1.#HongKongProtestsについて
NHK Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』の9月21日放送分のテーマは#HongKongProtests、今年の6月から香港で続く民主化デモについてでした。解説者の古田大輔さんが8月に香港デモの現場取材を行っており、今回は現地で見たこと、感じたことを解説してくれました。MCの遼河はるひさんとパートナー役のゴリさんは、気になっていたことをどんどん質問し、古田さんは1つ1つ丁寧に答えていました。
#香港デモ を現地で取材してわかるのは、「過激化」と言われるのは本当にごく一部に限るということ。土砂降りの中で数十万人の人たちが山手線のようにぎゅうぎゅうになりながらも、文句一つ言わずに歩いてる。「香港頑張れ」「今こそ民主主義を」と声を揃えながら。2時にスタートしてまだ歩いてる。 pic.twitter.com/otUBPFXXFE
— 古田大輔 / Daisuke Furuta (@masurakusuo) August 18, 2019
一連の大規模なデモのきっかけとなったのは、容疑者の身柄を香港から中国本土へ引き渡すことができるようになる条例改正案が香港の議会で審議されていたことでした。自治性を重んじる香港市民は、「香港人」としてのアイデンティティに高いプライドを持っています。改正案が議会で通れば、中国政府による香港統治が強まり、言論・表現の自由や法の支配が奪われてしまうのではないかという懸念から抗議デモが起こりました。
6月以降、毎週の土、日曜日を中心に改定案に反対するデモが行われています。その間に、デモ参加者と警察の対立が次第に強まり、最近では激しい衝突の映像をニューズでもよく見るようになりました。こうした事態を受けて香港政府は 9月4日、 容疑者引き渡し条例改正案の撤回を発表しました。しかし、抗議者は「遅すぎる」と批判し、「警察の暴力的制圧の責任追及と外部調査の実施」や「普通選挙の実施」を含む「5つの要求」が認められるまで抗議活動を続けるとしています。
そもそも、清と英国の間で行われた阿片戦争が1842年に英国の勝利に終わり、1842年の南京条約により清は英国に香港を割譲しました。その後香港は150年以上もの間、英国の統治下にありました。(1941年~1945年の間には日本統治下にありました。)1997年に、事実上英国の最後の植民地であった香港の主権が中華人民共和国へ返還されました。その際に、中国の共産党政府は「一国二制度」をもとに、高い自治権を認め、社会主義政策を50年にわたって香港で実施しないことを約束します。言い換えると、香港は中国の一部となるものの、2047年までは「外交と国防問題以外では高い自治性を維持する」ことができると考えられていました。香港人がこうした状況を受け入れたのは、近い将来には、中国も民主化するだろうと考えていたからなのでしょう。
中華人民共和国という国は来月10月1日に建国70周年を迎えます。香港ではデモが続いているものの、中国政府は軍事パレードの予行演習を実施するなど、盛大にこの日を祝う準備を着々と進めています。緊張感が高まる中、中国政府と香港デモの参加者が今後どのような行動に出るのかが注目されています。
2.SNSを活用する抗議者、SNSを活用する中国
今回の番組では、香港デモの参加者が投稿した様々なツイートを紹介しました。SNSでの呼びかけで集まった香港のデモ隊を見ると、この運動は「SNS時代」の民衆運動の1つと言えるでしょう。
中国政府の監視の目をかいくぐるために、参加者はインターネットを利用したテキスト・チャットやメールではなく、ブルートゥースを利用した通信アプリを使って情報を共有していることが大きく注目されています。同時に、香港人はツイッターなどを通して抗議デモへの参加を呼びかけたり、香港の現状を記録し、世界に訴えかけていることも特筆すべき点でしょう。100万人規模のデモを起こすためにSNSが大いに活用されていることは間違いないことです。
また、 “第2の天安門事件"という最悪の事態を防いでいるのもSNSの効果と言えるでしょう。世界の目が香港に向けられ、中国政府に対するプレッシャーとなっています。
しかしながら、SNS発のムーヴメントだからこそ、今回の一連のデモにはリーダーのような存在が現れず、そのため、香港政府も対話のチャンネルが見出せず、事態が治る気配がありません。
良くも悪くも、SNSというツールがあることで、誰もが“リーダー"となりうるのです。それぞれの主張が増幅され、それぞれが譲れなくなり、こうした人々が多くなればなるほど妥協することがが事実上不可能となります。抗議デモの参加者たちが掲げる“Five demands, not one less" (「五大要求は一つも欠けてはならない」)というスローガンはまさにその譲れない意思を表しているように思われます。この運動には、全員の意見をまとめる力のあるリーダーが存在しないので、今後も解決の糸口はなかなか見つからないのでしょう。
一方で、米ツイッター社と米フェイスブック社は8月19日に、中国政府がSNSを用いて香港の民主派デモに対する情報操作を行なっていたことを発表しました。中国政府が前述のブルートゥースを利用する通信アプリを悪用して、デマを拡散させ、デモの参加者を混乱させた可能性も充分に考えられます。
今回の民主派デモは、SNSの力の表れであると同時に、SNSの限界をはっきり示しているようにも見えます。
3.抗議にまつわる様々な英語表現
●demonstrationという言葉について
“demonstration"とは公の場で集まり、政治問題に対する見解を表したり、何かに対して抗議することです。したがって#HongKongProtestsは“pro-democracy demonstration"とも言えます。アメリカ英語で“demo"というと、「(新商品などの)実演」や「(ソフトウェアなどの)デモ版」という意味になります。一方で、イギリス英語で“demo"というと「抗議活動」という意味になります。
●protestという言葉について
“protest"とは何かに対して抗議したり異議を唱えたりするという意味の動詞です。そのまま名詞として使える他、 “protest demonstration"や“protest march"(「デモ進行」)のように形容詞として使うこともあります。因みに“Protestant"(「プロテスタント」)とは、16世紀にローマ・カトリック教会に抗議して離脱したキリスト教徒のことです。
●riotという言葉について
“riot"とは大勢の市民・民衆が集合的に暴行や破壊などを行う「暴動」のことです。 “riot"には他にも「騒ぎ」や「笑いが爆発すること」という意味もあります。そのことから「ものすごく面白い人」を指す言葉でもあり、 “you are a riot"のように褒め言葉としても使えます。
●rally という言葉について
“rally"とは「集会」のことです。“election rally"で「選挙集会」、“anti-war rally"で「反戦デモ」、“peace rally"で「平和集会」という意味になります。動詞としては「集めて整える」「呼び集める」という意味があり、そこから転じて一般の公道を使って行われるモーター・スポーツを「ラリー」と呼ぶようになったとされます。
●picketing という言葉について
“picket"とは、柵やテントなどを立てるために地面に打ち込む「杭」のことです。そこから転じて、ストライキが行われている職場を労働者がフェンスのように囲み、要求を訴えると同時に、ストライキを無視して出勤しようとするいわゆる“スト破り"の就労を阻止する抗議活動を指すようにもなりました。僕がUCLA在学中にも何度か大学構内でもピケティングが行われました。参加者は校舎にある広場を塞いで学生が教室に行くことを阻もうとしていました。
●sit-in という言葉について
“sit-in"とは1人、または複数の人が政治的・社会的・経済的な変化を求めてある場所を占拠(“occupy")するという「座り込み」のことです。多くの場合、労働者や労働運動団体員が職場や交渉相手の場所で行うストライキを指します。また、2011年9月17日からアメリカ合州国・ニューヨーク市のウォール街で起きた「ウォール街を占拠せよ」(“Occupy Wall Street")の運動では、経済格差の解消や雇用の改善を求めた参加者がデモ進行や、ニューヨーク証券取引所前で座り込みを行いました。