メイン・コンテンツ
検索フォーム
ハイレゾで聴くポップとロック・ミュージックの名盤
  - 試聴にオススメの優秀な録音のCD (7) | GEAR & BUSINESS #011
2022/04/04 #011

ハイレゾで聴くポップとロック・ミュージックの名盤
- 試聴にオススメの優秀な録音のCD (7)

columnist image
BigBrother
プランナー / エディター / イヴェント・オーガナイザー

目次


1.プロローグ

これまで「オススメのオーディオ・システムと録音が優れた歴史的名盤」シリーズでは、試聴にオススメの高音質盤や、録音が技術的に優れている様々な音楽ジャンルの名盤を取り上げてきました。以下にこれまでのコラムを紹介します。
初心者にオススメなコンピレイション盤
“いい音楽”と“いい音質”を知るためのクラシカル・ミュージックとジャズのコンピレイション盤
日本人が洋楽を楽むためにピッタリなコンピレイション盤
病み付きになるワールド・ミュージックとEDMのコンピレイション盤
邦楽と洋楽のギャップを楽しむためのJ-POPとグラミー賞受賞作のコンピレイション盤
ハイレゾで聴くクラシカル・ミュージックとジャズの名盤

こうした作品をGEAR & BUSINESS #004で紹介したようなオススメのオーディオ・システムで聴くことによって、リーズナブルなプライスでより“良い音質”の音楽を嗜むことができます。是非参考にしてみて下さい。

“良い音”や“高音質”とは、そもそもどういうことなのでしょうか。こういった表現には大きく分けて2つの意味があると考えると分かりやすいでしょう。

一般のリスナーの観点からすると、“良い音”や“音質がいい”とは“聴きやすい”ということでしょう。“聴きやすさ”にも様々な意味があり、例えば「尖っていなくて耳に優しい」「長時間聴いていても疲れない」「洗練されていて高級感がある」「手軽に聞ける」ことを指す場合があります。人によってはBGMのように表に出過ぎず環境に溶け込むような音楽であったり、複雑過ぎずに“分かりやすい”音楽のことを指すこともあります。 いわゆる“高級オーディオ”の多くは、こうした意味での聴きやすさを追求しているといえるでしょう。なので、場合によっては、聴きやすさを求める上で耳障りな音帯を敢えて消してしまう場合すらあります。

一方で、作り手側(ミュージシャンやサウンド・エンジニアなどのプロ・オーディオの世界)やいわゆる“オーディオファイル”(Hi-Fiオーディオ・マニア)からすると、“良い音”や“高音質”とは「録音状態が良いこと」「マスタリングが良いこと」「演奏を忠実に再現していること」を指します。そのポイントとなるのが、例えばそれぞれの楽器の音や歌声を拾うマイクロフォンのポジショニングや、録音された音源のクオリティ、ダイナミック・レンジ、解像度や音像定位がポイントとなってきます。音のクオリティでいうと高音から低音まで適切に録音されているか、ダイナミック・レンジに関しては大きい音から小さい音がしっかり録音されているがポイントとなります。また、解像度が高い音源だと、細かい音を聞き分けることができて、性能の良いスピーカーで聴くとでそれまで気づいていなかった音に気づくことさえあります。定位とは、2の左右のスピーカーの間の何もない空間から、それぞれの楽器や歌声が違う位置から浮かんで聞こえてくるという現象を指します。いわゆる“ハイレゾ音源”とはつまり解像度が高い音源のことです。つまり、“ハイレゾ音源”というものは必ずしも“聴きやすい音”とは限らないのです。

録音が優れていれば優れているほど、フラットなアンプと性能の良いスピーカー、加えて、素直なケーブルを使って聴くとことで、サウンド・エンジニアがレコーディング・ストゥディオで聴いていた原音が忠実に再現されるのです。ミュージシャンが意図していた表現がピュアに伝わってきたり、自分の目の前で演奏してくれているかのように聴こえてくるものです。一方で、ノートパソコンに内蔵されているスピーカーやスマフォに同封されているイヤフォンで聴く分には、どんなに録音が優れた音楽でも歪んだ形で再現され、本当の意味で“音楽を聴いている”と言えるかどうかも微妙なところといえます。

今回は録音が優れている洋楽のポップとロックの名盤を取り上げます。ポップとロックの名盤といわれるアルバムの高音質盤や、グラミー賞の「技術賞」を受賞している作品を中心に選びました。


2.録音が優れているポップの名盤

60~70年代

60年代後半にはビーチ・ボーイズが『ペット・サウンズ』というポップの傑作アルバムで世界中のミュージシャンを驚かせました。全曲を作曲し、プロデューサーも務めたブライアン・ウィルソンは、録音ストゥディオに引きこもり、ポップにオーケストラ的な音楽スタイルを持ち込み、「史上最強のロック・アルバム」を目指しました。この作品はザ・ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』にも強い影響を与えました。

80年代

70年代のディスコ・ブームを経て、80年代には“ダンス・ポップ"が人気を博すようになります。マイケル・ジャクソンはジャクソン5時代のブラック・ミュージックから完全に“ポップ"へシフトをしました。85年の『スリラー』と87年の『バッド』には、ジャズ・ミュージシャンとしてキャリアをスタートしたクインシー・ジョーンズがプロデューサーとして参加しており、その後の“良い音質"のポップの原型を作りました。

90年代

90年代にはマライア・キャリー、ブリットニー・スピアーズ、クリスティナ・アギレラのようにポップにR&B的な要素を持ち込み、ナタリー・インブルーリアやサラ・マクラクランのようにオルタナティヴ・ロック的な要素をポップに持ち込むなど、多くの女性アーティストが優れた音楽を世に送り出しました。

00年代以降

2000年代以降は、ヒップホップに代表されるブラック・ミュージックとEDMに代表されるダンス・ミュージックの要素がポップに取り入れられました。一方で、70年代~80年代のディスコやダンス・ポップに強く影響を受けたポップ・ミュージックが人気を博すようになりました。


3.録音が優れているロックの名盤

ロック界では、ザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリンやピンク・フロイドなど、英国のロック・グループが優れた音質のアルバムをリリースしました。特にビートルズがレコーディングの拠点としていたアビー・ロード・ストゥディオズは世界で最も有名な録音ストゥディオなのではないでしょうか。

ザ・ビートルズ

ザ・ローリング・ストーンズ

レッド・ツェッペリン

ピンク・フロイド

その他のRock

その他のHard Rock


4.録音が優れているAOR/ウェスト・コースト・ロック/フォーク・ロックの名盤

AOR

AORという音楽カテゴリーは、アダルト・オリエンテッド・ロック(Adult-Oriented Rock)の略として、80年代に作り出された造語(ジャンル)です。ジャズの中でもいわゆる「フュージョン系」とされるアーティストをAORに分類することもあります。このジャンルはドライヴに最適な音楽なのではないでしょうか。

West Coast Rock

AORと重複する部分もありますが、ウェスト・コースト・ロックとは、西海岸っぽい、あるいはカリフォルニアっぽいロックのことです。

ブルーズ・ロック/フォーク・ロック

ブルーズ・ロックやフォーク・ロックは、アメリカ南部に由来するブルーズやカントリー・ミュージックの影響が強いロック音楽のことです。こうしたジャンルは後にいわゆるサザン・ロックやルーツ・ロックというジャンルにも直結します。

ボブ・ディラン/ザ・バンド/トム・ペティ

エリック・クラプトン


5.エピローグ

今回はグラミー賞「技術賞」を受賞、あるいはノミネイトされた作品も数多く取り上げました。1959年より導入されたこの賞には、「クラシカル」と「ノン・クラシカル」という2つの部門があります。この分別があることからも、クラシカル・ミュージックは他の音楽ジャンルに比べて特に音質が重視されていることが分かります。それも当然のことでしょう。クラシカル・ミュージックの歴史が極端に古く、19世紀以降の様々な録音技術の発達もクラシカル・ミュージックがあったからこそ実現されたと言っても過言ではありません。 有名な話として、CDが一般的に74分という収録時間になったのも、ソニーの大賀典雄社長がカラヤン指揮のベルリン・フィルによるベートーヴェンの『交響曲第9番ニ短調作品125』が1枚に収まるように74分にした、という説があります。(今では80分を収録できるCDもありますが。)

一方、ノン・クラシカル部門で技術賞を受賞している作品を見ると、ジャズ系の作品が極端に多いことが目立ちます。ジャズとは、アメリカ南部の黒人の民族音楽と、ヨーロッパのクラシカル・ミュージックにルーツを持った音楽で、クラシカルと同様にインテリや富裕層に人気のあるジャンルです。ポップやロックはクラシカル・ミュージックやジャズとは違って、特別な機材を必要とする高級オーディオやハイレゾ配信を前提としていない“ポピュラー音楽"です。誰でも持っているようなコンポやノート・パソコンのスピーカー、あるいはイヤフォンで再生されること、レイディオでかかることを想定しています。ロックに至っては、きっちりした音ではなく敢えて“うるささ"や“崩し"を追求している側面もあります。

それでもポップやロック音楽の中でも、録音が優れていることで評価されている名盤もあります。ザ・ビートルズやビーチ・ボーイズは60年代にレコーディング・ストゥディオで様々な実験を行いながらこだわり抜いたサウンドを作り上げていきました。70年代にはピンク・フロイドに代表されるように、英国のプログレッシヴ・ロックのバンドがジャズやクラシカル・ミュージックの影響をロックに持ち込みました。一方でアメリカではスティーリー・ダンのドナルド・フェイゲンやウォルター・ベッカーもジャズの影響をロックに持ち込み、録音ストゥディオでは完璧主義を貫きました。

日本の音楽市場を見ると、クラシカル・ミュージックや高級オーディオのマーケットがあるのに、J-POPは音質が極端に悪いという両極端な状況が存在します。その差の背景には、リスナーの質や、音楽を聴くことについての環境の違いがあります。自宅のリスニング・ルームの高級オーディオ・システムを通してクラシカルやハイレゾ音源を聴くと人と、通勤電車などでスマフォからイヤフォンを通してJ-POPを“ながら聴き"する人の二極化が進んでいます。しかも、現実には、日本のオーディオ・マニアの多くは、アイドルやアニソン、美人なだけのピアニストやヴァイオリニストの演奏を数百万円もするオーディオ・システムで聴いています。

サウンド・エンジニアの質についても忘れてはなりません。J-POPを手がけるエンジニアの多くは、高校までTVでしか音楽を聞いておらず、専門学校で教科書的なテクニックは学んでも、“良い音楽"や“高音質"がわかるセンスはなかなか磨かれていないものです。また、J-POPは楽器やビーツではなく、あくまでも“歌"がメインであることもその音のバランスに大きく影響しています。欧米のポップやロックのシンガーに比べてJ-POPのシンガーは「歌の力」が弱いため、エンジニアは彼らの声が埋もれずに目立つように曲全体のバランスを崩さざるを得ないという理由もあるように思われます。

近年の音質の優れた欧米のポップやロック音楽を聴くと、ヒップホップやラップというブラック・ミュージック、ディスコやハウス・ミュージックなど広義の“EDM"の影響がとても強いことが目立ちます。次回「オススメのオーディオ・システムと録音が優れた歴史的名盤」シリーズでは、ブラック・ミュージック、EDM、ワールド・ミュージックの作品を取り上げます。


GEAR & BUSINESS #011

ハイレゾで聴くポップとロック・ミュージックの名盤 - 試聴にオススメの優秀な録音のCD (7)


Page Top