1.プロローグ
最新作『ドント・ウォーリー』のプロモーションのために来日したガス・バン・サント監督を、『世界へ発進!SNS英語術』のロケとしてインタヴューすることができました。
一般的には、ガス・バン・サントと言えば1997年の『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』が有名でしょう。この映画は、当時ほとんど無名であったマット・デイモンとベン・アフレックが脚本を手がけ、出演した作品であり、彼らの出世作としても知られています。そういう意味では、バン・サント監督の作品の中では例外的な位置付けの作品なのです。
2.インタヴューを終えて
ガス・バン・サントはもともと、1991年『マイ・プライベート・アイダホ』など、インディペンデント映画の監督として注目を集めた人物です。そして『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のヒットによって、アカデミー賞監督賞にノミネイトされ、一旦メインストリームの“仲間入り"を果たすものの、その後は、再び“アートシアター系"(日本でいうミニシアター)の映画の製作に取り組みます。バン・サント監督が、作品を製作する上で、ポイントにしているのが、 “アウトサイダー"という存在です。
バン・サント監督の作品の特徴は、メインストリームではあまり取り上げられないような人物を主人公にしていることです。『ドント・ウォーリー』は、アルコール依存症で、四肢麻痺の風刺漫画家の伝記ですし、コロンバイン高校銃乱射事件をモチーフにした『エレファント』は、ある高校を舞台に2人のいじめられっ子が残虐な事件を起こす物語です。
そして、バン・サント監督といえば、同性愛者をテーマにした映画が高く評価されています。初期の作品である1991年の『マイ・プライベート・アイダホ』はバン・サント自身が少年時代を過ごしたオレゴン州ポートランドで暮らす2人の男娼の青春物語ですし、また、2008年の『ミルク』は、70年代においてゲイ・カルチャーの中心地として盛り上がったサン・フランシスコを舞台に、ゲイの活動家・政治家のハーヴェイ・ミルクの生涯を描いた伝記です。バン・サントは、自身が同性愛者であることを公にしており、自らも“アウトサイダー"的な意識を持っているのかもしれません。
今回バン・サント監督をインタヴューするために過去の作品をもう一度観直し、本人に実際に会ってみて、つくづく“アウトサイダー"であるということはどういうことなのかということについて深く考えさせられました。反抗者や無法者を伝説として称える文化がアメリカには伝統的にあるため、“アウトサイダー"は“アウトサイダー"としての居場所が認められ、 “アウトサイダー"ならではの成功の道を見出すことも可能な一面を持っています。なぜかというと、アメリカという国はそもそもパイオニア精神によって成立した国であり、周囲の人に反対されても自分の考えを押し通すことが“善"とされているからなのです。このような風土があるからこそ、変人として有名なアップルの創業者スティーヴ・ジョブズや、ポップ・アートの巨匠として知られるゲイのアンディ・ウォーホルなどの偉人を生み出したのでしょう。
一方で、日本は“ムラ社会"であり、“アウトサイダー"的な存在は集団の秩序を乱す“悪"とされ、排除されてきました。いわゆる“同調圧力"というものです。日本のインディ・シーンがなかなか評価されないのも、西洋のような奇才がなかなか生まれないのも、こうした“ムラ社会"の伝統がその理由なのでしょう。『ドント・ウォーリー』や、バン・サント監督の作品を見る機会があれば、“アウトサイダー"の描き方に是非注目してみてください。
3.ガス・バン・サントのプロフィールと代表的な作品
ガス・バン・サント(1952~)とは、アメリカの映画監督、脚本家、写真家、音楽家です。アメリカ中南部のケンタッキー州で生まれ、西海岸のオレゴン州ポートランドで少年時代を過ごしました。美術学校で学んだ後、テレヴィ・コマーシャルの制作の仕事でキャリアをスタートします。1985年に映画監督としてデビューし、 これまで同性愛者、障害者、下級労働者など、社会的弱者の人生を描いた作品で知られます。2003年の『エレファント』で、カンヌ国際映画祭のパルム・ドールと監督賞を同時に受賞しました。
『マイ・プライベート・アイダホ』(1991年)
オレゴン州ポートランドを舞台にした本作は、男娼としてストリートで暮らす2人の若者の葛藤を描いた青春映画です。主演のリバー・フェニックスの演技は高く評価され、同年のヴェネツィア国際映画祭、全米映画批評家協会賞、インディペンデント・スピリット賞で、主演男優賞を受賞しました。
『エレファント』(2003年)
本作は1999年4月20日にアメリカに起きたコロンバイン高校銃乱射事件を題材にしたドラマ映画です。バン・サントは事件を劇的に表現したり、動機付けやメッセージ性を後付けしようとするようなことは一切せず、事件の無意味さや不可解さを淡々と提示していきます。第56回カンヌ国際映画祭で、最高賞であるパルム・ドールと、監督賞を同時に受賞しました。
『ミルク』(2008年)
サン・フランシスコを舞台に、社会の不平等さを訴え、同性愛者の公民権獲得や社会的地位向上のために戦ったハーヴィー・ミルクの人生最後の8年間を描いた伝記映画です。本作は第81回アカデミー賞において主演男優賞と脚本賞など、数々の賞を受賞しました。
『ドント・ウォーリー』(2018年)
自動車事故によって四肢麻痺となったオレゴン州ポートランドに暮らす怠け者のジョン・キャラハンが、アルコール依存症を克服しようとする中で風刺漫画を描くことに生きる意味を見出す人間ドラマです。本作は実話に基づいた伝記映画です。
4.「ラルフ・ローレン」のツイード・ジャケット
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この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #006を参照してください。
5.「ブルックス・ブラザーズ」の白いボタンダウン・シャツ
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この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #011を参照してください。
6.「ブルックス・ブラザーズ」の黒いニット・タイ
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こちらはBigBrotherからお借りしたヴィンテイジもののニット・タイです。
7.「ブルックス・ブラザーズ」の茶ベルト
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この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #008を参照してください。
8.「ブルックス・ブラザーズ」の赤いコーデュロイのズボン
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こちらは5月にブルックス・ブラザーズのオンライン・ショップで開催されていた春のセールの時に購入した『14-Wale コーデュロイ プレーンフロントパンツ MILANO』です。通常は1万円以上するものを4,500円(税抜き)で購入することができました。ラッキー。
因みにこの14-Waleという表現ですが、“wale"(ウェル)とはコーデュロイに施されている畝のことです。“14-Wale"は、1インチ幅に14本の畝があることを意味しています。この数字が大きいほど畝は細かく、小さいほど太くなります。
基本的に畝が細めのものはビジネス・カジュアル・スタイルにも適しており、太めのものはよりカジュアルな印象を与えると覚えておくと良いでしょう。
9.「タビオ」のオレンジのソックス
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こちらは、先週に引き続き、「タビオ」の「メンズ 太リブソックス」(972円)です。今回は秋らしいオレンジ色の靴下を選びました。
10.「レッド・ウィング」のチャッカ・ブーツ
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この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #010を参照してください。
11.「999.9」の『M-27』
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この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #005を参照してください。
12.エピローグ:スタイリスト・Scarlet によるコウディニットのポイント
今回は、ガス・バン・サント監督へのインタヴューということで、テーマはズバリ“80年代のジャーナリスト"にしてみました。
ツイードのジャケット、白のボタン・ダウンのシャツに、ブラックのニット・タイ。これぞ“80年代のジャーナリスト"といったスタイルでしょう。
このスタイルであれば、パンツは、カーキのチノが定番なのですが、そこは、2019年ということもあって、レンガ色のコーデュロイを合わせてみました。
パンツに合わせて、ソックスはオレンジにし、靴はボルドー色が美しいチャッカにしました。
日本では、チャッカ・ブーツを上手に履いている人をあまり見かけませんが、1920~30年代に、英国のウィンザー公が着用していたこともあり、ヨーロッパの紳士は、必ず一足は持っています。もともとポロ用のシューズであったため、カジュアル感があり、スーツよりは、正にツイードなどのジャケットとの相性が良い革靴です。
ニット・タイとボタン・ダウンのシャツも、同様に、少しラフな感じがするので、“リベラル"なジャーナリストが好んだスタイルです。