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KAZOOの『SNS英語術』映画コーナー (26) 
 名作SF映画『2001年宇宙の旅』『ターミネーター』『マトリックス』に見るシンギュラリティ後の世界
  - Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』 #AI (2020/01/10放送) | CINEMA & THEATRE #030
Photo: ©RendezVous
2022/09/19 #030

KAZOOの『SNS英語術』映画コーナー (26)
名作SF映画『2001年宇宙の旅』『ターミネーター』『マトリックス』に見るシンギュラリティ後の世界
- Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』 #AI (2020/01/10放送)

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KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.1月10日放送の#AIの回について

1月10日放送のNHK Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』のテーマは#AIでした。家庭用エレクトロニクス分野で世界最大の国際見本市とされるCES2020の開催に合わせて、人工知能の現状について紹介するツイートを取り上げました。

MCのはるひさんやパートナー役のヒデさんは、動きが人間や動物っぽくなってきているロボットの研究の最前線や、最新の脳科学を駆使して脳波でドローンを飛ばしたり義手を操作できるようになったことに驚いていました。鳥飼先生と僕は、自動翻訳機についてコメントしました。今では観光客や旅行客が使うような簡単な言い回しであれば、とても役に立つレヴェルに既になっているものの、まだまだ人による翻訳や通訳にも利点があることを指摘しました。解説者の塚越さんは、AIの発達によって人間が受けられる恩恵についてわかりやすく紹介してくれました。

番組の冒頭でも告白したように、僕はAIに対してはあまり良い印象を持っていません。他の出演者が比較的肯定的な意見を述べていたので、敢えてネガティヴな発言をしたというのもありますが、実際のところ、AIによって人間が得することよりも失うことの方が多いのではないかと僕自身は心配しているのです。

このコラムでは、そのように考えるようになったきっかけとなったSF映画を紹介します。今後の私たちの生活と人工知能との関係性について考察したいと思います。


2.僕に影響を与えたAIをテーマにした映画作品

僕が子供の頃に観ていたSFの名作と呼ばれる作品の多くは、AIというものを悲観論的な視点から描いているものが多かったことを覚えています。いわゆる1990年の「デジタル革命」が起こったばかりだった当時は、まだAIについて未知な部分が多く、この技術が人類に一体どのような変化をもたらすのか、ほとんど誰も想像がつきませんでした。現在、その時代の映画を観ると、人々は技術に対して大きな希望を持ちながらも、その裏には漠然とした恐怖感を抱えていたことがよくわかります。

『2001年宇宙の旅』
同名のSF小説を原作としてスタンリー・キューブリック監督が映画化した本作は、SFというジャンルのみならず映画史に残る傑作です。人工知能「HAL9000型コンピューター」を搭載した宇宙船に乗った乗組員が、月で発掘されたモノリスの調査へと向かいますが、協力してくれるはずの「HAL」は次第に暴走し始め、乗組員たちはそれを排除しようと試みます。(この“HAL"という名前は、“IBM"の文字を1文字ずつずらして命名されたという俗説が有名です。)「HAL」は赤色のLEDが組み込まれたサイクロップスのような“目"で宇宙船の中を監視し、その視点は歪んだ広角レンズのようになっています。つまり「HAL」は人間の手によって作られた一種のモンスターと言えるのですが、その姿と苦悩は200年前に執筆された『フランケンシュタイン』を彷彿させます。技術が進歩しても、人間の愚かさは変わらないのではないか、と考えさせられます。

『ターミネーター』と『ターミネーター2』
2029年の近未来、人工知能「スカイネット」が核戦争(“ジャッジメント・デイ")を起こし、人類を絶滅の危機に追い込んでいます。更に最後の一発を刺そうと、スカイネットは殺人ロボット「T-800」を過去に送り、ある重要人物の祖先を殺害しようと試みます。人工知能を考える上で本シリーズの最大の見所は、アーノルド・シュワルツェネッガーが演じる「T-800」の“成長"です。1984年にリリースされた1作目はSFホラーと言えるようなスタイルで、「T-800」は「HAL9000」のような殺人的なAIとして登場します。しかし2作目では、「T-800」は逆に人間を守るAIの象徴として登場します。映画の主人公も観ている私たちも一瞬戸惑います。そして2019年に公開された5作目『ターミネーター:ニュー・フェイト』では、自らの行動に反省し、“人間"として平凡な暮らしをおくる「T-800」が描かれています。観ていて複雑な気持ちにさせられるのは、「T-800」が人間の姿をした“アンドロイド"であることです。脅威的なAIは、私たちにとって一番身近な姿で襲ってくるのかもしれません。

『トータル・リコール』
2084年という未来を舞台にした、ある意味、全てを理解することが難しいSF作品です。平凡な建設労働者が行ったことのない火星の夢に悩まされるところから始まる壮大なアクション映画でもあります。本作において人工知能はメイン・テーマとはなっていないものの、作品の中で描かれる未来の技術のあり方はとても興味深いものです。謎の組織に追われている主人公は自動運転のタクシーに乗り込んだり、ホログラムを利用して敵を振り切ろうとしますが、その度に機械が思わぬ反応をしたり、故障したりするのです。テクノロジーがいくら発達したとしても、所詮人間が開発したものには、トラブルが必ず伴うことを暗示しています。自動運転の時代になったとしても、僕は自分でハンドルを握りたいと思っています。

『マトリックス』
マシーンが作り出した仮想現実「マトリックス」によって、奴隷にされてしまっている人類の一部が反乱を起こす、というSFアクション映画です。インターネットというものが、一般に普及し始めた頃にリリースされた本作は、「リアルとヴァーチャル」や「AIの脅威」など、ICTの時代のテーマにいち早く着目した傑作です。自分の周りの“現実"は本当に現実なのか、それとも人工知能によって作り出されたプログラムなのか、という疑問を抱かずにはいられない映画です。私たちはテクノロジーを利用しているのか利用されているのかという問いは、今の時代にこそ必要なのではないでしょうか。

『マイノリティ・リポート』
アメリカの著名なSF作家フィリップ・K・ディックの短編小説を原作とした本作は、スティーヴン・スピルバーグ監督によるミステリー・スリラーです。舞台は2054年のワシントンD.C.の警察の「犯罪予防局」です。この機関は、予知能力者によって構成された殺人予知システムを駆使して、殺人発生率を0%に抑えることに成功します。この作品はAIがメインのテーマではありませんが、物語の中心となる殺人予知システムという存在は、顔認識の技術を駆使した監視カメラが普及し始めている今の世の中にとって、大事な教訓を与えてくれます。近い将来、まだ犯罪を起こしていない人が、何らかの事情があって犯罪を起こす可能性があるという理由で逮捕されるという設定は、これからの時代における人権のあり方について考えさせられます。例えAIに悪意はなかったとしても、それを利用する権力者がどういう目的で利用するかがポイントとなるのです。

以上の作品を通して思うことは、SFの名作と呼ばれるものの根底にあるのは、結局は「テクノロジー」や「AI」ではなく、「人間」をテーマにしているということです。例えば「HAL9000」や「T800」の行動のベースにあるのは人間が作り出した「プログラム」であり、AI自体に「悪意」があるとは到底言えないのです。高度な人工知能よりも、人間にとって脅威なのは人間だということなのです。『マトリックス』について加筆するとすれば、人間には「現実を知りたい人」と「騙されていたい人」がいることが物語の大前提となっていることです。こういったSF映画が教えてくれることは、本当の脅威は実は人工知能ではなく、人間の奢りや自己中心的な行動だということではないでしょうか。


3.“ジャッジメント・デイ"はすでに訪れている

ハリウッドは、時代の流行や人々の関心を映画に反映させるだけではなく、時代そのものを利用してきました。ある作品のシナリオに人々が共感し、作品がヒットすると、映画会社はその理由を心理学的に(マーケティング的に)徹底的に分析し、そこから見出された方程式を使って同じようなヒットを次々と生み出そうとします。

例えば、テクノロジーや未知なものに対する人々の恐怖をテーマにした映画がヒットすると同じようなテーマの作品を次々と製作します。その一方で、ハリウッドは複雑な国際状況や社会問題の微妙なニュアンスを描くことは不得意としています。本質について考えさせるのではなく、爆発やアクションで人を麻痺状態(催眠状態)にさせる映画ばかりになってしまいました。

『ターミネーター』シリーズで描かれる、AIが反乱を起こして人類を絶滅させようとする「ジャッジメント・デイ」というモチーフも人気のテーマの1つ
です。このテーマを用いた映画が次々と公開され、その結果、AIに対するネガティヴな思い込みが植えつけられました。AIというものは、ある日突然、人を襲ってきたり反乱を起こしたりするというイメージを無自覚に刷り込まれたのです。

AIという技術の影響は、私たちの生活にある日突然変化をもたらすのではなく、人間が気づかないうちに徐々に起こるものなのです。こうした現実は実際に、すでに起りはじめていることを忘れてはいけません。5Gのスマフォ、「Siri」や「Alexa」などの音声アシスタント、スマート家電、防犯カメラなどの顔認識機能、バイオテクノロジーなど、私たちが意識している以上に今やAIに関わるテクノロジーは身近なものとなってきているのです。

AIの元となっているアルゴリズムという概念は、既に私たちの日常にあたり前のものとして溶け込んでいます。ネット・サーフィンをする際に表示される広告、アマゾンやユーチューブなどのサイトで表示される「オススメ」の裏には、AIによるアルゴリズムが存在しているのです。私たちの過去の行動に基づいて分析された最適な(最もクリックしやすい)広告が表示されているのです。NetflixやHuluなどの映像配信サーヴィスでも、閲覧履歴や検索履歴に基づいてアルゴリズムが選んだ作品の告知がユーザーのホームページに表示されるのです。その結果このようなシステムでは、自分が好きなものしか表示されないようになってしまい、選択の多様性が失われてしまうのです。

先ごろ、ワーナー・ブラザースは、今後どのような映画を製作するか決める際には、AI(ビッグテイタの分析)を利用することを発表しました。マーケティングの視点からするとそれは正解なのかもしれませんが、映画の多様性という点では大きな問題が生じるでしょう。スーパーヒーローものや過去のヒット作の続編やリメイクばかりが、今後より増えていくのでしょう。様々な動画配信サーヴィスに対抗するためには、そうせざるを得ないのかもしれません。

私たちはいろんな意味で、既にAIに“judge"(判断、鑑定、評価、裁く)されているのです。


4.ホーキング博士の警告

2018年に亡くなった英国スティーヴン・ホーキング博士は、2014年にAIについてこう述べています。「超知能を持つAIの到来は、人類史上、最善の出来事になるか、または最悪の出来事になるだろう。」

ホーキング博士が「最悪の出来事」だというのは、人工知能が自分の意志を持ち、自立するようになれば、急速に能力をあげて自らの設計を自ら行い、結局人間の手に及ばなくなる存在となる可能性があるからです。彼はこのように述べています。「ゆっくりとしか進化できない人間に勝ち目はない。いずれは人工知能に取って代わられるだろう。」

このことは、AIの進化を待たなくても、既に私たちの日常の一部となっているインターネットやスマフォなどのディヴァイスの普及と利用の状況を見れば容易に想像できることです。

21世紀に入り、ネットやスマフォのより急速な普及によって、私たちの周りに流通している情報量は飛躍的に増加してきました。人間の脳はそれを全て処理することはできず、私たちはこういった技術を活用した、いわゆる“ネットニューズ"や“まとめサイト"に頼りっぱなしになってしまいました。スマフォに電話帳を登録したり、パスワード管理ソフトを使うという行為が、AIに個人情報をフリー(無料)に与えていることに無自覚になっています。見方を変えれば、テクノロジーに自分の人生を捧げているとも言えるのです。

近年ニューズで取り上げられることも多くなったAIによる顔認識という技術も、私たちが気づかないうちに確実に普及しつつあります。こういったシステムに必要とされる大量の顔の画像データは、街角に設置された監視カメラやSNSから吸い上げられています。これには人権の問題も伴うため、アメリカでは反対の声が多く上がっており、例えばマイクロソフト社は去年4月に、カリフォルニア州の警察当局に対して顔認識システムの提供を拒否しています。しかし、こうした反AI的動きがある一方で、私たちの多くは自ら進んで、フェイスブックやインスタグラムに写真を投稿し、人をタグ付けしているのです。この状況こそ、英国の作家ジョージ・オーウェルが小説『1984年』の中で描いた監視国家を思い出させます。

近年では、ネットやSNSがメンタル・ヘルスに与える悪い影響が研究されていて、子供にパソコンやSNSとの健康的な付き合い方を若い時から教える動きが出始めています。しかし、こういった研究や運動は、人間のスピードで進められるので、ICTの技術の進歩には勝つことはできないです。私たちは既にゲイムの誘惑に負けているのです。

電車に乗り込むと、すぐに首を曲げてスマフォをジーッと眺めている乗客を目にすると、ホーキング博士の予言は、既に現実のものとなっているのではないかと思います。


5.この日の衣裳について

「テーラー・フクオカ」の黒いピンストライプのスーツ

「テーラー・フクオカ」の黒いピンストライプのスーツ
この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #021を参照してください。

『ユニバーサル・ランゲージ』の白いボタンダウン・シャツ

『ユニバーサル・ランゲージ』の白いボタンダウン・シャツ
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #005を参照してください。

「イセタンメンズ」の黒いソックス

こちらの商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #005を参照してください。

「パラブーツ」の黒い『アヴィニョン』

「パラブーツ」の黒い『アヴィニョン』
この商品は、以前紹介したので FASHION & SHOPPING #006を参照してください。

「ゾフ」の黒い眼鏡

「ゾフ」の黒い眼鏡
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #006を参照してください。

CINEMA & THEATRE #030

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