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「世界の映画史」シリーズの概要 後編 (11)~(20)
  – 英国/フランス/イタリア/ドイツ/ロシア/南米/日本/韓国/中国/インド/中東 | CINEMA & THEATRE #049
2023/09/18 #049

「世界の映画史」シリーズの概要 後編 (11)~(20)
– 英国/フランス/イタリア/ドイツ/ロシア/南米/日本/韓国/中国/インド/中東

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KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


11.ジャンル映画の魅力

第11回ではいくつかのコラムに分けて、いわゆる"ジャンル映画"を取り上げます。“ジャンル映画"とは、大衆を想定した大作映画や定義が曖昧な“ドラマ映画"とは違って、ある特定のジャンルやそのジャンルのファン層を想定して製作された映画のことです。代表的なジャンルにはギャングスターなどの活動を取り上げた“クライム映画/マフィア映画"、凄腕の泥棒のグループが強盗を起こす“ハイスト映画"、主人公が過去から逃れるために車の旅に出る“ロード・ムーヴィー"、人間が大自然の中で生き延びようとする“サヴァイヴァル映画"などがあります。

また、SF映画やホラー映画も根強いファン層が存在するジャンルです。SF映画には宇宙を舞台にした作品もあれば、例えばタイム・スリップなどの科学技術をテーマにした作品もあるなど、多くのサブジャンルが含まれます。ホラー映画も同様で、殺人鬼が無差別に人を殺す“スプラッター系"の作品もあれば、ゾンビ映画のようなSF寄りのものもあります。視聴者を精神的な恐怖に追い込む“サイコ・スリラー"というタイプの映画も人気があります。また、こういったジャンル映画の多くは低予算で製作されるものが多く、いわゆる“B級映画"や、商業的には不発に終わるが後に信者を生み出す“カルト映画"が多いことも特徴的です。

コメディ映画もハリウッドの人気の映画ジャンルです。例えどんなに優れた作品でも、コメディは広くいうと“ドラマ映画"とは違う“娯楽映画"に分類されるため、アカデミー賞の作品賞を受賞することはまずありません。コメディ映画の中でも、心が温まるような作品もあれば、ギャグを中心とした“おバカ系"、風刺的な要素の強い"パロディ映画"、男女関係を中心とした “ラヴ・コメ"などのサブジャンルがあります。いわゆる“青春映画"の多くにもコメディの要素が含まれています。

また、20 世紀前半のハリウッドでは、ミュージカルは娯楽映画の定番とされていました。20世紀後半はより“リアル"な作品が主流となり、ファンタジー的なミュージカル映画は現在は特殊的なジャンルという位置付けになっています。ディズニーなどが製作するアニメイション映画の多くがミュージカルであることから、子供向けの映画というイメージが定着しました。

子供向けの映画でいえば、アメコミを映画化した作品は80年代~90年代から数多くの作品が製作されてきました。2000年代以降はマーベル・スタジオやDCなどの作品が興行的に大成功を収め、今やスーパーヒーロー映画は娯楽映画の主流になったとさえいえるのではないでしょうか。一方、ティム・バートンの『バットマン』やクリストファー・ノーランの『ダーク・ナイト』などの大人も楽しめる作品は、映画ファンや評論家の間でも高い評価を受け、“大人向け"のスーパーヒーロー映画というジャンルを開拓しました。

そしてハリウッドは歴史的な事件や実話に基づいた作品を数多く製作してきました。戦争がもたらす苦しみをリアルに描いた戦争映画もあれば、歴史を美化した時代劇や伝記映画も定番のジャンルです。ウォーターゲート事件を調査したジャーナリストを題材とした『大統領の陰謀』や環境運動家の葛藤を描いた『エリン・ブロコビッチ』などのようなスケールは小さいものの心に残る優れた作品も多く存在します。こういった映画の延長として、ドキュメンタリー映画もこの回で取り上げます。


12.ハリウッドと英国の映画業界の関係性

第12回では、ハリウッドと英国の映画業界の様々な接点について紹介します。例えば映画史最大のアイコンともされるチャーリー・チャップリンは、英国で生まれ育った後、1910年代後半からハリウッドのサイレント映画や“トーキー"に数多く出演し、世界的なスターとなりました。しかし、40年代には政治的な主張、浮気問題がメディアに取り上げられたことによってイメージ・ダウンしました。更に50年代にはいわゆる“赤狩り"によってハリウッドではブラックリストに挙げられ、ついにはアメリカを追い出されました。その後はスイスを拠点に活動しました。

他にもアルフレッド・ヒッチコックを筆頭にハリウッドで成功した英国出身の監督や、スタンリー・キューブリックのように英国を活動の拠点としたアメリカ出身の監督を取り上げます。

また、アメリカのアイコンを演じた英国の俳優や、英国のアイコンを演じたアメリカの俳優も取り上げます。近年ではウェールズ出身のクリスチャン・ベールがアメコミのスーパーヒーローのバットマンを演じて高い評価を得ました。一方、変幻自在の名女優であるメリル・ストリープはアメリカ人でありながら、“鉄の女"として知られるマーガレット・サッチャーを演じてアカデミー賞の「最優秀女優賞」を受賞しました。


13.英国/フランス/イタリアの映画

第10回では、英国、フランス、そしてイタリアの映画を取り上げます。英国からは『アラビアのロレンス』などの優れた歴史映画が多く製作されている一方で、『007』『モンティ・パイソン』『ハリー・ポッター』など世界的に人気の映画シリーズが生み出されています。

フランスからは映画の創生期に多くの技術を開発し、“世界初の職業映画監督"とも言われているジョルジュ・メリエスを紹介します。また、第二次世界大戦後にハリウッドの作品がヨーロッパに輸入されるようになったことによって、映画制作会社での下積み経験をせずに、いきなりデビューした若い監督たちが現れました。ジャン・リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、エリック・ロメールなどはそれまでの映画製作の常識を覆したことから“ヌーヴェル・ヴァーグ"と呼ばれました。彼らの作風や情熱は世界の映画製作者に強い影響を与え、 “アメリカン・ニュー・シネマ"や日本の“ヌーヴェル・ヴァーグ"が生まれるきっかけとなりました。

イタリアからは、“ネオ・レアリズモ運動"の騎手とされ、世界的な映画の巨匠とされるロベルト・ロッセリーニやフェデリコ・フェリーニを取り上げます。イタリア製の西部劇“マカロニ・ウェスタン"のブームを巻き起こしたセルジオ・レオーネについても紹介します。


14.その他の世界の名作

第14回では、ドイツ、ポーランド、ロシア、スペインなどの映画監督やその作品を取り上げます。ドイツでは、フランスの “ヌーヴェル・ヴァーグに強い影響を受けたライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、ヴェルナー・ヘルツォーク、ヴィム・ヴェンダーズらが“ニュー・ジャーマン・シネマ"と呼ばれるムーヴメントを形成しました。 彼らの低予算な映画作品は世界のアート・フィルムのファンを魅了しました。

また、メキシコ出身の“スリー・アミーゴス"(3人の仲間)とも称されるアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、アルフォンソ・クアロン、ギエルモ・デル・トロもこの回で取り上げます。今も映画界を牽引するこの3人の作品は、映画撮影の技術を大きく進化させただけでなく、評論家の評価と商業的な成功も得ている、ハリウッドでは珍しい存在です。

他にもオーストラリア出身のジョージ・ミラーなどの監督も紹介します。ミラー氏はオーストラリアを舞台とした『マッド・マックス』シリーズで知られ、最新作の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は早くも21世紀のアクション映画の最高傑作の1つといわれています。


15.日本の映画

CINEMA & THEATRE ではこれまでも日本の映画監督を何度か取り上げてきましたが、「世界の映画史」シリーズでは、日本映画史の全体像と、ハリウッドやヨーロッパの映画界との接点や、日本独自の映画文化について紹介します。まずは日活、東宝、東映、松竹など、日本の映画史を作り上げてきた大手映画製作会社を取り上げます。

また、黒澤明や小津安二郎らの作品によって日本映画が世界で認められた経緯や、フランスの“ヌーヴェル・ヴァーグ"に影響されて立ち上がった日本の若手映画監督や、日本アート・シアター・ギルドが製作した良質のアート系映画についても取り上げます。

他にも世界三大映画祭などで認められた今村昌平、北野武、是枝裕和らにも注目します。一方、『寅さん』シリーズに代表されるような、いかにも日本らしい人気の映画シリーズも取り上げます。

近年では漫画やアニメ、テレヴィ・ドラマの映画化が主流となり、完全にガラパゴス化した日本の映画産業についても言及します。


16.日本の映画人

第16回では、日本の映画界が支えてきた映画監督、プロデューサー、脚本家や、代表的な女優や男優を取り上げます。また、興行収入ランキングから見えてくる邦画の現状についても考えます。他にも、淀川長治や町山智浩など、日本の映画界を盛り上げてきた著名な映画評論家や、東京のミニ・シアターの存在についても紹介します。


17.アジア/インド/ 中東の映画

第17回では、アジアや中東の映画を取り上げます。アジアからは、『HERO』や『レッドクリフ』など中国の時代劇や武俠映画や、『ポリス・ストーリー/香港国際警察
』など香港発のアクション映画を紹介します。中国や香港の映画の文化は、ジャッキー・チェンやジェット・リーなどの俳優や、ジョン・ウーなどの監督の活動によって、ハリウッドにも進出し、アメリカのアクション映画に大変革をもたらしました。

また、韓国からは、『オールド・ボーイ』などの復讐劇で知られるパク・チャヌクや、2020年のアカデミー賞で外国映画として初めて作品賞に輝いた『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノを取り上げます。

他にも、インドのムンバイを拠点としたインド映画産業全般を指す“ボリウッド"についても紹介します。インド映画は、アメリカやヨーロッパではあまり注目されないものの、東南アジアや中近東、アフリカの一部など海外で生活するインド人の間でも大人気の文化です。英国のダニー・ボイルは、2008年にボリウッド映画を強く意識した『スラムドッグ$ミリオネア』で世界の映画賞を総なめする大ヒットを博しました。


18.世界の映画賞/映画祭

第18回では、世界の映画賞や映画祭を取り上げます。アメリカからはアカデミー賞やゴールデングローブ賞はもちろんのこと、全米映画批評家協会賞や放送映画批評家協会賞など、映画批評家が授与する名誉ある賞を紹介します。また、世界的な賞とされる英国のアカデミ賞であるBAFTA賞や、日本国外ではほとんど知られていない日本アカデミー賞についても言及します。

映画祭については、世界三大映画祭とされるベルリン国際映画祭、カンヌ国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭はもちろんのこと、カナダのトロント国際映画祭やスペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭や、アメリカのインディペンデント系の映画祭であるトライベッカ映画祭とサンダンス映画祭なども取り上げます。


19.ストリーミングの時代の幕開け

近年では映像配信サーヴィスが急速に発展を遂げ、中でもNetflixは現在毎週のように新しい映画作品を発表しています。アルフォンソ・キュアロンの『ローマ』のように、一部映画賞を受賞するほど評価される作品も出ています。ただでさえ映画館離れが注目されていた中、新型コロナウイルスの感染拡大によって観客の足はますます映画館から遠ざかり始めています。

世界の大手映画会社は、今年の目玉となるはずだった新作映画の発表を次々と遅らせ、一部の作品に関してはオンラインでのみの配給を試みるほど、切羽詰まった状況となっています。また、世界の映画祭も次々と中止となった結果、インディペンデント映画の監督たちはNetflixなどのプラッドフォームで新作を発表するなど、自分たちの作品を世に送り出すチャンネルを必死に模索しています。

第19回では、映画業界の現在とこの後についても言及します。


20.DIG TOKYO編集部のオススメの映画

最終章では、DIG TOKYOの編集部がオススメの映画作品を、ジャンルや時代を問わず紹介します。


エピローグ

後半で取り上げるヨーロッパやアジアなどの映画は、概してハリウッドに比べて産業そのものが小規模であることから低予算のものが多く、商業映画とは違う路線をいっていることが特徴的です。ヨーロッパの映画は、芸術としての長い歴史があることから、大人も楽しめるような、芸術性に富んだ作品が多く発表されており、監督たちの強いヴィジョンが表現されています。

また、中国や韓国、日本などではそれぞれ独自の映画文化が発達してきました。中でも韓国の映画業界は日本の映画産業に比べて後発ではあるものの、日本が国内市場ばかりに集中する中で果敢に世界に進出するチャンスをつかみました。また、中国はそもそも巨大なマーケットで、近年のハリウッド映画が世界的にヒットするためには中国企業がスポンサーにつくことが必要不可欠となったほど影響力を持つようになりました。

ハリウッドとその他海外の映画産業の違いを象徴しているのが、“映画"を指す言葉です。ハリウッドが製作するのは“movies"(商業目的の映画、娯楽映画)であるのに対して、ヨーロッパなどで製作されるのは“cinema"(芸術作品としての映画)と表現されます。アメリカ英語では “let’s go to the movies"というのに対して、ヨーロッパでは “let’s go to the cinema" と言います。そもそも“cinema"はフランス語の“cinématographe"に由来しており、ルーツをたどるとギリシャ語で“動き"を意味する“kinema"がその語源です。映画のルーツはヨーロッパですが、映画文化をエンタメ・ビジネスとして発達させたのがアメリカなのです。

その点では、日本の老舗映画雑誌である「キネマ旬報」は由緒正しい映画メディアといえるでしょう。しかし世界に取り残された今の日本の映画産業が生み出す作品は、残念ながら、“kinema"でも“cinema"でもないのが実情です。「世界の映画史」シリーズを通して、日本の映画界の立ち位置や今後についても考えていきたいと思います。


CINEMA & THEATRE #049

「世界の映画史」シリーズの概要 後編 (11)〜(20) – 英国/フランス/イタリア/ドイツ/ロシア/南米/日本/韓国/中国/インド/中東


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