1.プロローグ
2019年度の1回目のテーマは #AprilFools、つまり “エイプリル・フールズ・デイ"でした。周囲の人に嘘をついたり、作り話をしたり、「イタヅラ」をして“祝う"日です。
(「イタズラ」と「イタヅラ」の違いについて:現在では「イタズラ」(“す"に点々)が一般的ですが、1946年11月15日までは「イタヅラ」(“つ"に点々)と言う表記が一般的でした。前者はいわゆる“現代的仮名遣い"、後者はいわゆる“歴史的仮名遣い"ですが、これはGHQの民主化政策の一環として来日したアメリカ教育使節団が日本政府に提示した『米国教育使節団報告書』の中で表記の簡易化を奨励したことによるものです。また、「イタヅラ」の当て字には2つあります。“悪戯"には“悪い遊び"と言う意味があり、これは英語の“prank"や“mischief"に該当します。一方“徒ら"は“無駄に"と言う意味があります。室町時代に書かれた日本を代表する随筆集『徒然草』の“徒然"にも“手持ち無沙汰なさま"と言う意味があります。故ドナルド・キーン先生は、このエッセイ集の題名を“Essays in Idleness"と翻訳しました。ちなみに、“生徒"という熟語は“徒らに生きる"と言う意味ではなく、“生"には“技術・経験などが未熟でありまだ勉強中であること"、“徒"には“仲間"や“弟子"と言う意味があるようです。)
2.“馬鹿"をいかに楽しむか
高校時代、僕はこの日に同級生に「日本の甘いものでもどう?」と梅干しを食べさせるイタヅラを楽しんでいました。友人は疑いもせず梅干しを口の中へと放り込むと、次の瞬間、まるで幽霊でも見たかのような顔をしていました。僕が学校に持っていった日本のお菓子類は、不思議な見かけなのだけれども、どれもが美味しい、というイメージが同級生たちの中にあったので、僕はその思い込みを“利用"したのです。
その他の定番のエイプリル・フールズ・デイのイタヅラとしては、クラスの生徒全員が机を逆方向に向けて先生を迎えるというものがありました。また、僕達の年代はデジタル世代なので、先生の知らないうちにUSBレシーヴァーを先生のパソコンに差し込み、授業中にマウスを勝手に遠隔操作するというものもありました。
しかし、近年の米国では、この日を楽しむどころが、むしろ廃止したほうがいいのではないかと言う意見が多くなっているようです。パソコンやスマフォの普及によって、直接、面と向かって人と会うことが減ったため、「イタヅラ」をしてもパソコンの画面越しでは相手の表情や感情を読んだり、ニュアンスやトーンが汲み取ることはとても難しくなりました。相手が冗談のつもりでも、そもそもどう言うつもりだったかは、まるで何の意味も成さなくなってきてしまいました。また、SNSの発達によって、ちょっとした作り話が実話として一人歩きし、気づいたら大変なことになっているということもあります。
更に困ったことに、“エイプリル・フールズ"の本来のニュアンスが薄れ、本来軽いノリで嘘をついたりプランクを仕掛ける日であったのが、YouTubeでの人気者になりたいために、悪ふざけしても良い日として履き違える人も多くなってきています。
さて、日本では、この日のことを“四月馬鹿"と言う人がいます。“馬鹿"という言葉から連想されるいくつかの英単語があります。真っ先に思い浮かぶのが“stupid"でしょう。この言葉には生まれつき知性の無い、あるいはコモン・センスの無い言動をとること、もしくはそういう言動をとる人、という意味です。一方で“silly"は“おかしな"とか“くだらない"というニュアンスです。そして“fool"は知能の問題ではなく、注意や配慮、判断力が欠けていることを指す言葉です。“Don’t be stupid"と言われたら、“頭が悪いことはやめろ"とか“もっと頭を使いなさい"と言う意味になりますし、“don’t be silly"は“馬鹿言うな" “ふざけるなよ" “そんなわけないでしょ"と言う意味の定番のフレーズです。“Don’t be foolish"は、“ちゃんと考えなさい"とか“もっと配慮しなさい"と言うニュアンスになります。日本の関東地方では、「バカ」は“silly"や“foolish"、「アホ」は“stupid"と言うニュアンスとなり、関西地方では逆に「バカ」は“stupid"、「アホ」は“silly"や“foolish"と言う意味になるようです。(※)
(「バカ」と「アホ」について:関東地方では「バカ」が主に常用されるのに対して、関西地方では「アホ」が常用されます。そのため、関東地方では「バカ」は軽いニュアンスで使われることが多く、「アホ」と聞くと侮辱された印象を受けます。一方、関西地方では「アホ」は軽いニュアンスで使われ、「バカ」は逆に侮辱的な響きがあるようです。また愛知県、特に名古屋を中心とする尾張地方では、一昔前までは「タワケ」という言葉がよく使われていたようです。因みに豊橋や岡崎を中心とした三河地方出身の僕の母親は、「バカ」派でした。)
本来、エイプリル・フールの冗談は、人を笑い者にする日ではなく、その人さえも自分で自分を笑えるようなものでなくではいけないのです。嘘をつく側にもつかれる側にもセンスとユーモアが必要なのです。手が込んでいれば込んでいるほど、仕掛けられた側もあっけにとられて、「お見事」と認めざるを得ないようなものがいいのです。
しかし、かく言う僕は、子供の頃、見事な冗談やプランクを仕掛けられたことを素直に受け入れることができず、“lighten up!" (“ムキになるなよ")と良く言われました。アメリカ社会においては、“馬鹿真面目"であることや“馬鹿正直"であることは座をしらけさせるものなのです。アメリカのユーモアの醍醐味は、“馬鹿"をいかに楽しむかにあります。笑えないような国状になっているとしても、暗いムードに浸らないのがアメリカ人なのです。
3.今週の衣裳について
「ポール・スチュアート」のリネン・シャツ
こちらは『ポール・スチュアート青山店』で購入した、濃いピンク色のリネン・シャツです(税抜き29,000円)。カラフルなシャツを増やしたいと思い、いくつかのお店を回り、オーダーすることも考えたのですが、このシャツは既製品でありながら僕の体にぴったりだったので、思い切って購入しました。
値段は少し張りますが、素材や縫製がとても良く、カラーも上質な色合いです。リネン特有のカサカサ感もありません。
今年は、春夏にかけて、このシャツをいろんなアンサンブルで着たいと思っています。
「麻布テーラー」のピンクのキャンディ・ストライプのジャケット
「ブルックス・ブラザーズ」の赤いコーデュロイのズボン
因みにこの14-Waleという表現ですが、“wale"(ウェル)とはコーデュロイに施されている畝のことです。“14-Wale"は、1インチ幅に14本の畝があることを意味しています。この数字が大きいほど畝は細かく、小さいほど太くなります。
基本的に畝が細めのものはビジネス・カジュアル・スタイルにも適しており、太めのものはよりカジュアルな印象を与えると覚えておくと良いでしょう。
「タビオ」のピンクのソックス
「パラブーツ」のダブル・モンク・シューズ『ポー』
「ゾフ」の黒いメガネ
4.エピローグ:スタイリスト・Scarletによるコウディニットのポイント
今回は、MCが遼河はるひさんに変わった2019年度の1回目ということで、華やいだ雰囲気の衣裳にしたいと思いました。
表参道の「ポール・スチュアート」さんで入手したイタリア製の上質なリネンのシャツを中心にコウディニットを考えてみました。
セオリーとしては、シャツはジャケットより淡い色にするものなのですが、ここは、敢えて、シャツの美しさを引き立たせるために、淡いピンクのジャケットを合わせてみました。
パンツも本来であれば、グレイとかベイジュにするのが基本なですが、ここも、シャツとの一体を考えて、シャツと同系色にしました。
靴下は、ジャケットとのバランスを考え、ピンクにしてみました。
中心部分となるシャツとパンツを濃い赤色でまとめ、トップとなるジャケットとボトムになるソックスをピンクにすることで、全体のイメージを明るくしようと思いました。