1.プロローグ:楽屋オチ
この日は朝から映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』のインタヴューのために、六本木のリッツ・カールトンへ向かいました。今までは、監督あるいは俳優を1人だけインタヴューする形でしたが、今回はロン・ハワード監督と俳優のオールデン・エアエンライクの2人を、同じ日にインタヴューするという、僕にとっては初めての経験になりました。
インタヴューの仕事の時は、基本的にスーツにネクタイというスタイルにすることにしているのですが、この日は、2週に分けてオンエアすることになっていたため、何かしら衣装に変化をもたらしたいと考え、スタイリストのScarletと相談しました。1本目と2本目のインタヴューの間に、少し時間が空く予定となっていたので、スーツはそのままで、シャツとネクタイだけを変えることにしました。
この日は、人生初めての記者会見というものにも出席しました。東京ミッドタウンのホールAという広いスペースで開かれ、最前列にはカメラマンたちが陣取り、会場の後ろの方にはテレヴィ・カメラがずらっと並び、その間に我々を含めた記者達が座りました。テレヴィでしか見たことのなかった光景を、目の前で見ることは、とても貴重な体験でした。
記者の質問に答えるロン・ハワードとオールデン・エアエンライクを見て感じたことは、映画の宣伝のために世界中を飛び回ることは、一見楽しそうだけれども、連日同じような質問に対して初めて聞いたかのように、答え続けなければいけないことは、とても疲れる作業でないのか、ということでした。しかし、2人は会見中、疲れを一切見せず、ひとつひとつの質問に真剣に答えており、さすがプロだと思いました。
2.映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』について
僕は、以前このコラムでも述べたように、子供の頃から『スター・ウォーズ』の大ファンです。宇宙を舞台としたSF (いわゆる“スペースオペラ")のスケール感、西部劇を意識したアドヴェンチャー的な要素、“囚われの姫を救う王子様"というありきたりの伝説でありながら、それを見事にひっくり返したような展開は、まさに少年の興味をくすぐるものでした。
“スター・ウォーズ・ストーリー"シリーズは、本筋に関連した物語をより広げる¥ことをコンセプトとしたいわゆる“外伝"です。反乱同盟軍が銀河帝国軍の宇宙要塞である“デス・スター"の設計図のデータを盗むまでに至ったドラマを描いた2016年の『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』は、『スター・ウォーズ』シリーズの中では、最も“戦争映画"と呼ぶにふさわしい内容でした。
一方で今回取材した『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』は、宇宙の密輸業を営む無法者“ハン・ソロ"の若き日々の冒険を描いた、言って見れば“強盗映画"になっています。そもそも『スター・ウォーズ』の主人公は、形式上ではマーク・ハミルが演じる“ルーク・スカイウォーカー"ですが、ストーリー的に一番見応えがあるキャラクターは、やはりハリソン・フォードが演じる“ハン・ソロ"なのでしょう。実際、『スター・ウォーズ』シリーズのキャラクターの人気ランキングでも、ハン・ソロはダース・ベイダーと並んで一二を争うことが多いです。
かと言って、ファンがハン・ソロ単独の映画を熱望していたかと言うと、微妙なところがあります。なぜなら、ハン・ソロのストーリー・アークは、『スター・ウォーズ オリジナル・トリロジー(旧三部作)』で完結しているからです。相棒のチェーバッカを除いて、自分のことしか考えていなかったような宇宙の無法者が、男勝りな姫様に恋をし、大義のために戦うことを決意するという物語でした。ハリソン・フォードの控えめながらも、独特な演技なイメージがあまりにも印象深く、違う俳優が演じるとなるとどうしても“モノマネ"にならざるを得ないのではないかという恐れもありました。
そういう意味では、今回の映画で若きハン・ソロ役を演じるオールデン・エアエンライクが、単なる“モノマネ"にならなかったことは、称えるべきことだと思います。その点において、彼の俳優としての才能は、本物なのではないでしょうか。
ただ “モノマネ"じゃないからこそ、逆にこの映画の主人公が“ハン・ソロ"である必要があったのか、とさえ思うところもあります。また、オリジナル・トリロジーの名シーンや名台詞を明らかに意識した、いかにもわざとらしい“楽屋オチ"的な場面がいくつもあることは、ファンからするとやりすぎ感があり、逆にファンじゃない人からすると何のことだかピンと来ないのではないでしょうか。むしろ、ハン・ソロから完全に切り離されたオリジナルの宇宙海賊の物語として製作した方が、この物語の面白さも、俳優の魅力も引き出せたのではないかと思います。
ただそうなってしまうと、映画の“ハート"となる部分であるハン・ソロとチューバッカの出会いのパートがなくなってしまい、この物語が成り立つのかというとても悩ましいジレンマがありますが・・・
3.「ゼロハリバートン」のアタッシュ・ケース
服装の全体のバランスを考える上で、どのようなバッグを持つかによって相手に与える印象は大きく変わります。最近はスーツ姿にリュック・タイプのビジネスバッグを背負うビジネスマンが多いようですが、ショルダー・ストラップはスーツに食い込んでシワを作り、ジャケットの形が崩れてしまいます。そもそもリュックはカジュアルな印象なので、例えリュック型に変換できる2-wayもしくは3-wayのビジネス用とされているバッグだとしても、クライアントを訪れる際などは“背負う"のではなく“手持ちする"ことをオススメします。
僕もこれまでは、番組の衣裳も含め、ビジネス・カジュアルをすることが多かったので、「ブリーフィング」のナイロン・バッグをメインに使っていました。ただやはりスーツにはレザー・ブリーフケース、あるいはアタッシュ・ケースが似合うので、番組のインタヴュー用に以前から、しっかりしたものを1つは欲しいと思っていました。
“ブリーフ"とはそもそも“弁論趣意書"や“準備書面"という意味で、弁護士が書類をブリーフケースに入れて法廷に向かったことから由来します。一方で“アタッシュ"(英語読み)または“アタッシェ"(フランス語読み)は大使などの“随行員"という意味で、大使館員が持ち歩いていたことから由来しています。
ゼロハリバートンは、アルミニウム素材のアタッシェ・ケースで知られるアメリカの鞄メイカーです。アポロ11号の宇宙飛行士たちが、月の石をゼロハリバートンのケースに入れて地球に持ち帰ったことでも有名です。
定番のアタッシュ・ケースは、今では比較的軽いポリカーボネートのものや、ブラックやブルーのものもありますが、僕はアルミニウム製のシルヴァーの『SL Attache / 94353-05』(税込¥81,000)を購入しました。
ポリカーボネートに比べてとても重いので、全ての方にはオススメできませんが、ビジネスをする上でスーツが鎧だとすれば、このアタッシュ・ケースは間違いなく武器の1つとなるのではないでしょうか。また、ダイヤルロック式になっているので、ケースを閉じるだけで自動的にロックされる仕組みになっていて、ラッチを開けたり閉じたりする手間がありません。シンプルでスリムな芸術的な美しさを持つデザインがとても気に入っています。
ロン・ハワード監督のインタヴュー時の衣裳
4.「麻布テーラー」の紫色のクレリック・シャツ
番組はブルー・バックで撮影されるため、青系の衣裳は基本的にNGということは以前もお伝えしましたが、紫色のものもNGになることもあります。そのため番組開始から準備していたものの、これまで着ていなかった紫色のクレリック・シャツを今回着ることにしました。
生地は、紫色に白いペンシル・ストライプが入ったもので、襟先は丸く柔らかい印象を作り出したラウンド・カラーにしました。
因みに、日本語ではこのシャツのように襟と袖口に白い生地を用いたデザインを“クレリック"と呼びます。(“クレリック"とは英語で“牧師"や“聖職者"のことです。)しかし、この名称は和製英語であり、英語では“contrast collar"あるいは単純に“white collar and cuffs"と言います。
5.「ブルックス・ブラザーズ」の紫色のジャカード・タイ
「麻布テーラー」の紫色のクレリック・シャツと合わせたネクタイはブルックス・ブラザーズの『ラグジュアリー トーナルスクエア/ドット ジャカードタイ』(税込¥15,120)です。
四角形とドットを幾何学的に並べた模様が施され、程よい光沢がイタリア製のシルクの品質を物語っています。
オールデン・エアエンライクさんのインタヴュー時の衣裳
6.「グローバルスタイル」の白いシャツ
ロン・ハワード監督とのインタヴューを終え、ランチを挟んで午後から2本目のオールデン・エアエンライクのインタヴューをすることになっていたので、シャツとネクタイは着替えました。
こちらは、去年「グローバルスタイル」にネイヴィーとグレイのスーツを注文した際に、一緒にオーダーしたセミワイド・カラーのシャツです。カフスはダブルになっています。
スタジオ収録では僕はネクタイをしないことにしているので、基本的にボタンダウン・シャツを着ることが多いですが、やはりちゃんとした白いワイシャツは男性のウォードローブにはマスト・アイテムです。
7.「ブルックス・ブラザーズ」のバー・ストライプ・レップタイ
「グローバルスタイル」の白いシャツと合わせた『Basic BB#3 バーストライプ レップタイ』(税込¥12,960)です。
レップタイとは、レップ織り(畝織り)の生地を使用したネクタイのことで、中でもレジメンタル・ストライプ柄のものが有名です。元々イギリスの軍隊の中でどの連隊に属するかを示すために軍旗やネクタイに使われていたことから“レジメンタル"(連隊)と呼ばれるようになりました。
このネクタイはバーガンディーのベースにゴールド・スタイプが入っていて、初めはUCLAのライヴァル校(天敵)である南カリフォルニア大学(USC)のスクール・カラー(カーディナル・レッドとゴールド)に見えてしまい、躊躇しました。レジメンタルのネクタイには、何らかのメッセージが含まれることがあることを注意する必要があります。
8.「グローバルスタイル」のネイヴィー・スーツ
この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #005を参照してください。
9.「999.9」の『M-27』
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #003を参照してください。
10.エピローグ
この日、最初にインタヴューしたロン・ハワードは、僕が子供の頃までは、『メイベリー110番』で演じた主人公の法務官件保安官の息子役や、『ハッピーデイズ』で演じた無邪気なティーネイジャーなど、テレヴィのシチュエーション・コメディの俳優として、馴染みのある顔でした。また、『スター・ウォーズ』の生みの親でもあるジョージ・ルーカスの『アメリカン・グラフィティ』では優等生のスティーヴ・ボランダーも演じています。現在では『アポロ13』や『ビューティフル・マインド』などを手がけた名監督というイメージが強いですが、実際に会ってみると、本人は少しシャイな表情が残る気さくな方でした。インタヴュー中も、『ハッピーデイズ』のキャラクター名である“リッチー"と何度も呼びたくなりました。
オールデン・エアエンライクは、記者会見のステージにレザー・ジャケット、ブレスレットというラフなスタイルで登場した瞬間から、ルックスを含め、今時の若いセレブとは違い、古きハリウッドのスター的な落ち着いたオーラを感じました。インタヴューでは、お互い同じカリフォルニア州生まれであることが判明して、打ち解けることができました(彼はロサンゼルスの西側にあるパシフィック・パリセーズというところで育ちました)。俳優としては、これからの活躍が楽しみな人物です。2016年にコーエン兄弟が監督した『ヘイル、シーザー!』では、脇役でありながら一番注目を浴びることになった“爆笑の演技"は特に必見です。
エアエンライクさんとのインタヴューの終盤にサプライズがありました。インタヴュー・ルームに突如現れたのは、なんとあの“ウォーキング・カーペット"(歩く絨毯)、ハン・ソロの相棒であるウーキーのチェーバッカでした。(『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』でレイア姫は毛むくじゃらのチューバッカを“ウォーキング・カーペット"と呼んでいます。)一見すると威圧的な姿の彼ですが、僕がハグをしたいというと、快く受け入れてくれました。子供の頃からの夢が一つ叶いました。
エアエンライクさんとのインタヴューは#Selfie(自撮り)の回に流れる予定となっていたので、この2人とセルフィーを撮るという、なんと貴重な体験をすることもできました。(しかも僕は、これまで一度もセルフィーを撮ったことがなかったのです。)因みに、テレヴィではあまりよく写っていなかったですが、今回使ったセルフィー棒は“ライトセイバー"の形をしたものでした。