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2000年代の日本映画を代表する監督 (後半)
  - 海外で評価されている日本人の映画監督 (4)
  - 行定勲/犬童一心/堤幸彦/園子温 | CINEMA & THEATRE #038
2023/02/06 #038

2000年代の日本映画を代表する監督 (後半)
- 海外で評価されている日本人の映画監督 (4)
- 行定勲/犬童一心/堤幸彦/園子温

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Misty
学習院大学文学部哲学科

目次


(前半を読む)


6.行定 勲 (1968年~)

熊本県出身の行定勲は、小学生の時に熊本城でロケをしていた黒澤明監督の映画『影武者』の撮影現場を見に行ったことに刺激を受け、後に完成した映画を劇場に観に行き映画監督を志すことにします。映画専門学校に在学中から製作会社へ入社し、テレヴィ番組の助監督や、『Love Letter』『スワロウテイル』など岩井俊二監督の作品で助監督を務め、経験を積んでいきます。1997年に長編映画の初監督作品『OPEN HOUSE』を発表し、業界内で注目されるようになります。青春恋愛映画に定評があります。

『GO』 (2001年)

直木賞を受賞した作家の金城一紀の半自伝小説を原作とした青春物語です。在日韓国人である主人公が日本の普通高校に通うこととなり、差別と自らのアイデンティティと葛藤しながら、日本人の少女と恋に落ちていく様子が描かれています。本作はキネマ旬報の「日本映画ベストワン」、第25回日本アカデミー賞作品賞、最優秀主演男優賞など、数多くの賞を受賞しました。

『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)

作家片山恭一の小説を原作とした青春恋愛物語です。ある地方都市で中学校から同級生だった少年と少女が高校生となって恋に落ちてゆくものの、少女は白血病にかかり、徐々に衰弱していく様子が描かれています。本作の大ヒットにより小説も大ベストセラーになり、更に漫画化、テレヴィ・ドラマ化、舞台化され、題名を省略した“セカチュー"は流行語ともなり、社会現象となりました。

『北の零年』(2005年)

幕末と明治維新直後の混乱の時代を舞台とした壮大なドラマです。四国・淡路を拠点とし、尊皇派だった稲田家が、当時未開拓だった北海道の荒野への移住が命じられます。厳しい冬に耐えながらその地を“ゼロ"から開拓し、自分たちの“新しい国"を築こうとするストーリーです。本作は第29回日本アカデミー賞において優秀作品賞、最優秀主演女優賞などを受賞しました。同じく明治初頭の日本を舞台にしたトム・クルーズ主演の映画『ラストサムライ』(2003年)と見比べると、ハリウッド映画と日本映画の違いもわかり、とても興味深いです。

『春の雪』(2005年)

三島由紀夫の長編小説『豊饒の海』の一部を原作とした本作は、大正時代初期を舞台に、華族階級の人生を描いています。幼馴染として育った侯爵家の一人息子と伯爵家の一人娘は、両想いでありながらも心がすれ違いを繰り返す、悲恋の物語です。

『ナラタージュ』(2017年)

作家・島本理生の小説を原作とした本作は、演劇部顧問の高校教師と、孤立した女子高生として出会った2人を巡る純愛物語です。女子高生は卒業後に教師と再会し、禁断の恋に落ちていきます。ゆっくりと展開するストーリーや、煮え切らない男子となよなよした女子の姿など、日本式の恋愛物語の定番の要素が詰まった印象的な作品です。

『リバーズ・エッジ』(2018年)

これまでは小説の映画化を何度も試みてきた行定監督ですが、本作は天才漫画家の岡崎京子の代表作を原作とした青春物語です。ごく普通の女子高生、ゲイであることを隠そうとしているいじめっ子の美少年、そして摂食障害を抱えた後輩のモデルの関係性と、彼らが共有する、河原で見つけたある“秘密"を巡るストーリーです。本作は第68回のベルリン国際映画祭パノラマ部門で、国際批評家連盟賞を受賞しました。


7.犬童一心 (1960年~)

東京都生まれの犬童一心は、法政大学高等学校(当時は法政大学第一高等学校)に在学中の頃から自主制作映画を作るようになります。東京造形大学卒業後に大手広告代理店「アサツー・ディー・ケイグループ」の傘下にある「朝日プロモーション」(現・ADKアーツ)に入社し、数多くのテレヴィCMを制作しました。1995年に『二人が喋ってる。』で長編デビューし、第37回日本映画監督協会新人賞を受賞しました。

『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)

田辺聖子の短編小説を原作とした本作は、足の不自由な“ジョゼ"と呼ばれている少女と大雑把な性格の男子大学生の関係を描いています。その大学生は、最初は彼女の手料理を目当てに家を度々訪れているうちに、徐々に親しくなり、恋愛へと発展するラヴ・ストーリーです。文化庁が主催する顕彰制度「芸術選奨」の映画部門において芸術選奨新人賞に選ばれました。

『メゾン・ド・ヒミコ』 (2005年)

かつてゲイ・バーのママだった“ヒミコ"が、男性同性愛者のために作った老人ホームで他の住民と暮らす様子を描いた人間ドラマです。 “ヒミコ"の恋人は、末期癌を抱えた“ヒミコ"と絶縁状態の娘の仲直りをさせようと、その娘に老人ホームでのアルバイトの話を持ちかけます。“個人"より“家族"や“集団"を大事にする日本社会において、自分の心に従って行動することの複雑さが描かれています。

『眉山』(2007年)

シンガー・ソングライターとしてとても有名な“さだまさし"の小説を原作とした人間ドラマです。東京に暮らしている主人公は、母親が入院していることを知らされ、故郷の徳島県に帰郷します。余命数ヶ月の母親を看取ろうとする中で、彼女が長年抱えてきた、ある秘密を知ることとなります。本作は第31回日本アカデミー賞において、最優秀音楽賞、最優秀撮影賞、最優秀照明賞などを受賞しました。

『ゼロの焦点』(2009年)

作家の松本清張の長編推理小説『ゼロの焦点』は、1961年に映画化され、その後度々テレヴィ・ドラマ化もされてきました。本作は2度目の映画化です。見合い結婚をして新婚旅行を終えた約1週間後、主人公の夫は仕事の出張で金沢へ旅立ちますが、その後行方不明になります。夫の行方を追う中で、彼の隠された過去と、ある連続殺人事件との関連性を知ることとなります。本作は第33回日本アカデミー賞において優秀作品賞など数々の賞を受賞しました。

『のぼうの城』(2012年)

作家・和田竜の小説を原作に、犬童一心と樋口真嗣の共同監督で製作されたコメディ・タッチの歴史映画です。天下統一を目指す豊臣秀吉が、関東最大の勢力であった北条氏の本拠・小田原城を攻めようとした中で起きた“忍城の戦い"を題材にしています。本作は第36回日本アカデミー賞において多数の優秀賞を受賞しました。


8.堤幸彦 (1955年~)

三重県生まれの堤幸彦は、幼い頃から高校を卒業するまで名古屋で過ごしました。ロックに憧れて上京し、大学で学生運動に参加するものの、結局大学を中退します。学校法人東放学園に再入学し、放送業界に入り、80年代半ば頃からバラエティ番組、CMやプロモーション・ヴィデオの演出を手がけるようになります。1995年のテレヴィ・ドラマ『金田一少年の事件簿』で一躍有名になり、その後数々のテレヴィ・シリーズのヒット作を制作しています。テレヴィ・ドラマなどの演出は特に、裏番組(同じ時間帯に他局で放送されている番組のこと)のネタや時事ネタ、また、舞台裏についての“楽屋オチ"的なネタなどを多く取り入れたスタイルが特徴的です。

『金田一少年の事件簿』(テレヴィ)(1995年)

同名のミステリー漫画を原作としたこのテレヴィ・ドラマは、堤監督の出世作として知られる作品です。作家・横溝正史の推理小説に登場する架空の名探偵・金田一耕助の孫が様々な事件を解決していくというストーリーです。1995年に第1シリーズが放送され、同年には長編のテレヴィ・スペシャル、翌年には第2シリーズ、1997年には劇場版も公開されるなど、大ヒットとなりました。

『トリック』(テレヴィ・ドラマ)(2000年)

売れないマジシャンが“日本科学技術大学物理学教授"に誘われてコンビを組み、超常現象を解明したり、似非超能力者を暴いていくテレヴィ・ドラマです。お笑いの要素や小ネタが多い一方で、横溝正史の作品に見られるような、やるせない結末を迎える展開も特徴的です。第1シリーズのヒットにより、第2シリーズや劇場版まで製作されました。

『ケイゾク』(テレヴィ)(1999年)

未解決事件を担当する警視庁捜査一課の架空の部署“弐係"(通称“ケイゾク")に配属された東大卒の新米キャリア警察官僚が、元公安(公安警察のことで、「公共の安全と秩序」を維持することを目的とした警察のこと)の刑事と共に、難解な事件を解決していくミステリー・ドラマです。無機質で殺伐とした世界観を描いたことや、個性豊かな刑事像はこれまでの刑事モノとは一線を画し、話題となりました。2000年には劇場版『ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer』が製作されました。

『20世紀少年』(2008年)

浦沢直樹による漫画を原作とした本作は、2008年から2009年にかけて3部作として発表されました。ロック歌手になる夢を諦めて、コンビニを経営しながら平凡な毎日をおくる主人公が、仲間と共に地球滅亡をもくろむ悪の組織を阻止しようと立ち上がるSFサスペンス映画です。戦後の高度経済成長によって日本人が描いた夢と、それが停滞して暗い空気が漂う現実を描いた本作は、現代日本のムードを見事に表現しているのではないでしょうか。因みに題名はイギリスのロック・バンド「T. Rex」の楽曲『20th Century Boy』から由来するものであり、その曲は主題歌ともなっています。

『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』(テレヴィ)(2010年)

殺人、強盗、暴行などの事件を扱う警視庁の捜査一課にも手に負えず、超能力など科学的に説明のつかない特殊な事件を捜査する架空の部署“未詳事件特別対策係"。そこに配属された天才と、警視庁特殊部隊出身の警部補の2人の捜査官が様々な事件を解決していくストーリーです。1999年に放送された刑事テレヴィ・ドラマ『ケイゾク』と同じ世界観を描き、視聴者の間でも、評論家の間でも評価の高い作品です。後にスペシャル版や劇場版も複数製作されています。

『天空の蜂』(2015年)

「天空の蜂」を名乗るテロリストが大量の爆薬を搭載した軍用の巨大ヘリコプターを乗っ取り、福井県にある原子力発電所の上空で静止する・・・。そのテロリストは日本政府に対して、日本の原発の発電タービンを全て破壊するように要求します。本作は1995年に出版された東野圭吾の長編サスペンス小説が原作となっていますが、東日本大震災に伴った福島第一原子力発電所事故を踏まえると、ますます考えさせられるものがあります。

『イニシエーション・ラブ』(2015年)

作家の乾くるみの小説を原作としたこの映画は、恋愛とミステリーを融合させた作品です。1980年代後半、バブル期の日本を舞台に男女の出会いと別れを描いた本作は、小説と同じように、カセット・テープのように“Side-A"と“Side-B"の2編によって構成されています。その二面性は、地方都市と東京、青春と大人、過去と現在、理想と現実など、ストーリーが取り上げる様々なテーマを反映しています。


9.紙と媒体特性の違いを考える

映像作品を制作する場合、媒体特性というものを考慮する必要があります。

まず考慮すべきは、紙媒体、文字媒体と映像媒体の違いです。戯曲や脚本は、元来、演じることが前提ですので、映像化には適しています。

また近年、多くの原作として用いられる漫画を映像化するのも、原作がセリフ付きの絵コンテのようなものなので、映像化することは比較的、容易になります。

文学作品を映像化する場合、心理描写をどのように映像に具現化するかについて考えなくてはなりません。独白形式のナレーションにするのか、セリフにするのか、あるいは、抽象的な映像にするのか問われます。

アメリカ文学に多い、ハードボイルド形式の文学では、問題になりませんが、日本文学に多い私小説では、このことが特に重要になります。

アメリカ映画が日本映画に比べて面白い理由は、原作となる小説がすでに映像化しやすいスタイルであること、複数の脚本家が原作を元に徹底的に分析し、映像化しやすい脚本に仕上げていることです。

日本では、未だに監督が脚本を提案するケースがかなり多く存在していますが、アメリカにおいては、完全に脚本家と監督が分業化されています。脚本家についても、プロットを専門とする人、セリフを専門とする人、ト書き(演技)を専門とする人など、細分化されています。

日本の映画界では、作品は監督のものと今でも考えられていますが、アメリカの映画界では、作品はプロデューサーのものと一般に認知されています。

そのプロデューサーの最大の仕事は、いい脚本を見つけることだと言われています。アメリカの映画界では、“いい脚本から、ダメな作品が生まれることはあるが、ダメな脚本からは、いい作品は生まれることはない"と言われるように、脚本のクオリティが作品の成功に直結していると考えられています。


10.エピローグ:映画、テレビ、インターネット動画配信の媒体特製の違い

20世紀後半のマスメディアの急拡大によるコンテンツの枯渇という問題が発生しています。

特に制作素材に限界のある(音階の限界、音色の限界)音楽の分野は、そのことが顕著で、もう新しいスタイルの音楽は生み出されないというのが定説です。アメリカで大人気のブルーノ・マーズなどは、むしろ、このことを前提に新しいスタイルではなく、かつて存在した音楽を再解釈することで、新しい音楽を生み出しています。

映像コンテンツの分野においても、2000年頃から、“物語"の枯渇は、深刻に成っています。

映画は、興業上の理由などから(1日に4、5回上映したいため)90~120分が一つの作品の尺(時間)となっていました。

テレビドラマもCMや放送局の事情の理由から40~50分×8~12回が一般的な長さとなっています。

そのため、この長さに合った“物語"は、語り尽くされたと考えられていました。

しかし、インターネットの世界的普及と回線のブロードバンド化により、オンデマンドでの動画のストリーミングの可能性が増えることで、状況は一変してきています。

Youtubeによって数分程度の映像コンテンツの配信が可能になり、同時に国境を超えた配信も可能なっています。

世界的にテレビの普及率は、高いものの、テレビによる放送というものは、国境を越えることができません。

しかし、インターネットを使えば、時間の制約、国境の制約、料金徴収の制約から解放されます。

実際、この点を利用してフールー、ネットフリックスは、世界的成功を収めています。アマゾン、グーグル、アップルなどのICT企業やソニーなどの映画企業もインターネットでの動画配信事業に力を入れ始めています。

AIの進化により、世界的に労働時間が短縮され、余暇に使える時間が増えることが予想される今後において、映像コンテンツのビジネスチャンスは、更に拡大されることが予想されています。


CINEMA & THEATRE #038

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