1.プロローグ: 楽屋オチ
この日の収録は、初めての“2本撮り"でした。これまでは、毎週1本をその週の火曜日に収録し、木曜日に放送してきましたが、今回は次週の回までの分を収録しました。
これまでは「解説者」は、台本の打ち合わせをするために色々な人が出入りする会議室で待機しているのですが、この日は休憩や着替えなどがあるため、時間が空くということで、僕と塚越さんにも初めて「解説者」のための控え室が与えられました。広々とした部屋を2人で独占することができて、ちょっとだけ、スターになったような気分でした。
今回は、本当のスターであるハリー王子とメーガン・マークルさんの#RoyalWeddingを取り上げました。
メイガン・マークルは、『スーツ』というアメリカのテレビ・ドラマの主役を長年務めたことで知られています。今回はそれに因んで、番組でも男性陣は“スーツ"姿にしてみました。
2.アメリカ人は英国王室をどう思っているのか
アメリカ合州国(※この表現については、こちらをご参照下さい)という国は、そもそもは、英国王の植民地としてその支配の下にいることが気に食わず、独立に至った国です。しかし、そのアメリカにおいて、近年では、英国王室に憧れさえ持つようになってきています。
僕が生まれた1985年に、ダイアナ妃がレーガン大統領のいるホワイトハウスを訪れ、ジョン・トラボルタとダンスを踊った日には、多くのアメリカ人がダイアナ妃を一目でも見るためにワシントンに詰めかけたそうです。それまで冷たい印象のあった王室に、温かいイメージのダイアナ妃が現れたことで、アメリカ人の心を掴んだのかもしれません。
2011年に行われたウィリアム王子と=キャサリン・ミドルトンのロイヤル・ウェディングも、アメリカでとても大きな話題となりました。その日の朝は、どの情報番組も特集を組み、キャスターたちも全員結婚式に釘付けだったことを覚えています。
ダイアナ妃の2人の王子の結婚式を見ることで、多くのアメリカ国民が英国王室に親近感を持つようになったのだと思います。それでも依然として、アメリカの黒人の間では英国王室に関心が持たれることはありませんでした。しかし、今回アフリカ系黒人の母親を持つメイガン・マークルがロイヤル・ファミリーの一員になるということで、アメリカの黒人も大いに注目するようになりました。
黒人のマイケル・カリー米国聖公会総裁主教が行ったその独特なスタイルのスピーチに、英国王族や貴族の方々は呆然としていましたが、アメリカの黒人には、とても大きな感動を与えました。
3.今週の衣裳について
「麻布テーラー」の白いシャツ
カラー・ピンというものは、爪楊枝くらいの大きさのバーの両端にネジをつけただけのシンプルな装身具なのですが、ネクタイのノットを盛り上がらせ、胸元を立体的に見せる効果があります。因みに、カラー・ピン以外にも、安全ピン型のもの、クリップ型のもの、ボタン型のものなども存在します。
今週は2本続けての収録という事情もあって、衣装の着替えの時間がかなりタイトになってしまいました。このシャツには厚さ5mm(通常は2.5mmくらい)の白蝶貝のボタンがついているので、ボタンはとても留めやすいのですが、一方カラー・ピンに関しては、「ネジを落として失くしたらどうしよう」とか「ピンホールにバーがなかなか通らなかったらどうしよう」という心配がありました。
慎重に付けたり外したりすることで、なんとか無事に収録を終えることができました。男性のビジネス・スタイルには、アクセサリーというものはあまり許されませんが、カラー・ピンはリッチな気分にさせてくれる数少ないアイテムの1つです。
「ラルフ・ローレン」のネクタイ
カラー・ピンを使う際、ネクタイはプレイン・ノットにし、ノットの部分をできるだけ小さくするのがポイントです。
黒い組紐カフス
カフリンクについては本来であれば、お祝いの場では、金属製のものがふさわしいかもしれませんが、ブルーバックの前で収録するため、青系のものに加え金属製のものもなるべく使用しないように言われているので、組紐のものを選びました。
「グローバルスタイル」の黒いスーツ
スーツを作るならまずはネイビー、その次はグレーとよく言われますが、確かにその2色が一番汎用性があります。黒のスーツと言えば、結婚式やお葬式などフォーマルな場やパーティー・シーンというイメージが強いかもしれません。ちなみに僕の場合は映画『メン・イン・ブラック』のイメージが強かったですが。
正確には、礼服とブラック・スーツは違います。この黒いスーツは「アンジェリコ」というイタリアの生地メーカーの少し光沢感のある生地で作ってもらいましたが、例えばお葬式などでは、光沢のある洋服を着るのはマナー違反とされています。
また、礼服やフォーマル・ウェアにはベントと呼ばれる、裾に入っている切れ込みがない(ノー・ベント)のですが、このスーツにはサイド・ベント(左右に切れ込み)を入れてもらいました。
『イセタンメンズ』の黒い靴下
「リーガル」のウィング・チップ・シューズ
靴のヒカリは主に28cm~32cmという大きいサイズの靴を扱う専門店です。ちょうど御徒町駅と秋葉原駅の間の高架沿いに店舗があり、ビジネス・シューズの1号館と、角を曲がったところにカジュアル・シューズの2号館があります。
僕は通常29cmか30cmの靴を履いているため、まずは30cmを履いて見たのですが、踵のところに指何本かが入るくらい大きすぎて、徐々にサイズを下げていき、その結果27.5cmがぴったりだということが判明しました。逆に「大きいサイズ」の専門店で取り扱いがあってよかったです。
靴全般に言えることだと思いますが、特に革靴は実際に履いてみないと分からないところがありますので、ネットで購入する場合は注意が必要です。
人生初めての革底の靴だったので(踵の部分はラバーですが)、番組の収録日は床に滑らないよう、足元を意識しながら控室からスタジオに移動しました。この革底は、初めはツルツルなのですが、使い込めば使い込むほど歩きやすくなりそうです。
『イセタンメンズ』の黒いベルト
僕は翻訳の仕事が多いので、普段はパソコンの前で座っている時間が長いのです、普通のベルトだと腰の形に合わせて不自然に曲がってしまうことが悩みでした。このベルトはそれを配慮して身体にフィットするようにあらかじめ曲げられています。そのため、ズボンのシルエットと腰の形にぴったり合います。とても気に入っているので長く使いそうです。
小穴も丸型ではなく楕円形に近いので、繰り返し「つく棒」を通すことによる革への負担が比較的少なそうです。
こうした一見、些細な事に工夫がなされていることにとても驚かされます。
「ゾフ」の黒いメガネ
さらに、光やブルー・スクリーンが反射するのでメガネも光る部分があるものは、使用できないとのことでしたが、メガネというものは多くの場合金属やメタリックのパーツが使われています。
これまでは、「999.9」や「白山眼鏡」や「金子眼鏡店」などのメガネを使用していたのですが、僕の持っているものには、すべて金属部分があったので、撮影には、使用できませんでした。
なので原宿駅前の「ゾフ」と渋谷の「ジンズ」で、目立つ金属部分のないメガネを急遽、選んでみました。
ゾフとジンズもその日のうちに度付きのレンズも対応してくれることには、驚きました。
明治神宮に観光にきていた、アメリカ人の自称モデルの女の子もそのスピードに驚いていました。
4.エピローグ: アメリカの男性は英国紳士にコンプレックスを持っている?
現代においても、英国王室の存在は、世界に対して「イギリス・ブランド」の評判を高める1つの大きな理由となっていると、言ってもいいのではないでしょうか。1776年7月4日に英国から独立を宣言したアメリカという国が、これまでにないほど英国王室に注目しているのは、その王室と言うものの普遍性によるのだと僕は思います。
男性ならば、誰でも憧れる英国紳士のシンボル、“007"ことジェームズ・ボンドの存在も「イギリス・ブランド」を高めることに、大きく貢献していると思います。スタイルしかり、スーツしかり、命をかけて王室と国を守り抜くその姿しかり。2012年のロンドン五輪開会式では、現在“007"を演じる俳優のダニエル・クレイグがエリザベス女王をオリンピック・スタジアムへエスコートし、ヘリからダイヴするという映像演出が話題を呼びました。
近年、アメリカ人が『ダウントン・アビー』『ザ・クラウン』『ドクター・フー』『シャーロック』などイギリスのテレビ・ドラマにハマっていることもその表れではないでしょうか。
また、アメリカの男性の多くがいわゆる「クイーンズ・イングリッシュ」を喋る男性を前にすると及び腰になったりすることも、その表れだと確信しています。