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“温暖化"にまつわる英単語に見る環境問題への意識の変化
  - Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』 #ClimateChange (2019/11/15放送) | LANGUAGE & EDUCATION #039
Photo: ©RendezVous
2023/02/20 #039

“温暖化"にまつわる英単語に見る環境問題への意識の変化
- Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』 #ClimateChange (2019/11/15放送)

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KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.#ClimateChangeの回を振り返って

Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』の11月22日放送分のテーマは#ClimateChangeでした。これまで番組では、環境をテーマとして何度も取り上げていますが、今回は気候変動と、それが引き起こしているとされる様々な異常気象に焦点を絞りました。

今年(2019年)日本を襲った台風19号や、スペインやヴェネチアなど、世界各地で起こった記録的豪雨によって発生した洪水に関するツイートを取り上げました。グリーンランドで起こった、8月としては異例の22度を記録した日に120億トンの氷が溶けて、海に流れ込む様子を捉えた動画を紹介しました。

また、以前も番組で取り上げたスウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが、2019年の9月下旬に開催された国連気候行動サミットで行ったスピーチの一部も紹介しました。トゥーンベリさんは、世界各国の指導者が気候変動に積極的に取り組まないことを痛烈に非難し、行動を求めました。

それに対して、トランプ大統領がトゥーンベリさんのスピーチをSNS上で引用し、嫌味のこもった“応援のメッセージ"を発信したことも紹介しました。僕が属するいわゆる“ミレニアル世代"を始め、今の若者からすると、環境問題や年々増える異常気象は全て、親たちの世代から受け継ぐこととなった「負の遺産」だと感じています。(グレタ・トゥーンベリが始めた学生ストライキ活動、Fridays For Futureについては、LANGUAGE & EDUCATION #017でも書きました。)

そして、番組では取り上げる時間がありませんでしたが、カリフォルニア生まれの僕からすると、年々勢いを増している山火事がとても気になります。気候変動の影響による熱波や干ばつで乾燥した植物は非常に可燃性が高く、強風によって火事が一気に燃え広がりやすくなっています。

山火事の写真を見ると、ハリウッドの災害映画と見紛うほどの火の手となっています。(カリフォルニアの山火事やカリフォルニアと環境問題の関係性については、とても深いテーマですので、また別の機会により詳しく書きたいと思います。)


2.「温暖化」から「気候変動」から「気候危機」へ

今回は、解説者の古田大輔さんが、ジャーナリストとしてどのようにSNSを活用して気候変動について情報を集めているかを説明してくれました。例えば、ハッシュタグの分析ツール「RiteTag」を使うことで、自分が気になるテーマに関連した人気のハッシュタッグを探すことができることを教えてくれました。

ある現象にまつわる関連用語を探すときには、「今」のトレンドやバズワードを見るだけでなく、もっと長いスパンで考えてみることも大切なことなのでしょう。時代が進むにつれ、あるキイワードの意味合いがどのように変化してきたのか、あるいは他の言葉に置き換えられるようになったかと言うことを知ることはとても大切なことです。また、Google Trendsを使えば、2004年から現在に至るまで、ある特定のキイワードの検索回数の推移をグラフで見ることができます。

気候変動に関しては、以前LANGUAGE & EDUCATION #017でも書いたように、僕が子供だった90年代ごろはglobal warming (地球温暖化)という言葉がよく使われていました。“温暖化”だと気温が一方的に上昇するイメージがあることから、2000年代以降は“climate change”(気候変動)が多用されるようになりました。“温暖化”に懐疑的な人は決まってこのような表現を用いています:

In the beautiful Midwest, windchill temperatures are reaching minus 60 degrees, the coldest ever recorded. In coming days, expected to get even colder. People can’t last outside even for minutes. What the hell is going on with Global Waming[sic]? Please come back fast, we need you!
美しいアメリカ中西部では、体感温度が-60°Fに達していて、これまでの記録の中で最も寒い。この先数日間でさらに冷え込むと予測されている。人間は数分たりとも屋外で持ちこたえることができない。温暖化は一体どうなっているんだ?早く戻ってきて、あなたが必要だよ!

近年は、“climate change”という表現では緊急性と重大性が伝わらないと言うことで、最近ではより強い表現が用いられるケースが増えてきています。特に2019年に入ってから、トゥーンベリさんなどの活動家や一部のメディアが “climate crisis (気候危機)”、“climate emergency(気候非常事態)”と言った表現を積極的に用いるようになりました。これらの言葉は、英国のオックスフォード・ディクショナリーが選ぶ2019年の“Word of the Year”(今年の単語)の候補にも上がっています。

こういった言葉を用いることで、環境問題が深刻化しているという認識を人に持ってもらおうというのがその狙いです。しかし、気候変動を「危機」や「非常事態」と位置付けることは、すでに関心のある人に向けては有効かもしれないが、そうではない人々にとっては逆効果だと訴える声もあります。気候変動に懐疑的な人からすると、それは“から騒ぎ"以外の何物でもないという印象を与えてしまいます。また、「危機」や「非常事態」といった言葉によって、人々は「自分にできることもはや何もはない」「もう手遅れだ」という無力感さえ感じさせる危険性もあります。


3.異常気象を連想させる英語の慣用句

it’s raining cats and dogs

直訳すると「猫と犬が降っている」ですが、17世紀から使われているとされるこの表現は、「激しい雨」や「土砂降り」を意味します。語源には様々な説があり定かではありませんが、例えば、猫と犬の喧嘩は騒がしいことから、「じゃんじゃん」降る豪雨のことを指すと考えると分かりやすいのではないでしょうか。

it never rains but it pours

直訳すると「降ればいつも土砂降り」、つまり、不運なことはまとめてやってくるものであるとの例えです。日本語で言うところの、泣いてむくんでいる顔をさらに蜂が指すという「泣きっ面に蜂」と同じです。近年、自然災害が立て続けに起きていることを表現しているようにさえ思えます。

tempest in a teapot

日本語でも「コップの中の嵐」と言うように、この表現は、当事者にとっては大事だが、傍から見ると些細なことで大騒ぎしているように見えることを指します。トランプ大統領らのように、気候変動に懐疑的な人からすると、グレタ・トゥーベリをはじめとする環境活動家の活動がまさにそうなのでしょう。興味深いことに、アメリカ英語では“tempest in a teapot"といい、イギリス英語では“storm in a teacup"といいます。アメリカ人が“teapot"を“coffee mug"に変えなかったのは、“tempest"と“teapot"のTが続く方が響きが良いからなのでしょう。

be snowed under

直訳すると「雪に埋もれること」を意味するこの表現は「圧倒される」「全敗する」という意味です。“I’m snowed under with work"というと「仕事の山に押しつぶされそうである」つまり「仕事に追われている」という意味になります。

a snowball’s chance in hell

直訳すると「地獄の中の雪玉ほどのチャンス」を意味するこの表現は、「可能性が極めて低いこと」「全く見込みがないこと」を表します。“Your proposal has a snowball’s chance in hell of being approved"というと「あなたの提案が受け入れられる可能性は、ゼロでしょう」という意味になります。

hell on earth

直訳すると「地球上の地獄」を意味するこの表現は、日本語で言うところの「生き地獄」のことです。戦場や砂漠地帯について使われることもあれば、大袈裟に言うのが好きなアメリカ人は、職場に嫌な上司が配属されるだけでそこは“hell on earth"だと言ったりします。

when hell freezes over

直訳すると「地獄が凍りついた時」を意味するこの表現は、絶対に起こり得ないことの例えです。“Eric, I’ll go out with you when hell freezes over."は「エリック、地獄が凍りついたのなら、付き合ってもいいわよ」(つまり、“あなたとは絶対に付き合うことはない"ということ)になります。また、イーグルズが1980年に解散した時、「バントがまた一緒に演奏するのはいつになりますか」と聞かれた際に、ヴォーカリスト兼ドラマーのドン・ヘンリーは“When hell freezes over"と答えました。にもかかわらず、1994年に再結成すると、MTV用に行った演奏を『Hell Freezes Over』(地獄が凍りつく)と名付けたライヴ・アルバムとしてリリースし、その後同名のライヴ・ツアーも行いました。


4.気候変動をテーマにした映画作品

“crisis"や“when hell freezes over"という表現を耳にすると、ハリウッドのパニック映画(災害映画)を連想する人も多いのではないでしょうか。

日本のパニック映画の代表作といえば、大規模災害に襲われた日本を描いた1973年『日本沈没』がその代表例でしょう。ハリウッドには数えきれないほどのパニック映画がありますが、中でも2004年の『デイ・アフター・トゥモロー』は、地球温暖化によって突然訪れた氷河期に直面する人類を描き、話題となりました。ドラマチックな描写の科学的正確さはもちろんのこと、こういった作品は、温暖化に対する人々の意識が高まっていたことに目をつけたことで、いずれも大ヒットしました。

近年では気候変動をテーマとしたこうしたエンターテインメントを“sci-fi"(日本語で言うところの「SF」)から発生させた“cli-fi"と呼ぶようになりました。(因みにカリフォルニア出身の僕からすると、 “SF"という表現は「サン・フランシスコ」を指します。)

このジャンルの近年の代表作は、ポン・ジュノ監督の『スノーピアサー』やジョージ・ミラー監督の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』があります。

しかし、こういった作品は、変わり果てた地球の姿を描いているためか、どこか現実味が欠けています。現在の文明が滅んだ後の世界は、自分たちとは直接関係ない遠い未来として観ているのでしょう。従って“cli-fi"は環境問題に対する人々の意識が高まっていると言うことよりも、人々がある種の諦めを抱くようになったのではないでしょうか。

『デイ・アフター・トゥモロー』のようなハリウッド映画を観終えたアメリカの若者は「環境問題と向き合わなきゃ」と思うかもしれませんが、一方で、大人の中には、「環境問題は人間の手に負えないこと」と、半ば諦めた気分で映画館を去った人も多かったのではないでしょうか。なにしろ、アメリカ人にとって映画は「現実逃避」なのですから。


5.今回の衣裳について

「麻布テーラー」の緑のジャケット

「麻布テーラー」の緑のジャケット
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #009を参照してください。

「麻布テーラー」の緑のシャツ

「麻布テーラー」の緑のシャツ
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #006を参照してください。

「ブルックス・ブラザーズ」のオレンジのチノパン

「ブルックス・ブラザーズ」のオレンジのチノパン
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #009を参照してください。

「タビオ」のオレンジのソックス

「タビオ」のオレンジのソックス
こちらの商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #027を参照してください。

「パラブーツ」の茶色いローファー

「パラブーツ」の茶色いローファー
こちらの商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #027を参照してください。

「鎌倉カフス工房」の真鍮のカフ・リンクス

この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #024を参照してください。

「ゾフ」の黒いメガネ

「ゾフ」の黒いメガネ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #006を参照してください。

LANGUAGE & EDUCATION #039

“温暖化”にまつわる英単語に見る環境問題への意識の変化 - 『世界へ発信!SNS英語術』 #ClimateChange (2019/11/15放送)


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