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KAZOOの『SNS英語術』映画コーナー (21) 
 映画『永遠の門 ゴッホの見た未来』の監督・ジュリアン・シュナーベルと主役・ウィレム・デフォーへのインタヴューを振り返って
  - Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』(2019/11/15 放送) | CINEMA & THEATRE #025
Photo: ©RendezVous
2022/06/27 #025

KAZOOの『SNS英語術』映画コーナー (21)
映画『永遠の門 ゴッホの見た未来』の監督・ジュリアン・シュナーベルと主役・ウィレム・デフォーへのインタヴューを振り返って
- Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』(2019/11/15 放送)

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KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.プロローグ

先日、『世界へ発信!SNS英語術』の取材で監督のジュリアン・シュナーベルと俳優のウィレム・デフォーをインタヴューしました。2人はオランダ人の後期印象派の画家のフィンセント・ファン・ゴッホの晩年を描いた映画『永遠の門 ゴッホの見た未来』のプロモーションで来日していました。


2.ファースト・インプレッション

インタヴューは基本的にスーツ姿と決めているのは、相手に対する敬意の気持ちの表れと、インタヴュアーとしてちゃんとした第一印象を与えるためです。今回は著名な芸術家を題材にした映画作品で、監督も画家として知られているということで、スタイリストのScarletが絵画的な「フェラガモ」の小さな柄のネクタイを選んでくれました。

インタヴューが行われるホテルの一室に監督が登場した時のインパクトに勝るものはありません。監督はパジャマの上に緑のストライプが入った白いバスローブにビーサン、サングラスというスタイルで現場に現れました。実はラウンジウェアを普段着として着るのが監督のトレードマークで、普段から出かける時やイヴェントでもこうした着こなしをしている様子がメディアで度々取り上げられています。

僕は監督とデフォー氏と挨拶を交わし、席に着きました。周りで大勢のスタッフが撮影の最終準備をする中、僕は番組の簡単な説明を行い、質問はどこから切り出そうか戸惑っていました。いきなり服装について触れた方がいいのか、それとも平然とした態度で予定していた1つ目の質問から聞くべきなのか迷っていると、監督がいきなり、「思い切った衣装で決めてきたね」と言い出しました。「そのネクタイの柄を使って新しい絵文字を作り出せそうじゃないか。」僕は笑いながら、「このネクタイを着用するとしたら、この機会の他にないだろうと確信しておりました」と答えました。

『永遠の門 ゴッホの見た未来』
画家としてパリでは評価されていなかったゴッホは、南フランスのアルルへ移住し、“黄色い家"に住みながら自然の風景に魅せられながら、作品の製作を続けました。ゴッホが地元の人々とトラブルになると、画商である弟のテオは人気画家であったゴーギャンを説得して、アルルに行って兄のフィンセントと合流してもらいます。その後、2人は共同生活を始めることとなります。ゴッホはますます創作にのめり込むものの、やがてゴーギャンが去って行きます・・・。ゴッホの晩年を描いた本作は、デフォーの迫真の演技とゴッホの視線や精神状態を具現化した映像美が見どころです。


3.パジャマ姿で登場した監督・ジュリアン・シュナーベル

ジュリアン・シュナーベル(1951年~)はアメリカの画家、映画監督です。80年代に新表現主義の画家として注目を集めるようになりました。代表作には皿や陶器の破片を貼り付けたカンバスを使った「プレート・ペインティング」があります。40代より映画監督としての活動を始め、『バスキア』でデビューしました。

『バスキア』
シュナーベル監督が実際に交流のあった画家ジャン・ミッシェル・バスキアについて製作した伝記映画です。

『夜になるまえに』
キューバ出身の作家・詩人であったレイナルド・アレナスの一生を描いた自伝映画です。ホモセクシュアルであったために迫害されたアレナスは、アメリカに亡命しますが、その後エイズを発病します。

『潜水服は蝶の夢を見る』
老舗女性ファッション誌の『ELLE』の編集長、ジャン=ドミニック・ボービーを題材にした自伝映画です。ボービーは脳出血に襲われ、全身の身体的自由を失い、音は聞こえるが言葉を発することはできない「閉じ込め症候群」の状態になります。


4.センシティヴな印象の俳優・ウィレム・デフォー

ウィレム・デフォー(1955年~)はアメリカの俳優です。前衛劇団などに参加した後、80年代から映画に出演するようになり、1986年の『プラトーン』で国際的な評価を得ます。『永遠の門 ゴッホの見た未来』で第75回ヴェネチア国際映画祭で男優賞を受賞し、アカデミー賞主演男優賞にもノミネイトされました。

『プラトーン』
ベトナム戦争を描いた本作は、ベトナム帰還兵であるオリバー・ストーン監督の代表作です。第59回アカデミー賞作品賞、第44回ゴールデングローブ賞ドラマ部門作品賞を受賞しました。

『スパイダーマン』
「マーベル・コミック」の『スパイダーマン』を実写映画化した2002年のスーパーヒーロー映画です。デフォーは悪役の「グリーン・ゴブリン」を演じています。

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
フロリダ州のウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートの近くにあるモーテル周辺を舞台にした本作は、2008年に発生したサブプライム住宅ローン危機の余波に苦しむ貧困層の物語です。


5.これまでとは違うゴッホ像の提示

ゴッホといえば、精神的に不安定であったことで知られ、それを象徴するのが「耳切り事件」です。共同生活をしていた画家のゴーギャンが去ると言い出したせいで、2人は口論になり、ゴッホは刃物を持ってゴーギャンを脅します。結局は興奮状態になったゴッホは部屋に戻り、自分の耳を切り落とし、紙に包み、2人の馴染みの娼婦に届けました。

生前はほとんど評価されなかったゴッホは、「耳切り事件」の約2年後に拳銃自殺を図り亡くなったというのが定説です。今では「周囲に理解されなかった不幸な天才画家」の典型として一般的に神格化されている人物となっています。

しかし、ゴッホの死を巡っては様々な異説があり、本作でシュナーベル監督は自殺とは異なる、近年学者の間で物議を醸しているある一説をとっています。なぜそのように描いたのかと聞くと、監督はゴッホの晩年の多作ぶりをあげ、「落ち込んでいたとは思えないですよね。彼は死ぬ前日に大量の絵の具を購入しています。死にたがっているようにはどうしても思えないのです」と答えました。

インタヴューの後半では、芸術家の葛藤について尋ねようと、「ゴッホは絵が売れなくて苦悩しますが・・・」と質問を切り出すと、監督は「この映画の中で、ゴッホは本当に認められなくて苦しんでいるでしょうか? ある意味、彼はそんなことは一言も言っていません」と切り返しました。雄大な自然の美と心を通わせ、絵を描くことに没頭していた彼は、ある見方をすると、とても心豊かな人だったのではないか、ということです。

確かに本作には、デフォー氏が演じるゴッホが、畑や森などの自然を歩きながら心を打つ風景を探し求めるシーンが多くあります。ある場面では、秋の黄昏時の畑の真ん中で立ち止まり、画材を地面におき、仰向けになると、一握りの土を顔に振りかけます。そもそも表情豊かな独特な顔で知られるデフォー氏のその時の至福の表情は、それだけで映画を観る価値のある演技と言えます。


6.事実よりも真実な嘘

インタヴューの最後に、シュナーベル監督とデフォー氏とセルフィーを撮らせてもらった後に、「監督がお好きなゴッホの言葉ってありますか?」と聞きました。監督はつかさずこの言葉を教えてくれました:

規則から外れたもの、不正確なもの、現実を作り変えたものをいかに描くか。それによって生み出されるものはある意味嘘なのだが、それは文字通りの事実よりもずっと真実に近いものなのである。

僕の持ち時間はその時点で終わったため、そこから掘り下げることはできませんでしたが、この言葉は絵画の存在価値についてのゴッホの考えと言えるのかもしれません。絵画、ひいては美術には、「写実性」だけでは表現できないリアリティがあると語っているのではないでしょうか。

『永遠の門 ゴッホの見た未来』でシュナーベル監督が描きたかったことも、この言葉が正に表していると言えるでしょう。苦悩するゴッホではなく、自然に魅せられてうっとりするゴッホを描いたこともしかり。彼の死に関しては「自殺」という定説ではなく異説を敢えて選んだこともしかり。

そもそもゴッホは37歳で亡くなりましたが、彼を演じるデフォー氏は60歳代です。本作を観ていてその年の差を感じさせるような違和感が全く無いのは、「年齢」という事実を通り越してデフォー氏がゴッホになりきっているからなのでしょう。最後に2人にお礼と握手を交わした時には、監督のトレードマークのラウンジウェアは、古代の哲学者が着ていた“トガ"のようにさえ見えていました。


7.この日の衣裳について

「サルヴァトーレ・フェラガモ」のトロピカル柄のネクタイ

「サルヴァトーレ・フェラガモ」のトロピカル柄のネクタイ
こちらは、BigBrotherからお借りしたヴィンテージのネクタイです。

「グローバルスタイル」の茶色のスーツ

「グローバルスタイル」の茶色のスーツ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #023を参照してください。

「高島屋」のオレンジのクレリック・シャツ

「高島屋」のオレンジのクレリック・シャツ
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #013を参照してください。

「タビオ」のオレンジのソックス

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こちらの商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #027を参照してください。

「レッド・ウィング」のチャッカ・ブーツ

「レッド・ウィング」のチャッカ・ブーツ
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #004を参照してください。

「999.9」の「M-27」

「999.9」の「M-27」
この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #005を参照してください。

CINEMA & THEATRE #025

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