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オーストラリア英語に現れているオーストラリア人の国民性
  - Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』 #AustraliaBushfires (2020/02/28放送) | LANGUAGE & EDUCATION #046
Photo: ©RendezVous
2024/01/29 #046

オーストラリア英語に現れているオーストラリア人の国民性
- Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』 #AustraliaBushfires (2020/02/28放送)

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KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.異常気象が異常でなくなりつつあることを示した #AustraliaBushfires

2月28日放送の『世界へ発信!SNS英語術』で取り上げたテーマは#AustraliaBushfires、つまり「オーストラリアの森林火災」でした。

オーストラリアではほとんど毎年、森林火災が起きています。2019~20年の森林火災は、観測史上最も高い平均気温と、同時平均降水量が過去最少であることが重なり、更に強風により全土に広がり、観測史上最大級の規模となりました。2019年9月から各地で頻発し、ニュー・サウス・ウェールズ州を始めとするオーストラリア南東部を中心に大きな被害が見られるようになりました。12月には記録的な熱波が到来すると、拡大する火災は、森林だけでなく市街地まで拡大し、1月には各地で非常事態が宣言されました。その後、東部各地では“恵み"の大雨によって、2月上旬には火事の3分の1が鎮火されたと発表されたものの、一部地域では洪水が新たな被害をもたらしました。2月下旬でも南東地方を中心に火災が続いています。これまで北海道の面積(約834万ヘクタール)を超える1,000万ヘクタールを超える土地が焼かれ、3,000軒以上の家屋が焼失され、34人の死者、そして森林に生息するコアラやカンガルーなど10億匹を超える野生動物が犠牲になっていると推測されています。

この状況に対して、オーストラリアのスコット・モリソン首相のリーダーシップが問われています。これまで石炭火力発電を推進し、温暖化対策に消極的な姿勢を見せてきたモリソン首相は、火災が悪化する12月下旬には、ハワイでクリスマス休暇を過ごしているところを写真で撮られるなど、激しく非難されてきました。次の夏もこのような状態になる可能性があるという予測もあり、首相は先日、今後の対策を練るために国家的な調査に乗り出しました。しかし、モリソン政権のスタンスは温暖化対策を打ち出すことではなく、来たる火災に備えることだと指摘する声が多く上がっています。政府の戦略は、気候変動と戦うのではなく、順応することに重きを置いているというのです。

温暖化が悪化させる森林火災は、焼けた土地の面積や犠牲になった人や動物の数といった“量的"な損失だけでなく、オーストラリア人のライフスタイルを揺るがしかねない“質的"な損失をもたらしているとも指摘されています。これまでもオーストラリアの灼熱の夏は暑く乾燥していましたが、同時に、バーベキューをしたり(オーストラリア英語だと“barbie")、ビーチで過ごしたり、綺麗な夕焼けを眺めたりするなど、アウトドアを楽しむ季節というイメージがありました。そんな楽しい季節が、今回の森林火災で、荒れ地となった近未来のオーストラリアを舞台にした『マッドマックス』シリーズを思い浮かばせるような、正に“地上の地獄"に等しい状況となってしまいました。

オーストラリア人といえば陽気で、何事も“成るように成る"という気楽さが一般的なイメージとしてあります。しかし今回の森林火災は、オーストラリア国民に大きなトラウマを与えています。気候変動の波が目の前まで迫ってきているどころが、既にその波の真っ只中にあるいるという深刻な状況となっています。近年ではカリフォルニアでも年々山火事が悪化したり、日本では毎年大型の台風が襲来したり、世界各地で洪水や干魃や熱波による影響がより顕著となってきたりしています。異常気象というものがもはや異常ではなく当たり前になってきた、いわゆる“new normal"(新しい常態)に突入したと認識した方がいいのかもしれません。

このコラムでは、番組では紹介できなかったオーストラリア独自の英語の表現や、そこから見えてくるオーストラリア人の国民性について言及します。また、山火事が悪化するカリフォルニア出身者としてオーストラリア森林火災について思うことも触れてみたいと思います。


2.オーストラリアの未開墾地とオーストラリア人のアイデンティティ

今回の番組のメイン・テーマでもあった #AustraliaBushfires にあるように、オーストラリア英語では森林火災のことを“bushfire"と言います。(アメリカ英語とイギリス英語では “wildfire"と言います。)

“bush" とは、オーストラリアやニュー・ジーランドにおける未開発の低木地や森林地帯、僻地を指す言葉で、一般的には “the bush" と呼ばれています。こうした土地にはユーカリの木や低木などの在来種が生い茂り、カンガルーやエミューなどの固有種が生息しており、多くの場合は自然保護区に指定されています。ヨーロッパの森林にはない、独特の“匂い"や鳥の鳴き声が聞こえるこういったことから “the bush" は、オーストラリア国民のアイデンティティと深く結びついている場所であり、概念なのです。今でもアメリカ英語でいうところの “hiking" や “trekking" はオーストラリア英語では “bushwalking" と言います。

また、オーストラリアの奥地を指す表現として “outback" という言葉もあります。“the bush" と重複する部分もありますが、多くの場合、 “the bush" よりも更に人口密度の低い地域を指します。内陸部に広がり、砂漠を中心としたその地域は、羊や鶏などの牧畜業や、鉄鉱石や石炭などを採掘する鉱業が盛んに行われています。また、原住民のアボリジニが伝統的な生活を維持し続けている地域としても知られます。

“the bush" はオーストラリアという国の成り立ちとも深く関係しています。 オーストラ
リア大陸は他の大陸から隔絶されているという地理的条件によって、長い間、西欧文明の影響を受けず、先住民のアボリジニなどによる独自の文化が発達していました。彼らはのどかな生活を送り、 “the bush"と共存してきました。(オーストラリア大陸は、英国からみて地球の反対側で南にあることから “down under" と呼ばれるようになりました。そんなオーストラリア人のアイデンティティを歌ったのが、メン・アット・ワークの『ダウン・アンダー』です。)

1642年にオランダ人によってオーストラリア大陸は“発見"され、西洋人がその存在を認識することとなりました。18世紀後半に入ると、英国は植民地化政策を本格的に進めるようになります。その背景には、1780年代、英国では産業革命によって職を失った人たちが都会に集中し、犯罪者が増加していたことや、アメリカが1776年に独立したことによって英国が流刑地を失ったことがあります。オーストラリアにやってきた英国人は、流刑地の建設と、資源の獲得のために、先住民への迫害を行いました。

1850年代ごろには、金鉱が発見されたことによって、金脈を求める人々が急速に移民するようになり、アメリカに次ぐ“ゴールド・ラッシュ"が繰り広げられたのです。これによって現地の経済は急速に発展しましたが、白人採掘者と中国人採掘者の間などで衝突が起こり、人種差別が深まるきっかけともなりました。

先住民のアボリジニはオーストラリアの原風景である “the bush" と一つであるという世界観を持っていたのに対して、西欧からやってきた侵略者たちは “the bush" とは対立関係であり続けてきました。入植者である彼らにとってオーストラリアの未開墾地には見たことのない危険が潜んでおり、それを制御しようとすることで“オーストラリア人"としてのアイデンティティを築き上げようとしていきました。これによって無骨でたくましく、冒険家でサヴァイヴァリストという典型的なオーストラリア人男性のイメージが生まれたのです。まさに映画『クロコダイル・ダンディー』の主人公のような人物のことです。


3.オーストラリア人の国民性を表したオーストラリア英語

オーストラリア英語は、基本的には、イギリス英語をベースとしています。流刑者やゴールド・ラッシュ時にやってきた移民たちは、英国諸島の各地から来ていたため、様々な発音や方言が混ざり合い、独自の“オージー英語"が発展していきました。19世紀以降は次第にアメリカ英語の影響が加わります。更に20世紀後半からはハリウッド映画やアメリカのテレヴィ番組が大量に輸入されたことでアメリカ英語の表現が用いられるようになってきました。

しかし、スペリングに関しては、英国と同じように「カラー」は “colour"、「センター」は “centre"、「リアライズ」は “realise" と綴ります。アメリカ英語ではそれぞれ “color"、 “center"、 “realize" と綴ります。一方で、オーストラリア労働党のことを “Australian Labor Party" と表記するなど、必ずしもイギリス英語綴りに従うわけではありません。(イギリス綴りは “labour" となります。)

発音に関しては、アメリカ英語では綴りに “r" がある場合は、どんな場合でも発音するのに対して、オーストラリア英語ではイギリス英語と同様、母音のすぐ後の“r" は発音しま
せん。アメリカ英語で “card" は [kɑːrd] と発音するのに対して、イギリス英語とオーストラリア英語では[kɑːd]と発音されます。 (カタカナ語としては「カード」と表記されるように、“r" の発音が苦手な日本人にとっては、イギリス/オーストラリア英語の方が発音しやすいのかもしれません。) 他にも、5月を意味する“May" や 日曜日を意味する“Sunday" など、アメリカ英語で「エイ」と発音されるものは「アイ」となるため、 “May" は「マイ」、“Sunday" は「サンダイ」と発音されます。

また、前述のように “barbecue" を “barbie" と言ったり、オーストラリア人のことを “Australian" ではなく “Aussie" と言ったりするなど略語が多く、英国の労働者階級やアメリカで使われるようなインフォーマルな英語のように、 “running" を “runnin’"、 “singing" を “singin’"と表記したりします。こういった表現にはオーストラリア人独特の“ゆるさ"が現れている印象を受けます。

その他の語彙に関しては、オーストラリア英語ではイギリス英語と同様、「アルミニウム」のことを “aluminium" 、「ガソリン」のことを “petrol" と一般的に呼んでいます。(アメリカ英語で「アルミニウム」は “aluminum"、「ガソリン」は “gasoline" となります。)ところが、オーストラリア英語では「サッカー」のことをイギリス英語である “football" ではなくアメリカ英語である “soccer" と呼んだり、「ズボン」のことを イギリス英語である “trousers" ではなくアメリカ英語である “pants" と呼ぶことが多いことも興味深い点です。(因みにオーストラリアでは独自の「オーストラリアン・フットボール」というとても攻撃的なスポーツが発達しました。)

一方で、番組でも取り上げた、「クーラー・ボックス」を意味する “esky" (北極地方に住むエスキモー族から由来した言葉)のように、オーストラリア英語独自の表現も多くあります。前述の “bushfire" もその1つでしょう。中には、 “kangaroo" や “boomerang" など、アボリジニの言語に由来している言葉も多いことも特徴といえます。(“kangaroo" はアボリジニの言語で「飛び跳ねるもの」を意味します。)

オーストラリア英語の慣用句として最も代表的なのが “no worries" でしょう。この表現は「心配ないさ」「大丈夫」という意味の他、失敗や謝罪に対して「気にしないで」であったり、お礼に対して「どういたしまして」など、様々な場面で用いられ、オーストラリア人の気楽な人柄を表した表現です。アメリカ英語では主に “no problem" が用いられます。オーストラリア人は「心配事」を気にしているのに対して、アメリカ人が「問題」という実用的(プラグマティック)なものを気にしているところに、それぞれの国民性の違いが現れているのではないでしょうか。

オーストラリア英語にはオーストラリア人独特の楽観的な世界観が現れておりますが、これは同じく気楽でカジュアルな州民性で知られるカリフォルニアとも共通するところがあります。


4.カリフォルニア人として思うこと

今回のオーストラリアの森林火災を見ていて、カリフォルニアで生まれて育った者として、共感すべきものがあります。

砂漠地帯である南カリフォルニアでは毎年、夏の暖かい風によって火が起き、山火事が発生します。山火事はこれまでもカリフォルニアの自然現象のひとつでもあったのですが、ここ数年は、燃えやすい木々が成長したり、人間の誤ちなど様々な理由で山火事が多くなり、発生するシーズンも長くなり、規模もどんどん大きくなっています。近年は多くの住民の避難が余儀なくされ、多くの消防士が動員されて消火活動に頻繁に追われるようになっています。2018年には過去最大の約77万ヘクタールが焼失し(東京都の3倍以上の面積)、2019年にもおおよそ10万ヘクタールと、規模としてはオーストラリアの火災に比べて小さいものの、カリフォルニア人の危機感は年々高まっています。オーストラリアもそうですが、これまではある種の“楽園"というイメージがあった地域が、火災に脅かされることは、そこで生まれ育った者としてはとてもショッキングに感じることです。

こういった自然現象としての火災というものは、主に夏から秋にかけての季節に発生します。北半球のカリフォルニアの場合は6月から10月の間、南半球のオーストラリアの場合は11月から3月の間がそのピークとなります。地球の半球の違いによって発生の時期にズレがあるため、アメリカ人とオーストラリア人は、半世紀も前から消火資源の共有を非公式に行っています。アメリカの山火事が特にひどかった2000 年の際には、アメリカは公式にオーストラリアやニュー・ジーランドの消防局に協力を要請し、それ以降、北半球と南半球の協力はより強固になってきました。数年前にアメリカはオーストラリアとニュー・ジーランドと国際協定を結び、それによって過去最大規模となった2018年のカリフォルニアの山火事の際には、138人のオーストラリア人とニュー・ジーランド人が派遣されました。今回のオーストラリアの森林火災には100人以上のアメリカの消防士が出向きました。彼らがシドニーに到着した際には、拍手喝采で迎えられたそうです。

今後もオーストラリアでもカリフォルニアでも、次の火災シーズンに向けて様々な対策や準備が進められていきます。そこで近年再び注目されているのが、“prescribed fire" や “cultural burning" と呼ばれる、「人工山火事」です。人工山火事とは、自然のサイクルを邪魔せずに、燃えやすい木々などを人工的に燃やすことで、大規模な火災による被害を防ぐテクニックです。特にオーストラリアや北米の先住民たちは、これまで何百年にわたって、人工山火事をうまく利用することで火災シーズンの“wildfire" や “bushfire"のダメージを最小限に抑える智慧を培ってきました。ところが、西欧人という侵略者の到来によって、人工山火事を禁止する動きが生まれ、先住民たちの智慧は長い間封じ込められてきました。近年、各地で火災や被害の規模が大きくなる中、再び先住民たちの伝統に注目が集まっているのです。

オーストラリアのモリソン首相やアメリカのトランプ大統領のように温暖化に懐疑的な政権がアクションを起こさない一方で、番組でもこれまで度々取り上げてきたように、グレタ・トゥーンベリーに代表される若い環境活動家たちが立ち上がってきています。温室効果ガスの排出量を削減や、植林などによってCO2の吸収量を増加させるという長期的な対策ももちろん大切です。しかし、オーストラリアの森林火災やカリフォルニアの山火事は、私たちが今直面している気候危機と本当に向き合うのであれば、“対策"を打つだけでなく、自分たちの自然観そのものを見直すこと問われている気がします。その鍵の1つは、“先住民の智慧"なのかもしれません。私たちはこれからの地球の“未来"と向き合うと同時に、先住民の迫害に代表される“過去"ともしっかり向き合うことが大事なのではないでしょうか。


5.今回の衣裳について

「グローバル・スタイル」のチャコール・グレイのダブル・ブレスト・スーツ

「グローバル・スタイル」のチャコール・グレイのダブル・ブレスト・スーツ
この商品は、以前紹介したので LANGUAGE & EDUCATION #002 を参照してください。

「KASHIYAMA the Smart Tailor」の白いシャツ

「KASHIYAMA the Smart Tailor」の白いシャツ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #030を参照してください。

「ブルックス・ブラザーズ」のグレイのソックス

この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #008を参照してください。

「アレン・エドモンズ」の『パーク・アヴェニュー』

「アレン・エドモンズ」の『パーク・アヴェニュー』
この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #024を参照してください。

「ゾフ」の黒いメガネ

「ゾフ」の黒いメガネ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #006を参照してください。

LANGUAGE & EDUCATION #046

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