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オススメの海外の雑誌 (1)
  世界を知るための社会・ビジネス・科学誌編
  -『Newsweek 』『TIME』『Harvard Business Review』『Forbes』『National Geographic』『Nature』『Science』 | BOOKS & MAGAZINES #004
2021/07/05 #004

オススメの海外の雑誌 (1)
世界を知るための社会・ビジネス・科学誌編
-『Newsweek 』『TIME』『Harvard Business Review』『Forbes』『National Geographic』『Nature』『Science』

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BigBrother
プランナー / エディター / イヴェント・オーガナイザー

目次


1.プロローグ

日本の雑誌文化とアメリカの雑誌文化には、いくつかの大きな違いがあります。

まず第1に感じることは、印刷物としてのクオリティの違いです。アメリカの雑誌の多くは、ペラペラの薄い紙に汚い印刷が施されています。そのため、読み終えるとすぐに捨ててしまうような仕上がりなのです。一方、日本の雑誌は紙の質も印刷技術もとても優れています。製本もしっかりしているので、長期的に保存したくなるような仕上がりです。

2つ目の違いは、雑誌の購入方法です。アメリカ人の多くの雑誌の読者は1年間(もしくはもっと長い期間)の定期購読をします。毎号の記事の内容によるのではなく、その雑誌のスタンスに対してサポートするため寄付をしている感覚です。雑誌社側も、安定的な経営のために、長期の定期購読者には、大幅なディスカウントを行っているのが特徴です。長い契約期間の場合、50%以上のディスカウントをする場合もあります。

一方、日本人は、記事の内容や、女性誌などは表紙のモデルの違いなどで購入しているように見えます。

アメリカの場合、定期購読の場合は、自宅へ直接郵送されます。これは、日本ほど書店やコンビニが充実していないことも理由です。

日本には、コンビニや書店が充実しているので、多くの読者は、こうした店で毎回購入しています。

更にアメリカにおいては、2000年代以降のインターネットの発達に伴い、紙の媒体を止め、電子版/ウェブ・マガジンにシフトした雑誌も多いのが特徴です。広大な国土を持つアメリカにおいては、雑誌を印刷し、郵送するというのは、とてもコストがかかるので、電子化するのは合理的な判断と言えます。

一方日本には、“再販制度”があるため、多種多様な雑誌の出版が可能になっていると考えられます。“再販制度”については、否定的な意見もありますが、日米の出版の状況を比較した時、“再販制度”に一定の利点があると思われます。

また、日米の雑誌発行の現状における大きな違いは、広告営業のスタイルです。

アメリカにおいては、各雑誌社の担当者が広告営業を行うのが普通ですが、日本の場合は、各雑誌社の広告営業に加えて、大手広告代理店の営業力も加わります。

日本においては、大企業の広告出稿の決定権は、電通、博報堂、ADKといった大手広告代理店が一手に引き受けている場合が多いのです。こうした、大手広告代理店がクライアントの大まかな広告戦略に基づき、具体的な広告戦術としては、広告の出稿先の雑誌を決めています。

そのため、雑誌社は広告代理店に対し、様々なアプローチをかけ広告を出稿してもらいます。

このスタイルが存在している結果、雑誌だけではなく、テレビ、ラジオ、新聞といった全マスメディアがスポンサー+広告代理店の顔色を伺うことになるのです。

そのため、日本においては、広告スポンサーとなる大企業や大手広告代理店に“不都合な真実”をマスメディアが取り上げることはまずないのです。

一方、アメリカの雑誌や新聞は、広告収入よりも読者の購読料を基盤として経営をしているので、広告主や広告代理店の顔色を伺う必要はありません。しかし、その反面、読者に対して“リップサービス”しすぎることがあります。

インターネットの出版は、こうした20世紀型のマスメディアの“レゾンデートル”に対して、大きなインパクトを与えているのです。

ここ数年で、日本でもアメリカでも、マスメディアへの広告よりインターネットメディアへの広告が多くなってきており、今後より大きな“メディアの変革”が起こることでしょう。


2.政治・社会に関する雑誌

『TIME』

表紙の赤い縁取りが目印のアメリカの老舗週刊誌。誌名の『TIME』は「時代の風潮」「時代の象徴」という意味合いがあることも考えられますが、1923年に創刊された当時は、忙しいビジネスマンが「短時間で読める」という意味合いが込められていたそうです。その年に最も活躍し、話題になったとされる人物を選出する「パーソン・オブ・ザ・イヤー」、時代に最も影響力を発揮する100人を発表する「タイム100」が看板企画となっており、毎年大きな話題を呼びます。

『NEWSWEEK』

『TIME』と並んでアメリカを代表する、主に政治や社会情勢を取り上げる週刊誌。英語版にはアメリカ国内版と国際版があり、また現地版を多く発行していることも特徴的で、それぞれの版によって内容が違うことがあります。インターネット・メディアの発達によって週刊誌に「速報性」を求める読者が減り、2000年以降は、オピニオン記事やコラムの割合が増えています。2012年に一度印刷版は終了し、デジタル版のみになったものの、2014年に再び印刷版が復活されました。近年ではファクト・チェックの精度が問題視されており、まさに波乱万丈の歴史を送っている雑誌です。

『リーダーズ・ダイジェスト』

様々な雑誌から、主にライフスタイルに関する記事を集めたアメリカの総合ファミリー雑誌。創刊当初から保守的なスタンスを貫き、中部アメリカの庶民的な気取らないトーンが、何世代ものアメリカの家族に愛され続けてきています。サイズも持ち運びやすいように、通常の雑誌に比べ半分くらいの大きさ、いわゆる“ポケット・サイズ"になっています。

『フォーリン・アフェアーズ』

アメリカのシンクタンクが発行する、国際情勢とアメリカの外交政策を専門に取り上げる雑誌で、この分野では最も権威があるとされています。多くの学者、アメリカ歴代の国務長官、各国の閣僚などが論文を寄稿しています。アメリカ合州国の政治学者サミュエル・P・ハンティントンの『文明の衝突』も、もともと『フォーリン・アフェアーズ』で発表された論文が元となっています。あまり国際政治には興味を持たないイメージのアメリカ人ですが、9.11以降は読者数が伸びているようです。

『ビックイシュー』

2人のイギリス人が、ロンドンにホームレスの増加に対して、なんかできないかと、アメリカのホームレスが販売していたストリート新聞に感銘を受け、創刊したストリート新聞です。ホームレスに正当な手段で収入を得る機会を与えることで、社会復帰できるようにサポートすることが目的です。日本でも2003年より発行され、主に都市部の駅前や街角で販売されています。因みに、誌名の『ビッグイシュー』には「大きな出版物」と「大きな問題」のダブル・ミーニングが込められています。

ビックイシューオンライン版


3.ビジネス・経済に関する雑誌

『ハーバード・ビジネス・レビュー』

ハーバード大学傘下のハーバード・ビジネス・パブリッシング社が発行するグローバル・マネージメント誌。リーダーシップ、組織、交渉、戦略、マーケティング、財務など、ビジネスに関する幅広いテーマを取り上げています。日本では、現在ダイヤモンド社より『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』として日本語版が発行されています。英語版の記事の和訳を中心に日本語版独自の記事も含まれています。

『フォーチュン』

『TIME』の設立者の1人が、アメリカの大恐慌が始まった頃の1930年に創刊したビジネス誌。企業やビジネス界を動かす人物のランキングが有名で、毎年発表される全米と世界企業のそれぞれの売上高でランキングした『Fortune 500』と『フォーチュン・グローバル500』のリストが人気のコンテンツとなっています。他にも『働きがいのある会社ランキング』『今年の最優秀ビジネスパーソン』『40歳以下で影響力のある40人』なども人気があります。

『フォーブス』

フォーブス一族によって運営されるアメリカのビジネス誌。“資本家のツール"をキャッチフレーズとしており、富裕層をターゲットとしており、金融、投資、マーケティングを始めテクノロジーや科学、政治や法律などの記事を掲載しています。アメリカの長者番付の『フォーブス400』、世界の公開会社の上位2000社をランキングした『フォーブス・グローバル2000』など、人気のあるランキングを毎年多数発表しています。2014年より日本版も発刊されています。

『エコノミスト』

175年もの歴史を誇る、イギリスの老舗ビジネス誌。貿易の自由化、人材の自由移動など、経済自由主義を基本的なスタンスとしています。記者単独ではなく雑誌としてのヴォイスを編集部の総力を挙げて制作していることが特徴で、そのため署名記事はなく、特別な寄稿者による記事を除いて、社説と記事は原則匿名になっています。因みに、毎日新聞出版が出している『週刊エコノミスト』とは無関係です。


4.科学・自然に関する雑誌

『ナショナル・ジオグラフィック』

地理学の普及を目指したナショナル・ジオグラフィック協会が設立した130年の歴史を誇る月刊誌。科学、地理、歴史や世界各国の文化を中心に、近年では環境問題、温暖化、絶滅危惧種などのテーマを大きく取り上げています。写真集並みのヴィジュアルのクオリティーも評価が高く、フォトジャーナリズム(報道写真)の権威とされています。そのため、バックナンバーもコレクターズ・アイテムとしても人気があります。

『ネイチャー』

アメリカの『サイエンス』誌と並んで、世界で最も権威のあるとされるイギリスの総合学術雑誌。主な読者は、世界各国の研究者・学者で、内容は学術論文を中心に、解説記事やニューズも取り上げています。『X線の発見』『DNAの構造』『オゾンホールの発見』など、人類の歴史に残る科学の大発見を数々発表してきました。日本の博物学者、南方熊楠もイギリス滞在中の時期から寄稿をし、51本にも登る論文が掲載されました。

『サイエンス』

アメリカ科学振興協会が発刊する学術雑誌。多くの科学専門誌がある中、『ネイチャー』のライヴァル誌となっています。『サイエンス』の最大の特徴は、科学全般の分野を問わず、取り上げている総合誌であることです。オリジナルの論文を中心に、科学関連のニューズや、科学政策に関するオピニオンも掲載されています。

『サイエンス』のウェブサイトへ


5.エピローグ

世界には、“クオリティ・ペイパー"と呼ばれる新聞があります。“クオリティ・ペイパー"とは、世界で活躍するようなエリート階層を読者とする“質の高い"新聞のことです。ゴシップや娯楽、スポーツ中心の大衆紙とは違い、国際・政治・経済などのニューズが中心で、発行部数は少ないものの社会的影響力が大きい存在です。また、広告収入よりも購読料を中心としていることも特徴と言えます。

現在も、階級社会が続いているイギリスでは、保守的な『タイムズ』(44万部)、リベラルな『ガーディアン』(15万部)がそれに当たるとされています。

フランスでは、中道穏健派の『ル・モンド』(29万部)がクオリティ・ペイパーとされています。

アメリカにおいては、『ニューヨーク・タイムズ』(103万部)、『ワシントン・ポスト』(83万部)がクオリティ・ペイパーとされていますが、両紙はともにリベラルな立場をとっていることが特徴といえます。

経済紙の『ウォールストリート・ジャーナル』(227万部)も富裕層をターゲットとしているため、クオリティ・ペイパーとされることもありますが、同紙は、経済紙であるため、保守主義、市場原理主義的なスタンスを取っています。

ウォールストリート・ジャーナルの227万部という数字は、アメリカでの唯一の全国紙である『USAトゥデイ』(190万部)を抜いて、全米1の発行部数を誇っています。

アメリカの新聞でいうと、USAトゥデイ以外は、基本的にリベラルなローカル紙が中心です。KAZOOの出身のカリフォルニア州においては、『サンフランシスコ・クロニクル』(37万部)と『ロサンジェルス・タイムズ』(72万部)が有力紙です。

因みに、アメリカにおける保守系メディアとしては、『FOXニュース』が有名です。

さて、日本において、“クオリティ・ペイパー"は存在するのでしょうか。答えは、“否"です。

その理由は、日本にはエリート層・インテリ層が失われてしまったからではないでしょうか。

日本の新聞は、政治的な主義主張や合理的論説ではなく、情緒的感想や先導的スクープで成立しているからです。

また、“左寄り"とされる朝日新聞(626万部)、毎日新聞(300万部)にせよ、“右寄り"とされている読売新聞(870万部)、産経新聞(150万部)にしても、世界的な基準によれば中道左派と中道右派といった、多少の違いしか存在していないことも、クオリティ・ペイパーが存在しない理由ではないでしょうか。(経済紙である日経新聞(300万部)は中道右派)

日本の新聞は、広告収入の割合もが海外の“クオリティ・ペイパー"と比べて多いことも問題でしょう。スポンサーとなる大企業や“電博"(でんぱく、電通・博報堂のこと)などの大手広告代理店の批判はしにくいのが現状です。

さらに言えば、新聞社がテレビ局も支配している。いわゆる“クロス・オーナーシップ"も問題といえるでしょう。

テレビ局は、放送権によって政府のコントロール下にあるため、テレビ局を通じて新聞社にも力がかかることもあるからです。

また国際政治的に見れば、自民党や“中道左派"の政治を主張している野党も“理念なき中道左派"に分類されるような状況も問題なのかもしれません。

こうした現状における報道というものは、どうしても“些細なコト"“好き嫌い"といったレベルの問題にフォーカスされてしまいます。

ICTの発達とAIによるシンギュラリティが近づくことによる“パラダイムシフト"という目に見えない大きな変革の時代においては、首相に対する“些細な好き嫌いといった感情論"に基づく国会討論ではなく、本質的なかつ合理的な議論が必要なのではないでしょうか。

理性に基づいた議論の場としての“クオリティ・ペイパー"ならぬ“クオリティ・メディア"の出現を心より望みます。

そのためには、日本人がインテリを容認する階級社会を容認することから始めなければならないのではないでしょうか。


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