1.プロローグ
今回は、僕のお気に入りのバンドであるドゥービー・ブラザーズとマイケル・マクドナルドについて紹介していきます。ドゥービー・ブラザーズには2つの顔があります。1つはギタリスト/シンガーのトム・ジョンストンがリーダーを務めた時期と、もう1つはシンガー・ソングライターのマイケル・マクドナルドが所属していた時期です。
2.トム・ジョンストンのドゥービー・ブラザーズ
イーグルスと並んでウェストコースト・ロックを代表するのが、「ドゥービー・ブラザーズ」です。“ドゥービー"とはマリワナのことで、グループ名が当時のカリフォルニア文化を象徴しています。グループが形成された1970年代は、黒人と白人の混在したメンバーによるツイン・ギター+ツイン・ドラムスという編成で、これまたカリフォルニア的なバンドでした。
サウンド的には、サザン・ロック的な要素と、黒人的なファンキーな要素がうまく融合しており、世界的に人気となります。
“Listen to the Music" (1972)、“Long Train Runnin’" (1973)、“China Groove"(1973)が大ヒットをし、アメリカン・ロックを代表するバンドとなります。
3.マイケル・マクドナルドのドゥービー・ブラザーズ
しかし、これらのヒット曲などを作曲していたトム・ジョンストンが健康上の理由で、バンドを脱退し、その代わりに入ったのが、スティーリー・ダンのツアー・メンバーであったマイケル・マクドナルドです。
マイケル・マクドナルドの加入により、これまでのパワフルなギター・ロックから、R&Bの影響を受けたAOR系のサウンドに大きく変化します。
1978年にリリースされた“Minute by Minute"は、アルバムとしてもヒットした他、シングル・カットされた“What a Fool Believes"は、全米1位になり、グラミー賞の最優秀楽曲を受賞します。
4.解散から再結成
ドゥービー・ブラザーズは、多くのサポート・メンバーの協力を受けた、コンサート・ツアーも人気がありましたが、82年に “フェアウェル・ツアー"を行い、解散することになります。
しかし、87年に再結成をし、その後もメンバーを入れ替えつつ、現在も活動を続けています。
5.ドゥービー・ブラザーズの代表的アルバム
2枚のCDに、70年代の大ヒット曲を中心に、デビューから90年代のリリースまで33曲が時系列に収録されています。トム・ジョンストンがいた時代、マイケル・マクドナルドの時代、そしてジョンストンが復活した80年代末、90年代など、バンドのサウンドの進化が肌で感じられます。2007年に発売されたベスト盤を、2016年に日本でリマスターしたものです。
1983年にリリースされたドゥービー・ブラザーズのライヴ・アルバムです。当時バンドにいた唯一のオリジナル・メンバー、ギターとヴォーカルのパトリック・シモンズは、何年も休みなしに続いていたツアーやレコーディングに区切りをつけるためにグループから脱退を決め、バンドの「有終の美」を飾るために企画されたのが「フェアウェル・ツアー」でした。最後の2曲はオリジナル・メンバーのトム・ジョンストンも参加しています。
6.マイケル・マクドナルドの代表的アルバム
唯一無二のソウルフルなハスキー・ヴォイスとメロウなAORサウンドを放つマイケル・マクドナルドのベスト盤です。ソロ・アルバムからのヒット曲を中心に、ドウービー・ブラザーズ時代の代表曲も6曲収録されています。モータウンの名曲のカヴァーや、先日亡くなったR&Bシンガーのジェームズ・イングラムとデュエットしたキャッチーな『Yah Mo Be There』、パティ・ラベルとデュエットした切ない『On My Own』など、マイケル・マクドナルドの魅力に浸れる1枚です。
7.スティーリー・ダンの代表的アルバム
洗練されたジャズ・ロック・バンド、スティーリー・ダンのベスト盤です。アメリカのクラシック・ロックのレイディオにおいてスティーリー・ダンは欠かせない存在ですが、このコンピレイションはありがたいことに、大ヒットしたシングルだけでなく、レイディオの定番曲も収録されています。2000年代に入ってからの代表曲も2曲収録されています。
8.ドナルド・フェイゲンの代表的アルバム
『The Nightfly』を含むドナルド・フェイゲンのソロ・アルバム4枚と、掘り出し物10曲集めたボーナス・ディスク1枚からなるボックス・セットです。スティーリー・ダンの冷笑的な世界観に比べてより温もりを感じる、懐かしい世界観が展開されており、ジャジーな要素をさらに強調したサウンドに仕上がっています。
9.東海岸文化と西海岸文化
アメリカの文化や音楽を考える上で、東海岸と西海岸の違いについて知っておくべきことがあるでしょう。(もちろん、中部や南部にも独特な固有の文化と伝統はあります。)
東海岸は、米国独立の地であります。これは、どこからの独立かといえば、狭義では、英国なのですが、広義では、ヨーロッパからの独立と言っても良いのでしょう。
この独立運動(戦争)は、国家としてのいわば、経済的な独立のことで、文化的には、東海岸は今なお、ヨーロッパ文化圏の中にあると言っても良いでしょう。
建築物やファッション、言語に関しても、東海岸の人々は、英国を中心にヨーロッパ文化に強い憧れ、もしくは、劣等感を持っています。
「ニューヨークタイムズ」や「ワシントンポスト」など、東海岸の有力な新聞などの社説は、今もなお、英国スタイルの文体で書かれていますし。
アイヴィー・リーグで有名な大学などの建築物や、教会たちも、イギリス風のスタイルを好んでいます。
一方、LA(ロス・アンジェルス)、SF(サン・フランシスコ)などの都市を有するカリフォルニア州を中心とした西海岸には、様々なバックグラウンドを持った人々や文化が混在しています。
先住民族の文化、白人のカントリー・ウェスタン、黒人のヒップホップ・スタイル、メキシコや中南米のヒスパニックの文化。近年では、アジア系の文化の影響も強くなっています。
LAは、ハリウッドという映画の街として、SFは、ヒッピー・カルチャーの街、LGBTに寛容な街として知られています。
SFに近い、シリコン・ヴァレーから新しいICTムーヴメントが起こされたのも、こうした背景があったからだと言われています。
今回取り上げた、ドゥービー・ブラザーズ、マイケル・マクドナルド、スティーリー・ダン、ドナルド・フェーゲンなどの音楽が生まれたのも、こうした歴史や文化の流れがあったからなのです。
10.AORの発見
ロック色の強かった70年代前半のドゥービー・ブラザーズに70年代後半、マイケル・マクドナルドが加入した時には、賛否両論がありました。
しかし、マイケル・マクドナルドという存在があったことでドゥービー・ブラザーズも、ドナルド・フェーゲン率いるスティーリー・ダンも、一段階高い音楽性を得たのではないでしょうか。
日本において80年代にAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)というカテゴリーが生まれ、大きな人気を博すようになった中心的人物こそ、マイケル・マクドナルドであったのでしょう。
11.“ヨット・ロック"というジャンル
今回紹介したウェスト・コースト・サウンドのミュージシャンは日本では「AOR」というジャンルに分類されますが、アメリカでは2000年代ごろから、"Yacht rock" (ヨット・ロック)と呼ばれるようになりました。ヨットとは、小型のレジャー用の帆船のことです。
その名は、海やセーリングを題材にした歌が多かったり、ノリノリのディスコや高速道路を突っ走る車ではなく、西海岸沿いの海に浮かぶ遊船に適していたことからくると言われます。また、このジャンルの音楽には、カリフォルニア州特有の“ゆるさ"が漂います。
かといって、その音楽性はゆるいどころか、主にジャズで活躍していた秀逸のスタジオ・ミュージックだからこそ作りあげられる独特の"軽さ“があります。音楽的にはロックを基盤に、ポップ、ディスコ、R&B、ジャズなど様々な要素を取り組んでいますが、全体的にスムーズで主張の強すぎないサウンドとなっています。これまたカリフォルニア的といって良いでしょう。また、スティーリー・ダンが代表的な例であるように、高い録音技術もひとつの特徴とされています。
一方、歌詞には、怒りや憎しみを露わにしたり、情熱的な愛や抑えきれない反抗心を歌った歌が少なく、人間の滑稽さを表現したものが多いことが特徴です。ドゥービー・ブラザーズの『What a Fool Believes』は女性に相手にされていないことに気づかないバカな男の歌だし、マイケル・マクドナルドの『I Keep Forgettin’』は振られたことを忘れては恋をし続ける男の歌です。一方スティーリー・ダンの歌詞は暗い、ひねくれた内容が多いのですが、皮肉的でクレヴァーな表現に富んでおり、重くない曲調と対比しています。
このようにサウンドのゆるさと録音の完璧さ、内容の軽さと重さ、白人っぽさと黒人っぽさ、この一見相反する要素が見事に調和しているのも、カリフォルニアという土地ならではではないでしょうか。東京に拠点を移して以来、カリフォルニアを恋しく思うことがあれば、必ず“ヨット・ロック“をかけるようにしています。
12.エピローグ: KAZOOのオススメのアルバム
初期のノリノリのギター・サウンドのかけらもないくらい、完全に“マイケル・マクドナルド"のサウンドが前面に出たこのアルバムは、1982年の解散の前にリリースしたドゥービー・ブラザーズ最後のオリジナル・アルバムです。ドゥービー・ブラザーズのアルバムとしては一般的な評価はあまり高くありませんが、『Real Love』はバンドの最高傑作の1つではないでしょうか。
ドゥービー・ブラザーズが解散した1982年の8月にリリースされた、マイケル・マクドナルド初のソロ・アルバムです。当時アメリカのポップ・シーンにおいて、白人・黒人ともにここまで心に響く歌声はなかったのではないでしょうか。名曲『I Keep Forgettin’』は、後にラッパーの「ウォーレン・G」のヒット曲『Regulate』でサンプリングされました。
超完璧主義者として知られるスティーリー・ダンですが、本作にはスタジオ・ミュージシャンが少なくとも42人参加し、2年近くかけて制作されました。また、LAのレコーティング・スタジオを中心に録音されていたスティーリー・ダンのそれまでのアルバムと違って、NYのスタジオで主に東海岸のスタジオ・ミュージシャンを使用して録音されたました。
本作は2006年にリリースされたドナルド・フェイゲンの3作目のソロ・アルバムです。フェーゲンは9.11のテロ事件や自身の母の死の経験を踏まえ、自身が“晩年"に入ったこともあり、“死"をテーマに制作したそうです。本作は第54回グラミー賞においてベスト・サラウンド・サウンド賞を受賞しました。
次回からは、コラムニストのMickey K. が引き続きカリフォルニア生まれの音楽について紹介します。お楽しみに!