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KAZOOの『SNS英語術』映画コーナー (13) 
 映画『アラジン』の作曲家・アラン・メンケンのインタヴューを振り返って
  - Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』(2019/06/14放送) | CINEMA & THEATRE #017
Photo: ©RendezVous
2022/03/14 #017

KAZOOの『SNS英語術』映画コーナー (13)
映画『アラジン』の作曲家・アラン・メンケンのインタヴューを振り返って
- Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』(2019/06/14放送)

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KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.プロローグ

6月14日放送の『世界へ発信!SNS英語術』のインタヴュー・コーナーでは、ディズニーの名作アニメイション映画『アラジン』の実写映画版のプロモーションのために来日していた作曲家のアラン・メンケンを紹介しました。メンケンは、“ディズニー・ルネサンス"と称される90年代に製作・公開されたディズニーの名作アニメイション映画の数々の音楽を手がけており、これまでアカデミー賞やグラミー賞などを多く受賞してきました。誰もが鼻歌で口ずさめるような名曲を次々と生み出してきた、「ディズニー音楽の神」と称される人物です。スタジオ収録の日には、MCのはるひさん、パートナー役のゴリさん、解説者の塚越健司さんが、打ち合わせ時から羨ましそうにしていました。


2.贅沢すぎるインタヴュー

ディズニーは近年、これまでのアニメイションの代表作の実写化を試みています。2017年には『美女と野獣』、2018年には『プーと大人になった僕』、2019年3月には『ダンボ』の実写版が公開され、2019年7月には『ライオン・キング』の“超実写版"が公開される予定です。(『ライオン・キング』には人間が一切登場しないので厳密には“実写版"とは違い、CGを用いて動物を克明に描写するという意味で“超実写版"と呼んでいるようです。)ディズニーの世界観を、現代の価値観を反映する形で、今の若い世代に向けて発信しているのでしょう。

今回は、メンケンさんがピアノの前に座った状態でのインタヴューになるということを事前に聞いていました。しかし、必ずしもピアノを弾いてくれるという保証はもちろんありませんでした。質問への答えの中でうまく代表曲のワン・フレイズかツー・フレイズを弾いてもらえるように、番組のプロデューサーからは、プレッシャーをかけられていました。

インタヴュー当日、都内の某高級ホテルにある会場に着くと、控え室にはモニターが置かれており、そこにいた全員がそれを囲んで真剣に見入っていました。その画面から、インタヴュー室の様子がリアル・タイムで確認できるようになっていました。僕たちの前に入っていたいくつかのテレヴィの情報番組のインタヴューでは、メンケンは快くピアノを弾いてくれている様子が確認できました。担当のプロデューサーの期待感はさらに高まり、僕の緊張感はマックスに達しました。

僕たちのインタヴューの番になると、通訳を介する必要がないためか、出だしから会話が途切れることなくスムーズに進みました。「観客にどのようなことを伝えたいか。「制作プロセスはどのようなものなのか。」「曲のアイディアはどんな時に舞い降りてくるか。」そして『ホール・ニュー・ワールド』について次々と質問をしました。メンケンさんはピアノの方に向くことはあっても、どんどん喋るばかりで、なかなか弾き出す気配がありませんでした。所要時間の半分が経過するあたりで、僕は内心焦りはじめました。

そこで、「作曲の方程式のようなものはありますか?」と聞いてみました。すると、メンケンさんは目を細め、「語彙はあります。音楽は言語です。」と答え、その例として『ヘラクレス』の『ゴー・ザ・ディスタンス』と『ポカホンタス』の『カラー・オブ・ザ・ウィンド』のフレイズを短く弾いてくれました。横目でプロデューサーが頷いているのを確認し、「その調子」という合図が見えたので、最後に僕は、思い切って「音楽を通して様々な感情を表現してもらえませんか」とストレートにお願いしてみました。そうしたら、メンケンさんは、自身が製作したディズニー音楽の代表曲の贅沢なメドレーを奏でてくださりました。

スタジオ収録で、はるひさんとゴリさんは、インタヴューでの僕の平然とした表情について、「どんな贅沢な経験をしているのか、本当にわかってる?」と僕をからかいました。あの時の僕の表情は、落ち着いていたというよりかは、馴染みのあるメロディを懐かしむ気持ちと、インタヴューのミッションを達成した喜びが渦巻き、肩の力が抜けた後のぼーっとした表情だったのです。


3.アラン・メンケンのプロフィールと代表作

アラン・メンケン(1949年~)はアメリカのミュージカル音楽、映画音楽の作曲家、ピアニストです。本業は歯科医師でありながらブギウギのピアノ奏者でもある父親と女優である母親の間で生まれ、幼い頃からクラシック音楽を学び、作曲を始めました。主にディズニー映画の音楽とプロードウェイなどのミュージカルでの作曲で知られています。1989年の『リトル・マーメイド』、1991年の『美女と野獣』、1992年の『アラジン』、1995年の『ポカホンタス』でそれぞれアカデミー作曲賞とアカデミー歌曲賞を受賞しました。

『アラジン』(1992年)
千夜一夜物語の『アラジンと魔法のランプ』を原案とした1992年のディズニーのアニメイション映画の実写版です。王国“アグラバ"を舞台に、貧しい青年アラジンが洞窟から魔法のランプを手に入れ、ランプのジーニー(魔人)に3つの願いを叶えてもらう物語です。

『リトル・マーメイト』(1989年)
デンマークの代表的な童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンの『人魚姫』を原作としたディズニーの劇場版アニメイション作品です。地上の世界に憧れる16歳の人魚姫・アリエルは、人間の王子に一目惚れします。アリエルは海の魔女・アースラから、美声とひきかえに人間の脚を与えるが、3日以内に王子と口づけをしないと自分の奴隷になるという賭けを持ちかけられます。

『美女と野獣』(1991年)
フランスの民話を元に制作されたディズニーの長編アニメイション映画です。森の中の城に住む傲慢な王子が、ある魔女に心を試され、「真実の愛」を見つけるまで恐ろしい野獣に姿を変えられてしまいます。美しい少女ベルは、あることをきっかけにその野獣に出会い、接しているうちに愛が芽生えていくというラヴ・ストーリーです。

『ポカホンタス』(1995年)
ネイティブ・アメリカンのポウハタン族の女性・ポカホンタスの歴史的な逸話に基づいたディズニーの長編アニメイション映画です。17世紀初頭の北アメリカに建設された、白人による最初の恒久的植民地「ジェームズタウン」が舞台となります。ポカホンタスはイギリスの軍人ジョン・スミスと恋に落ちます。


4.インタヴューの衣裳について

「ユニバーサル・ランゲージ」のグレイの段返り3つボタンのスーツ

「ユニバーサル・ランゲージ」のグレイの段返り3つボタンのスーツ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #009を参照してください。

「ユニバーサル・ランゲージ」のベンガル・ストライプのボタンダウン・シャツ

「ユニバーサル・ランゲージ」のベンガル・ストライプのボタンダウン・シャツ
この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #007を参照してください。

「ラルフローレン」の黒いペイズリー柄のネクタイ

「ラルフローレン」の黒いペイズリー柄のネクタイ
こちらはBigBrotherからお借りした「ラルフ・ローレン」のヴィンテージのネクタイです。黒い生地に華やかなペイズリー柄が施されています。

黒いカフリンクス

黒いカフリンクス
この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #011を参照してください。

「タビオ」のカーボン・グレイのソックス

「タビオ」のカーボン・グレイのソックス
この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #015を参照してください。

「リーガル」のウィング・チップ・シューズ

「リーガル」のウィング・チップ・シューズ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #009を参照してください。

「999.9」の『M-27』のメガネ

「999.9」の『M-27』のメガネ
この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #005を参照してください。

5.エピローグ:真のプロフェッショナルとは

今回のインタヴューを通じて僕がメンケンさんに一番聞きたかったことは、彼の制作プロセスについてでした。世代や国境を超え、多くの人々の記憶に残るような名曲を1曲や2曲ではなく、長い時期に渡って安定的に生み出し続けることができた理由は何か。実は僕は、芸術家のインタヴューでよくあるような抽象的な答えを予想していました。しかし、「どんな時に曲のアイディアは浮かんできますか?」という僕の質問に対し、メンケンさんはすかさず「ピアノの前に座った時」と答えました。

メンケンさんは、自分がピアノの天才であると自画自賛しようとしていたわけではありません。自分が決めた時、あるいは仕事上決められた時にピアノと向き合い、そこで天からのひらめきを待つのではなく、スイッチを入れたかのように作曲を始めることができるということを言おうとしていたのです。

メンケンさんのこの答えは、自分が真のプロフェッショナルであることを表しているのではないでしょうか。気が向いた時に作曲したり、自分のこだわりを優先して作業を進めるのではなく、ある発注に対してそれにふさわしい作品を作曲し、それを納期までに最高のクオリティーに完成させることが、当然と考えているのでしょう。

日本語では「アーティスト」と「クリエイター」という言葉がありますが、この2つの言葉は交換可能な同義語ではなく、明確な違いがあります。

アーティストとは、自分が感じるままに作品を作る人のことです。自分の個性、あるいは自分が言いたいことの表現として作った作品を世に出すのがアーティストなのです。あくまで「自分」が主体なので、クライアントからの要求もなければ、締め切りもありません。もっといいますと、アーティストは「お金を得る」こと以上に「芸のために身を粉にする」ことを重視する傾向すらあります。

一方で、依頼主から頼まれて作品を作るのがクリエイターです。クライアントがいるということは、スケジュールや予算、制作にあらゆる面で様々な要求が伴います。クリエイターの個性や自分がどう感じているのはどうでもよくて、相手が何を求めているかを感じ取るスキルや思いやりが求められます。

メンケンさんが「ディズニー音楽の神」と称されるのは、ディズニー映画というより偉大な物語を象徴するような音楽を安定的に生み出し続けてきたからなのでしょう。台本や製作スタッフとの会話の中で1つ1つの物語の本質を掴み取り、それを見事に人々の記憶に残る形で音楽として表現してきました。英語の“creator"は「創造主」という意味なので、僕は以前から日本人が“クリエイター"を多用することに違和感を覚えていましたが、メンケンさんは、まさにそれに値する方といって良いでしょう。


CINEMA & THEATRE #017

映画『アラジン』の作曲家・アラン・メンケンのインタヴューを振り返って - 『SNS英語術』(2019/06/14放送)


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