1.#EndOfSummerについて
NHK Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』の8月30日放送分のテーマは、#EndOfSummer、つまり「夏の終わり」についてでした。
「夏の終わり」のバカンスを満喫する旅行者、学校の再開を楽しみにする子供、秋の前兆をとらえた詩的な投稿など、欧米各地からの声をいくつか紹介しました。講師の鳥飼玖美子先生が説明したように、英語には日本語に比べて季語という概念はありませんが、季節の変わり目に内省的・感傷的になる現象は、世界各国共通です。(僕の生まれ育ったカリフォルニアは1年中あまり代わり映えのない夏日和ですが。)
今回は3週間ぶりの収録ということもあり、久しぶりに共演者とスタッフの皆さんと顔合わせとなりました。収録前の打ち合わせでは、鳥飼先生は海で泳いだこと、パートナー役のヒデさんは子供と遊んだことを楽しく話し、コメンテイターの古田大輔さんはNYCのプライド・パレードへ行ったことを話してくれました。僕の今年の夏の一番お思い出はやはり、クエンティン・タランティーノ監督にインタヴューを行なったことです。
そして何よりのこの夏のビッグ・ニューズは、番組のMCである遼河はるひさんが結婚したことでした。遼河さん、おめでとうございます!末長くお幸せに。
2.アメリカの夏の超大作映画
夏という季節は本来、夏至(summer solstice)から秋分(autumnal equinox)の時期を指すというのが一般的な認識でしょう。映画産業が盛んなアメリカでは、夏は5月下旬のメモリアル・デー(戦没将兵追悼記念日)から9月上旬のレイバー・デー(労働者の日)の期間を指すという1つの考え方があります。これはメモリアル・デーのころには、その年初の“ブロックバスター"(超大作映画)がリリースされ、レイバー・デーのころには、夏最後の“ブロックバスター"がリリースされるからです。
この“ブロックバスター"という概念は、1975年6月20日に全米で公開された、スティーヴン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』の大ヒットによって生まれたとされます。(因みに日本公開は同年の12月6日でした。)それまでアメリカ人の夏の娯楽といえば海水浴やプールでしたが、『ジョーズ』の宣伝活動の効果により、アメリカ人は涼しい映画館の前で並ぶようになりました。映画のスリルが中毒となった結果、1度ばかりか2度も3度も同じ映画を観る習慣がつくようになったとされています。1977年の5月25日にジョージ・ルーカス監督の『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』がリリースされ、関連のグッズも爆発的に売れたことをきっかけに、“夏のブロックバスター"は映画業界にとって商業的に重要なイヴェントとなりました。
海に面しているカリフォルニア州生まれの僕の周りでさえも、夏の家族の娯楽といえば、やはり映画鑑賞が人気でした。僕の家族にとってもメモリアル・デーの週末に両親と妹の4人で映画を観に行く習慣が「夏の始まり」を意味し、レイバー・デーの週末に家族4人で映画を観に行く習慣が「夏の終わり」を意味しました。
ただ、近年はちょっとした問題が出てきています。これまではメモリアル・デーのころに夏の最初の超大作をリリースするのが“お決まり"だったのですが、映画業界の競争が激しくなったために、その公開時期がどんどん早まり、2019年にはついに、誰もが夏1番の“ブロックバスター"だと見込んでいたアメコミ映画『アヴェンジャーズ:エンドゲーム』がなんと、4月下旬に公開されたのです。この作品は果たして「サマー・ムーヴィー」として位置付けて良いのだろうかという議論さえ巻き起こりました。最近はネット配信の普及によって興行収入が減っているので、こうした動きもしょうがないのかもしれません。
ところで、今年の夏の最後の大作は、8月30日に日本で公開されるクエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でしょう。(アメリカでの公開は7月でした。)
3.バック・トゥ・スクール
アメリカの夏の終わりの行事といえば、もう1つあります。いわゆる“バック・トゥ・スクール・ショッピング"と呼ばれる、親が子供のために学用品を色々買い込む行事があります。この時のアメリカ人の子供は2つのタイプに分けることができます。1つは、カッコイイ洋服を買ってもらいたいタイプです。もう1つは、イカした文房具を買ってもらいたいタイプです。(お金持ちの家の子供は、その両方を手に入れていました。)さて、僕はどちらのタイプだったのでしょうか。
僕が生まれ育ったシリコン・ヴァレーには多くの日本人が暮らしていて、大きな日本人向けのスーパーマーケットがあったのですが、そこに隣接している「紀伊国屋書店」という日本でも有名な書店があります。日本の文房具は、質と機能性と、種類の豊富さ、そのどの点においても世界一です。なので、当然僕は、日本製のHBの鉛筆や“シャーペン"(アメリカ製の鉛筆に比べて、そのなめらかな書き心地は感動的でした)や、「MONO消しゴム」(アメリカ製の消しゴムはびっくりするくらい性能が悪い)を親に必ず購入してもらっていました。
このように、子供にとってはワクワクする“バック・トゥ・スクール・ショッピング"なのですが、近年のアメリカはどうやら環境が変わってきているようです。今年の夏は、学校における銃撃事件が相次いでいるため、子供向けの“防弾リュック"の需要が高まっているというニューズが話題となりました。リュック・サックの中に入れることのできる防弾仕様のプレートが130ドル(およそ1万4,000円)で販売されており、その売り上げが伸びる一方で、保護者の間で論争も引き起こしているようです。
本来であれば、まだまだ遊びたくて学校に戻りたくない、あるいは夏休みの宿題が全然手付かずで戻りたくない、というのが子供の本音であるべきでしょう。ところが今のアメリカでは、学校に行くことは、すなわち銃乱射事件に遭遇する危険性と向き合うこととなっています。子供が違う意味で学校に戻りたくなくなっていることは、非常に残念であるとしか言いようがありません。そんな時代が早く終わることを願うばかりです。