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SNSで見る現代の様々な“アディクト"(中毒者)の形
  - Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』 『あなたのSNSを見せてください』(2019/10/11放送) | LANGUAGE & EDUCATION #036
Photo: ©RendezVous
2022/12/05 #036

SNSで見る現代の様々な“アディクト"(中毒者)の形
- Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』 『あなたのSNSを見せてください』(2019/10/11放送)

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KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.遼河はるひさんが英語で街頭インタヴュー

NHK Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』10月11日放送分のテーマは、『あなたのSNSを見せてください』でした。今までのようにある特定のハッシュタッグに注目するのではなく、今回は訪日外国人や観光客のSNSに着目しました。

番組MCの遼河はるひさんが、テレビ東京の『YOUは何しに日本へ?』スタイルで浅草の雷門・仲見世通り付近で街頭インタヴューを行いました。観光で来ている外国人に声をかけてスマフォでSNSを見せてもらいました。スタジオではそこから発生したハッシュタッグやテーマをピックアップしていきました。

ノルウェーからの観光客は、インスタグラムに美しい大自然の写真を投稿しており、そこには#NatureAddictというハッシュタグがつけられていました。“nature addict"とは直訳すれば「自然中毒者」という意味で、つまり自然に触れることによって心が満たされる「アウトドア好き」のことです。#YogaAddict (ヨガ中毒者) #VideoGameAddict (ヴィデオ・ゲーム中毒者)など、SNS上で見られるいくつかの“addict"の形を取り上げました。

他にも、イギリス人の女性は、過去のハロウィンの仮装の写真をはるひさんに見せていました。ここから#Halloweenに注目し、こだわりの仮装やハロウィン・メイクをSNSで披露するアカウントを見てみました。

また、 あるアメリカ人の女性は自身のSNSに投稿していた米国・シカゴ名物のディープ・ディッシュ・ピザの写真をはるひさんに見せたことから、#Pizzaにも注目しました。ディープ・ディッシュ・ピザとは深さのある焼き皿で焼いたもので、生地の縁がパイのようになっているピザです。カリフォルニア人の僕も脱帽ものの美味しさです。他にも健康志向を意識したブロッコリーのピザや、生地やトマトソースが隠れてしまうほどペパロニに埋め尽くされたピザの写真も紹介しました。
ペパロニとは、イタリア風アメリカ料理に使われるスパイスの利いたサラミです。

今回スタジオでは、はるひさんはいつものように終始満面の笑みでしたが、最後に、もっとインタヴュイーたち(インタヴュー取材を受ける人のこと)と会話をできなかったことを悔しがっていました。いくつかの決まったフレイズで尋ねることだけでなく、相手の言ったことに対して何往復ものやりとりができるようになりたいと語っていました。最近は、英語講師の鳥飼先生や内藤先生が「どこかのリゾート地の部屋」ではなく「スタジオ」に“戻ってこられた"こともあり、出演者全員での会話がやりやすくなったので、今後はもっと生の「英会話」を実践できればと思っています。


2.“addict"を使う時には注意が必要

今回取り上げたハッシュタッグは一見繋がりのないバラバラのもののように見えますが、そこにはある共通のテーマがありました。それは一番最初にも紹介した、一線を超えてあることに熱中してしまう「中毒性」(“addictiveness")ということです。

例えば、コスプレにハマっている人は“#CosplayAddict"という表現になりますし、ペパロニに埋め尽くされたピザを好む人は“#PepperoniAddict"になります。

他にも、日本のリアリティ番組『テラスハウス』やNHK連続テレビ小説『おしん』にハマった外国人のツイートも紹介しましたが、この人たちは“#TerraceHouseAddict"や“#OshinAddict"になります。もちろん、テレヴィ中毒者は“#TVAddict"と言います。(因みに日本のアニメやゲームにハマった外国人は“Japanophile"と呼びます。)

番組の前半で「一線を超えて何かに熱中する」という意味を持つ“addict"には「オタク」のようなニュアンスが含まれているという説明がありました。確かに最近ではそのような意味で使われている例を多く見かけます。しかし、ここは翻訳者として、付け加えなくてはいけない点があります。僕は“オタク"という概念を英語で説明する場合、必ず用いる形容詞が“obsessive"(「異常なほどの」「しつような」「強迫観念の」)という言葉です。 “obsession" (「強迫観念」「執着」)と“addiction"(「中毒」「依存症」「常用癖」)という2つの言葉は、似ているようで微妙にニュアンスが違うので、注意が必要です。

“obsession"には「人間の心理に継続的に割り込むアイディアや考え」というニュアンスがあり、つまり「心を奪われる対象」のことです。オタクが没頭する “obsession"とは、「自分の興味があることだけ」に集中しているイメージがあります。そして、何かに没頭しすぎることによって、生活に悪影響が出てしまう状況も想起させます。あることに関心を持ちすぎて、結果的に他分野の知識や社会性に欠けているというイメージがある“オタク"は、正に“obsessive"と言えるのです。

一方で“addiction"とは何かに「依存」している状態であり、心や身体 (又はその両方)がそれなしでは満足できない、落ち着けない状態を指します。例えばリラックスするためにお酒を習慣的に飲んだり、タバコを吸うことなどが、依存性のある行動とされています。前述の“#NatureAddict"とは自然に触れないと心がモヤモヤし、気分が晴れない人のことですし、“#YogaAddict"とは日常のルーティンにヨガが含まれて、それをしないとスッキリしない人のことを指しています。

したがって、 “video game addict" (ヴィデオ・ゲーム中毒者)と“video game otaku"(ヴィデオ・ゲーム・オタク)という表現には、厳密にいうと違う概念になります。(この2つの現象は互いに相容れるものであるため、同じ人が両方を抱えているケースはもちろんありますが。)自分がハマっていることを英語で表現する場合、それは“addiction"なのか、“obsession"なのか、注意して言葉を選択する必要があります。


3.ドラッグ関連の慣用句が多いアメリカ英語

これまで見てきたように、“addict"という言葉はドラッグだけではなく様々な「中毒」を表す時に使われています。アメリカ英語には、ドラッグを連想させる“危ない"慣用句が他にも色々あるのでいくつかを紹介します。

junkie

“junkie"とは、“addict"と同義語で、「薬物中毒者」を意味するスラングです。元々は「ヘロイン」を意味するスラングとして“junk"が用いられていましたが、現在ではその他の薬物中毒者も指します。そこから転じて、チョコレットに目がない人を“chocolate junkie"、旅行好きを“travel junkie"、アクション映画マニアを“action movies junkie"、野球マニアを“baseball junkie"と呼ぶなど、様々な応用された表現があります。

high

「シュガー・ハイ」 (糖分による興奮状態)、「ランナーズ・ハイ」(長距離走者がある峠を越えると「辛さ」を通り越して一種の多幸感を味わうこと)など、日本語でも様々な「ハイ」が用いられています。しかし、アメリカ人が“high"という言葉を聞くと真っ先に連想するのが麻薬による多幸感です。自然に発生する高揚感を“natural high"というように、わざわざ“natural"を冠詞しなくてはその意味にならないことがまさにそれを物語っています。

feed it into my veins

多くの薬物は、口から内服するより血管に直接注射する方が、少量で早く効き目を発現します。そこから転じて、食べ物やテレヴィ・ドラマなど、あることを好きすぎて、それをできるだけ効率良く体内に取り入れたいことを表したい時に使う表現が“feed it into my veins"(血管から取り入れる)です。パソコンやスマフォの前でゾンビのようにぼーっとしている人をイメージしてみてください。

kick the habit

直訳すると「(悪い)癖を蹴っ飛ばす」、つまり、悪い習慣をやめることです。主にタバコや、お酒に対して用いられる表現ですが、甘いものやジャンク・フードへの依存症に対してもよく使われる表現です。その“欲"を思い切って遠くまで蹴っ飛ばさない限り、すぐまた手を出してしまうことからきているのでしょう。


4.SNSとの付き合い方を考える

解説者の佐々木俊尚さんは今回、1つのハッシュタッグからまた別のハッシュタッグへとテーマが移り変わった今回の番組進行は、正に「SNS的」だと指摘しました。ネット・サーフィンをする際、ペイジからペイジへ、キーワードからキーワードへと興味の赴くままに閲覧していくことこそ、まさにネット的であり、SNS的なのです。

また、佐々木さんは「何かにハマる」「何かにのめり込む」を意味する「沼る」(ぬまる)という日本のネット上で使われるスラングも解説してくれました。この表現を初めて聞いた僕は、なるほど、まさに泥沼に踏み入れてしまい、そこから抜け出せないイメージが生まれる巧い表現だと思いましたと。しかし、この表現をその後調べたところ、そもそもは「知的障害者」のことを「知障」(ちしょう)と略し、「池沼」を当て字したのが始まりだったそうです。言葉というものには常に注意が必要なのです。

見方を変えれば、SNSとは、自分がはまっていることに没頭してとことん追求し、それに同感できる“junkie"と巡り会えることがその最大の特徴なのではないでしょうか。それは良く捉えれば1つのことを「掘り下げる」こととも言えますが、そのうち、自分では抜け出せないほどの深い穴を自ら掘ってしまうことにもなるのです。

ネット・サーフィンやSNSのフィードをスクロールしているうちにどっぷりハマってしまい、気が付いたら何時間も経っていたということは、誰もが経験することでしょう。この現象は英語で“go down the rabbit hole"といいます。“rabbit hole"とは「うさぎの穴」のことです。この慣用句はルイス・キャロル『不思議の国のアリス』でアリスがうさぎを追いかけて穴に落ちてしまい、不思議の国へ行ってしまうことに由来しています。

そしてこの慣用句には、「幻覚を引き起こすような物質(幻覚誘発剤)を摂取してトリップする」という意味もあります。英語には、ドラッグ関連の表現が実に多いのです。そして、SNSとの繋がる言葉も多く存在するのです。


5.今回の衣裳について

「グローバルスタイル」の茶色いヴェスト

「グローバルスタイル」の茶色いヴェスト
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #020を参照してください。

「西武渋谷」で作った赤いボタン・ダウン・シャツ

「西武渋谷」で作った赤いボタン・ダウン・シャツ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #027を参照してください。

「ブルックス・ブラザーズ」のピンクのチノパン

「ブルックス・ブラザーズ」のピンクのチノパン
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #016を参照してください。

「タビオ」のピンクのソックス

こちらの商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #007を参照してください。

「ティンバーランド」のデッキ・シューズ

「ティンバーランド」のデッキ・シューズ
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #001を参照してください。

「MFYS」の星条旗のカフ・リンクス

「MFYS」の星条旗のカフ・リンクス
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #021を参照してください。

「ゾフ」の黒いメガネ

「ゾフ」の黒いメガネ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #006を参照してください。

LANGUAGE & EDUCATION #036

SNSで見る現代の様々な“アディクト”(中毒者)の形 - 『世界へ発信!SNS英語術』 『あなたのSNSを見せてください』(2019/10/11放送)


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