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KAZOOの『SNS英語術』映画コーナー (10) 
 テレヴィ・シリーズ『ライド with ノーマン・リーダス』のホスト、ノーマン・リーダスへのインタヴューを振り返って
  - Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』(2019/05/10放送) | CINEMA & THEATRE #014
Photo: ©RendezVous
2022/01/31 #014

KAZOOの『SNS英語術』映画コーナー (10)
テレヴィ・シリーズ『ライド with ノーマン・リーダス』のホスト、ノーマン・リーダスへのインタヴューを振り返って
- Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』(2019/05/10放送)

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KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.プロローグ:アメリカを代表する“アンチ・ヒーロー"

俳優のノーマン・リーダスが大人気テレヴィ・ドラマ『ウォーキング・デッド』で演じるダリル・ディクソンというキャラクターは、今や、『ターミネーター2』でアーノルド・シュワルツェネッガーが演じた“ターミネーター"や、カート・ラッセルが『ニューヨーク1997』で演じた “スネーク・プリスキン"と並ぶ、代表的なアメリカの“アンチ・ヒーロー"と言えます。モーターサイクルに跨り、荒れ果てたアメリカの地を駆け抜けながら、トレードマークのボウガンでゾンビをやっつけるその姿は、アメリカだけでなく、世界中の多くの人を魅了しています。

今ではこのキャラクターなしには考えられない『ウォーキング・デッド』ですが、そもそもダリル・ディクソンという役は、原作のグラフィック・ノヴェルには存在しないキャラクターだそうです。リーダスはもともとダリルの兄であるメルル・ディクソン(ナチュラルな英語発音だと“マール"ですが)役でオーディションを受けたのですが、制作者たちがリーダスのために特別に作り出したのが、ダリル役なのです。ダリルは兄の陰に隠れて暮らすようなキャラ設定で、シーズン1においてrecurring role(物語に何度も登場するが、事実上ゲスト出演の配役)としてスタートしました。しかし瞬く間に人気が高まり、シーズン2からはレギュラーとなり、今やシリーズで最も人気を誇るキャラクターとなり、事実上の主人公となっています。

今回のインタヴューのためのリサーチとして、彼の過去のインタヴューを読んでいて、もう1つ驚いたことがあります。ダリル・ディクソンは当初は馬に乗っているというキャラ設定であったということです。リーダス本人が馬が怖いということで(彼曰く馬の大きな目が不気味だそうです)、自分の趣味であったモーターサイクルに変えて欲しいとプロデューサーたちに頼んだそうです。その結果、あのキャラクターはリーダスのためにテイラー・メイドされたのです。

『ウォーキング・デッド』はアメリカ合州国のジョージア州で撮影されていますが、リーダスは収録の合間にバイクでドライヴをしているうちに、その土地に魅了され、現地に家を購入し暮らすようになったそうです。今でも撮影現場への行き帰りはバイクで移動していると述べています。

リーダスはこのように、撮影現場でもプラヴェートでも正真正銘の“バイカー"です。いつも黒色調の服装を好み、ロン毛で、ダークなユーモアのセンスの持ち主です。彼のそういったイメージが “演技"上のものではなく、“本物"であるということが、多くのファンを惹きつけているところなのでしょう。正にダリル・ディクソンというキャラクターとノーマン・リーダス本人の生活の両方が、クールで反抗者的なイメージを生み出し、アメリカの男性なら誰もが憧れるような男のロマンを感じさせてくれるのです。


2.ノーマン・リーダスの印象について

こういった背景もあって、僕の中では、ダリル・ディクソンという役柄と、ノーマン・リーダス本人の境界線は非常に曖昧なものでした。今までインタヴューした俳優の中で、彼ほどある1つの配役のイメージが本人のイメージと一致していた人物は、他にはいませんでした。これまでインタビューした役者さん達は、むしろ役柄のイメージと本人のイメージが異なる方が多かった印象です。

インタヴューの当日は、ロック・スターに会うかのようなワクワクした気持ちと、真面目な自分が“クール"でないことがバレることに対する焦りが渦巻いていました。カメラや照明機材が設置され、スタッフの緊張感が漂っていた日比谷公園近くのホテルの一室で、リーダスとの約束の時間を待っていた僕は、そんなことを思いながら、インタヴュー質問を読み返していました。

すると、奥からスタッフがそわそわしている気配がし、僕は手で目を覆い、まぶしい照明の向こう側にあった部屋の入り口に目をやりました。そこにはグレイ・シャツに黒いネクタイ、黒いスラックスに黒いブーツ姿という、予想していた通りのロック・スターのようなオーラのノーマン・リーダスが現れました。

しかし、そのオーラとは裏腹に、彼は快くスタッフ1人1人に挨拶しながら僕の前までやってきました。そして握手を交わし、僕が簡単な番組の説明を終えてプロデューサーの合図を待っていると、リーダスはいきなり近くにいた『世界へ発信!SNS英語術』のスタッフに声をかけました。

「いいシャツだね。」

ヘヴィ・メタル・バンドの「アンスラックス」のロゴが施されたシャツを着ていたそのスタッフは、照れ臭そうに、片言の英語で「いいですよね。好きなんです。」と答えました。リーダスもうなすぎ、“ロックのことならいくらでも話すよ"と言わんばかりの表情で僕の方を見ました。僕は自分たちが『ローリング・ストーン』誌の取材でないことを少し申し訳なく思いながらも、一瞬にして場の空気が和らぎました。僕は再び気を引き締めて、一番聞きたかったことから尋ねることにしました。


3.人はなぜ『ウォーキング・デッド』にハマるのか

“ゾンビによる世界の終末"というのは、ホラー映画やSF映画のおきまりの設定の1つであり、もうとっくに陳腐化している物語の設定です。また、ゾンビは動きが鈍く、頭脳と心を持たないある種の機械的な敵なので、襲ってくるシーンからは、ある種の間抜けな印象を受けてしまいます。『ウォーキング・デッド』がゾンビの群れをひたすら撃ち殺すだけのアクションものであったとしたら、シーズン9まで続くことはなかったのでしょう。

だとすると、『ウォーキング・デッド』がここまでのヒットとなったのはどうしてなのか。リーダスはインタヴューの中で、このように答えていました。「自分がこの状況におかれたら、どうするのか。世界の終わりにおいては、肩書きは何の意味も持たない。車やスマフォやアパートなんかも、誰も気にしない。本当の自分は誰なのかが問われるのだ。」人はその設定に共感するのだと彼は語ってくれました。

僕の個人的な意見を付け加えると、『ウォーキング・デッド』の本当に面白いところは、主人公たちがゾンビをどう退治するかではなく、文明が崩壊した後に、登場人物がどのように共存するのか、もしくは共存できないのか、という人間同士の衝突にあるのだと思います。強力な戦士にとって、ゾンビというわかりやすい敵以上に怖いのが、他の人間の嫉妬や恨み、そして自分の中の弱さなのです。そして人気の主人公であっても、その人が生き延びるという保証はないということも面白さの要因なのではないでしょうか。多くの陳腐なハリウッドのファンタジー映画に出てくるような救世主は、このドラマには登場しません。

リーダスが演じるダリル・ディクソンがここまで生き延びることができた理由は、そのキャラクターの人気もさることながら、彼自身と役柄の成長の旅が一番興味深いからなのではないでしょうか。シーズン1のディクソンは、兄の陰でひっそりと暮らし、外見はタフでも内面は弱虫で、周りの人と積極的に関わろうとしない人物でした。しかしシーズン9のディクソンは、リーダーにまで成長しています。アンチ・ヒーローではなく、正真正銘のヒーローへと変化しているのです。そこに多くの視聴者は魅了されるのでしょう。ディクソンにとって“ゾンビによる世界の終わり"は、実は終わりではなく始まりであったことに、希望を見出すのです。


4.『ライド with ノーマン・リーダス』の魅力

そんなリーダスがダリル・ディクソンとして歩んできた9年間、つまり彼のキャリアや生き様そのものの集大成とも言えるのが、2016年から放送されている『ライド with ノーマン・リーダス』というノンフィクションの番組です。リーダスがホストとしてアメリカ合州国をはじめ、世界のモーターサイクルのゆかりのある地を巡るという内容です。

この番組のいいところは、モーターサイクルに興味がない人にとっても十分に楽しむことができるところです。アメリカのオープン・ロード(公道)を駆け抜けるシーンの広大な風景には、息を飲むような美しさがありますし、訪れる先の隠れ家的な観光スポット、ローカルなグルメ・スポットなど、旅番組としても観ることができます。また、リーダスはバイクのワークショップなどを訪れ、バイクを1から造る多くのデザイナーと出会いますが、技術的なテーマや専門的な話はミニマムに抑えられています。焦点はむしろ、そのデザイナーの人間性やアーティストとしてのヴィジョン、そしてバイク文化に対するパッションに当てられています。そして『ウォーキング・デッド』の共演者も含む旅のパートナーも個性的な人ばかりなのも魅力といえます。

そして何より観ていて印象的なのは、リーダスが旅の道中、『ウォーキング・デッド』のファンと巡り合う場面です。たまたま収録に通りかかったファンも登場しますが、ほとんどはバイカーやバイクに携わっている人々です。一見クールでタフな彼らが、リーダスと対面すると、いきなり感情的になり、『ウォーキング・デッド』がいかに自分の人生を影響したかについて熱く語ります。ある意味、社会に対して反抗しているような生き様を貫いてきたいわば“アウトサイダー"の彼らが、ダリル・ディクソンというキャラクターに自分を重ねることで、自分たちの弱みと葛藤、そして生きる意味と向き合っていることがヒシヒシと伝わってきます。リーダスはまた、彼らをまるで古くからの親友のように温かく向かい入れ、終始謙虚である様子がとても新鮮に感じられました。

『ウォーキング・デッド』がゾンビの物語ではないのと同じように、『ライド with ノーマン・リーダス』はモーターサイクルを題材にした番組でありながら、人生とか人間とかについての物語なのです。

『ライド with ノーマン・リーダス』(2016年)
無類のバイク好きとして知られるリーダスが、全米をはじめ、世界のバイカーのゆかりの地を巡る旅番組です。テーマはオートバイの専門的な話ではなくバイク文化や歴史で、リーダスと共にどこまでも続くようなオープン・ロード(公道)を爽快に駆け抜ける気分を味わえます。日本では、Huluにてシーズン1~5が現在(2022年1月)配信中です。

https://www.hulu.jp/ride-with-norman-reedus


5.僕のオススメのライフスタイル・ウェアのブランド「デウス エクス マキナ」

バイクというテーマにちなんで、僕のお気に入りのライフスタイル・ブランド「デウス エクス マキナ」を紹介したいと思います。

「デウス エクス マキナ」とは、モーターサイクルとサーフ・カルチャーをコンセプトにしたオーストラリアのシドニー発のライフスタイル・ブランドです。オーストラリア以外にもロス・アンゼルス、イタリア、フランス、スペインなどに支店があります。

東京には、原宿のキャット・ストリート・ノースウイング(千駄ヶ谷側)に『Residence of Impermanence』と名付けられた旗艦店があります。ショップの1Fには美味しいコーヒーとサンドウィッチを提供するカフェと、奥にはバイクのワークスペースがあり、2Fにはアパレルや小物が陳列されています。B1Fには、サーフボードやバーがあり、毎週金曜日にはラウンジ・イベントが開催されます。お店の至る所にバイクやサーフィン関連のポスターやアートが飾られており、都会の真ん中にありながら、不思議と海の音が聞こえてくるかのような空間となっています。(※「デウス エクス マキナ原宿店」は2020年3月に閉店し、2020年4月より「デウス エクス マキナ浅草店」を営業 しています。この先、原宿店に代わる新たな旗艦店をオープン予定とのことです。)

この “Residence of Impermanence"という名前もとても興味深いものです。直訳すると “無常の住宅"という意味です。モーターサイクルとサーフィンの組み合わせは一見意外に思えるかもしれませんが、この2つに共通しているのは、この世にあるものの“無常観"という認識ではないでしょうか。バイクで走っている時も、サーフボードの上で波に乗っている時も、1歩踏み間違えば、死に至る可能性があります。そういう意味ではバイカーとサーファーは常に生と死の境界線の上で生きているのです。この旗艦店は、カルチャーの発信地であると同時に、この世の“無常観"の意識を持って生きる者たちが集まる場所なのです。正に『ライド with ノーマン・リーダス』で訪れてもいいようなスポットといえます。

そして、“Deus Ex Machina"という言葉は、“機械仕掛けの神"とか“マシーンから現れた神"という意味のラテン語です。単純に捉えると、バイクやサーフボードは“モノ"ではなく“生き物"であることということを言っている印象を受けますが、それは本質ではありません。先ほどの“無常観"の概念を踏まえると、バイカーはモーターサイクルを通して、サーファーはサーフボードを通して、“神"の領域を感じていることを語っています。モーターサイクル(そしてサーフボード)はきっかけでしかなく、その先にある何かを経験し、自分の弱さと向き合い、本当の自分とは何かを問いただすための手段なのかもしれません。今回『ウォーキング・デッド』と『ライド with ノーマン・リーダス』を観て、リーダスへのインタヴューを経験してみて、つくづくそう感じました。

<SHOP INFO>

デウス エクス マキナ浅草店
住所:
〒131-0033 東京都墨田区向島 1-2-8 東京ミズマチ ウェストゾーン
TEL:
+81-(0)3-6284-1749
営業時間:
11:00~20:00

6.「ラルフ・ローレン」のジグザグ柄のネクタイ

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こちらはBigBrotherからお借りした、ジグザグ柄の「ラルフ・ローレン」のヴィンテージのネクタイです。


7.「MFYS」の羅針盤のカフリンクス

こちらはアマゾンのカフリンクス専門店「MFYS」から購入した羅針盤のデザインをしたカフリンクスです(460円+送料)。


8.「ユニバーサル・ランゲージ」のグレイの段返り3つボタンのスーツ

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この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #009を参照してください。


9.Purple contrast collar shirt by Azabu Tailor

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この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #006を参照してください。


10.「イセタンメンズ」の黒いベルト

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この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #009を参照してください。


11.「タビオ」のパープルのソックス

この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #008を参照してください。


12.「リーガル」のウィング・チップ・シューズ

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この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #009を参照してください。


13.「999.9」の『M-27』

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この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #005を参照してください。


CINEMA & THEATRE #014

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