1.プロローグ
『有力ラケット・メイカーの人気モデルの違い』シリーズではこれまでアメリカの「ウイルソン」とオランダの「ヘッド」を紹介してきました。今回はフランスの「バボラ」です。
2.ストリング・メイカーとして創業された「バボラ」
「バボラ」は、ストリング・メイカーとしての歴史が長く、1875年に創業されました。ラケット・メイカーとしては、1994年からと、「ウイルソン」「ヘッド」と比べると、比較的新しいメイカーです。
世界ランキング1位にもなった米国出身のアンディ・ロディック選手が『PURE DRIVE』を使用し、“ビッグ4"の1人であるラファエル・ナダル選手が『PURE AERO』を使用したことで世界的に人気となりました。
テニス・クラブにおいては、『PURE DRIVE』が世界的にとても人気があります。
バボラがマーケティング的に優れているのは、『PURE DRIVE』『PURE AERO』『PURE STRIKE』シリーズという3つのシリーズを設け、その中にさまざまなレヴェルのラケットを準備したこと、特にジュニア・ラケットの上に『DRIVE』シリーズを設定していることです。
この戦略によって、全ての年齢/タイプのテニス・プレイヤーをターゲットとすることができています。『DRIVE』シリーズを子供の頃から使用することで、シニアになっても「バボラ」のラケットを使用する選手が多くいます。
3.ピュア・ドライヴ・シリーズ
『PURE DRIVE』シリーズは、“黄金スペック"という概念の元となった、ラケット面が100平方インチ、重量が300 g、ストリング・パターンが16×19、長さが27インチの『PURE DRIVE』を中心に、重量が315 gの『PURE DRIVE TOUR』、長さが0.5インチ長い『PURE DRIVE PLUS』、重量が285 gの『PURE DRIVE TEAM』などのヴァリエイションがあります。(テニス・ラケットの重量と長さについて:重量が重いラケットだとより強い球が打てます。ラケットが軽くなれば、よく振り抜きやすくなります。長さが長くなると、サーヴィスのパワーが強くなります。インチとグラムが混在することについて:テニス・ラケットのスペックは一般的に、重さは「グラム」と「メートル法」で表記され、フェイス面は「平方インチ」、ガットのテンションは「ポンド」と「ヤード・ポンド法」で表記されることが多いです。)
『PURE DRIVE』シリーズはどのヴァリエイションもスピード、パワー、スピン、コントロールのバランスがよく、多くのプレイヤーに人気があります。
男性ツアーではファビオ・フォニーニ選手、女子ツアーではカロリナ・プリスコバ選手やガルビネ・ムグルサ選手が使用しています。
唯一の弱点は、スウィート・スポットが広いため、タッチがやや鈍くなることです。多少“ど真ん中"を外しても、それなりに返球できてしまうので、スウィングのズレが生まれる可能性があります。
ですので、将来トーナメント・レヴェルのテニス・プレイヤーを目指す学生の方は、使用しないことをオススメします。
4.ピュア・エアロ・シリーズ
『PURE AERO』シリーズは、ナダル選手のように、ベイスラインでハードなスピンを打つためのラケットです。『PURE DRIVE』と同様に、重量、長さのヴァリエイションがあり、幅広いプレイヤーを対象にした商品ラインアップとなっています。『PURE AERO』はナダル選手以外にも、2019年に急成長を遂げた若手のフェリックス・オジェ=アリアシム選手や、女子ツアーでは英国のヨハンナ・コンタ選手が使用しています。
ジョー=ウィルフリード・ツォンガ選手や元女性プレイヤーのキャロライン・ウォズニアッキ選手)は、0.5インチ長い『PURE AERO PLUS』を使用することでよりパワフルなプレイを獲得しています。
プレイ・スタイルや身体が出来上がっているスピン・プレイヤーにとって『PURE AERO』は強力の武器なのですが、例え軽量なヴァージョンでも、まだ技術のないジュニア選手や初中級の人が使用するには、クセがあるラケットだと思います。
腕だけで“コスって"スピンをかけるのではなく、体重移動して“ツブして"スピンをかけられるテクニークのあるプレイヤーにとってこそ、ふさわしいラケットなのです。
5.ピュア・ストライク・シリーズ
近年、実力をつけてきたドミニック・ティーム選手が使用する『PURE STRIKE 18×20』は、文字どおり、98平方インチのフェイス面、18×20というストリング・パターンで、重さは305 gというスペックを持っています。
この『PURE STRIKE』シリーズは、「バボラ」らしい、パワーとスピンに加え、コントロール性能にも重点を置いた製品となっています。
ストリング・パターンが16×19の『PURE STRIKE TEAM』は中上級のプレイヤーにオススメの一本です。
6.「バボラ」のオススメのストリングズ
前述したように「バボラ」はラケットだけではなく、ストリング・メイカーとしても有名で、他社のラケットを使用しているプロの選手がストリングズだけ「バボラ」を使用することもよくあります。
ナチュラル・ストリングの『VS TOUCH NATURAL GUT 17 (1.25)』は是非一度使ってみるべきストリングです。“BIG 4"で「ヘッド」のラケットを使用しているノヴァク・ジョコヴィッチ選手とアンディ・マレー選手もハイブリッドの片方として使っています。
マルチの『Xcel 17』は、マルチを代表するストリングです。すこし価格が安い『Addiction 17』もコスト・パフォーマンスが高いので、オススメです。
ナダル選手も使用しているポリエステルの『RPM BLAST 15』(1.35 mm)はストリングの表面が5角形になっており、とても力強いスピンを生み出します。ファビオ・フォニーニ選手や、「ヨネックス」のラケットを使用するスタン・ヴァヴリンカ選手は『RPM BLAST 16』(1.25 mm)を使用しています。標準的な日本人のプレイヤーであれば、やや細い『BPM BLAST 18』(1.20 mm)をオススメします。
『RPM BLAST』では硬すぎるのであれば、『プロ・ハリケーン・ツアー 17』(日本国内では、18/1.20 mmも入手可能)もスピンのよくかかるポリエステルのストリングです。
インターハイやインカレ・レヴェルのプレイヤーであれば、『プロ・ハリケーン・ツアー17』と『Xcel 16』のハイブリッドも是非一度試してみて下さい。
7.エピローグ
毎年5月下旬~6月上旬に開催される全仏オープンでは、ここ2年連続 (2018年と2019年)、『PURE AERO』を使用しているラファエル・ナダル選手と『PURE STRIKE』を使用しているドミニク・ティーム選手が決勝で戦っています。
全仏オープンといえば、テニスの4大大会の中で唯一クレイ・サーフェス(アンツーカー)で行われる大会です。クレイ・コートでは、ボールがバウンドした時点でその勢いが弱まるため、エースが取りにくいとされ、最も“遅い"サーフェスとされます。つまり、ラリーが続くことが多く、ナダル選手やティーム選手のように安定したストロークを打てるベイスライン・プレイヤーに向いているサーフェスなのです。
もう1つの特徴は、ボールがバウンドした時に大きく跳ね上がることです。ナダル選手のように強力なトップスピンをかける選手であれば、相手にとって非常に打ち返しづらい高く跳ねるボールを打つことができます。更に、ナダル選手は左手でフォアハンドを打つので(実際には右利きなのですが)、彼が打ったクロスコートのフォアハンドは右利きの選手であればバックハンドで打ち返すこととなります。一般的に、フェデラー選手のように片手のバックハンドを打つ選手にとって、高く跳ね上がるボールは特に返しづらいとされています。
その点、ティーム選手は片手のバックハンドなのですが、高く跳ね上がったボールでも打ち返すことを得意としています。彼は大きくテイクバックするスウィングが特徴であるため、遅いクレイ・サーフェスだと、そのストロークの威力を最大限に発揮することができるのです。
2020年のクレイ・シーズン及び全仏オープンも、「バボラ」のラケットを使ったこの2人の選手の活躍が非常に気になるところです。ナダル選手の13回目の全仏オープン優勝となるのでしょうか。それともティーム選手が優勝し、“キング・オヴ・クレイ"の世代交代となるのでしょうか。今から楽しみです。
※追記:コロナ禍の中、ティーム選手は2020年の全米オープンでグランド・スラム初優勝を果たしました。10月に開催された全仏オープンまでは体力を回復できず、ディエゴ・シュワルツマン選手に負けました。結果的にナダル選手は13回目の前仏オープン優勝となりました。