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英語に見る「母親」という存在と「母親思い」であるということ
  - Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』#MothersDay (2019/05/10放) | LANGUAGE & EDUCATION #019
Photo: ©RendezVous
2022/03/21 #019

英語に見る「母親」という存在と「母親思い」であるということ
- Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』#MothersDay (2019/05/10放)

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KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.“母親思い"であることと“マザコン"であること

今週のテーマは#MothersDay、母の日を祝った様々なツイートを紹介しました。親に感謝を告げる子供の言葉、夫が奥さんに宛てたメッセージ、母親が他の母親に届ける声援など、幅広い内容を扱いました。MCのはるひさんとパートナーのヒデさんが特に関心を示していたのは、愛情をストレートに示した、アメリカ人らしい表現の数々でした。“with all of my heart" (真心を込めて)、“my heart is with you" (私の心はあなたと共に)、“I would not be the person I am today without you" (あなたなしでは、今の私はない)などの表現からうかがえるように、アメリカ人というものは基本的に母親思いで、恥ずかしがらずにその気持ちを伝えられるものなのです。

母の日の定番といえば、花のプレゼントです。母親であればピンク色、配偶者なら赤いカーネイションを渡して感謝の気持ちを伝える習慣は、日本人にも馴染みがあるものでしょう。しかし、アメリカ人の場合は、花をプレゼントするのは序の口でしかありません。ラヴ・レターや手作りのカード、ジュエリーや洋服、日帰り旅行やロマンチック・ディナーなど、いかに母さんの趣味に合わせて組み合わせるかが大事なのです。小さい子供がいる家庭なら、父と子供が朝ごはんを作ってベッドまで運んであげたり、デイ・スパやマッサージの引換券を渡したり、あとは一人にさせてあげるのがベストなプレゼントだったりします。とにかく、全米小売業協会によると、アメリカ人が母の日のために使う1人当たりの金額は年々増加しており、2019年の母の日には、1人当たり196ドル使うと言うデータもあります。

僕はというと、今年の4月末と5月上旬には、平成天皇の退位と令和天皇の即位があり、この時期はいつもの年に増して感慨深いものとなりました。「いつもに増して」というのは、僕の母の誕生日が4月下旬にあり、そこから5月12日の母の日までの2週間ほどは子供の頃から毎年、僕にとって母を思う時期でもあるからです。日本に拠点を移して10数年間経ちますが、母は今でもカリフォルニア州に住んでいるため、なかなか会うことできないので、特にこの時期には、センチメンタルな気分になります。

ここで1つ打ち明けておきますと、僕は長い間、mama’s boy(いわゆる“マザコン")でした。母曰く、幼少期の僕はいつも「お母さん、お母さん」とすがりついていたそうです。少年時代には、両親と妹と遊園地に遊びに行く際、ジェットコースターに乗る父と妹を、僕は母と一緒に地面からハラハラしながら見守っていたことをはっきり覚えています。普通ならば反抗期であったはずのティーンエイジャーの僕は、母親受けの良い、気取った優等生でした。いくらでも試す機会があったにもかかわらず、お酒やタバコ、麻薬に手を出さなかったのも、「違法だから」とか「体に悪いから」とか「それがより危険なものへと繋がるから」ではなく、単純に「母がいけないと言ったから」がその理由だったと思います。今振り返ると恥ずかしいことが他にも色々ありますが、その中でも特に決まりが悪いと思うのは、小中高を通して、僕が着ていた洋服の全ては、母が選び、買ってくれたものであったことかもしれません。

僕がそもそも日本に来た理由の1つは、そういった"マザコン気質"を振り払い、自立するためでもありました。しかし親との間に距離がありすぎて、“母親思い"が単なる“思い"で終わってしまうと、本末転倒です。30歳代に入って僕は、恥ずかしがりながら、アメリカ人らしく、日頃からメイルやテキスト・メッセージで母に気持ちをストレートに伝えるように心がけています。


2.母親に関する表現

英語には、“母親"をイメージする表現が実に多く存在します。例えば “Mother Earth"(母なる大地、母なる地球)や“Mother Nature"(母なる自然)は両方とも自然を万物の創造主として擬人化した表現で、人間はみんな母親から生まれてきたことを表しています。また、母国のことを“motherland"と言い(ドイツや北欧の国の中には、“fatherland"と表現する国もあります)、母国語のことを“mother tongue"と言います。そしてアメリカ英語ではあまり使われない印象ですが、イギリス英語では自分にとって必要不可欠なもの、元気を復活させてくれるようなものを“mother’s milk"(母乳)と比喩することがあります。“Mother"という言葉には、母の温もりと心の広さが伝わってくる何かがあるようです。

こういった表現から転じて、包括的なイメージ、あるいは大きいもののニュアンスのある言葉としても使われます。例えば、大勢の人のことを表現する時に、“large group of people"や“crowd"(群れ)と言うだけでなく、“everyone and their mother"(誰もがみんなと、その母親たち)と表現することがあります。東京で話題のお店やアトラクションには、“everyone and their mother"が並んで行列を作ります。また、採鉱において、主脈や主要な源泉のことを“mother lode"と言います。直訳すると“母の鉱山"ですが、“求めているものが豊富にあることところ"という意味で比喩的に使われます。“Tokyo is the mother lode of good food"と言ったら、東京には美味しいご飯が文字どおり、“山ほど"あることを意味しています。

古き良き時代を感じさせる、懐かしい物事を説明する時にも、よく母親にまつわる表現を用います。“母国"を意味する先述の“motherland"もその一つですし、“母の味"は、英語では“mom’s cooking"となります。また、家族経営の小さな店のことを“mom and pop store" (ママとパパの店)と呼びます。そして人は大人になっても経験から人生の教訓を学ぶことを、“experience is the mother of wisdom" (経験は知恵の母)と言います。

因みに、『カントリー・マアム』は不二家が発売している日本で人気のクッキーですが、僕は以前からこのネーミングに違和感を覚えていました。“country cookie"というと本来なら田舎の母の焼き立てのチョコレイト・チップのクッキーを思い浮かべますが、そこを敢えて“mom"(ママ)ではなく“ma’am"(“madam"の略で、ご婦人という意味)にしたことには、個人的にはどうしてもちょっとよそよそしさを感じてしまいます。


3.多様化する“ママ"の形

英語における“母親らしい"表現は、昔も今も変わりなく母の温もりが感じられるものなのですが、その“母親像"は20世紀以降、どんどん多様化してきているように思われます。昔であれば、母親であることは、“housewife"や“homemaker"、つまり主婦であること同義であるイメージがあったのではないでしょうか。言い換えると、母親の生活の中心にあったのは、“夫"あるいは“家庭"であったのです。

スポーツにまつわる比喩が大好きなアメリカ合州国では、90年代半ばごろから、ミニバンやSUVに子供を乗せ、放課後のサッカー練習の送り迎えに忙しい母親のことを“soccer mom" (サッカー・ママ)と呼ぶようになりました。この表現は主に郊外暮らしの中流の白人の母親を指す言葉で、サッカーに限らず、放課後の子供のお稽古事に熱心な人を含みます。カナダでは、“hockey mom"が多いようですが、英国では“football mum"はそんなに多くいないようです。(アメリカでは“football"は日本でいうアメフトのことで、英国で“football"といえばサッカーのことです。アメリカではサッカーは“soccer"と言います。)アメリカにおいてサッカーは中流階級のスポーツで、英国では労働者階級のスポーツであることが、その背景にあるのでしょう。

また、90年代以降、リアリティ番組はすっかりテレヴィの人気のジャンルとなりましたが、そこで描かれる母親像も興味深いものがあります。例えば“stage mom"は、子役の母親のことで、オーディションや撮影現場への送り迎えなどをする熱心にする母親のことです。また、実際に子供の“ジャーマネ"(マネージャーを意味する日本の業界用語)としてテキパキ働く母親のことを“momager"と言います。そして子供を題材にエッセイや小説、漫画や脚本などを描く親のこと“script mom"と言います。

21世紀に入ってからは、育児についてブログを熱心に書く“mommy blogger"(ママ・ブロガー)もアメリカでは一般的になってきました。また、日本では、子供を産んでからもアイドルとして活動を続ける“ママドル"が数多く活躍しています。“完璧なママ"像ではなく、葛藤や間違いを繰り返しながら“成長するママ"像が人を魅きつけるようになったようです。

これらの言葉からわかるのは、母親としてのアイデンティティは、時代とともに、“夫中心"や“家庭中心"から“子供中心"へ変わってきたことです。そして近年では、子供を大事にしながらも一個人としてのアイデンティティを大切にする傾向もあるようです。その結果、日本でも離婚が増え、“シングル・マザー"が多くなっているのは、いかがなものでしょうか。


4.今回の衣裳について

「グローバル・スタイル」のチャコール・グレイのダブル・ブレスト・スーツ

「グローバル・スタイル」のチャコール・グレイのダブル・ブレスト・スーツ
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #002を参照してください。

『ファブリック・トウキョウ』のグレイのストライプのボタンダウン・シャツ

『ファブリック・トウキョウ』のグレイのストライプのボタンダウン・シャツ
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #001を参照してください。

「ブルックス・ブラザーズ」のピンクのチノパン

「ブルックス・ブラザーズ」のピンクのチノパン
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #016を参照してください。

「タビオ」のダーク・グリーンのソックス

「タビオ」のダーク・グリーンのソックス
こちらは、靴下専門店「タビオ」の表参道ヒルズ店で購入した、ダーク・グリーン『パワーフィット2×2リブソックス』(税込1,080円)です。

「パラブーツ」の黒い『アヴィニョン』

「パラブーツ」の黒い『アヴィニョン』
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #006を参照してください。

「ゾフ」の黒いメガネ

「ゾフ」の黒いメガネ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #006を参照してください。

LANGUAGE & EDUCATION #019

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