょうか。
●『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か』エリヤフ・ゴールドラット著
本書は、1984年にイスラエル人の物理学者エリヤフ・ゴールドラットが「制約条件の理論(TOC)」と呼ばれる製造業の経営理論を、小説仕立てにして描き出版されました。
このTOCとは、日本のトヨタ自動車の“カイゼン"と呼ばれる生産方式をはじめとして、日本の生産現場で用いられていた経験則を理論化したものです。当時の日本の製造業は、こうした生産方式により、国際競争力が高くなりすぎ、その後、日米構造協議に発展するような状況にありました。
こうした状況を受け、これ以上日本の競争力を上げないために、日本語での翻訳を2001年まで許さなかったと言われている作品です。
日本人は、“破壊的イノベーション"、“創造的破壊"と呼ばれるような劇的な発展は行うことはできないものの、欧米の行った“創造的破壊"をより最適化するスキル(持続的イノベーション)には、長けています。トヨタしかり、マネシタと呼ばれた“松下電器/パナソニック"しかり、楽天しかり、ソフトバンクしかり。
●『ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則』
●『ビジョナリー・カンパニー2 ― 飛躍の法則』
●『ビジョナリー・カンパニー3 ― 衰退の5段階』
●『ビジョナリー・カンパニー4 ― 自分の意思で偉大になる』
「ビジョナリー・カンパニー」とは、
“理想を掲げて変化に挑み、長期間にわたって、優良であり続ける企業"のこと。(コトバンク/デジタル大辞泉より引用)
この“ビジョナリー・カンパニー"シリーズの著者、ジェームス・C・コリンズは、スタンフォード大学で物理科学の博士号、経営学修士号を取得した後、コンサルタント会社“マッキンゼー・アンド・カンパニー"に勤め、更にヒューレット・パッカードのプロダクト・マネージャーとして働いた人物です。
学者としての理論とビジネスマンとしての実践を知っているところが彼の強みです。
この本(たち)は、1冊だけでなく、シリーズ4冊を全部読むことをオススメします。
僕は、このシリーズを通して読んだ感想は、ビジョナリー・カンパニーとは、日本の“財閥グループ"のことを指しているのではないかということです。
6.エピローグ
私は、小学校の頃は、日本の小学校に通いながら、夏休みは、ハワイかカリフォルニアのキッズ向けのゴルフ・キャンプやフロリダのテニス・スクールに、冬休みと春休みは、カナダのスキー・スクールに入れられていました。(いずれも寄宿舎制のスクールです。)
そのため、10歳ぐらいまでには、日常会話の英語は、話せていましたが、それでも英語で文章を読むことは、充分にはできませんでした。
10歳の誕生日に、祖父からプレゼントされたのが、カーネギーの「人を動かす」の日本語訳と英語の原書でした。
それに加えて、三省堂の新明解国語辞典と旅行用のコンパクトになった英和と和英が1冊になった辞書ももらいました。
私は、「人を動かす」の日本語版を新明解国語辞典を使って読み、その後、英語の原本も英和辞書を使って読みきりました。
その結果、ビジネス書の日本語版と原書を読むことが大好きになり、中学生になるまでには、20セット以上のビジネス書を読みました。
そんな、少年時代の私のエピソードを紹介します。
私が小学校3年生ぐらいの頃のことです。大学でセミプロのバンドをやっていた親戚が、ダンス・パーティーでビートルズの曲を生演奏するよう依頼されて、曲を練習するために楽譜を持ち歩いていました。
小学校3年生の私がその楽譜を見つけて、ピアノで練習をし始めました。そうしてしばらくして、私はこの曲のタイトルは、“彼女はあなたのことをいっぱい愛している"っていうんでしょ、と聞いたのです。
大学生のその親戚が、どうして“いっぱい"がつくんだと聞くと、私は、“love"に複数形の“s"がついているからだと答えました。
このやりとりを聞いていた祖母は、“この子は、将来きっとロマンティックな詩人になるね"と言っていました。