メイン・コンテンツ
検索フォーム
英語に見る多様化する結婚と夫婦の形
  - Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』 #WeddingFail (2019/06/28放送) | LANGUAGE & EDUCATION #025
Photo: ©RendezVous
2022/06/13 #025

英語に見る多様化する結婚と夫婦の形
- Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』 #WeddingFail (2019/06/28放送)

columnist image
KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.今回のテーマ、#WeddingFailについて

今回のテーマは“ジューン・ブライド"にちなんで#WeddingFail、つまり結婚式場で起きた様々なハプニングや失敗を取り上げました。

役立たずな花婿の失敗、いい気になった司祭の失敗、フリードリンク目当ての出席者の失敗、ブーケ・トスにムキになりすぎた花嫁の付き添え人の失敗。また、そんなハプニングが起きない、おとぎ話のような完璧な結婚式を実現するために神経を擦り減らす#Bridezilla(「花嫁」を意味する“bride"と怪獣の“Godzilla"を合わせた造語)の叫び声も紹介しました。

そもそも“fail"は「失敗する」「しくじる」を意味する動詞として主に使われ、名詞は通常“failure"です。しかし、最近は「恥ずかしい失敗」「大失態」を意味するスラングの名詞として用いられることが多くなりました。例えばNGファッションを着ている人がいればそれは“fashion fail"ですし、ある企業のマーケティング・キャンペインがすごい反感を買ったとしたらそれは“marketing fail"になります。そして日本の看板や標識や商品によく見られる“Engrish"はそういう意味では“English fail"と言えるでしょう。SNSでは、こういった“fail"を共有することが人気となっています。

LANGUAGE & EDUCATION #022では、人々は何かを記念するために写真を撮ってSNSにアップしているのか、それともSNSにアップする写真が欲しいがために何かをするのかが分からない時代になってきていると書きました。“インスタ映え"という言葉が2017年の流行語大賞になったことが示すように、SNSを使用しているうちに、「もっとカッコいい写真を撮らなきゃ」と自分を追い込むようになります。インスタグラムやSNSへの投稿を念頭に、あの手この手を使っておしゃれな自分や優雅な生活を演出した写真を撮影するようになります。また、友達やフォロワーよりも多くの“いいね"を稼ぐことで、自己承認欲求が満たされる感覚を覚えている人も多いのではないでしょうか。プロポーズの瞬間や結婚式の様々な場面は、そうした目的のためには最適なシャッター・チャンスです。

このことを誰よりも理解しているのが、リアリティ番組とSNSの女王として知られるセレブのキム・カーダシアンなのではないでしょうか。彼女は、2014年にラッパーのカニエ・ウェストと結婚しましたが、写真家のアニー・リーボヴィッツに結婚式の写真をお願いしたものの実現せず、式の数日前にインスタグラムで見つけた22歳の英国人の写真家に依頼することにしました。結局、大量の花が施されたディスプレイの前で2人がキスをした1枚の写真を“アニー・リーボヴィッツ風"に見せるために、カーダシアンはハニームーン期間中、4日間をかけてその1枚を自ら加工したらしいのです。(そのことが明らかになったのは、後日にカニエがあるイヴェントで暴露してしまったからです。)

皮肉なことに、結婚式もSNS用の写真撮影も、“完璧"を目指して頑張りすぎると、結局は“fail"に終わってしまうようです。人生にはハプニングはつきものです。それをできるだけないように準備するのも大事ですが、それより大事なのが、ハプニングが起きた時にそれをいかに受け入れ、楽しんで処理できるかがキイとなるのでしょう。#WeddingFailに関しては、式場のハプニングを笑い飛ばせるかどうかが、新郎新婦の将来を物語っているのではないでしょうか。


2.結婚にまつわる英語と日本語

次に、結婚にまつわる様々な英語表現と日本語表現を見てみたいと思います。

まずは相手探しから。「運命の人」は“soulmate"と言い、理想の男性や、夫にするのにふさわしい男性のことを“Mr. Right"、理想の女性や妻にするのにふさわしい女性のことを“Mrs. Right"と言います。また、お似合いのカップルのことを“match made in heaven" (天が引き寄せたような2人)、や“made for each other" (お互いのために作られたかのような)と表現します。一方で「~の価値がある」「~にふさわしい」を意味する“deserve"を用いて “they deserve each other"と表現します。日本語で言うところの「割れ鍋に綴じ蓋」という意味になります。

“Mr. Right"あるいは“Mrs. Right"が見つかれば、次はプロポーズです。(名詞は正しくは“proposal"です。)一般的なのが“propose to..."(「...にプロポーズする」)ですが、そのほかにもよりフォーマルな“ask for someone’s hand in marriage"(相手に結婚の承諾を求める)や、よりカジュアルな“pop the question"(結婚の申し出をする)という慣用句があります。逆に、惚気話をする友達やカップルをからかいたい場合、アメリカ人はよく “do I hear wedding bells?" (「結婚式場の鐘が聞こえる気がするけど」、つまり、「近々結婚するの?」 )と言います。一方で日本人は「惚気話はもうお腹いっぱい」という皮肉を込めて「ご馳走様」と言います。

「結婚する」は一般的には “get married"ですが、他にも結婚式で誓いの言葉をいうことから“say I do"とも表現します。また、日本でも「結ばれる」と表現されるように、英語でも“tie the knot"や、よりカジュアルな“get hitched"と言う表現があります。“knot"は「結び目」のことで、“hitch"は「結びつける」「繋ぎとめる」という意味です。そして番組内でも伝えたように、“ヴァージン・ロード"という表現は和製英語です。“Virgin"にはかつて「未婚の女性」という意味はありましたが、その使い方は今では時代遅れとされ、現代における主要の意味は「処女」「童貞」のことです。つまり、 “ヴァージン・ロード"を直訳すると「処女の道」になるのです。該当する正しい英語の表現は“aisle"(通路)です。

そもそも、日本における結婚式のスタイルは、神社で行う伝統的な「神前式」、宗教にとらわれずゲストに証人になってもらう「人前式」、そしてキリスト教の教えの基で牧師が司会を務める「教会式」(あるいは「チャペル式」)の主に3つありますが、結婚式と聞いて現在の日本人が通常思い浮かべるのは3番目の「教会式」でしょう。しかし、キリスト教徒ではない多くの日本人にとっては、そこには宗教的な理由や思い入れのかけらもないのではないでしょうか。“ヴァージン・ロード"という呼び方も日本のブライダル業界が「花嫁は純粋無垢であるべき」という考えから名付けたらしいですが、婚前交渉をいけないとするキリスト教の本来の教えからすると、とんちんかんなネーミングとしか言いようがありません。しかも、その“ヴァージン・ロード"の先に立つ“牧師"風の人はほとんどが、アルバイトの素人の“ガイジン"だそうです。多くの日本人の場合、式よりも披露宴を重視している傾向があるようなので、教会式のセレモニーにどのような夢を重ねているのか、僕には不思議でしょうがないです。


3.多様化する夫婦の形

次は、結婚や夫婦のあり方にまつわる様々な英語表現を紹介します。

最も単純であるようで実は最もややこしいのが、“traditional marriage”という概念でしょう。例えば、日本における“traditional marriage”は日本の伝統的な夫婦関係を指します。夫の場合は「亭主関白」、妻の場合は「良妻賢母」のイメージが伴います。 あるいは、“arranged marriage”(「お見合い結婚」)という意味で用いられることもあるでしょう。より広義に捉えると、「個人」を中心としたアメリカ的な結婚ではなく「家族」を中心とした日本的な結婚ということになります。

一方で、アメリカでは意味合いが違ってきます。LANGUAGE & EDUCATION #024ではLGBTQ+運動によって恋愛の形が多様化していることを取り上げました。その反動として、同性愛者の結婚と区別するために、異性愛者同士の結婚を ““traditional marriage”(伝統的な結婚、古式ゆかしい結婚式)と呼ぶ動きが生まれています。この場合、“traditional”という言葉には同性愛者の結婚に反対しているニュアンスが含まれます。

“traditional marriage”と似ている表現に、“conventional marriage”というものがあります。「従来の形の結婚」「従来の夫婦関係」を意味するこの言葉は、一夫一婦制の欧米においては、死が2人を分かつまで愛し合うことを誓う関係を指します。一方で、金融的・政治的な利益を理由に(場合によっては当人たちの意向を無視した)結婚のことを“marriage of convenience”(便宜上の結婚)と言います。ここもまたややこしいことに、欧米人からすると、日本に見られるような「家族」を中心とした従来の結婚の形こそ“marriage of convenience”となるのでしょう。

しかし、近年欧米では、何かしらの個人的な理由、政治的な理由、道徳的な理由から“traditional marriage”や“conventional marriage”という概念に同意できず、社会の固定概念への反抗として敢えて結婚しないカップルも増えてきています。1対1の真剣な恋愛関係を維持しているものの、法律上は結婚していないカップルの場合、相手のことを“husband”や“wife”と呼ぶのではなく、“partner”や“life partner”と呼ぶことが多いようです。

そもそも、一夫一婦制や1対1の恋愛関係のことを、「1つの」を意味する“mono”と「結婚」を意味す接尾語“-gamy”を合わせて“monogamy”といい、それに対して複婚制のことを“polygamy”といいます。アメリカ合州国では、基本的に複婚制は違法となっていますが、近年は“monogamy”の形にとらわれない恋愛や夫婦関係が増えてきています。例えば、カップルが互いに第三者と性的関係を持つことを認める関係を“open relationship”といい、夫婦の場合は“open marriage”といいます。そして時と場合によって第三者と性的関係を持つことを例外的に認める関係のことを“monogamish”といいます。(接尾語の“-ish”は「やや〜の」「〜っぽい」「〜くらい」という意味です。) 国家としての歴史が短いアメリカだからこそ、“伝統”に疑問を抱き、それに取って代わる新しい恋愛や結婚の形を探る人が多いのでしょう。


4.僕の#WeddingFail

僕は番組の冒頭でも述べたように、大学卒業後すぐに日本に来たため、アメリカで友人の結婚式に出席したことはありません。しかし、日本の結婚式に出席した時に、今でも思い出すだけで死ぬほど恥ずかしい#WeddingFailを犯したことはあります。数年前に、アメリカで生まれ育った日本人の女性の友達が、日本人の男性と結婚した時のことです。

その友達は日本人でありながらも、どちらかというとアメリカ人のノリをしている人で、結婚式には僕を含め、外国人も多く出席する予定でした。そのため、僕は服装や作法の面で、どこまで“traditional"な結婚式を予想すればいいかが分からなくて悩んでいました。服装は、Scarletと相談の上、定番の黒いスーツにシルヴァーとネイヴィーのレジメンタルのネクタイを合わせることにしました。そしてやはり日本の結婚式ではご祝儀をあげる習慣があることは知っていたので、その準備もした方がいいと思いました。新札をどこで手に入れたらいいかわからなかったので、BigBrotherに聞いたところ、結婚式場のフロントで新札に変えてもらえることを教えてくれました。

当日会場に早めにいき、担当のスタッフに使い古した1万円札を2枚を渡し、新札にしてもらうようにお願いしました。するとそのスタッフの女性は一瞬困惑した表情をみせ、「この金額でお間違い無いでしょうか?」と聞いてきました。僕は少し違和感を覚えながらも「お願いします」と答えました。しかし、新札を渡される時も、再度、「本当に2万円でお間違いないでしょうか?」と聞き直しました。確かに、2万円は少ないと思われるだろうな、と思いながらも、当時はとても3万円とか4万円を出せる金銭的余裕がなかったので、僕はその1万円の新札2枚を受け取り、Scarletが予め準備してくれた熨斗袋に入れ、 受付へ向かいました。

この話を後日BigBrotherにしたところ、大爆笑されました。ご祝儀に、2で割り切れる2万円は、縁起が悪いというのです。割り切れないと言うことから、「いつまでも2人が別れないように」を意味する奇数の金額をあげるのが作法だと説明されました。いろいろと調べてみると、そもそも古代に中国から日本に伝わった「陰陽」の思想がその背景にあるとのこと。偶数は「陰」(つまり不吉)とされ、奇数は「陽」(つまり吉)とされるので、おめでたい場ではなるべく偶数を避けるようにするのがしきたりだそうです。それは日本社会の様々なところで見られることに気づくようになりました。例えば子供の成長を祝う「七五三」も、宴会などを締める時の「一本締め」や「三本締め」も奇数となっています。

今回紹介した#WeddingFailでは、誓いを交わす場面で花婿が花嫁の名前を間違えたと言うツイートがありましたが、日本では数字を間違えないように気をつける必要もあるのです。


5.今回の衣裳について

「グローバルスタイル」のブラックのスーツ

「グローバルスタイル」のブラックのスーツ
この商品は、以前紹介したので LANGUAGE & EDUCATION #003を参照してください。

「ディファレンス」のピンクのボタン・ダウン・シャツ

「ディファレンス」のピンクのボタン・ダウン・シャツ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #008を参照してください。

「ラルフ・ローレン」のシルヴァーのボウタイ

「ラルフ・ローレン」のシルヴァーのボウタイ
基本的にスタジオではノー・ネクタイにしているのですが、去年何度かボウタイにチャレンジしてみて、とても気に入ったので、新年1本目もボウタイをすることにしました。シルヴァーの生地に、「ラルフ・ローレン」のロゴである馬にまたがった騎手(ポロ選手)の柄が施されています。

白いカフリンクス

白いカフリンクス
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #014を参照してください。

「パラブーツ」の黒い『アヴィニョン』

「パラブーツ」の黒い『アヴィニョン』
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #006を参照してください。

「タビオ」のえんじ色のロング・ソックス

「タビオ」のえんじ色のロング・ソックス
こちらの商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #018を参照してください。

「ゾフ」の黒いメガネ

「ゾフ」の黒いメガネ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #006を参照してください。

LANGUAGE & EDUCATION #025

英語に見る多様化する結婚と夫婦の形 - 『世界へ発信!SNS英語術』 #WeddingFail (2019/06/28放送)


Page Top