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“シンコ・デ・マヨ"に見るアメリカとメキシコの深い関係性
  - Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』#CincoDeMayo (2019/04/26放送) | LANGUAGE & EDUCATION #018
Photo: ©RendezVous
2022/03/07 #018

“シンコ・デ・マヨ"に見るアメリカとメキシコの深い関係性
- Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』#CincoDeMayo (2019/04/26放送)

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KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.今週のテーマ、#CincoDeMayoについて

今週のテーマは#CincoDeMayo、 “シンコ・デ・マヨ"でした。“シンコ・デ・マヨ"は直訳すると“5月5日"のことです。この日はアメリカをはじめ、メキシコ移民が多い国々において、メキシコの文化や伝統を祝う日となっており、パレードが開催されたり、メキシコ料理を食べたりします。僕が少年時代を過ごしたカリフォルニアの学校の食堂のこの日のメニューは、メキシコ料理一色となり、食堂の内装もメキシコ風にデコレイションされていました。

この祝日はもともと、1862年5月5日にメキシコ軍が、強力なフランス軍を奇跡的に撃退したことを記念したものでした。1521年から300年間に渡ってスペインに占領されていたメキシコは、1821年にようやく独立を勝ち取ります。しかし、その後、何十年もの政治の不安定性の末に、アメリカ・メキシコ戦争で敗北し、そこからようやく立ち直り、近代化を試みていた最中のことでした。当時のメキシコ大統領は、5月5日を祝日と宣言し、その勝利はメキシコ軍の士気を高め、国の結束をもたらしました。(しかし、その翌年には、フランス軍は再びメキシコの首都であるメキシコ・シティを侵攻し、占領します。1865年、アメリカは南北戦争が終わると、フランス軍に圧力をかけ始め、1867年までにフランス軍はメキシコから完全に撤退しました。)

現在のメキシコでは、5月5日は国の祝日に制定されておらず、プエブラなど一部の地域でしか本格的に祝われていません。それも“シンコ・デ・マヨ"という名称ではなく“El Día de la Batalla de Puebla"(プエブラの会戦の日)と呼ばれています。つまり、事実上、“シンコ・デ・マヨ"はアメリカ合州国の祝日なのです。歴史には“もし"はないのですが、メキシコ軍があの日負けていたとしたら、フランス軍が1年早くメキシコを占領し、南北戦争の行方もその後のアメリカ大陸の歴史も変わっていたかもしれない、と主張する歴史学者もいます。歴史の観点から見ると、“シンコ・デ・マヨ"はアメリカ大陸全体にとってもひとつの分岐点だったということなのです。

アメリカ人の多くは、小学校や中学校で、毎年5月5日にこういったメキシコとアメリカの歴史について学びます。しかし、一般のアメリカ人にとって“シンコ・デ・マヨ"は、こうした“たらればの歴史"に思いを馳せる日ではなく、実際には、タコスやテキーラなどメキシコ料理を飲み食いする日として捉えられているのが現実でしょう。1980年代に、ビール会社がこの祝日を商機とみて、積極的にプロモーションし始めたことがこうした習慣の大きな原因であるようです。アメリカ人というものは、酒を飲むための口実を見つけたがるものなのです。その証しとして、“シンコ・デ・マヨ"を“Cinco de Drinko"や“Drinko de Mayo"ともじって呼ぶ人もいます。(“drink"は「飲む」という意味の英語ですが、飲酒を指すことが多いです。また、語尾に“o"をつけることで、似非スペイン語風にしようとした表現です。)植民地化を目指したフランス軍をメキシコ軍が撃退したことを記念した日が、アメリカ人によってメキシコ文化が“私物化"される日になったことは、とても皮肉なことです。


2.メキシコとアメリカ合州国の、切っても切れない関係

今でこそ、こうしたイメージが強い“シンコ・デ・マヨ"ですが、アイルランド系アメリカ人が“セント・パトリックス・デー"を祝うように、アメリカ合州国で暮らすメキシコ移民やメキシコ系アメリカ人にとっては、“シンコ・デ・マヨ"という日は、自分達のルーツを祝う日でもあります。

その背景には、アメリカ大陸の波乱万丈な歴史があります。スペインの植民地であったメキシコは、1810年から独立戦争を起こし、1821年9月27日にようやく独立を勝ち取ります。その後、“メキシコ領テキサス"へのアメリカの入植者(“テクシャン")が増え、それらのテクシャンとそこに元々暮らしていたメキシコ人(“テハーノ")は、メキシコ・シティの中央集権体制への移行に反発しました。1835年に政治的・文化的な衝突はピークに達し、ついにテキサス革命を起こし、分離独立を宣言します。

1845年にアメリカ合州国がテキサス共和国を合併すると、それがアメリカ・メキシコ戦争(米墨戦争)の引き金となりました。しかし、わずか2年でアメリカ軍はメキシコ軍を破り、メキシコ・シティも攻め落します。1848年に調印されたグアダルーペ・イダルゴ条約によって戦争は終結し、メキシコは、カリフォルニア、ネバダ、ユタ、それにアリゾナ、ニュー・メキシコ、ワイオミング、コロラドの土地の大半をアメリカに割譲させられました。その対価としてアメリカはメキシコに1825万ドルを支払いました。

こういった歴史的背景があるので、アメリカ南西部の州にはメキシコ文化の影響はもちろん、スペイン植民地時代の影響も根強く残っています。“カリフォルニア"という州名も、そもそも16世紀初期のスペインの騎士道物語に登場する架空の島の名前であります。スペインのカトリック教会が宣教活動のために建てた21箇所の“ミッション"(伝道所)は、今でもカトリック信者に利用されると同時に、カリフォルニア州の人気の観光名所としても知られています。

また、テキサス州南部を中心に育まれた“テックス・メックス"という文化も注目すべきポイントです。この表現は、ナチョス、ハードシェルのタコスやブリトーなど、主にメキシコ風アメリカ料理を指す言葉として20世紀後半に普及しましたが、基本的にはメキシコとアメリカの要素を取り組んだ文化全体のことを指します。例えば、テキサス南部のルーツ・ミュージックとされる“テハノ・ミュージック"は別名“テックス・メックス・ミュージック"としても知られ、メキシコ系アメリカ人の間で大人気の音楽ジャンルです。その代表的なミュージシャンは、メキシコ系アメリカ人の歌姫・セレーナ(※2)や、アメリカのルーツ・ミュージックを発掘したことで知られるギタリストのライ・クーダー(※3)などがいます。

1848年にメキシコから割譲された際に、これらの地域に暮らしていた多くのメキシコ人は、そのまま、その土地に留まり、アメリカの市民になることを選びました。そのわずか1年後に、カリフォルニア州の(現在州都である)サクラメントの近くで金鉱が発見されると、“ゴールドラッシュ"といわれる一攫千金を求める人々によって、カリフォルニアの人口は急増しました。アメリカ東部やメキシコ、ひいては世界各国から採掘者が殺到したのです。それに伴い人種的な軋轢も生じ、メキシコ系アメリカ人に対するリンチ殺人も多発しました。そんな中、メキシコ軍がフランス軍を撃退した1862年の“シンコ・デ・マヨ"は、当時のメキシコ系アメリカ人にとって大きな支えとなりました。そして20世紀半ばにメキシコ系アメリカ人の市民権運動が広まる中、“シンコ・デ・マヨ"によって、再びコミュニティーは結束力を高めました。


3.アメリカ英語で用いられるスペイン語表現

こういった歴史的な背景もあり、アメリカでは土地の名前以外にも、日常的にスペイン語に由来する表現が数多く用いられています。

例えば、“食堂"を意味する“cafeteria"や“広場"を意味する“plaza"、“中庭"を意味する“patio"もスペイン語に由来するものです。また、ニューヨーク市の文化としても知られる街角の“bodega"(個人経営のコンヴィニ)も20世紀半ばに主にプエルトリコ移民によって開業されたお店が始まりです。

また、昼寝を意味する“siesta"も、パーティーを意味する“fiesta"も日常的に用いられます。目下の人に何かを“すぐに" “急いで"やってもらい時には“pronto"、人や状況が“イカれている" “クレイジーである"ことを“loco"と言います。そして日本人も馴染みのある“ゴキブリ"を意味する“cockroach"や“蚊"を意味する“mosquito"も、スペイン語に由来する言葉です。

さらに、いかにもアメリカっぽいイメージのカウボーイ文化に用いられる表現も、前述のような歴史的背景があることから、スペイン語に由来するものが多く存在しています。その代表例が、“牧場"を意味する“ranch"や、カウボーイが腕前を競う“rodeo"です。また、“ならず者"を意味する“desperado"、 “無法者"や“反逆者"を意味する“renegade"、“自警団"や“自警団員"を意味する“vigilante"など、西部開拓時代を彷彿させる言葉には、実に多くのスペイン語が用いられています。日本でも“男らしい" “筋肉たくましい"という意味で使われる“macho"も、もともとスペイン語で“雄"を意味する言葉です。

こういった概念にインスパイアされた「怪傑ゾロ」は、アメリカの小説家による架空の人物なのですが、実在した無法者ホアキン・ムリエタをモデルとしています。


4.日本にもメキシコ料理のブームは来るのか

僕が大学を卒業して東京に引っ越してきた2006年ごろ、在日アメリカ人のコミュニティーには、ある共通の悩みがありました。それとは、東京は世界有数のグルメ都市なのに、美味しくて手頃な値段で食べられるメキシコ料理店がないということでした。米軍基地に勤務していた友人と会う度に、(当時は日本からは撤退していたものの、米軍基地には支店のあった)「タコ・ベル」からタコスをいっぱい買ってきてもらっていました。(カリフォルニア出身者にとっては、それほど恋しかったのです。)しかし近年は、東京にはリーズナブルなメキシコ料理の店が増えているようで、ちょっとしたブームにさえなっているようです。

しかし、ここで注意すべきポイントは、メキシコ料理とアメリカ風メキシコ料理(いわゆる“テックス・メックス料理")の境界線が曖昧であることです。そもそもハードシェルのタコスやブリトー、ファヒータはどれも厳密にいうとメキシコ料理ではなく、テックス・メックス料理なのです。ナチョスもメキシコとテキサス州の国境付近のメキシコ側で生まれた食べ物ですが、今やテックス・メックスの定番として知られています。

つまり、在日アメリカ人が「美味しいメキシコ料理がない」と嘆いている場合、それはすなわち「テックス・メックス料理が恋しい」という意味で言っていることが多いのです。その点では近年、ありがたいことに、「タコ・ベル」が再上陸したり、「グズマン・イー・ゴメズ」などのフェスト・フード系のお店が渋谷・原宿には数店できました。それをもって「“メキシコ料理"のブームが来ている」と言えるかは微妙なところですが、テックス・メックス好きなアメリカ人からすると良い兆しといえるでしょう。

最近では、ナチョスやタコスを出す日本の居酒屋も増えています。日本では小皿に盛られたおつまみ料理を、色々食べる居酒屋文化が根付いていることもあり、日本人の好みに合わせてアレンジすることで、じわじわとこうした料理も浸透して来ているのではないでしょうか。メキシコ料理と親戚関係にあるスペイン・バルが至るところにあるのも同じ理由なのでしょう。

今やカフェ飯の定番として知られる“タコ・ライス"という沖縄風メキシコ料理も忘れてはなりません。“タコス味"のトルティーヤ・チップスなどのお菓子系も、様々な種類があり、最近ではスーパーやコンヴィニにも並んでいます。日本では本格的なタコスはなかなか流行らないようですが、なんちゃってタコスは大人気なのです。

最後に、東京には、あまり目立たないものの、本格派メキシコ料理を出すレストランも数々あります。個人的にオススメなのは、1976年に代官山にオープンした『ラ・カシータ』(2021年1月閉店)や1987年に広尾にオープンした『ラ・ホイヤ』などの老舗です。また、懐石料理の精神に基づいて作られたメキシコ料理を出す下北沢の『テピート』や、メキシコの在来種のトウモロコシを用いた自家製のトルティーヤと日本の具材を絶妙に合わせた“おまかせコース"が目玉の上馬の『ロス・タコス・アスーレス』など、「日本ならではの本格派メキシコ料理店」も魅力的です。こうしてみると、実は、メキシコ料理のブームは、じわじわ起こっているのかもしれません。

<RESTAURANT INFO>

ラ・ホイヤ
住所:
〒150-0012 東京都渋谷区広尾5-16-3 小安ビル2F
TEL:
03-3442-1865
営業時間:
平日 ランチ 11:30~14:00 (last call 13:30) ディナー 17:00~22:30 (last call 22:00) 週末と祝日 ランチ 11:30~15:00 (last call 14:30) ディナー 17:00~22:39 (last call 22:00)
定休日:
火曜日 (祭日を除いて) 年末年始

<RESTAURANT INFO>

テピート
住所:
〒155-0031東京都世田谷区北沢3-19-9
TEL:
03-3460-1077
営業時間:
水~日 18:00~22:30 (last call 22:00)
定休日:
月曜日・火曜日

<RESTAURANT INFO>

ロス・タコス・アスーレス
住所:
東京都世田谷区上馬1-17-9
TEL:
03-5787-6990
営業時間:
水~日 9:00~15:00 (L.O. 14:00)

5.今週の衣裳について

「MFYS」のカフリンクス

「MFYS」のカフリンクス
こちらはアマゾンのカフリンクス専門店「MFYS」から購入したノット型のカフリンクスです(510円+送料)。

「タビオ」のえんじ色のロング・ソックス

「タビオ」のえんじ色のロング・ソックス
こちらは表参道ヒルズ内の靴下専門店「タビオ」で購入したえんじ色の『絹×綿バンナービジネスロングホーズ』です。ソールの部分が綿、甲の部分が高級シルクとなっています。

「グローバル・スタイル」のグレイ・スーツのジャケット

「グローバル・スタイル」のグレイ・スーツのジャケット
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #008を参照してください。

「高島屋」のダーク・レッドのクレリック・シャツ

「高島屋」のダーク・レッドのクレリック・シャツ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #026を参照してください。

「ブルックス・ブラザーズ」のオレンジのチノパン

「ブルックス・ブラザーズ」のオレンジのチノパン
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #009を参照してください。

「ブルックス・ブラザーズ」の茶ベルト

「ブルックス・ブラザーズ」の茶ベルト
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #010を参照してください。

「パラブーツ」のマロンの『チャンボード』

「パラブーツ」のマロンの『チャンボード』
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #020を参照してください。

「ゾフ」の黒色のメガネ

「ゾフ」の黒色のメガネ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #006を参照してください。

LANGUAGE & EDUCATION #018

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