1.プロローグ:楽屋オチ
『世界へ発信!SNS英語術』で紹介するツイートは、世界中から投稿されたものの中から選ぶのですが、取り上げるテーマは、アメリカに関するものが中心となっています。これには様々な理由があります。そもそも国別でSNSの利用者数を見たときにアメリカ人が圧倒的に多いこと、僕がアメリカ人であること、そして番組のプロデューサーもアメリカで暮らしていた経験があることなどです。現在アメリカ社会では、様々な軋轢や社会問題が生じているため、アメリカ人がSNS上で多くの発信や議論を活発にしていることもあるのかもしれません。
僕は生まれも育ちもアメリカなので、アメリカの良いところも悪いところも沢山見てきました。( カリフォルニア州の社会環境は、現在、対立の中心となっているアメリカ中部地域とは全然違う状況であることも、確かなのですが。)日本に拠点を移して12年が経ち、アメリカと“健全な距離"を置くことで、母国を冷静な目で見ることができるようになってきたとも思っています。『世界へ発信!SNS英語術』は語学番組ではあるのですが、インターネット文化やアメリカ社会についても、学ぶことができることが大きな魅力だとも思っています。そういう意味では、番組のキャストの中では、唯一当事者としてアメリカの現実を紹介できることに関して、非常に大きな責任を感じています。
この日は#IndependenceDay、つまりアメリカ合州国(※合州国という表記についてはこちらをご参照下さい。)の独立記念日がテーマでした。そもそも愛国心が強いアメリカ人の中には、アメリカが再び偉大になりつつあると喜んでいる人がいる一方で、トランプ政権の下で、益々内向きになっていくアメリカを憂う人も多く、純粋にこの日を祝えないムードが多くの地域に漂っていたように思えます。番組としてはこうした、アメリカの変化を肯定するわけでもなく、拒否するわけでもなく、あくまでSNSに投稿をするアメリカの一般の人々の様々な思いや祝い方を紹介しました。
今週の“パートナー役"は、ゴリさんでした。番組の中でも語られていたように、ゴリさんは沖縄出身なので、アメリカ文化に対する強い憧れがあるとともに、反発のようなものもあるようで、アメリカという国に対しては複雑な気持ちがあるのではないでしょうか。また、この回のディレクターも、 “原爆を日本に落としたアメリカ"というイメージを幼い頃から強く持っていたようです。今回の台本を作り上げていく中で、編集会議などでディレクターとは様々な話し合いをしました。やはり多くの日本人にとっては、今も尚、アメリカという国は、とても大きなテーマなのだなあという感想を持ちました。
2.アメリカとは何か?
“アメリカとは何か?”という問いに対して多くの政治家、学者、著名人は「アメリカは概念である」とか「アメリカは実験場である」とかと説きます。アメリカ独立宣言によるとその中心概念は、「すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられている」ということになります。つまり、LANGUAGE & EDUCATION #007でも少し触れましたが、その“中心概念”は多様性なのです。アメリカ合州国は“ダイバーシティ”という概念を具現化しようとしている実験的な国家なのです。
今年のアメリカ独立記念日を、素直に祝えないと感じている人々がいるのは、自分達が抱いていたそんなアメリカのアイデンティティが、トランプ政権によって揺るがされているからなのでしょう。アメリカという国のあり方、そしてそもそもアメリカ合州国という国は何だったのかということについて、現在も激しい議論が繰り広げられています。
一方で、独立記念日前後に新たにアメリカの市民権を獲得した移民による、誇らしげなSNSヘの投稿も目立ちました。アメリカ社会の現状はどうであれ、多くの人々にとっては、今も尚“アメリカン・ドリーム”が息づいているようです。
僕の父親も“より良い生活”を求め、アメリカが掲げる理想を信じて移住した一人です。その点では、そんな夢を抱く移民の気持ちは、とてもよく分かる気がします。ただ、同じ移民の中でも、合法的な手段でやってきた人と非合法的な手段でやってきた者、英語力を身につけられる環境に置かれた人とその余裕がない者の間で、軋轢があることも事実です。つまり、アメリカの“ダイバーシティ”や“アメリカン・ドリーム”というのは、あくまで“カッコ付き”であって、一部のアメリカ人が、定める条件下でしか許されないものなのです。そもそも、アメリカ合州国という国は、元々そこに住み着いていた先住民から奪い取ることで成立したのですから。
●アメリカ移民の物語に興味がある方にオススメの映画
3.今週の衣裳について
「麻布テーラー」のオフ・ホワイトのダブル・ジャケット
『世界へ発信!SNS英語術』のセットは、どこかの宮殿のラウンジのような、とてもカラフルな異空間なので、オフ・ホワイトでもちょうどいいと思い、「麻布テーラー」でダブル・ブレストのジャケットをオーダーしてみました。
サマー・ジャケットということでポケットにもこだわりました。通常、スーツにはふた付きの“フラップ・ポケット"が普通ですが、このジャケットはポケットを外側から貼り合わせた“アウト・ポケット"にしてみました。因みに、カジュアルな印象を与えますので、ビジネス・スーツには不向きです。
「麻布テーラー」のピンク色のリネン・シャツ
番組の衣裳としてだけでなく、サマー・パーティー用にも着ることができるように、様々な工夫をしてみました。この日はジャケットの下に着て、ズボンの中にタックインしましたが、ジャケットなしでタックアウトでも着れるように、いつもよりも今回は丈を短めに仕上げてもらいました。また、胸ポケットもフラップ付きのものを左右につけ、袖口も僕の気に入りのダブル・カフスではなく、袖をまくることができるように、ボタン付きのシングル・カフスにしました。
「タビオ」のシルバーのソックス
「ブルックス・ブラザース」のグレイのズボン
「パラブーツ」のダブル・モンク・シューズ
白山眼鏡店のメガネ
4.エピローグ:俺のビールを持っていてくれ
アメリカ人のステレオタイプとしては、“うるさくて不愉快" “大胆" “ばか騒ぎが好き"などありますが、僕もそういう感想を持っています。以前も書きましたが、アメリカ人の男性は、いたずらをしたり、ふざけたりすることが大好きで、また、異常なまでに自信過剰であります。(因みに、こうしたタイプの男は最近では“毒々しい男らしさ"(toxic masculinity)と呼ぶようになりました。)
毎年夏になると、花火で悪ふざけをして、怪我をして病院行きになる人が、とても多く出てしまうこともその一例です。アクション映画の見過ぎで、自分が無敵だと勘違いしてしまうのかもしれません。男同士でふざけているうちに、エスカレートし、あるお決まりのフレーズが出てくるのです。 “I dare you to..." (“それだけの度胸があるなら・・・)。大体こういう“素晴らしいアイディア"が出る時というのは、お互い相当飲んでいる最中だったりするので、挑発された側のお決まりの返しは “Hold my beer" (そんじゃ、俺のビールを持っていてくれ)となる訳です。いい大人がこうしたおバカないたずらをすることに、興味がある方は、是非『ジャッカス』シリーズをご覧ください。
アメリカ人というものは、どこまでも自由でありたいことを求める国民であります。そこには、“バカ"や“イタズラ"を究極まで追う自由も含まれているようです。
そう考えると、やはりアメリカという国は本当に究極の「実験場」なのかもしれません。暗中模索の状態で試行錯誤を繰り返す、永遠に未完成な国なのでしょう。