1.プロローグ:楽屋オチ
『世界へ発信!SNS英語術』ではこれまで #MeToo、#NeverAgain、#ImplicitBiasなど、社会派なハッシュタッグをいくつも紹介してきました。これらに共通するテーマは、“ダイバーシティ"(多様性)なのではないでしょうか。“ダイバーシティ"とは、個人や集団の間には様々な違いが存在し、それを互いに認め合い、その違いを優位性として生かす社会や組織を目指すことです。このダイバーシティという概念は、『世界へ発信!SNS英語術』の裏テーマと言ってもいいのかもしれません。
この回では、#Prideに関するツイートを取り上げました。“Pride"とは本来“自尊心"や“誇り"のことですが、ここで言う#Prideとは自己啓発的な運動でも格闘技のイヴェントでもなく、“LGBTプライド"、つまり人々が自分の性的指向に誇りを持つべきだとする概念のことです。アメリカでは、1969年に起こったストーンウォールの反乱を記念して、毎年6月が“LGBTプライド月間"とされています。
こうした“LGBT"に関する社会運動を象徴するのが、レインボー・フラッグです。赤、橙、黄、緑、青、紫の6つの色はLGBTコミュニティの多様性を表しています。今ではアメリカだけでなく、日本を含め世界中で使われている旗です。今回の放送でも、ほんの一瞬だけでしたが、レインボー・カラーのデザインが施された番組のロゴが表示されました。
番組では、時間の制限もあり“LGBTQ"という言葉を紹介しましたが、最近では“LGBTQIA+"とするところも多いようです。
Lesbian = 同性愛の女性
Gay = 同性愛の男性 (本来は同性愛の人々を総称する言葉でありましたが、同性愛の男性のみを指す場合が多くなりました。)
Bisexual = 両性愛者
Transgender = 生まれ持った身体上の性別に違和感を持った人
Queer = セクシュアル・マイノリティに属している人 / Questioning = 自分の性的指向が定まっていない人
Intersex = “男性"または“女性"の典型的な定義に当てはまらない生殖器を持って生まれた人
Ally = 性的マイノリティを理解し支援する“味方"、あるいはAsexual = 無性愛者
+ = 上のいずれにも含まれない性的マイノリティ
2.性的指向に関する様々な英語表現について
“gay"という言葉はもともと“陽気な" “鮮やかな" “呑気な"という意味の形容詞でした。17世紀に、“呑気な"という意味から転じて“身を持ち崩した"という意味で使われるようになり、その後“放蕩な"という意味が、更に転じて“同性愛"という意味も持つようになりました。一般には20世紀の半ばまでは、“愉快な" “自由な"という意味が主流でした。1960年代になると、同性愛者が自ら進んでこの言葉を利用するようになり、やがて“同性愛者"の意味の方が主流となってきました。60年代においては“queer"という言葉は、“変わり者"という意味が主流で侮辱的だとされ、また、“homosexual"という言葉は医学用語であるため、まるで病気として扱っているようなニュアンスを含むことから当事者からは、好まれませんでした。
また、番組でも紹介しましたが、自らの性的指向を表明することを日本語では、“カミングアウトする"と言いますが、これは一体“何処"から“カミングアウト"しているのかが分からない、不完全な表現です。英語では、正しくは“come out of the closet"と言います。この“クローゼット"とは、世の中や家族の目が届かない場所であり、自分の性的指向を秘密にしている状態である“in the closet"(クローゼットに入ったままの状態)の意味を含みます。しかも、人に見られたくないわけですから、“クローゼット"の中で生きることは、偽りの毎日を送っていることを意味しており、羞恥心や情けないという気持ちが伴っています。(因みに“come out of the closet"という表現は、病気や他人に知られたくない秘密を明かす時にも使われるので、注意が必要です。)
同性愛者であることを家族や社会一般に、まだ表明していない人の秘密を暴露することを“アウティング"(to out someone)と言います。
他にも、性的指向を婉曲に指す言葉には、野球に関連したフレーズがいくつかあります。同性愛者を表す言葉として“bat for the other team" (違うチームのためにバッティングする)、両性愛者を表す言葉として“switch-hitter"(右手打ちでも左手打ちでもできる、両手利きのバッター)があります。アメリカでは、野球は男子がするスポーツで、女子は“ソフトボール"をします。因みに、女子が野球に挑戦する『がんばれ!ベアーズ』(1976年)はとてもいい映画です。
因みに、僕が子供の頃は、“gay"は“ダサい"という意味でも、不用意に使われていました。子供というものは、言葉に宿る力を理解せずに、周囲の大人や子供から聞き取った言葉を、無自覚に吸収し、使用してしまうものです。子供に対しては、正しい言葉遣いをするように大人は、気をつけましょう。
3.今週の衣裳について
●夏用の生地について
夏の生地と言えば、麻とシアサッカーが代表的なものなのではないでしょうか。
衣料用の麻とは、“リネン"と呼ばれているもので、亜麻などから採取される繊維を原料とした織物の総称です。綿に比べると、ザラザラとした少し硬い手触りが特徴です。薄手のものが多く、通気性が良いので、汗をかいても肌に張り付かず、暑い夏でも快適に過ごせます。弱点は、シワになりやすいところです。
シアサッカーは、縞状の“シボ"(凸凹)の入った綿の織物のことです。その“シボ"によって体から外気への熱放散を促進し、汗の乾きも早くなるので、涼しく過ごせます。ストライプ柄とチェック柄のものが多いのも特徴です。元から“シボ"が入っているので、アイロンをかける必要がないことも利点です。
「麻布テーラー」ピンクのキャンディ・ストライプのジャケット
「麻布テーラー」に一人で向かい、いろんな生地を見比べた上で、このピンクのキャンディ・ストライプが気に入り、てっきりシアサッカーを選んだつもりでオーダーをしました。
それから1ヶ月半くらいが経ち、商品が事務所に届くと、僕は自信満々でそのジャケットを着てみました。そしたらなんと、「このジャケットはものはすごくいいし、サイズもぴったりだけど、KAZOO、これはシアサッカーではないわよ」とScarletが言うのです。
僕は、“シアサッカー=ストライプ柄"というイメージが強かったのですが、凸凹のある独特な生地の風合いがシアサッカーの特徴だと、Scarletが教えてくれました。オーダーしたジャケットは、間違いなく夏っぽい柄のものなのですが、生地自体は、凸凹のない滑らかなものなので、正確にはシアサッカーではなかったのです。(しかし、このジャケットはとても気に入っています。本当に。)
未だにそのショックと恥ずかしさは消えていませんが、このジャケットを着る際には、そのことはとりあえず一旦忘れて、涼しい表情でいることにしました。
因みに、細かいキャンディ・ストライプ柄なので、テレヴィ的には、モワレが出るのではないかと心配していたのですが、柄がとても細かいために、テレヴィ・カメラには完全にピンク色に映っているようです。
「麻布テーラー」の白いリネンのシャツ
襟は開きが水平に近い“カッタウェイ"という形にしてみました。ノー・ネクタイを想定した涼しげな印象を与える形になっています。
ただ、今回のオンエアを見てScarletに言われたことは、シャツの襟と胸元の開き方に注意することでした。カメラをまっすぐ見つめてセリフを自然に読むことで、いっぱいいっぱいな僕は、未だに襟周りをビシッと決めることまではできていないようです。
皮肉なことに、リラックスしたサマー・スタイルをクールに見せるためには、細部までにこだわって抜かりのない配慮が必要のようです。ハァー。
「ブルックス・ブラザース」の赤いチノパン
「タビオ」のピンク靴下
スーピマ綿を使用した薄めの生地は、とてもはき心地もよく通気性もあるので、まだ慣らしている段階であり、少しタイトフィットなレッド・ウィングのチャッカにはちょうど良かったです。
この色を履くのに勇気がいりましたが、ビジネスユースではなく、テレビであるということも踏まえ、今後もカラフルなソックスに挑戦していきたいと思います。『タビオ』はお手頃な価格でカラフルなソックスがいっぱいあるので、冒険心のある方は是非チェックしてみてください。
「レッドウィング」のチャッカ・ブーツ
「ゾフ」の茶色いメガネ
4.エピローグ
“LGBTプライド月間"は、国が公式に制定したものではありませんが、2000年には当時のクリントン大統領が6月を“LGBTプライド月間"と宣言し、その後オバマ前大統領も同様な宣言をしました。
一方で、トランプ大統領は今年の6月になっても“LGBTプライド月間"を宣言することはありませんでした。トランプ氏は、以前同性婚を容認するような発言をしていましたが、2017年の7月には、軍隊におけるトランスジェンダーの受け入れを拒否指示するなど、対応に一貫性がなく、先行きを懸念するLGBTQIA+の方も多いです。
何はともあれ、西洋社会、特にはアメリカ社会においては、自分の信念を曲げずに、立ち上がって戦うことが評価されます。一度口にしたポリシーを変更すると、アメリカ人はその人物を見下し、物笑いの種にさえしてしまう傾向があります。アメリカ社会におけるLGBT運動は、“二進一退"の状況ではありますが、社会は着実にこの多様性を受け入れる方向に向かっていることは確かで、時間が問題を解決してくれると、僕は考えています。アメリカ社会というものは、少なくとも日本社会よりは変化していくスピードが早いことは確かなのです。
最後に、LGBT運動において、スローガンとしても使われている英語表現を2つ紹介します。一つは、“born this way"(生まれながらこうだから)、もう一つは、“being gay isn’t a choice" (ゲイであることは「選択肢」ではない)です。この2つの表現は、LGBTの人々の心境をリアルに表しているのではないかと思われます。
因みに、LGBTファンが多い歌手のレディ・ガガは、2011年に『ボーン・ディス・ウェイ』というアルバムを発表し、全世界で大ヒットを記録しました。このアルバムは日本でもゴールドディスク大賞の洋楽部門に選ばれましたが、日本人が果たしてその歌詞の中身を本当に理解していたのかは、とても怪しいと思っています。是非一度、英語歌詞を読んでみて下さい。