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LGBTQ+関連の英単語の最新事情とニュアンス
  - Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』 #Stonewall50 (2019/06/21放送) | LANGUAGE & EDUCATION #024
Photo: ©︎Ricky Wu / Rendezvous
2022/05/30 #024

LGBTQ+関連の英単語の最新事情とニュアンス
- Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』 #Stonewall50 (2019/06/21放送)

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KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.今回のテーマ、#Stonewall50について

1969年6月28日の「ストーンウォールの反乱」を記念して、アメリカでは6月はLGBTQ+の“プライド月間"とされています。今回番組では#Stonewall50、つまり「ストーンウォールの反乱」から50年を記念して投稿されていたツイートを紹介しました。

去年『世界へ発信!SNS英語術』でプライド月間を取り上げた#Prideの回もそうでしたが、LGBTQ+のコミュニティについて語る際、関連する言葉には注意が必要です。(LGBTQ+の意味や、“gay"や“come out of the closet"のニュアンスについては、LANGUAGE & EDUCATION #007を読んでください。)

例えばLGBTQ+の“Q"という表現には「セクシュアル・マイノリティに属している人」を指す“queer"や「自分の性的指向が定まっていない人」を指す“questioning"を意味します。“Queer"はもともと「奇妙な」「風変わりな」という意味で、ゲイに対する侮辱的な差別用語でした。しかし近年は、LGBTQ+の人々が肯定的な意味で捉え直し、自ら用いるようになりました。だからといって、LGBTQ+ではない人が“queer"という言葉を不用意に用いていいかというとそういう訳ではありません。こういった言葉の歴史や過去と現在におけるニュアンスを理解していないと、自分が悪意はないのに失言や差別的な発言に繋がりかねないのです。今回番組では、鳥飼先生がその辺りのニュアンスについて少し解説してくれました。


2.英語におけるLGBTQ+関連の用語の最新事情とニュアンス

LGBTQ+の運動の中心的な主張の1つは性的指向(sexual orientation)や性(gender)の多様性(diversity)です。異性愛が唯一の、あるいは最も望ましい性的指向だとする“ヘテロノーマティヴィティ"(異性愛規範)や、男性と女性がどのように行動し、どうあるべきかの“ジェンダー規範"へ疑問を投げかけようとしています。

今回番組で紹介した、ストーンウォールの反乱で中心的な役割を担ったトランスジェンダーの活動家のマーシャ・P・ジョンソンやシルヴィア・リベラの話を熟慮する中で、「ジェンダーとは何かということ」を強く感じました。

例えば、トランスジェンダーの方の場合の三人称代名詞はhe(彼)なのかshe(彼女)なのかということです。複雑なことに、ジョンソンとリベラについての英語のWikipediaの紹介文を読むと、2人がトランスジェンダーであることは明記されているものの、記事を通して“she"が用いられており、「~として生まれて」というような説明文がどこにも見当たりません。プライド月間の運動を始め、LGBTQ+の人々の活動が実り、生まれた時に診断された身体的性別ではなく、その人の性自認を尊重し優先する傾向が欧米では近年見られるようになっています。 “彼ら"“彼女ら"の声が社会だけでなく英語表記についても変化を与えてきているのです。

また、「トランスジェンダー」に対して「トランスジェンダーでない」ことを指す言葉がないことは、トランスジェンダーが異常であるかのように扱っている、という主張があります。そういった訴えを受けて、近年では“cisgender"(シスジェンダー)という言葉が欧米では使われるようになりました。ラテン語で“Trans-"は「向こう側の」、“cis-"は「こちら側の」という意味で、“cisgender"はつまり生まれた時に診断された身体的性別と自分の性自認が一致している人のことを指す言葉です。

ただ、この表現に対しては批判の声もあり、しかもそれは意外にもリベラル派や“LGB"(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル)からの批判の声なのです。その理由は、人をトランスジェンダーとそうでないシスジェンダーに分けた時、“LGB"の人々は後者のシスジェンダーに分類されることが多いということで、LGBTQ+の中で対立関係が生まれるからです。つまり、LGBTQ+の運動は、人の性的指向は異性愛と同性愛の二者択一ではなく、多種多様であることを訴えているはずなのに、(生物学上の)性はトランスジェンダーかシスジェンダーの二者択一であるかのように識別することは、LGBTQ+運動を展開する中で果たして有効なのか、という疑問があるからです。


3.英語における代名詞と敬称の今

そもそも前述のhe/she問題はLGBTQ+に限ることではなく、英語における長年の課題とされてきました。かつて単数の人称代名詞として“he"が使われることが多かったのですが、それではやはり男性の優位性を表しているニュアンスがあるということで、僕は学校では “he or she"を使うように(あるいは代名詞の代わりに名前を使ったり、そもそも “he"や“she"を必要とする文脈にしないように)教わりました。人によっては、これを“she or he"と書いたり、あるいは“s/he"というふうに書く場合もあります。しかし、実際にはこのどれもが文章にある程度の堅苦しさとぎこちなさを来たします。

そこで近年は“they"が一般的になってきています。“They" は「彼ら」、つまり複数の人称代名詞として主に知られているので、“he"や“she"の代わりに使うことは「文法的におかしい」という意識が、僕が子供だった頃は根強かったです。しかし、言語学者によると実際には西洋史の中世から、シェイクスピアを始め著名な作家が“they"を三人称単数通性の代名詞として用いることはあったとされています。今では “he"や“she"に代わる“ジェンダー・ニュートラル"(日本語で言う“ジェンダー・フリー")な表現として一般的に用いられるようになりました。もっといいますと、“they"に共感し、三人称の代名詞を用いて自分について話すときは、he(彼は)やshe(彼女は)ではなくtheyを使って欲しい、と名乗り出て希望する人も、最近欧米では増えてきています。

英語における一般的な敬称には Mr. / Mrs. / Ms. があります。男性は “Mr."、女性の場合かつては “Mrs." (既婚)と“Miss" (未婚)を使い分けていました。しかし、女性の場合のみ区別するのは良くないということで、今では既婚でも未婚でも“Ms."が一般的になりました。

また、新たな問題としては、トランスジェンダーやノンバイナリー・ジェンダー(男性・女性の二者択一に収まらない性自認)の人はどう呼べばいいのかということがあります。そこで生まれたのが、“Mx."という敬称です。( “マクス"あるいは“ミックス"と発音します。)この表現は現在、特に英国で広く認められており、アメリカではあまり広まっていないものの、基本的に英語辞書には掲載されるほど普及しています。

このように、欧米人の性的指向や性に対する認識が多様化する中で、人々のアイデンティティを表す表現も並行して多様化しているのです。因みに、“Ms." は1901年ごろに生まれた言葉で、 (アメリカ合州国において英語の1つの権威である)「ニューヨーク・タイムズ」紙がそれを正式に取り入れたのは1986年でした。一方、“Mx."は1970年代後半にできたという説が有力で、2016年にはアメリカを代表する『メリアム=ウェブスター辞典』に追加されました。(「ニューヨーク・タイムズ」紙はそれについての記事を書いているものの、まだ正式には取り入れていません。)


4.アメリカ社会において声を上げない人は“人"ではない

ここまで、LGBTQ+の人々が自分と自分のアイデンティティを表すために使う様々な表現を紹介してきました。多種多様な人のあり方に合わせてそれだけの言葉があると考えると、英語を学習する人からすると困惑もあるでしょう。実際に、アメリカのネイティヴも「参った」という人が多いのが実情です。それでも、性的指向や性を表す様々な言葉あり、それぞれのニュアンスが違うことと、その背景にある、個人を尊重するアメリカ人のあり方を理解することが大切です。

僕の中で昔から気になっているのが、アメリカ人の自己紹介の仕方です。“My name is Kazuo Peña. Call me Kazoo, like the wind instrument" (僕はカズオ・ペニャと言います。カズーと呼んでください。例の膜鳴楽器と同じです。) のような具合で、自分はどう呼ばれたいかをあらかじめはっきり伝えます。その時に堂々と声に出して名乗れば、ほとんどの場合、アメリカ人はそれを尊重してくれます。

それは名前のみならず、自分とは何者か、アイデンティティの中核となる部分を伝える場合もそうです。自己紹介の時にトランズジェンダーの人が「“she"の呼んでください」とか、あるいは「私は自分のことをtheyという三人称代名詞で認識しています。なので、そう呼んでください」と言う人もいるでしょう。相手がそれを尊重してくれると、人間として認められている気分にさせてくれます。

このことを踏まえて、アメリカをはじめ、欧米に旅行したり、留学したり、ビジネスで行くことがある日本人に向けて、僕から1つアドヴァイスしたいことがあります。欧米人が日本人と接する時、よく困るのは、相手が自己紹介をする時、決まって当たり障りのない自己紹介をすることです。例えば、日本人は自分の趣味をあげるのが好きですが、それも、「映画鑑賞」や「読書」と言ったようなありきたりなことを言いたがります。あるいは、仕事一筋な日本人となると、下手すると「趣味は特にない」自己紹介する人もいるかもしれません。そうすると、欧米人の相手からすると、その人の印象は残らず、なかなか1人の「人間」として認識してもらえません。

アメリカ人は、求められた時に、あるいはチャンスがある時に、遠慮なく自分は何者かを名乗り、そこで自分という人間を表現した一言が言うことが求められます。そこでポイントとなってくるのかが、相手に自分をどのような印象を持って欲しいか、どのように覚えてもらいたいかの、良い意味での自己主張をすることなのです。そしてその自己を表現するためには、何より語彙と、その言葉のニュアンスを理解しておくことが大事なのです。声を上げない人、言いたいことのない人は、相手にされず、人間としても認めてもらえません。

LGBTQ+のコミュニティがプライド月間を通して様々なイヴェントや活動を行うのは、そうすることで、自分たちは無視することのできない存在、人間として認めざるを得ない存在となることを知っているからなのです。


5.今回の衣裳について

「ユニバーサル・ランゲージ」のグレイのダブル・ブレストのジャケット

「ユニバーサル・ランゲージ」のグレイのダブル・ブレストのジャケット
この商品は、以前紹介したので LANGUAGE & EDUCATION #006 を参照してください。

「KASHIYAMA the Smart Tailor」の黒いズボン

「KASHIYAMA the Smart Tailor」の黒いズボン
こちらは『KASHIYAMA the Smart Tailor 広尾店』でオーダーした黒いダブル・ブレスト・スーツです。

この生地は、黒地に黒いストライプが施されており、レヴェル的には最近オーダーしていた海外の高級生地とローエスト・プライスのもののちょうど中間くらいでしたが、仕立てはとてもよく、値段以上の見栄えです。

今回は、今までのクラシック・スタイルとは少し違うスーツを作ってみたいと思い、フィット感は今流行りのスリム・フィットにしてみました。シルエットがスリムであるだけでなく、ジャケットの丈とズボンの丈が少しだけ短くなっていて、今時な仕上がりになっています。個人的な感想としては、今時なタイトなシルエットはスタイリッシュではあるのですが、高品質なスーツの本来の着心地の良さを少し犠牲にしているような印象を受けました。

「西武渋谷」の黒いボタンダウン・シャツ

「西武渋谷」の黒いボタンダウン・シャツ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #022を参照してください。

「鎌倉カフス工房」の真鍮のカフ・リンクス

この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #024を参照してください。

「パラブーツ」の黒い『ランス』

「パラブーツ」の黒い『ランス』
この商品は、以前紹介したので LANGUAGE & EDUCATION #10 を参照してください。

「タビオ」の赤いソックス

こちらの商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #011を参照してください。

「ゾフ」の茶色いメガネ

「ゾフ」の茶色いメガネ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #007を参照してください。

LANGUAGE & EDUCATION #024

LGBTQ+関連の英単語の最新事情とニュアンス - 『SNS英語術』 #Stonewall50 (2019/06/21放送)


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