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#WWIIIの投稿に見る“戦争ボケ"しているアメリカ人
  - Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』 #WWIII (2020/01/24放送) | LANGUAGE & EDUCATION #044
Photo: ©RendezVous
2023/06/05 #044

#WWIIIの投稿に見る“戦争ボケ"しているアメリカ人
- Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』 #WWIII (2020/01/24放送)

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KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.1月24日放送の「#WWIII」の回について

1月24日放送のNHK Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』のテーマは「#WWIII」でした。“WWIII"とはWorld War III、つまり「第三次世界大戦」のことです。

米軍がドナルド・トランプ大統領の指令の下、年明け早々に、イランのバグダッドの国際空港を空爆し、革命防衛隊幹部のスレイマニ司令官を殺害しました。アメリカとイランとの間で緊張が高まり、全面戦争が始まりかねないという懸念により、SNSでは#WWIII(第三次世界大戦)がツイッターのトレンド入りしました。

#WWIIIがついた投稿を見てみると、その多くは、この話題について真剣に論じようとはせず、一見ふざけ半分の内容が多く見受けられました。

I’m glad #WWIII is happening because living through a world war was at the top of my new year resolutions list!第三次世界大戦が起こるのは嬉しい。なぜなら、僕の新年の抱負を並べたリストの一番上には、「世界大戦を生き延びる」があったから!

また、次のようにインターネット・ミームを一緒に投稿するユーザーも多く見受けられました。

When I hear explosives while I’m sleeping and realize it’s not New Year’s Day anymore #WWIII寝ている間に爆発の音が聞こえ、もう元日は過ぎていることに気づいた瞬間の僕のリアクション。

こういった内容の投稿を見ると、ツイッターのユーザーたちは#WWIIIをネタに悪ふざけしているという印象を受ける人が多いでしょう。今まさに中東、あるいは世界のどこかの戦場にいる兵士に対して失礼極まりないつぶやきだと考える人もいることでしょう。

今回のコラムでは、#WWIIIのトレンド入りについてもう少し深く考察し、こういった投稿に見られる“ジェネレイションZ”の心境について紐解いていきたいと思います。


2.アメリカには徴兵制度はあるのか

ソレイマニ司令官が殺害されたニューズが報じられたことを受け、#WWIII以外にも#WorldWarThreeDraft(「第三次世界大戦の徴兵」)というハッシュタグもトレンド入りしました。アメリカのSelective Service System(選抜徴兵登録制度)のウェブサイトを訪れる訪問者数が急増し、一時ダウンする事態になってしまいました。

Due to the spread of misinformation, our website is experiencing high traffic volumes at this time.
誤った情報の拡散により、現在、当ウェブサイトには多くのサクセスが集中しています。

徴兵に関するツイッターへの投稿の多くも、やはり少しふざけた口調のものが多く見受けられます。例えば、今のうちに“徴兵逃れ”をしようとするユーザーもいました:

When I find out the military won’t draft me if I am overweight #WWIII
肥満であれば兵役されないと知った僕のリアクション。

me disguising myself as a dog to avoid the draft for world war
3第三次世界大戦に徴兵されないように、犬に扮装しようとする私。

このように徴兵されるのではないかと心配する投稿も多くありました。実際には、アメリカの徴兵制度は、ヴェトナム戦争が終結へと向かう中、1973年に一度廃止されています。ところが、1980年に旧ソビエト連邦がアフガニスタンに侵攻したことを受け、当時のジミー・カーター大統領は、“Selective Service System"のデータベイスを復活させ、18歳~25歳の男性(アメリカ市民及び永住権保持者)には登録することが義務付けられました。仮に緊急事態が起こり、徴兵制度が復活した場合、その登録者リストから徴兵されることとなるのです。

多くの男性は、大学進学に際して、学費援助を申請する前にこのシステムに登録します。登録をしなかった人は、法律上では5年間の懲役、もしくは25万ドルの罰金が課せられるとされていますが、1980年以降、実際に訴追された男性は20人ほどです。とはいえ、登録を怠るとその後、連邦政府による学費援助などが非常に受けにくくなるので、注意が必要です。

“Selective Service System"のウェブサイトは、システムが復旧した後、次のツイートを投稿しました。

The Selective Service System is conducting business as usual. In the event that a national emergency necessitates a draft, Congress and the President would need to pass official legislation to authorize a draft.
選抜徴兵登録制度は、通常通りの運営を行なっています。仮に国家の非常事態によって徴兵が必要となった場合、徴兵を許可するためには議会と大統領は正式な法案を可決しなければなりません。


3.9.11の時にもアメリカの若者は徴兵制を心配した

インターネット上で、第三次世界大戦の勃発が囁かれるようになったのは、今回が初めてではありません。2017年4月にトランプ大統領と北朝鮮の金正恩総書記の間で緊張感が高まった頃から、WWIIIをネタにしたインターネット・ミームが見られるようになりました。

Will President Trump start World War III with North Korea?
トランプ大統領は北朝鮮に対する第三次世界大戦を挑発するか?

そして同年8月上旬には、トランプ大統領は、核兵器開発を続ける北朝鮮を強く非難し、北朝鮮がそれ以上米国を威嚇すれば、“fire and fury”(「炎と怒り」)に直面することとなると警告しました。これを受けて、“World War III”や「世界の終わりをもたらす戦い」を意味する“Armageddon”(アルマゲドン)についてSNS上でコメントする人が急上昇しました。 因みに、番組では、鳥飼先生が“Armageddon”の類語である“Apocalypse”という言葉を紹介しました。

Nuclear attack. World War III. Armageddon. What people researched after Trump’s North Korea threat.
核攻撃。第三次世界大戦。アルマゲドン。北朝鮮に対するトランプの警告を受けて、国民が調べたこととは。

もっと遡ると、第二次世界大戦後には世界中で核開発が盛んに進められ、それによってアメリカと旧ソビエト連邦の間ではいわゆる「冷戦」が始まったことも忘れてはなりません。資本主義と民主主義を掲げるアメリカらの西側諸国と、共産主義と社会主義を掲げる旧ソビエト連邦らの東側諸国の対立が深まる中、人々は本当に核戦争が起こるのではないかという恐怖を抱えながら生きていました。世界の終わりに備えて、核シェルターを造ったり、水や食料をため込む人がアメリカ各地で増えました。冷戦時代の恐怖のピークが、キューバ危機でした。

若者の徴兵制度に対する心配も、何も今回初めて起こったことではありません。ジミー・カーター大統領が1980年に登録制度を復活させて時から、若者の潜在意識の中にはずっとあったのでしょう。(僕が高校生だった時に起きた)2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件の後も、僕の周りでは「徴兵されるのではないか」という心配が生徒の間で広まりました。それを鎮静させるためにアメリカ史や市政学の先生たちが、授業中に生徒の疑問に一所懸命答えていたことを覚えています。

ただ、戦争や徴兵に対する恐怖感を考える上で、9.11がある種のターニング・ポイントであったことも確かです。というのも、アメリカ本土が歴史上初めて攻撃を受けたことは、生徒のみならずアメリカの全国民に相当のショックを与えました。アメリカ本土の安全性が担保されなくなった現実を受けて、僕たち生徒の間では本当に徴兵されるのではないかという意見も少なくありませんでした。


4.デジタル・ネイティヴは“戦争ボケ"している

憲法で戦争しないと決めている日本は、よく“平和ボケ"していると指摘されます。一方、建国から現在に至るまで常に何らかの戦争に関わってきたアメリカという国は“戦争ボケ"していると言えるのではないでしょうか。

そもそもアメリカはなぜ常に世界のどこかで戦争しているのでしょうか。トランプ大統領をはじめ、多くのアメリカ人が言い張るように、アメリカは世界屈指の軍隊と最先端で最強の武器を誇っているのに、イラクやアフガニスタンでここ20~30年の間に行われてきた戦争は、なぜぐずぐずと長引くのでしょうか。そしてヴェトナム戦争がその代表例であるように、アメリカが第二次世界大戦以降(日本に勝利して以降)、戦争で決定的な勝利を収めることができないのはなぜなのでしょうか。

そもそもの戦略の問題、敵国に民主主義をもたらすという難しすぎるゴール設定、弱腰と思われたくない大統領のプライドなど、様々な原因が考えられるでしょう。しかし、アメリカが戦争に巻き込まれる最大の理由は、アメリカの最大のタブーの1つともされる“military industrial complex"(軍産複合体)の存在です。兵器を製造するアメリカの業者の利益を保証するために、アメリカは常に戦争する必要があるのです。戦争が続く限り兵器は売れ続け、一方で世界平和が実現したとしたら、こうした企業は倒産に追い込まれることとなります。アメリカの軍産複合体が力を握り続ける限り、アメリカの“戦争ボケ"は今後も続くのです。

対外的な戦争だけでなく、アメリカ国内を見ると、1999年にコロンバイン高校銃乱射事件が起こったことによって、アメリカの若者たちは、学校や公共の場が戦場と化すことがあると知りました。あの事件以降、銃乱射事件は年々増える傾向をみせ、銃乱射事件の統計を取るガン・ヴァイオレンス・アーカイヴ(GVA)は、2019年には過去最大の417件の銃乱射事件が起きたと発表しています。(GVAは、犯人をのぞいて4人以上が打たれる事件を銃乱射事件と定義しています。)ジェネレイションZの若者たちは、いつどこでも銃乱射事件は起きうると言う危機感を常に持ちながら生活を送っています。こうした状況によって国民全体がある種のPTSDを抱えるようになっているのです。

こうした事件の背景には、激しいバイオレンスを描いた映画や対戦ゲイムの影響が問われるようになってきています。こうしたことだけが銃乱射事件の原因であるとは思いませんが、暴力や戦闘への麻痺が引き起こされていることも事実でしょう。ネットやSNSの中で、幾度となく戦争やテロのニューズや映像を目にすることが、多くなっていることも原因かもしれません。

#WWIIIをネタにした一件無神経なSNSの投稿も、無知によるものではなく、こうした“戦争ボケ"によるものだと言えるのではないでしょうか。戦争というものが国外でも国内でも当たり前の日常になってしまっているのです。インターネット・ミームなどの悪ふざけは、その現実からの逃避なのかもしれません。


5.今回の衣装について

「ラルフ・ローレン」のツイード・ジャケット

「ラルフ・ローレン」のツイード・ジャケット
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #006を参照してください。

「西武渋谷」の黒のボタン・ダウン・シャツ

「西武渋谷」の黒のボタン・ダウン・シャツ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #022を参照してください。

「ブルックス・ブラザーズ」の赤いコーデュロイ

「ブルックス・ブラザーズ」の赤いコーデュロイ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #027を参照してください。

「タビオ」のピンクのソックス

こちらの商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #007を参照してください。

「パラブーツ」の黒い『ランス』

「パラブーツ」の黒い『ランス』
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #010を参照してください。

「ゾフ」の黒いメガネ

「ゾフ」の黒いメガネ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #006を参照してください。

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