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デヴィッド・リンドレーとライ・クーダーの“泥臭い"ルーツ・ミュージック
  - ウェスト・コースト・ロック入門 (5)
  - 『化けもの』 『パリ、テキサス』『エンド・オブ・バイオレンス』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』 | MUSIC & PARTIES #012
2021/09/20 #012

デヴィッド・リンドレーとライ・クーダーの“泥臭い"ルーツ・ミュージック
- ウェスト・コースト・ロック入門 (5)
- 『化けもの』 『パリ、テキサス』『エンド・オブ・バイオレンス』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』

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Mickey K.
風景写真家(公益社団法人・日本写真家協会所属)

目次


1.プロローグ

これまでこのシリーズでは、
(1)イーグルスと仲間たち
(2)ドゥービー・ブラザースとマイケル・マクドナルド
(3)サン・フランシスコとロス・アンジェレスのサイケデリック・ロック・サウンド
(4) 1970年代のカントリー・ロック/ブルーズ・ロックの最盛期

今回は、デヴィッド・リンドレーとライ・クーダーを紹介します。これまで取り上げてきたメインストリームで活躍してきたロック・スターやシンガー・ソングライターと比べるとこの2人については、一般的には知らない人も多いでしょう。しかし、リンドレーとクーダーはアメリカの田舎をイメージさせる泥臭さを体現したギター・サウンドと、世界のルーツ・ミュージックへ関心が高いことで知られています。ウエスト・コースト・サウンドの1つの特徴とも言える多民族性を深めた“ミュージシャンズ・ミュージシャン"としてとても重要な存在なのです。


2.弦楽器の“バケモノ"であるデヴィッド・リンドレー

デヴィッド・リンドレーは、ジャクソン・ブラウンのバンドのギタリストとして注目を集めたミュージシャンです。ハンサムでスムーズで内省的なイメージのブラウンのイメージとは対照的なリンドレーは、ボサボサの髪とマトン・チョップ(頬や顎まで長さがある、幅広のモミアゲ)、サイケデリックな柄のシャツをよく着ており、エキセントリックな音楽の趣味で知られます。70年代にはブラウン以外にもリンダ・ロンシュタッドやジェームズ・テイラーのツアー・バンドの一員として参加し、80年代には自身のバンド“エル・ラーヨ・エキス"を形成します。90年代以降はソロ・ミュージシャンとして地道な活動をしています。

リンドレーはスライド・ギターの名手として知られ、ギター以外にも、ヴァイオリンやバンジョー、マンドリンなど、様々な弦楽器を演奏できるマルチ・インストゥルメンタリストです。ロックを始め、ブルーズやレゲエ、ワールド・ミュージックなど幅広いスタイルの音楽をプレイするライヴでのパフォーマンスは圧巻です。

デヴィッド・リンドレーのオススメのアルバム

『化けもの』
1981年に発表された本作は、ジャクソン・ブラウンをプロデューサーとして迎えたリンドレー初のソロアムバムです。ブルーズ、ロック、ケイジャン音楽、アラブ音楽など、様々な要素を用いています。カヴァー曲とオリジナル曲が演奏されています。

『Mr. Dave』
“化けもの”として知られるリンドレーが、よりポップ寄りのサウンドを意識して製作した1985年のソロ・アルバムです。レゲエ風にアレンジされたいくつかの曲が聴きどころです。もともとは日本のみのリリースでしたが、2016年に米国でもリイッシューされました。

『Love Is Strange: En Vivo Con Tino』 リンドレーとジャクソン・ブラウンが2006年に行ったスペイン・ツアーからの演奏を収録した2枚組です。息のあったリンドレーとブラウンの演奏はとても見事です。スペイン系の素晴らしいミュージシャンが参加することによって2人の名曲がラテン・ミュージックのサウンドで解釈されています。


3.ライ・クーダーが奏でるムーディーな映画サントラ

デヴィッド・リンドレーとも交流の深いライ・クーダーというミュージシャンも、ウエスト・コーストの音楽シーンを語るに当たって忘れることのできない人物です。リンドレーと同様、スライド・ギターの名手として知られるライ・クーダーはヴィム・ヴェンダース監督の映画『パリ、テキサス』のサントラを担当したことでも有名です。その後もヴェンダースとは『エンド・オブ・バイオレンス』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』でも共に仕事をしました。

『パリ、テキサス』
西ドイツ・フランス合作映画である本作は、アメリカ合州国のテキサス州を舞台としたロード・ムーヴィーです。記憶を喪失した男が、4年前に置き去りにした息子と再会し、自分が苦しめ、行方不明となっている妻を探しに旅に出る物語です。ライ・クーダーが奏でる哀愁感の漂うスライド・ギターは、主人公の心理のみならずアメリカの風景を見事に描写しています。本作は第37回カンヌ国際映画祭で最高賞であるパルム・ドールを受賞しました。

『エンド・オブ・バイオレンス』
太陽の降り注ぐ楽園のようなL.A.のイメージと、金儲けのために暴力を売り物にする映画が蔓延しているハリウッドのパラドックスを捉えた、1997年のサスペンス映画です。ヨーロッパ人から見たハリウッドとアメリカのメインストリーム文化の不思議がとても興味深く描かれています。サントラにはライ・クーダーの他、U2やトム・ウェイツなどが参加し、独特な雰囲気を作り出しています。

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』
ライ・クーダーとキューバの老ミュージシャン達で結成されたバンド「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の演奏を中心に、キューバの日常を描いたドキュメンタリー映画です。2000年のアカデミー賞にノミネイトされた他、ヨーロッパ映画賞やロサンゼルス映画批評家協会賞のドキュメンタリー映画賞などを受賞しました。

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』
ライ・クーダーがキューバに旅行した際に現地の老ミュージシャンとセッションを行ったことをきっかけに、キューバ国外ではほとんど知られていなかった彼らに再び脚光を浴びさせることを目的に「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」を結成しました。こちらは彼らが製作した1997年のアルバムで、世界的ヒットとなったことにより、ワールド・ツアーも組まれました。

『Soundtracks』
ワーナー系列からリリースされたライ・クーダーが関わった映画のサントラ7枚を集めたボックス・セットです。


4.ワールド・ミュージックの魅力を熟知したライ・クーダー

ライ・クーダーは日本語で言う民族音楽という意味の“ルーツ・ミュージック"の紹介者でもあります。中でも“テックス・メックス(テハノ・ミュージック)"を得意としています。

テキサス州もカリフォルニア州もかつては(1848年まで)メキシコの一部であり、現在もヒスパニック系の人々が多く生活しています。

『ベスト・オブ・ライ・クーダー』
ライ・クーダーのキャリアの前期に発表されたソロ・アルバムから曲を集めた1枚組のベスト盤です。クーダーを知らないリスナーはここからスタートすることをオススメします。

クーダーのこうした“民族音楽”への興味は、世界各地の固有の音楽を色々な人に聴いてもらいたいという願望が、その根底にあります。『ゲット・リズム』においては、沖縄の音楽を取り上げています。他にもアフリカのマリ共和国のアリ・ファルカ・トゥーレやキューバのギタリストのマヌエル・ガルバンともアルバムを製作しています。

『ゲット・リズム』
ライ・クーダーの11作目のアルバムである本作は、様々なリズムを1枚のアルバムとして折衷した力作です。ジョニー・キャッシュのロカビリー・ナンバーをテックス・メックス風にアレンジした『Get Rhythm』、エルヴィス・プレスリーの名曲をブルーズ・ロック調にアレンジした『All Shook Up』、琉球音楽を意識した『Going Back to Okinawa』が聴きどころです。

『トーキング・ティンブクトゥ』
ライ・クーダーとマリ共和国のアリ・ファルカ・トゥーレによる1994年のアルバムです。本作はグラミー賞ベスト・ワールド・ミュージック・アルバム賞を受賞し、音楽批評書『死ぬ前に聴くべき1001枚のアルバム』にも選ばれています。ワールド・ミュージックの初心者にとっては必聴の1枚です。

『マンボ・シヌエンド』
ライ・クーダーとキューバのマヌエル・ガルバンによる2003年のアルバムです。マンボなど50年代のキューバのポピュラー・ミュージックをエレキ・ギターで奏でています。第46回グラミー賞では、本作が最優秀ポップ・インストゥルメンタル・アルバム賞を受賞しました。


5.エピローグ

様々なスタイルを教えてくれるライ・クーダーの作品の中でも、私が個人的に大好きなのは、ハワイアン・ミュージックの伝統を伝えてきたギャビー・パヒヌイとのアルバムと、ウォルター・ヒル監督の映画『クロスロード』
におけるライ・クーダーの演奏です。

『ギャビー・パヒヌイ・ハワイアン・バンド Vol. 1』
ライ・クーダーが70年代半ばにハワイに行き、ハワイアン・ギターの神様ギャビー・パヒヌイとその仲間たちと共演して製作されたアルバムです。主役のパヒヌイは12弦ギターとスティール・ギターを弾き、美しいギターのハーモニーが聴きどころです。観光地としてのハワイの向こう側にある“本当のハワイ"を体験した気分にさせてくれる1枚です。

『ギャビー・パヒヌイ・ハワイアン・バンド Vol. 2』
『Vol. 1』に入らなかった演奏と、パヒヌイが1976年にアメリカ本土にやってきた時に録音された3曲を収録したアルバムです。パヒヌイ以外にもスラック・キー・ギターの旗手が多数参加しています。

『クロスロード』
ブルーズをテーマにしたロード・ムーヴィーです。実在したブルーズ・ギタリストのロバート・ジョンソンが十字路に現れた悪魔に、ブルーズの神髄と引き換えに魂を売ったとされる「クロスロード伝説」を題材としています。ライ・クーダーが音楽を担当し、終盤のスティーヴ・ヴァイのギター対決シーンを除いて劇中のギター・トラックは主にクーダーによる吹き替え演奏です。

『Crossroads: Original Motion Picture Soundtrack』
ライ・クーダーが手がけた『クロスロード』のサントラ・アルバムです。クーダーによるブルーズ・ギターはアメリカの田舎の泥臭い感じを見事に捉えています。スティーヴ・ヴァイが演奏した映画終盤の “エレキ合戦”の音楽は残念ながら収録されていません。

『コンプリート・レコーディングス』
伝説のブルーズ・マン、ロバート・ジョンソンが27年という生涯にレコーディングした全29曲を収めた2枚組です。本作は「ローリング・ストーン」誌が2012年に発表した『グレイテスト・アルバム500』ランキングで22位に選ばれました。

以上、ブルーズとスライド・ギター、ハワイアン・ミュージックとスラック・キー・ギターの深い関係性について紹介しながらデイヴィッド・リンドレーライ・クーダーの音楽を取り上げてきました。こういったジャンルやギター奏法の違いについても理解を深めることで、音楽を聴くときの感動が増すでしょう。

是非一度、ライ・クーダーの音楽を聴いてみて下さい。ブルーズ、ハワイアン・ミュージック、沖縄音楽など、世界のルーツ・ミュージックの独特な音色に魅せられたライ・クーダーの“音楽への愛情"がきっと感じ取れるはずです。その魅力がよく分からないとしたら、それはあなたの“音楽への愛情"がきっと足らないからです。


MUSIC & PARTIES #012

デヴィッド・リンドレーとライ・クーダーの“泥臭い”ルーツ・ミュージック - ウェスト・コースト・ロック入門 (5)


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