1.プロローグ
「ビジネスに関する書籍」シリーズでは、これまで
1) 全ての人に読んでもらいたいビジネス書の名作16選
2) 世界標準のビジネス・スキルを身につけるためのヒントを与えてくれる16冊
3) メンタルを鍛えるための具体的な手法を紹介している16冊
を紹介してきました。
今回は、読書・思考・脳の鍛え方に関する名著とされる16冊を取り上げます。この16冊は、「何のために読書するのか」「考えることとは何なのか」「疲れている脳をどのようにスッキリさせ、アイデアを生み出す状態にするか」をテーマに、現代を生きるビジネスパーソンが知っておくべき"読書術"や“思考術"の本を紹介しています。
2.『「知の衰退」からいかに脱出するか? 』(2009年) 大前研一(著)
世界金融危機の真っ只中の2009年に出版された本書の中で、大前氏はゆとり教育の失敗などによって日本の若者の「知の衰退」が著しくなり、それによって世界の中で日本の競争力が低下していることを指摘しています。近年の若者は物事に対して内向きで消極的であるばかりか、無関心で無気力になっており、なんでも「答え」を簡単に手に入れられるだろうという思い込みから、自らの頭で考えなくなったことを論じています。本書では考えるためのヒントを提供しながら、ビジネスマンとして世界で戦うために必要な3つの武器を挙げています:①英語 ②ICT ③ファイナンス。この本は中国・台湾・韓国でも大反響を読んだベストセラーとなりました。
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3.『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする 』(2014年)
グレッグ マキューン (著) 高橋 璃子(訳)
“Essential"とは、「最も重要な」「必須の」「肝心な」を意味する言葉です。「やりたいこと」や「やらなきゃいけないこと」が多すぎて、結局何もできずに時間を費やしてしまう経験をしたことがある人が多いのではないでしょうか。著者は、「私たちは自分たちが抱えているタスクや作業がどれも大事で何一つ欠かせないと思いがちですが、その99%が実は無駄なことであり、本当に重要なのは1%に過ぎない」と論じています。本書では、本当に重要な1%を見極め、それに計画的に集中し、確実に結果を得るための具体的な方法論「エッセンシャル思考」を紹介しています。このスタイルを身につけることで結果的に質の高い仕事を成し遂げるだけでなく、充実した毎日を送ることができるでしょう。
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4.『深く考える力』(2018年) 田坂 広志(著)
近年「論理的思考」を薦めるビジネス書が流行っていますが、本書の著者は論理を緻密に積み上げていくことは「考える」という行為の初歩的な段階にすぎないと説いています。最も高度な「考える力」とは、論理思考を超えた「直感力」だそうです。その「直感力」とは、単純に「好きか嫌いか」を判断する能力のことではなく、これまでの人生で触れてきた全ての情報や記憶を持った、私たちの潜在意識の中にある能力だとしています。「深く」考えるということは「長時間」考えることでもなく「一生懸命に」考えることでもなく、文章を創作したり読書などの行為を通じて「賢明なもう一人の自分」と「対話する」ことなのです。
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5.『世界のエリートがやっている 最高の休息法――「脳科学×瞑想」で集中力が高まる』(2016年) 久賀谷 亮 (著)
最新の脳科学では、ぼーっとしているときでも脳の一部は実は活発に働いていることが判明してきました。何もしていないつもりでも気がかりなことや心配事が残っているため、効率的に休むことができず、結局スッキリしないのだそうです。精神科医として長年米国で診療をしてきた著者は本書で、脳を休める方法として、近年アメリカのセレブたちの間で流行っている「マインドフルネス」を紹介しています。「マインドフルネス」とは意識を集中させることで、呼吸や食事など、目の前の物事に集中する「瞑想」の一種で、脳の過剰な活動を抑え、癒すことができる手法であるとしています。
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6.『世界のエリートはなぜ、「この基本」を大事にするのか?』(2017年) 戸塚隆将 (著)
投資銀行のゴールドマン・サックス、ハーバード・ビジネス・スクール、コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーを経た著者が、世界のエリートが共通して大切にする「仕事の基本48」を紹介しています。仕事から日常の行動まで、あらゆる行為や機会に意味を持たせ、それを自分の成長や成果に活かせるためのアドバイスが紹介されています。「どんな理由があろうと、10分前には現地到着」「ネットでカンニングせず、自分の頭で答えを出す」など、誰にでもできるちょっとしたことが取り上げられていますが、そんな“基本"のことが、本当にできているかどうか、今一度しっかり確認することが大切なようです。
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7.『人生で大切なことは、すべて「書店」で買える。』(2011年) 千田 琢哉 (著)
本書は読書経験が少ない人や「読むことが苦痛」だと思う20歳代の人にオススメしたい読書の“入門書"です。高校時代まで漫画以外の本を読んだことがなかったという著者が、ビジネス書にハマり、自腹で購入した1万冊を読破して得た、人生を豊かにするための“読書術"を述べています。「行動力」「コミュニケイション力」「勉強力」「仕事力」「経済力」「成長力」などを読書を通して身につける方法が紹介され、最後の第8章では「『まえがき』の面白い本を選ぶ」「1分間立ち読みして1ワードでも引っかかれば買う」など、著者の本の「買い方・読み方」についての持論も展開しています。
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8.『整理HACKS!―1分でスッキリする整理のコツと習慣』(2009年)小山 龍介 (著)
“Hack"とはもともと、「切る」「切り開く」という意味です。そこから転じてコンピューターの分野においては、普通のユーザーは興味を持たないシステムやネットワークの内部の働きについての深い技術的知識を持ち、「創意工夫を発揮して制約を打破したり、回避したりすることを知的な難問として楽しむ人」のことを指すようになりました。更に近年では作業を効率良く進めるための「仕事術」やライフスタイルを快適にするための「生活術」を“lifehack" (ライフハック)と呼ぶようになりました。 本書は言われてみれば当たり前だけど、学校などでは教えてくれない整理整頓のテクニックや実用的なアドバイスが紹介されています。
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9.『本棚にもルールがある—ズバ抜けて頭がいい人はなぜ本棚にこだわるのか』(2014年) 成毛眞 (著)
読書や読書術に関するビジネス本は数多く存在し、日米で大人気となった「こんまりメソッド」や断捨離など整理術についての本も多数出版されていますが、人の知を増やすツールとしての「本棚」に着目した本は少ないのではないでしょうか。著者がオススメするのが、本棚の「新陳代謝」です。予め本を陳列するスペースを決め、本棚にまず1冊の本を置き、その1冊の本の内容を広げるために、常に今の自分の興味を引く本棚にすることだそうです。また、常に「余白」を開けておくことで、将来の自分のためになる本を置くスペースを確保しておくべきだとも述べています。狭い生活空間で本棚のためのスペースが限られている日本人にこそ読んでいただきたい1冊です。
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10.『自分のアタマで考えよう』(2011年) ちきりん、良知高行(著)
大人気ブログ「Chikirinの日記」の筆者による本書は、「自分の頭」で考え、「自分だけの答え」を見つけ出す論理的思考法を非常にわかりやすく、噛み砕いて説明しています。「考える」という行為は、著者に言わせると、頭の中の知識を分析し、「思考の棚」に整理するということです。そうすることで、ふとした時にアイデアが閃いたり、創造的な付加価値を加えた上でアウトプットしやすくなったりするそうです。知識をいくら頭に詰め込んでも、知識をいくらアウトプットしたとしても、それと思考することは違うということを気づかせてくれる1冊です。何かをWikipediaやまとめサイトなどで調べただけで分かったような気になりがちな現代人にオススメです。
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11.『読書力』(2002年) 齋藤 孝 (著)
読書することのメリットについて説いているビジネス書は数多くありますが、本書では、TVでもおなじみの教育学者の齋藤氏が読書することの本質について考察しています。それは一言で言うと、「人は読書によって形成される」ということです。多様な価値観に触れることは自分の視野を広げ、自分の経験を相対化できる器の大きい人になり、語彙力や要約力を身につけることで他者と円滑なコミュニケイションができるになると熱弁をするっています。巻末には著者がオススメする文庫100冊がカテゴリー別にリストアップされて、とても役に立ちます。
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12.『論理トレーニング101題』 (2001年) 野矢 茂樹 (著)
上司に「話の論理が破綻している」と言われたことのある若者は多いのではないでしょうか。ロジカル・シンキングに関する本は数多く出版されていますが、日本の哲学者で東京大学教授である野矢茂樹が手がけた本作は、本気で論理的思考力を身に付けたい人に向けた最適な練習問題集です。本書は2部構成となっており、前半では接続表現に注意しながら議論の骨格を正確に読み取るトレーニングになっています。後半は論証の構造や演繹・推測について取り上げられています。様々な文献から引用された例文が使われており、全ての問題に解答もついているのもポイントです。何度も読み返し実践することで、論理の破綻を見抜く力を身に付け、筋の通った文章を書くとは何かを理解することができます。
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13.『選択の科学』(2014年) シーナ・アイエンガー (著)、櫻井 祐子 (訳)
喉が渇いた時のジュースの選択から、結婚相手など人生を大きく変えるような選択まで、私たちは日常の中で無数の選択の機会に直面します。私たちが選択したことは本当に自分自身で選択したのかと言えるのか?という問いや、文化によって「選択」という行為をどのように感じているのかなど、科学的な観点から「選択」というものの本質に迫ろうとしています。著者は、結婚式の当日に初めて対面をしたシーク教の両親の間に生まれたものの、「選択する権利」を重視するアメリカという社会で育つ中で「選択」ということを意識するようになったそうです。特に「見合い結婚」と「恋愛結婚」はどちらが幸せで、どちらが長続きするかという研究はとても興味深いものです。選択肢が多すぎて決断できないと悩んでいる人にぜひ一度読んでいただきたい良書です。
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14.『WHYから始めよ!―インスパイア型リーダーはここが違う』(2009年) サイモン・シネック (著)、栗木 さつき (訳)
著者はリーダーには大きく分けて2つのタイプがあると言います。権力によって影響力を持つ「形式上のリーダー」と、人をやる気にさせ、突き動かす「本物のリーダー」です。前者はWHAT(=業績や結果)ばかりを求めるのに対して、後者はヴィジョンと理念というWHYによって人を感激させ、社会をも巻き込む力があります。本書はビジネスのリーダーはもちろんのこと、自分を奮起させたいと思う人にもオススメの1冊です。何しろ“自分"に対してリーダーシップを発揮できない人は、“他人"に対してリーダーシップを発揮できるわけがありませんから。
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15.『筋トレが最強のソリューションである マッチョ社長が教える究極の悩み解決法』(2016年) Testosterone(テストステロン)(著)
「あらゆる悩みが筋トレで解決する」と主張する著者は、 ツイッターで100万人ものフォロワーに向けて、日々筋トレや正しい栄養学の知識について発信しています。本書はその内容を書籍化したものです。筋トレは人に「気分高揚効果」と「成功体験」をもたらすため、それを積み重ねることで仕事がうまくいくようになり、メンタル的な弱さや、憂鬱感も克服できると言っています。近年はNHKの『みんなで筋肉体操』が話題となったり、去年はラグビー・ワールド・カップで胸厚マッチョなラガーマンが人気を博すようになるなど、日本にもマッチョ・ブームが来ていますが、本書を読めばどうしてマッチョな人には良い人や面白い人が多いかが分かるようになります。
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16.『レバレッジ・リーディング』(2006年) 本田 直之 (著)
レバレッジとは元々は「テコの原理」のことですが、金融用語としては「借り入れしたお金以上の投資を行い、高い利潤又は損失を得る投資手法」を指します。転じて、近年では「小さな努力で大きな効果を得る」ことを指すようになりました。著者の本田直之は「レバレッジコンサルティング株式会社」の代表取締役社長を務めており、「レバレッジ」をテーマにした書籍を数々出版しています。
本書は本を買うことを“自己投資"と捉え、勉強になると思った本は惜しみなく買うことをおすすめしています。また、それを“受動的"に読むのではなく、目的を持って“能動的"に読むことで自分に必要な情報を積極的に獲得できるとした上で、読み終わった後に得たノウハウを実践することで初めて“自己投資"として成功したと言えるということを説いています。
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17.『考具 ―考えるための道具、持っていますか? 』(2003年) 加藤 昌治 (著)
パソコンの前にずっと座っているだけでは、良いアイデアは浮かびません。本書の帯には、「あなたのアタマとカラダを『アイデア工場』に変える」と書かれていますが、著者は「アイデア出し」を苦手とする人に向けて様々な「考えるための道具」を紹介しています。「マインドマップ」や「ブレインストーミング」から「フォトリーディング」や「5W1Hフォーマット」など、今日からでも生かすことのできる思考のフレイムワークやテクニックが細かく記載されています。大学生や新社会人に読んでもらいたい1冊です。
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18.エピローグ
これまでも「ビジネスに関する書籍」シリーズでは、毎回あるテーマに沿ったオススメの16冊を取り上げてきました。その中のどの本から読み始めるかはもちろん自由で、読者にとって読みやすそうな本や、興味を持っていただけた本から読めばいいと思います。ですが最終的には、このコラムにリストアップした16冊を全部読むことこそに意味があると、私は考えています。
作者の豊かな“世界観"が表現された小説であれば、その1冊に没頭することに意味があり、1冊が自分の人生を変えることがあります。一方でビジネス書やいわゆる自己啓発本というものは文学作品とは違います。1冊を“熟読"しようとするより、多数の本を流し読みしたり、要点だけや自分に必要な部分だけをピックアップして吸収することが大切です。そして、あるテーマに関する様々な本を読み、自分の中で比較し対比することで初めて見えてくるものがあるはずです。
そのためには、明確な目的、あるいは意識を持って本を読むことが鍵となります。自分はこの本を何のために購入し、何のために読むのか。“娯楽"を目的とした小説の読書と違って、“自己投資"としてビジネス書を読むときには効率的に読書することが必要です。
例えば日本のビジネス書には良く帯がついています。帯の文言や表紙の裏にある紹介文に目を通し、更に目次を丁寧に読むことをオススメします。そして「これについてもっと知りたい。詳しく読もう」と思った場合は、あらかじめ「こういうことが書かれているのではないか」と想像することも大切です。それは思考のトレーニングになるだけではなく、その本と“会話"するきっかけともなります。
アメリカの本には基本的に帯はついていません。表紙や裏表紙に掲載されている文言も“推薦文"が中心となっており、読者にとってはあまり親切ではないと言えるでしょう。アメリカでは個人がそれぞれ自分の強い意見を持つことが当たり前とされるので、そういった推薦文は「誰が一番ユニークな口コミを書けるか」という評論家や専門家の間の無謀な競争となっていることが多く、それはそれで面白いのですが、読者にとってはあまり参考にはなりません。一方で、アメリカの有力紙のベストセラー・リストに登場するようなビジネス書は、どれも一読する価値があるものなので、推薦文にはある一定のクオリティの証でもあることは確かです。
また、英語で書かれたノンフィクションの本の多くは、テキストの並びやプレゼンテイションにメリハリがなく、文字だけがずらっと並び、どこか教科書的なところがあります。現在はさすがに少しは変わりましたが、かつてはグラフや写真などのヴィジュアルは印刷の関係で本の真ん中にまとめて掲載されることが多く、読む際にはペイジを行ったり来たりしないといけなかったことを今でも覚えています。
一方で、日本のビジネス書はボールド・フォントを使ってポイントを際立たせたり、四角い枠を使って要点を挙げたり、章の終わりに「まとめ」があることが多いのが特徴です。図やイラストは非常にわかりやすく、ある意味誰にでも分かるように作られており、ユーザー目線となっています。海外の著者によるビジネス書であっても、場合によっては日本語版を読んだ方が肝心なところを短時間で知ることができたりします。
ただ、あまりにも親切な作りであるがゆえに、読者は何も努力したり考えたりもせずに、その著者が伝えたい“答え"にたどり着くことができることが多いのが残念なところでもあります。日本のビジネス書ほど、「何かを学んだ気にさせてくれる」ことに優れている本はないのではないでしょうか。だからこそ、強い“仮説"や“目的意識"を持ちながら読み、そのテーマに関する他の本と読み比べることでより掘り下げることができ、深く考えることにも意味があります。ある1冊の本は、そのきっかけでしかないのです。