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KAZOOの『SNS英語術』映画コーナー (22) 
 映画『残された者~北の極地~』の主役、マッツ・ミケルセンへのインタヴューを振り返って
  - Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』(2019/11/22 放送) | CINEMA & THEATRE #026
Photo: ©Ikeji Uju
2022/07/11 #026

KAZOOの『SNS英語術』映画コーナー (22)
映画『残された者~北の極地~』の主役、マッツ・ミケルセンへのインタヴューを振り返って
- Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』(2019/11/22 放送)

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KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.プロローグ

先日、『世界へ発信!SNS英語術』の取材でデンマークの俳優、マッツ・ミケルセンをインタヴューしました。ミケルセン氏は、北極に1人残された男性が生き延びようとする物語を描いた『残された者~北の極地~』のプロモーションのために来日されていました。デンマークでは国民的な大物俳優として知られています。迫力があるものの同時に悲しさを物語る目つきと、はっきりした顔の輪郭で知られています。アメリカでは『007 カジノ・ロワイヤル』のル・シッフル役や『ハンニバル』の主人公ハンニバル・レクター役など、主に悪役として注目を浴びるようになりました。


2.デンマークの大物俳優と初対面してみて

今回のインタヴューはザ・プリンス パークタワー東京の一室で行われました。部屋は、リヴィングとキッチンとダイニング・ルームを一緒にしたような広い部屋でした。いつもなら必要最小限のスタッフや関係者のみが部屋にいる状態で、取材に挑むのですが、部屋が広い分、大勢の人が部屋に詰めかけていました。僕はその多くの視線を感じ、いつも以上に緊張しながら、ランチを終えてやって来たミケルセン氏に挨拶をしました。

僕が最初の質問をして、ミケルセン氏が答えようとすると、突然音声機材のトラブルが起こり、最初から再び質問をすることとなりました。そんな状況に対してもミケルセン氏は終始、嫌な顔一つせず、ピン・マイクとワイヤレスの送信機の接触部分をいじったりしてスタッフに協力していました。また、このトラブルによってできた合間に、ミケルセン氏が京都を観光してきたことなど、本題とは少しズレた会話もすることができました。幸いなことに、音声機材のトラブルが起きたことで、僕とミケルセン氏の間の空気はむしろ和やかになりました。

しばらくしてから、また同じ機材のトラブルが起ったので、僕は「現地の過酷な環境下で収録する中、こういう機材トラブルはありましたか?」と聞いてみました。ミケルセン氏は頷きながら「いっぱいあったよ、温度が低すぎるとバッテリーが効かないからね」と答えました。機材トラブルはどこでも起こるのがお決まりのようです。

『残された者~北の極地~』
過酷な北極の地を舞台に、遭難した男が生き延びようとする姿を描いた物語です。男は自分の精神的な安定のために、ルティーンに従って毎日規則正しく過ごします。ある日、目の前にヘリコプターが現れたことをきっかけに、ドラマが動き出します。本作はセリフが極端に少なく、ミケルセンの一人芝居が中心となっているため、ひとつひとつの動作や表情、ひとつひとつの言葉にすごく重みを感じさせる作品です。


3.マルチ・リンガルのマッツ・ミケルセン

マッツ・ミケルセン(1965年~)は、デンマークの国民的な俳優です。ダンサーとしてキャリアをスタートさせ、デンマークの国立演劇学校で学び、1996年に『プッシャー』で映画俳優としてデビューしました。2004年の『キング・アーサー』で米国に進出し、2006年の『007 カジノ・ロワイヤル』で国際的に有名になりました。

『プッシャー』
コペンハーゲンを舞台に、末端のドラッグ・ディーラーが密売組織のボスから借りたお金を返すために、あの手この手を試みるがどんどん借金地獄にはまっていく姿を描いた、サスペンス・スリラー映画です。ミケルセン氏は主人公の相棒を演じ、続編『プッシャー2』では主人公となっています。

『007 カジノ・ロワイヤル』
ピアース・ブロスナンが演じたおふざけ系なジェームズ・ボンドから一転、ダニエル・クレイグが演じる新生ボンドは、シリアスな路線に転換し、世界的に大ヒットとなりました。この作品でミケルセン氏は血の涙を流す悪役を見事に演じています。

『ハンニバル』
『羊たちの沈黙』で有名な人食い殺人鬼「ハンニバル・レクター」が、優秀な精神科医としてFBIで働いていた若い頃のストーリーを描いたサイコ・スリラーのテレヴィ・ドラマです。


4.ミケルセン氏が感じた自然の恵み

ミケルセン氏は、これまで行われたインタヴューの中で、「アイスランドの過酷な環境下で行われた今回の撮影は、これまでのキャリアの中でも最もきつかった」と言っています。

その体験について聞いてみると、ミケルセン氏は「厳しい寒さの中で12~16時間も過ごすのは、やはり体にこたえました。自分の部屋に帰ってくる頃には疲れ果てていましたよ。極寒ですからね」と語っていました。そして次の瞬間、彼の口から以外な言葉が出ました。「そうした自然の“gift"を逃さず利用しました。」

“gift"とは普通は「プレゼント」と訳します。この場合は「(自然からの)恵み」や「(神からの)贈り物」と翻訳するのが正しいでしょう。ミケルセン氏がいう“gift"には二重の意味があるのではないでしょうか。

映画製作の観点からすると、1つは、強風、雨氷、吹雪、-25~-30度の気温という過酷な撮影条件は、CGでは表現できないリアリティをもたらしてくれたということです。実際に撮影を始める2日前にアイスランドはこの50年間で最大の降雪を記録したそうです。

そしてもう1つは、そういった自然現象自体を「支配」しようとするのではなく、 “自然の恵み"として「受け入れ」、その逆境といかに共生するかという自然観なのです。さすが世界有数の“幸福の国"であり、豊かな自然で知られるデンマーク出身であるだけあって、ミケルセン氏はこのように感じられました。

ミケルセン氏は“gift"という言葉をインタヴューの中で、もう一度使っていました。撮影クルーの苦労について尋ねた時に、「このような映画を製作する時、フィルム・クルーにとっても、もちろん過酷な仕事ですが、同時に意図しなかった願っても無いような“gift"が与えられるものなのです。」


5.インタヴューを通して感じたミケルセン氏の生き方

デンマークの公用語はデンマーク語なのですが、英語教育がとても充実しており、ほとんどのデンマーク人は英語を話せるようです。ミケルセン氏ももちろん例外ではなく、とても流暢な英語を話していました。

インタヴューの後半、デンマークにおける英語教育についてミケルセン氏に聞いてみました。デンマーク人は子供のころから、ハリウッドをはじめ、多くの海外の映画やテレヴィに触れ、しかもそれは吹き替えではなく字幕付きであるということを話してくれました。デンマークの子供は英語のみならず、フランス語や日本語など、様々な言語を耳にする機会が与えられていると語ってくれました。

また、自身の言語学習に対するスタンスについて、「どの言語もそれぞれの文化と強く結びついているので、その言語のことを知れば知るほど“恋に落ちるように"大好きになってしまいます。慣れないうちは耳に少し障るかもしれませんが、だんだんニュアンスが分かるようになってくると、虜になってしまうのです」と答えました。

多くの日本人にとっては、英語学習は「大変なこと」、下手すると「めんどくさい」と感じている方が多いのではないでしょうか。日本人が抱く英語コンプレックスは、そもそも日本における英語教育のシステムそのものが子供を「英語嫌い」にさせてしまっているのではないでしょうか。英語圏の国に行ったこともなく、ネイティヴ・スピーカーとも話したことのない“英語の教師"が、英語を教えている現状は、正に生徒にとっても、先生にとっても“地獄"そのものです。小学校の英語教育の本格化を取り巻く議論やここ数週間の英語民間試験の騒動を見る限り、言語を「恋」の対象とするミケルセン氏の気持ちとはほど遠い現実を日本の若者は感じている気がしてなりません。

その点では、最近の冷え込みに「寒い寒い」とぼやく僕自身も含め、厳しい気候を自然の「恵み」と捉え、同じように言語学習も「人生をより豊かにするもの」として捉えているミケルセン氏を大いに見習うべきだと感じました。

そう思うと、今回のインタヴューで起きた音声機材トラブルは、正に僕にとっての“gift"だったのかもしれません。


6.この日の衣裳について

「ルイジ ボレッリ」のペイズリー柄の茶色いネクタイ

「ルイジ ボレッリ」のペイズリー柄の茶色いネクタイ
「ルイジ ボレッリ」は、1957年に設立されたイタリア・ナポリの老舗シャツ・ブランドです。身体の形に沿った最高の着心地を追求した卓越した技術で知られます。東京には青山通りから少し入ったところに旗艦店を構えています。

「グローバルスタイル」のチャコール・グレイのダブル・ブレスト・スーツ

「グローバルスタイル」のチャコール・グレイのダブル・ブレスト・スーツ
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #002を参照してください。

「ディファレンス」のピンクのボタン・ダウン・シャツ

「ディファレンス」のピンクのボタン・ダウン・シャツ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #008を参照してください。

「ブルックス・ブラザーズ」のグレイのソックス

こちらの商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #008を参照してください。

「パラブーツ」のダブル・モンク・シューズ『ポー』

「パラブーツ」のダブル・モンク・シューズ『ポー』
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #008 を参照してください。

「999.9」の『M-27』

「999.9」の『M-27』
この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #005を参照してください。

CINEMA & THEATRE #026

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