メイン・コンテンツ
検索フォーム
“ブレグジット"にまつわる様々な英語表現
  - Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』 #BrexitBored (2019/12/13放送) | LANGUAGE & EDUCATION #041
Photo: ©RendezVous
2023/04/10 #041

“ブレグジット"にまつわる様々な英語表現
- Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』 #BrexitBored (2019/12/13放送)

columnist image
KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.#BrexitBoredがもたらした英国保守党の大勝

12月13日放送のNHK Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』のテーマは#BrexitBoredでした。12月12日に行われた英国の総選挙のタイミングに合わせて、長引くブレグジット騒動にうんざりした英国人のSNSへの投稿を取り上げました。

2016年に行われた「イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票」で、離脱支持派が52%対48%という僅かな差で勝利したことにより、英国の欧州連合(EU)からの離脱(いわゆる「ブレグジット」)が決定しました。その後、この離脱に向けて様々な手続きが必要とされる中、EUとの交渉と英国国内の議論が長期化し、明確な道筋を見い出せずにいました。

そんな中、今年の7月に就任したばかりのボリス・ジョンソン首相は、英議会のマヒ状態を解消し、離脱を進めるために、前倒しして12月に総選挙を実施することにしました。ジョンソン首相は“get Brexit done" (EU離脱の完遂)を選挙のスローガンに掲げ、#BrexitBoredの国民に向けて「さっさと終わらせましょう」と訴えかけました。

そもそも英国で12月に選挙が行われたのは1923年以来、96年ぶりのことです。本来であれば12月は、国民が一体となってクリスマスの準備に励む時期です。(恋人と一緒に過ごす日本の“クリスマス"とは違い、英国のクリスマスは家族と一緒に過ごす大切な時期です。)ただでさえブレグジット議論にうんざりしている英国民に向けて、年末というタイミングで“ファイナル・アンサー"を求めることは、戦術として見事としか言いようがありません。労働党は総選挙に向けた政権公約で2度目の国民投票を実施するとしていたため、労働党に投票を入れることはすなわちブレグジット議論が来年にずれ込むことを意味したからです。

結果は、与党・保守党が下院で過半数議席を獲得する歴史的大勝となりました。この結果を受けてすぐにジョンソン首相は「ブレグジット実現へ強力な信任を得たようだ」と述べ、2020年1月31日に英国のEU離脱が実現することはほとんど確実となりました。ただそれはブレグジットの第1フェーズの終わりでしかなく、その後にはEUと新たな貿易関係を築くという“いばらの道"が続くことになります。クリスマスの後に、英国民を待ち受けているのは、ひどい二日酔いなのです。


2.“Brexit"という言葉の由来

“Brexit"という単語は「英国の」を意味する“British"と、「離脱」を意味する“exit"を融合した造語です。この言葉は、親欧州のシンクタンク「ブリティッシュ・インフルエンス」の創設者であるピーター・ワイルディング氏が2012年5月に初めて使ったとされます。

実は“Brexit"という言葉が生まれる3ヶ月前に、そのきっかけとなるエピソードがあります。2012年2月に、米銀シティグループのエコノミスト2人は、債務超過状態となっていたギリシャがユーロ圏から離脱する可能性を取り上げた際、“Greece"と“exit"を組み合わせた“Grexit"という言葉を使いました。ワイルディング氏は、英国がヨーロッパにおいてリーダーシップを取ることができなければ、ギリシャのユーロ圏からの退出に続いて、英国でも同じことが発生するかもしれないと、警鐘を鳴らす意味でこのエピソードを受け、“Brexit"という言葉を使ったのです。

その後、当時のデイヴィッド・キャメロン英国首相は、2015年の総選挙で英国とEUの関係性を見直すことを公言します。2016年に「イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票」が行われる一連の流れで、“Brexit"という言葉は一気に英国民の間で拡散されました。『コリンズ英語辞典』は、2016年の「今年の単語」に“Brexit"を選びました。

前述のワイルディング氏は、まさかこうなるとは思っていなかったようで、“Brexit"という言葉のキャッチーさが「EU離脱」の意識を広める一翼を担ってしまったのではないかと“Bregret"(“British"と「後悔」を意味する“regret")するようになります。英国のニューズ・チャンネル『スカイ・ニュース』のウェブサイトに予稿した社説では、“Brexit’s my fault"(ブレグジットは俺のせいだ)と告白しています。

言葉の生みの親が後にそれを後悔するという皮肉は、「言霊信仰」がある日本人なら理解できるのではないでしょうか。英国には「言霊信仰」はないものの、言葉の使い方や言葉遊びに非常に敏感な“ウィット信仰"が根付いているのです。しゃれているからと、無闇に造語を振り回すのは危険であり、言葉の取り扱いには細心の注意が必要なのです。


3.アメリカ合州国の建国は元祖“Brexit"

超大国としての英国の歴史を考える時、15世紀半ばから17世紀半ばまで続いた大航海時代に遡る必要があります。

ポルトガルやスペインに負けじとばかり、英国やフランスやオランダもその後、アメリカ大陸とアジア大陸での植民地や貿易ルートを開拓していきます。17世紀と18世紀にかけて英国はフランスとオランダと対立を深め、度々衝突しますが、英国が勝利し、その結果、大英帝国と呼ばれる世界的な覇権国家が樹立されることとなるのです。

まずは1688年にオランダ総督のウィレム3世が英国王に即位すると、英国とオランダは同君連合(複数の君主国の君主が同一人物である状態や体制のこと)となります。その後、19世紀初頭には、ナポレオン1世(※11)が率いるフランス軍は、ヨーロッパにおける支配の拡大を狙ってナポレオン戦争を起こします。この戦争に破れたオランダはナポレオン1世のフランス帝国の勢力下に置かれると、このように英国はオランダの植民地だった南アフリカのケープ植民地やセイロン島を占領します。最終的にナポレオン1世のフランス軍は、1815年のワーテルローの戦いで英国とオランダが率いる連合軍に敗北してしまいます。この結果、大英帝国の最盛期が始まるのです。その後100年以上に渡り、世界唯一の“超大国"として英国の領土は世界各地に拡大し続けていきました。

実は、この“超大国"(英語では“superpower")という概念は、20世紀半ばにできたもので、第二次世界大戦後のアメリカ合州国とソビエト連邦に対して使われるようになったものです。英国もそこに含まれるという考えもありますが、第一次世界大戦後から超大国としての大英帝国はすでに陰りがさしており、第二次世界大戦の終わりを持って大英帝国が終焉したと言われます。それを象徴するのが、英国にとって最大で最も重要な植民地であったインドが1947年に独立したことでしょう。(1947年8月14日及び15日に、英国領のインド帝国が解体し、インド連邦とパキスタンの2国に分かれて独立しました。2国の対立は今日に至るまで続いています。)そして1997年には、英国の最後の植民地であった香港が中国の主権の下に返還されました。

ここで1つ、アメリカで生まれ、アメリカで育った者として注目してもらいたいことがあります。そもそもアメリカ合州国という国は、大英帝国から離脱して建国された国であるということです。つまり、アメリカこそ元祖“離脱派"、つまり“Brexit"と言えるのではないでしょうか。


4.アメリカと英国の今後の貿易関係を考える

現在EU圏内の貿易には関税がかかっていませんが、英国のEU離脱が実現すれば、EU各国への輸出に関税がかかる可能性があります。それによって、アメリカとの貿易関係がより強化されるのではないかという見方もあがっています。

"Congratulations to Boris Johnson on his great WIN! Britain and the United States will now be free to strike a massive new Trade Deal after BREXIT." 「素晴らしい勝利を収めたボリス・ジョンソンにおめでとう!これでブレグジット後、米英の間で大規模な新貿易合意を自由に結ぶことができる。」

そんな中、話題にされているのがアメリカの食品安全基準です。労働党の党首のジェレミー・コービン氏は、11月に行ったスピーチで、ブレグジット後の米英の間の貿易合意に対する懸念を次のこのように述べました。

“Given the chance, they’ll slash food standards to US levels where ‘acceptable levels’ of rat hairs in paprika and maggots in orange juice are allowed and they’ll put chlorinated chicken on our supermarket shelves."
「チャンスがあれば、彼らは英国の食品基準をアメリカの基準にまで下げてしまう可能性がある。アメリカの食品基準では、パプリカの中にネズミの毛、オレンジ・ジュースの中にウジ虫の混入をある一定の“許容水準"内であれば許している。彼らは私たちのスーパーの棚に塩素消毒チキンを並べることになるだろう」

そもそもEUは長い間、解体処理工程において塩素消毒されたアメリカの食用の鳥肉の輸入を断り続けてきました。英国がEUから離脱すれば、アメリカのこのような食材が多く輸入されるのではないかと懸念する声が高まっているのです。

ところで、英国のボリス・ジョンソン首相は、就任して1回目の“PMQ"(Prime Minister’s Questions、つまり英国の議会で行われる「首相への質問」)で、労働党の党首のジェレミー・コービンのことを“chlorinated chicken"(塩素処理された鳥肉)と呼びました。

アメリカ人である僕が言うのもなんですが、言葉遊びのレヴェルからすると、これは英国人の大好きな“ウィット"でもなんでもなく、むしろトランプ大統領が得意とする、アメリカ的な“ジョーク"なのではないでしょうか。

それにしても、クリスマスを目前にした総選挙で食べ物がひとつの焦点となることは、いかにもアングロ・サクソン(※14)の国といえるかもしれません。


5.今回の衣裳について

「ユニバーサル・ランゲージ」のグレイのスーツ

「ユニバーサル・ランゲージ」のグレイのスーツ
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #005を参照してください。

「西武渋谷」の黒色のボタン・ダウン・シャツ

「西武渋谷」の黒色のボタン・ダウン・シャツ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #022を参照してください。

「ブルックス・ブラザーズ」のグレイのソックス

こちらの商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #008を参照してください。

「パラブーツ」の黒い『ランス』

「パラブーツ」の黒い『ランス』
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #010を参照してください。

「ゾフ」のくろい眼鏡

「ゾフ」のくろい眼鏡
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #006を参照してください。

LANGUAGE & EDUCATION #041

“ブレグジット”にまつわる様々な英語表現 - 『世界へ発信!SNS英語術』 #BrexitBored (2019/12/13放送)


Page Top