メイン・コンテンツ
検索フォーム
KAZOOの『SNS英語術』映画コーナー (17) 
 映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の監督、クエンティン・タランティーノへのインタヴューを振り返って
  - Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』(2019/08/30放送) | CINEMA & THEATRE #021
Photo: ©RendezVous
2022/04/25 #021

KAZOOの『SNS英語術』映画コーナー (17)
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の監督、クエンティン・タランティーノへのインタヴューを振り返って
- Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』(2019/08/30放送)

columnist image
KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.プロローグ:憧れのタランティーノ監督

僕がティーネイジャーであった頃、同世代の友人の多くは、決まって自分の部屋にクエンティン・タランティーノ監督の代表作である『パルプ・フィクション』のポスターを貼っていました。世界地図のポスターを壁に飾っていた僕からすると、ベッドの上でうつ伏せ状態のユマ・サーマンが片手にタバコを持った、通俗的な読み物を意味する“パルプ・フィクション小説"をイメージしたデザインのそのポスターは、“クール・キッズ"(イカした子供)の象徴でした。

90年代のアメリカ合州国、とりわけ、毎日代わり映えのない、退屈な生活が特徴の大都市郊外に育った僕のような青年にとっては、タランティーノ監督の映画はとても衝撃的でした。平凡な日常のシーンの中に突如現れる、目を見張るようなバイオレンス、感傷的ではなくスリリングなノスタルジー、ノンリニアー(非直線的)な物語構造、実験的なインディ精神。そんな作風が特徴のタランティーノ監督は、クールの代名詞的な存在となり、学校の男友達の間では、『パルプ・フィクション』の台詞を引用するのが流行しました。

僕がUCLAで大学生活を始めたばかりの2003年の秋には、『キル・ビル Vol. 1』がリリースされました。公開後すぐに校舎に隣接している学生街「ウェストウッド」の映画館でこの作品を鑑賞し、そのワクワク感はなかなかおさまらなかったことを今でもはっきり覚えています。武道映画やサムライ映画、ブラックスプロイテイション、マカロニ・ウェスタン、日本のアニメのスタイルなど様々なテクニックによって描かれたシーンは、これまでのジャンルの枠を無視しており、それがとても印象的でした。タランティーノ監督は、希代の映画マニアとしても知られており、どの作品にも“映画論"や“映画史"というものについての学びがあるのも魅力の1つです。

実は、1969年のハリウッドを舞台にしたタランティーノ監督の新作の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』には、「ウェストウッド」やその付近の主要道路「ウィルシャー・ブレヴァード」を舞台にしたシーンがいくつもあります。しかも、タランティーノ監督はCGを利用して1969年のL.A.を作り出したのではなく、実際の店に、当時をイメージしたデザインの看板に変えてもらったり、ヴィンテージ車を2,000台以上使用したりするなどして、細部までにこだわった演出をすることでその時代を蘇らせています。

今回は、憧れのタランティーノ監督が、僕にとっても特別な意味を持つハリウッドという街を題材にした最新作のプロモーションで来日することが決まり、『世界へ発信!SNS英語術』でインタヴューすることが確定した時、僕の内心には、『キル・ビル』のメイン・テーマに使用された布袋寅泰の『BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY』が鳴り出していました。


2.クエンティン・タランティーノについて

クエンティン・タランティーノ(1963年~)は、アメリカの映画監督、脚本家、俳優です。幼い頃から映画業界に憧れ、15歳ごろに高校を中退し、ローカルの劇団に入団し演技を学びました。80年代にはL.A.のマンハッタン・ビーチの近くにあるビデオ・ショップの店員として働きます。その頃、ハリウッドのパーティで映画プロデューサーに出会い、脚本を書くように勧められます。1992年の『レザボア・ドッグス』で脚本家・映画監督としてデビューし、カルト的ヒットとなります。2作目の『パルプ・フィクション』でカンヌ国際映画祭の最優秀作品賞である「パルム・ドール」を受賞し、世界的に注目されるようになります。タランティーノ監督は「映画作りは10本でやめる」と宣言しています。

『レザボア・ドッグス』
タランティーノが監督・脚本・俳優の3役を務める長編映画デビュー作です。強盗映画でありながら、強盗そのものを描かず、その前後の出来事を描くという斬新な切り口が話題となり、カルト的ヒットとなりました。英国の映画誌『エンパイア』は本作を「史上最も偉大なインディペンデント映画」と称しています。

『パルプ・フィクション』
タランティーノの最高傑作とされる本作は、L.A.を舞台にした犯罪映画です。(“パルプ・フィクション"とは20世紀半ばに流行った大衆向け犯罪小説のことです。)モノローグや変哲も無いような会話のシーンと、突如起こるヴァイオレンスのシーンの対比は、タランティーノ監督の特徴的な作風です。本作はカンヌ国際映画祭の最優秀作品賞である「パルム・ドール」など、数々の賞を受賞しました。

『キル・ビル』
タランティーノ監督による日本のB級映画に対する偏愛に溢れている復讐映画です。前半のクライマックスとなる決闘シーンの舞台は、ブッシュ前米大統領と小泉純一郎元首相の会食が開かれたことでも知られる西麻布の居酒屋「権八」がモデルとなったことや、ギタリストの布袋寅泰の楽曲『BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY』がメイン・テーマとして使われたことが日本でも話題となりました。本作は当初は1本の映画として公開される予定でしたが、『Vol. 1』と『Vol. 2』の2本として公開されました。とはいえ、最新作の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が9本目と位置付けられているため、監督本人としては1本の映画としてカウントしているようです。

『イングロリアス・バスターズ』
タランティーノ流の歴史改変物である本作は、第二次世界大戦中のドイツ国防軍占領下のフランスを舞台とした戦争映画です。ユダヤ系アメリカ人からなる秘密部隊の戦いと、ナチス親衛隊大佐に家族を皆殺しにされたユダヤ系フランス人の女性の復讐劇が描かれています。ドイツのプロパガンダ映画が披露されている劇場が大炎上するクライマックスは、映画史に残る名場面と言えます。本作はアカデミー賞で8部門でノミネイトされました。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
クエンティン・タランティーノ監督の9作目の映画は、L.A. という街とハリウッドという映画産業に当てられたラヴ・レターと言えます。1969年のハリウッドを舞台に、落ち目の俳優リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と彼の長年のスタントマンのクリフ・ブース(ブラッド・ピット)の日常を描いた人間ドラマです。その背後には新進女優シャロン・テート(マーゴ・ロビー)の殺人事件という史実が関係していきます。


4.タランティーノ監督の映画に対するこだわり

今回はインタヴューに先駆けて、公式記者会見にも参加させていただきました。その中の質疑応答の部分で特に印象的だったのが、「あなたにとってハリウッドとはどういう意味がありますか」という質問に対して、タランティーノ監督が「高校に20年、30年通うような感覚かな」と答えたことでした。それは、「大成功」と「まあまあの成功」と「まあまあの失敗」と「大失敗」が隣り合わせである環境という意味だそうです。多くの面子は同じままでありながら、時が経つに連れ、それぞれの立場が入れ替わり、ある時期は毎日遊ぶような仲、ある時期は仲悪くなった訳ではないけれども、距離ができてしまうような環境なのだということです。監督はそんなハリウッドという映画業界と街を高校生活に例えました。

記者会見でもう1つ印象に残った言葉は、プロデューサーのシャノン・マッキントッシュさんが語ったタランティーノ監督の製作現場の魅力でした。撮影の合間に監督は周りのキャスト(出演者)やクルー(製作スタッフ)たちに自分のお気に入りの映画をオススメしたり、映画史について語るなど、熱い“映画の講義"を行うということでした。現場には家族のような絆が生まれ、タランティーノ監督が新しい作品の準備段階に入ったという噂が広まると、他の仕事を断ってまでタランティーノ監督とまた仕事をしたいスタッフから「製作はいつ頃から始まりそう?」という連絡が来るとマッキントッシュさんが明かしてくれました。

タランティーノ監督との1対1のインタヴューでは、新作におけるこだわりのみならず、映画製作へのこだわりについてもいろいろ話してくれました。デジタルが主流になった時代においてなぜフィルムにこだわるのかと聞くと、「僕にとって映画はフィルムに限る。だから“film"というんだ」と答えてくれました。(※英語では、映画作品のことを“movie"あるいは“film"と呼びます。)タランティーノ監督はCGではなく小道具や実物のセットを使用したり、照明へのこだわりでも知られていますが、そういった要素の魅力を最大限に引き出すという意味でもフィルムが最適だと話していました。そして付け加えるように、「単純に、見た目もフィルムの方が良いと思うしね。」

また、映画監督として大事にしているアドバイスについて尋ねると、近年の製作現場では、監督は別室などでモニター越しに現場を仕切るようになっていることを嘆いていました。タランティーノ監督はその別室のことを“chair town" (椅子の町)や“video village" (ヴィデオの村)と皮肉を込めて名付けており、「そういう状況においては、あなたではなく、モニターが監督になっているから」と説明してくれました。映画監督はカメラの真横にいてカメラと同じ視点を持つべきだと言いました。そうすることによって、俳優たちも「カメラに向けて」や「遠いどこかのリヴィング・ルームの目に見えないオーディエンスに向けて」ではなく、監督自身をオーディエンスに、緊張感を持って演じるようになると話してくれました。

タランティーノ監督は身振り手振りを混ぜてダイナミックに語る仕草が有名ですが、今回のインタヴューでも、テレヴィ・カメラの方を指差した時、僕は一瞬、ドキッとしました。まるでタランティーノ監督の“映画論"についての個人レッスンを受けている気分になったのです。


5.この日の衣裳について

「テーラーフクオカ」の黒いピンストライプのスーツ

「テーラーフクオカ」の黒いピンストライプのスーツ
こちらは、1954年創業のオーダースーツ屋「テーラーフクオカ」の新宿店で作ったスーツです。セール期間だったということもあり、3ピースのスーツを7万円以内で作ることができました。(今回のインタヴューではヴェストは着用していません。)

スーツの形は僕の定番スタイルとなった段返り3つボタンにサイド・ベンツ、ズボンはサスペンダーの使用を前提にベルト・ループなし、腰回りに少し余裕をもたせた「ワンタック」、長さは裾が靴の甲にしっかり当たる「ワンクッション」にしました。

黒地に白いピンストライプが入ったスーパー110のメリノ・ウールは値段以上の上質さがあります。(「スーパー表示」はウールの世界標準規格で、数字が大きいほど繊維が細くて高級とされ、最近では、かつては最高級品であったスーパー110も一般的になりました。)

「ボレッリ」のシルバーのドット柄のネクタイ

「ボレッリ」のシルバーのドット柄のネクタイ
こちらはBigBrotherからお借りした、イタリアの老舗シャツ・ブランドの「ルイジ ボレッリ」のヴィンテージのネクタイです。

「KASHIYAMA the Smart Tailor」の白いシャツ

「KASHIYAMA the Smart Tailor」の白いシャツ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #030を参照してください。

「999.9」の「M-27」

「999.9」の「M-27」
この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #005を参照してください。

「MFYS」の星条旗のカフリンクス

この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #021を参照してください。

「イセタンメンズ」の黒いソックス

この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #005を参照してください。

「リーガル」のウィングチップ・シューズ

「リーガル」のウィングチップ・シューズ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #009を参照してください。

CINEMA & THEATRE #021

映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の監督、クエンティン・タランティーノへのインタヴューを振り返って


Page Top