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現代日本の家族のあり方と社会の底辺に焦点を当てた是枝裕和
  - 海外で評価されている日本人の映画監督 (2)
  - 『誰も知らない』『歩いても 歩いても』『そして父になる』『海街diary』『万引き家族』 | CINEMA & THEATRE #034
2022/11/14 #034

現代日本の家族のあり方と社会の底辺に焦点を当てた是枝裕和
- 海外で評価されている日本人の映画監督 (2)
- 『誰も知らない』『歩いても 歩いても』『そして父になる』『海街diary』『万引き家族』

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KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.プロローグ

前回の大御所の日本映画の巨匠に続いて、今回は2018年、第71回カンヌ国際映画祭において最優秀賞であるパルム・ドールを受賞した是枝裕和監督についてご紹介していきます。


2.是枝裕和監督(1962-)

2018年の作品『万引き家族』がパルム・ドールを受賞し、名実ともに日本を代表する監督の一人となった是枝裕和。早稲田大学卒業後、番組制作会社テレビマンユニオンに入社し、90年代にはドキュメンタリー番組を作るようになり、社会派なテーマや一般人の生活に寄り添ったその内容は、後に映画作品の方向性に大きな影響を与えました。1995年に『幻の光』で監督デビューし、第52回ヴェネツィア国際映画祭で金オゼッラ賞を受賞しました。子供や家族の絆をテーマにすることが多く、特に是枝が引き出す子役の演技は、高い評価を得てています。


3.『誰も知らない』(2004年)

母親が失踪し、置き去りにされた4人の兄弟が過酷な状況下で生活する様子を描き、現代社会における家族のあり方を問いかけた作品です。4人兄弟には全員新人が起用され、是枝は彼らにより自然な演技をさせるために役柄については最小限しか伝えず、カメラの置き場所など様々な工夫をしたそうです。主演の柳楽優弥は、2004年のカンヌ国際映画祭において、日本人として初めて最優秀主演男優賞を受賞しました。


4.『歩いても 歩いても』(2006年)

ある夏の日、家族を連れて老父婦が暮らす実家に帰省した次男。だがそれはただの日ではなかった・・・。その帰省の理由が徐々に明らかになっていくストーリー展開が見事です。また、家族関係や世代間のギャップなどのテーマは『東京物語』を彷彿させ、カメラの動きが少ない事や膝くらいの高さのカメラ・ポジションも小津安二郎の強い影響が伺えます。是枝は自身の家族を元にした話だと語っています。


5.『そして父になる』(2013年)

ある日、病院から「重要なお知らせがある」と呼び出され、出生時に息子の取り違えが起きていたことを知る夫婦。メロドラマ的なプロットでありながら、福山雅治が演じる主人公が「父のあり方」について葛藤する姿は、見事な演技との評価があります。第66回カンヌ国際映画祭において、上映後に約10分間のスタンディング・オベイションがおこり、審査員賞を受賞しました。因みに、現在ハリウッドでリメイク版が製作されているそうです。


6.『海街diary』(2015年)

吉田秋生による漫画を映画化した作品。15年前に家を出た父親が亡くなり、葬儀に参加した3姉妹は、そこで腹違いの妹に出会います。長女はその妹に“海街"鎌倉で一緒に暮らさないかと持ちかけます。そこから様々な生活の葛藤を通して、4姉妹は絆を深めていきます。第39回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞しました。


7.『万引き家族』(2018年)

社会の底辺に暮らし、生活をやりくりするために父と息子が万引きする家族の日常を描いた作品です。こちらも現代社会における家族のあり方がテーマとなっています。日本人監督作品としては今村昌平の『うなぎ』以来、第71回カンヌ国際映画祭において、21年ぶりにパルム・ドールを獲得しました。


8.エピローグ

アメリカのアカデミー賞(通称オスカー)については様々な批判があるものの、その選定のクオリティに対しては、一定の評価を持っています。音楽の分野でのグラミー賞とオスカーは、米国文化のレガシーと言えるのでは、ないでしょうか。

それに引きかえ、日本の映画賞や音楽賞のいい加減さは、目にあまるものがあります。

アメリカ人のとても良いところの1つは、“いいモノはいい"と尊敬を払うことであります。一方、日本人は、欠点にケチばかりをつける傾向があります。

日本人は、批評と批判の違いを理解できていないのではないでしょうか。日本人の“インテリ"は、欠点を見つけ出して批判することが、知性だと考えているのです(サヨクも然り)。本来、批評とは物事の価値を提示することであり、他者の作品を通じて、批評家の哲学を語ることであります。

オスカーとグラミーは、売上というわかりやすい尺度ではなく、“本当にイイ作品"を評価しようと長い間努めてきています。

こうした努力なくして、映画・音楽は、文化的価値を持ち得ないのではないでしょうか。いい作品、いいアーティストを支持することなく、文化・芸術は成長しないのです。

日本のコンテンツ産業は、売りやすい商品を短期に売ることしか興味がありません。

その結果、ジャンクな映画と音楽しか無くなってしまったのです。

なので、優れた日本の映画人は、実力で成り上がっていけるアメリカを目指します。2018年のアカデミー賞のメイキャップ&ヘアスタイル賞を受賞した辻一弘氏、1993年に衣装デザイン賞を受賞した石岡瑛子氏(1987年には、グラミー賞のマイルス・デイヴィスの「TUTU」のアートワークでジャケットデザイン賞を受賞)、1985年に衣装デザイン賞のワダエミ氏などは、日本では、あまり知られないものの、世界的にはとても評価の高い映画人であります。

そんなアメリカの映画界も近年は、ゲームやアメコミの原作の映画化やシリーズ物などに力を入れています。

一方、ヨーロッパにおいては、今日でも毎年多くの“大人のための映画"が製作され、三大映画祭(カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭)においても、“大人のための映画"のみが評価されています。

ヨーロッパにおいては、映画を観ることが“大人の教養"として認知されているのです。

パリやローマの映画館では、平日のビジネス・アワーでも映画を鑑賞している“大人"をよく見かけますし、ロンドンでは、金曜日のレイト・ショーには、多くの紳士・淑女のカップルがデートを楽しんでいます。

翻って、日本の映画業界は、どうでしょう。日本映画の歴代興行収入ランンキングの上位は、アニメを中心とした子供向けの作品やテレビ局とのタイアップ作品ばかりです。なんと嘆かわしいことでしょう。

これは、製作者側の問題というより、日本人の生き方、働き方が原因なのではないでしょうか。

生活が“仕事と子供中心"になり、“大人の楽しみ方"が失われてしまった結果なのでしょう。

これからの日本人には、平日でも仕事帰りに、友人や家族と外で夕食を楽しんだり、芝居や映画、コンサートなどを観に行ったりするようなライフスタイルが必要なのではないでしょうか。



<日本の歴代興行収入上位の映画>
『千と千尋の神隠し』
『タイタニック』
『アナと雪の女王』
『君の名は。』
『ハリー・ポッターと賢者の石』
『ハウルの動く城』
『もののけ姫』
『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』
『ハリー・ポッターと秘密の部屋』
『アバター』


CINEMA & THEATRE #034

現代日本の家族のあり方と社会の底辺に焦点を当てた是枝裕和 - 海外で評価されている日本人の映画監督 (2)


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