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KAZOOの『SNS英語術』映画コーナー (24) 
 映画『アナと雪の女王2』の作曲家、ロバート・ロペスとクリステン・アンダーソン=ロペスへのインタヴューを振り返って
  - Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』(2019/12/06 放送) | CINEMA & THEATRE #028
Photo: ©RendezVous
2022/08/15 #028

KAZOOの『SNS英語術』映画コーナー (24)
映画『アナと雪の女王2』の作曲家、ロバート・ロペスとクリステン・アンダーソン=ロペスへのインタヴューを振り返って
- Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』(2019/12/06 放送)

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KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.プロローグ

先日、『アナと雪の女王2』の作曲を担当したロバート・ロペスとクリステン・アンダーソン=ロペスをインタヴューしました。ロペス夫妻は、2013年の『アナと雪の女王』のために作曲・作詞したオリジナルの劇中歌が世界的に大ヒットさせ、中でも主題歌の『Let It Go』はアカデミー賞にもグラミー賞の両方を受賞しました。今回、2人は続編のために主題歌『Into the Unknown』を初め、新曲を7曲作っており、大きな話題を呼んでいます。

『アナと雪の女王2』
2013年に世界的に大ヒットした『アナと雪の女王』の続編であるこの作品は、生まれつき雪や氷を作り出すことができる能力を持った女王のエルサと、持ち前の明るさで姉を守るアナの物語です。エルサは不思議な歌声に導かれ、自分の魔法の力の秘密を知るためにアナとその仲間たちと共に壮大な冒険に旅立ちます。

ミュージカルとは、登場人物が、何の前触れもなく突然歌い出すので、この不思議な演出を苦手とする人も多いことでしょう。普段はこのジャンルの作品をあまり観ない僕ですが、ロペス夫妻へのインタヴューを通して、その魅力について学ぶことができました。ミュージカルの音楽は一般的な音楽とは違い、映画や劇作から切っても切れない特別な存在なのです。ある感情や思いを伝えるだけでなく、楽曲を通して物語が展開する役割を果たさなくてなりません。

このコラムではインタヴューを振り返りながら、『アナと雪の女王』シリーズの音楽の魅力について考えたいと思います。


2.世界的なヒットとなった『Let It Go』

ロペス夫妻が2013年に『アナと雪の女王』のために作曲・作詞した歌の中でも、主題歌の『Let It Go』は、このミュージカル作品に全く興味のない人でも聞いたことがあるのではないでしょうか。世界的なメガ・ヒットとなったこの歌は、映画の公開後しばらくの間、世界中のいたる街角でかかり、その後小さな女の子のいる世界中の家庭で歌われるようになりました。日本でも“アナ雪"は社会現象ともなりました。

そもそもこの歌は、国民から怪物呼ばわりされた“雪の女王"エルサが王国から逃げ出し、雪山で一人で生きていくことを決意して氷の城を築き上げる場面で歌われるものです。この歌での“let it go"の意味は、それまでの生活を捨てること、過去には戻らないこと、今まで自分を締め付けていた社会の期待から逃れて、自分の好きなように生きることということなのです。言い換えると、『Let It Go』は「女の子らしくしなさい」という大人たちの声を振り払う「思春期の反抗の歌」(プロテスト・ソング)なのです。そこには力強い意志はあるものの、自分の過去(そして愛する妹)に背を向けて、独りで生きていくことを決意したエルサの孤独感と身勝手さが表れている歌なのです。

この歌の日本語の題名は『Let It Go~ありのままで~』です。サビの部分は次の通りです:

ありのままの 姿見せるのよ
ありのままの 自分になるの

ここで注目すべきなのは、“let it go"と「ありのままで」の意味の違いです。“let it go"という英語表現は「(グッと握っているものを)放しなさい」ということであり、つまり気がかりなことやいつまでも引きずっていることを「見過ごしなさい」「許してやりなさい」「諦めなさい」という意味の慣用句です。

日本人の中には“let it go"に非常に似た“let it be" という言葉を「ありのままで」「自然体で」という意味だと勘違いしている人がいますが、しかし、この表現は、自分の力ではどうにもならないような事柄を心配して、余計なことをしようとしてもかえって逆効果なので、「放っておきなさい」という意味であることを知って下さい。人間の存在のちっぽけさを表した言葉であり、言い換えると「なるようになる」という一種の諦めの言葉なのです。

また、“let it be"は聖書にも使われている言葉であり、「神様のご意志を受け入れます」「神様の望み通りに生きます」というニュアンスも含まれることを忘れてはなりません。その点では、ビートルズの名曲『Let it Be』の歌詞に登場する“Mother Mary"は聖母マリアのことではないかと捉える人も多いでしょう。実際には、ポール・マッカートニーの実母のMary McCartneyのことであるそうです。

ところで“let it go"や“let it be"の“it"は一体何を指すのでしょうか。 この“it"は「漠然とした状況」を表しており、天候や時間、距離など文脈によって様々な状況を指すことができます。ポール・マッカートニーの場合は「自分の人生を取り巻く漠然とした状況」ですし、聖書の場合は、「神様のご意思」のことを意味します。そしてエルサの場合は、自分の中に秘めていた「魔法」、自分を苦しめてきた「社会規範」や「過去」のことです。

『Let It Go~ありのままで~』の日本語版は、自分らしく、自由に生きることが歌われており、「人間社会に背を向けて独りで生きいく」というニュアンスはほとんどありません。英語版と違い、エルサは「自分の好きなように生きよう」と歌っているのではなく「自分を好きになって」と自分を奮い立たせています。

英語版では、周りの人のことを気にしてばかりいては生きていけないことが歌われています。個人主義を信じ、一人ひとりがあらゆる事柄について自分の意見を持つことを当たり前とするアメリカ社会ならではのメッセージなのでしょう。

一方で日本社会は集団社会であり、人々には常に周りから「どう思われているのか」を気にする国民性があります。その点で、日本語版にある「自分らしく生ければきっとうまく行く」というメッセージはとても興味深いと言ってよいでしょう。


3.続編の目玉となる『Into the Unknown』

『アナと雪の女王2』の『Let It Go』に当たる主題歌は『Into the Unknown』ということになるのでしょう。前作の結末では、エルサは妹に救われて王国に戻り、国民に受け入れられました。今回、エルサは自分にしか聞こえない不思議な歌声に惹かれ、未知の旅へと誘われます。『Into the Unknown』は、自分がやっと手に入れた幸福な暮らしと、「自分の本当の居場所は違うのではないか」という気持ちの間で揺れるエルサの心境を歌った曲なのです。

エルサの声優を務めるイディナ・メンゼルは、この歌のコーラスでは“into the unknown"というフレイズを3回、段階的にキイを上げながら繰り返します。劇中では、夜中に不思議な歌声に起こされたエルサが、窓越しに城の外の大自然を眺めながら歌います。アンダーソン=ロペスさんにその意味について聞いてみると、「1回目の“into the unknown"は、1オクターブ上がっていますが、これは安全な範囲以内です。2回目は自分の限界を超えて、その安全地帯から一歩踏み出したかのように音程を上げますが、再び元のキイに戻ってきます。そして自分は恐れることがないと確信すると、彼女はその不思議な歌声に身を委ねて歌います。3回目は11度上がるんです。エルサが城を飛び出した感じね」と解説してくれました。

ところで、日本語版の主題歌は『イントゥ・ジ・アンノウン 心のままに』です。問題のサビの部分は、次のようになっています:

未知の旅へ
踏み出せと
未知の旅へ

英語では“into the unknown"が3回繰り返されるのに対して、日本語版では「踏み出せと」という部分が加えられているのが非常に興味深い点です。

英語の歌詞では重きが「未知なるもの」「未知なる世界」を意味する名詞“the unknown"に置かれています。そういった「謎」があるだけで、行動に出る決意をするのは、まさにアメリカ人的なパイオニア精神の現れなのでしょう。

一方で、日本語版の歌詞では、「踏み出せ」という命令が強調されています。第三者に背中を押されないとなかなか行動に出られない日本人の優柔不断さと慎重さの表れとも言えるのではないでしょうか。

そして、英語では名詞が重視されているのに対して、日本語では動詞が重視されているという点で、そもそもの言語の違いの表れでもあります。この違いは、翻訳する際には注意しなくてはなりません。例えば、「彼は早起きだ」という表現をそのまま英語にすると“He gets up early"ですが、より自然な英語で表すと“He is an early riser"となるのです。逆に英語を日本語に翻訳する場合は、名詞中心の構文から動詞中心の構文に直す必要があります。


4.80年代のロック・バラッドを意識した『Lost in the Woods』

『アナと雪の女王2』の歌で、個人的に印象に残ったのは、アナの恋人のクリストフが歌う愛のバラッドです。クリストフは、ラガーマンの体型をした無骨な山男で、自分の気持ちを言葉で表すのがとても下手です。本作でクリストフは何度もアナにプロポーズを試みるのですが、その度に前置きの段階で勘違いされたり、邪魔されたりして、彼の中でそのフラストレイションが溜まりに溜まっていきます。そして抑えきれない気持ちをついに歌い出すのです。

ピアノのイントロ、鳴きのギター、歌詞やコーラスのハモリまで、正に80年代のAORを意識した曲調となっています。劇中では当時のミュージック・ヴィデオを彷彿させるヴィジュアルに合わせて、クリストフが高らかに歌い上げています。この歌を聞いた瞬間、僕はアメリカのロック・バンド「シカゴ」の名曲『You’re the Inspiration』を思い出しました。

この歌のことについて尋ねると、ロペス夫妻の2人は笑い出しました。「そうだね、ブライアン・アダムズとか、REOスピードワゴンとか、私たちが聴きながら育った80年代の人気バラッドを意識したのよ。私は13歳の時、彼氏に振られ、ブライアン・アダムズをかけながら枕に顔を埋めて泣いていたりしたのよ」とアンダーソン=ロペスさんは笑いながら言いました。

いずれの曲も、男が恥ずかしがらずにロマンチックな気持ちを大々的に歌い上げるという、一昔前の価値観からするととても“男らしくない"歌なのです。夫のロペスさんは、次のように続けました。「男性のキャラクターが女性や愛の対象に恋い焦がれる様子ってあまり描かれないよね。でも男にもそういう気持ちがあって、とても重要なことだと思うんだ。だが僕らはそれを無視し、無理に押さえ込んでいるんだよ。でもね、それを抑え込むと、自分を危険に晒すことになってしまうんだ。」

これまで僕はミュージカル特有のあの「急に歌い出す」ことに対して、違和感を抱いていましたが、2人の話を聞いて合点が行きました。その違和感の正体とは、男が得意とする“恥じらい"と“感情と向き合わない"ことだったのです。

僕が子供だった1980年代~90年代のアメリカのカリフォルニア州では、時代の風潮として、「男が感情を高らかに歌うことはダサいこと」とされていました。日本の場合、その傾向はより一層強いのではないでしょうか。『アナと雪の女王2』は姉妹のアナとエルサの物語ですが、クリストフというキャラクターには、世の中の男性に向けられた「現代にふさわしい男のあり方」というテーマも含まれているのです。

現在アメリカでは、感情と向き合って、それをうまくコントロールするスキルが男性にも求められております、うまく感情表現できる男像がカッコいいとする風潮になりつつあるのです。『アナと雪の女王2』にこういったメッセージが込められているのも、その一つの表れなのでしょう。その点、日本ではこのメッセージがどう“翻訳"され、どう受け取られるかがとても興味深いところです。


5.お互い信頼し合っているロバート・ロペスとクリステン・アンダーソン=ロペス夫妻

ロバート・ロペス

ロバート・ロペスは、ニューヨーク・マンハッタン生まれの作曲家です。2004年のパペット・ミュージカル『アベニューQ』でトニー賞、2008年と2010年にテレヴィ番組『The Wonder Pets』でエミー賞、2012年にミュージカル・コメディ『ブック・オブ・モルモン』でトニー賞とグラミー賞、2014年に妻のクリステンと共に『アナと雪の女王』の主題歌『Let It Go』でアカデミー歌曲賞とグラミー賞を受賞しました。エミー賞・グラミー賞・アカデミー賞・トニー賞の4つの賞を受賞した12人目の人物であり、その4賞をそれぞれ複数回受賞している唯一の人物です。(英語ではこの4賞の頭文字をとって“EGOT"と言います。

クリステン・アンダーソン=ロペス

クリステン・アンダーソン=ロペスは、ニューヨーク郊外出身の作曲家、作詞家です。マサチューセッツ州西部のウィリアムズ大学で演劇と心理学を専攻し、卒業後はブロードウェイの演者を目指します。その後ミュージカルの作曲者・作詞家を育成するワークショップで作詞に目覚め、夫のロバートに出会いました。2013年の『アナと雪の女王』の主題歌『レット・イット・ゴー』と2017年の『リメンバー・ミー』の劇中歌『リメンバー・ミー』でアカデミー歌曲賞を受賞しました。


6.この日の衣裳について

「ラルフ・ローレン」の水玉模様のネクタイ

「ラルフ・ローレン」の水玉模様のネクタイ
こちらはBigBrotherからお借りした「ラルフ・ローレン」のヴィンテージのネクタイです。

「ユニバーサル・ランゲージ」のグレイのダブル・ブレスト・スーツ

「ユニバーサル・ランゲージ」のグレイのダブル・ブレスト・スーツ
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #006を参照してください。

「伊勢丹」のパープルのシャツ

「伊勢丹」のパープルのシャツ
この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #008を参照してください。

「ブルックス・ブラザーズ」のグレイのソックス

こちらの商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #008を参照してください。

「アレン・エドモンズ」の『パーク・アベニュー』

「アレン・エドモンズ」の『パーク・アベニュー』
この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #024を参照してください。

「999.9」の『M-27』

「999.9」の『M-27』
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #003を参照してください。


CINEMA & THEATRE #028

映画『アナと雪の女王2』の作曲家、ロバート・ロペスとクリステン・アンダーソン=ロペスへのインタヴューを振り返って


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