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SNS時代における「振り返ること」の意味について考える
  - Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』 #DearMeTenYearsAgo (2019/05/31放送) | LANGUAGE & EDUCATION #022
Photo: ©RendezVous
2022/05/02 #022

SNS時代における「振り返ること」の意味について考える
- Eテレ『世界へ発信!SNS英語術』 #DearMeTenYearsAgo (2019/05/31放送)

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KAZOO
翻訳家 / 通訳 / TVコメンテイター

目次


1.今回のテーマ、#DearMeTenYearsAgoについて

今回は#DearMeTenYearsAgo、「親愛なる10年前の自分へ」というハッシュタグを用いて、過去の自分へメッセージを綴った投稿を取り上げました。過去の自分に宝くじの番号を知らせたり、「今のうちに仮想通貨を購入しとけ」というような、楽をして儲けたい人のお決まりのような投稿もありましたが、辛い時期の真っ只中だった過去の自分に送る励ましのメッセージも多く見受けられました。この10年間で手に入れた今の幸せを誇らしげに伝えるツイートもあれば、自分の悪い癖は相変わらずだと嘆く声もありました。日本では平成から令和へと時代が変わりましたが、世界的にも来年は2020年(英語読みとしては“twenty-twenty")と言うことで、2010年代の終わりでもあり、時代の節目となっています。こういったことで世界中の人々が物思いにふけっているようなのです。

人生にやり直しはきかず、過去へのタイム・スリップはできません。しかし人間はよく、“仮想のシナリオ"をイメージすることで自分を慰めようとします。「過去の自分にメッセージを送るとしたら」というのもその1つです。頭の中で「過去の自分」と「現在の自分」との間で架空の会話を繰り広げる人もいます。こういった思考実験を通して、今向かっている方向が間違っていないかということを確認しようとしているのでしょう。

また、「過去の自分へ」や「若い頃に知っておきたかったこと」という切り口を用いて、過去の自分と似た環境に置かれた若い人へのアドバイスや人生教訓を伝える本も数多くあります。その代表例がアメリカの起業家とスタンフォード大学教授のティナ・シーリグの『20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』でしょう。今回の#DearMeTenYearsAgoのツイートの中にも、心が打たれる投稿が多くありましたが、実践的なアドバイスが欲しい人には是非オススメの1冊です。

英語には、“hindsight is 20/20"(twenty-twenty)という格言があります。将来を予測することは難しいが、事後であれば、どうすればよかったかは明々白々である、と言う意味です。日本語で言う「後知恵」のことです。言い換えると、この瞬間目の前に立ちはだかる壁はそびえ立っているように見えるかもしれないが、その壁は実は自分が自分の中で作っているものであり、それを乗り越えて振り返ってみると、大した壁でなかったことが分かるということです。今回の#DearMeTenYearsAgoの投稿にはその気持ちが強く現れていたのではないでしょうか。ただ、皮肉なことに、例え過去の自分にそのメッセージを届けられたとしても、聞く耳を持たないのが人間の常なのでしょう。


2.SNS/スマフォ時代において“振り返る"ことの意味

今回の収録で特に興味深かったのは、SNSやスマフォの時代になって、人類はかつてないほど日々の行いを記録するようになった、と言う佐々木さんの指摘でした。

スマフォの普及によって、いつでもどこでも写真と動画が撮れるようになりました。それに伴った様々な技術の進歩により、その写真と動画を大量に保存したり、簡単に共有することもできるようになり、私たちの生活は大きく変わりました。

毎日のランチの写真をインスタグラムに投稿する人もいれば、赤ちゃんの一挙手一投足を親戚と共有する人もいます。街の至る所に自撮りをしている人が見当たります。そしてイヴェント会場やコンサート会場では、観客の誰もがスマフォを持ち上げ、スマフォ通しでステージを見ています。何かを記念するために写真を撮ってSNSにアップしているのか、それともSNSにアップする写真が欲しいがために何かをするのかが分からない時代になりました。証拠としてスマフォに写真や動画が残っていない出来事は、まるで起こらなかったことと等しいような感覚にさえなってきています。

また、数年前からフェイスブックの“友達記念日"という機能が話題になっています。フェイスブック上で“友達"と繋がった日を“友達記念日"として見立て、毎年その日になるとフェイスブックが自動的に2人が写っている写真などをスライド・ショー形式にまとめた動画を作成し、共有を促します。フェイスブックを頻繁に使う人同士であれば嬉しい機能ですが、それだと思い出や友達関係をSNSにキュレイションされているような印象になることは否めません。そもそもフェイスブックにおける“友達"という関係は不思議なものです。例えば、リアルの世界で知り合いから友達へとなる以前に、ヴァーチャルの世界上で友達申請をする行為が当たり前になってしまいました。

一方で興味深いのが、「1 Second Everyday」というアプリです。このアプリは、毎日1秒ずつ動画を撮影し、それを1年の終わりに6分間(365秒)の1本の動画として書き出すことができます。このアプリを開発した会社の創業者であるシーザー・クリヤマは、30歳という節目を前に、20代の日常の思い出がほとんどなかったことに気づき、それまで勤めていた会社を辞め、日常を1日1秒だけ記録するプロジェクトをスタートさせました。1日24時間の中からたった1秒を切り取ると決めることで、あらゆる出来事をスマフォで録ろうとする習慣から解放された、とクリヤマは話します。この方法だと選び抜いた1秒間は、むしろその1日の思い出を呼び起こしてくれるそうです。一方で、特別な出来事がないルーティーンな日々が続くと、自ずと「何かを変えなきゃ」という気持ちになれると語っています。

SNSやスマフォの技術の発達により、日常を記録することはかつてないほど簡単になりましたが、大事なのは、記録するのに値する毎日、見返したくなる毎日を送ることなのではないでしょうか。


3.“Decade"の使い方

番組で鳥飼玖美子先生が紹介したように、「10年」「10年間」を意味する英語は、 “ten years"以外にも、“decade"という言葉があります。“deca-"あるいは“deka-“は「10」という意味の接頭辞で、ギリシャ語に由来します。例えば“decathalon"は陸上競技の「10種競技」のことです。

“decade"には「10年間」という意味に加えて、「~年代」という意味もあります。例えば、“the past decade" は「ここ10年間」、“the coming decade"または“the next decade"は「この先10年間」になりますが、“the previous decade"は2000年から2009年の間の「2000年代」のことを指し、“this decade"は「2010年代」を指します。

“the last decade"は文脈によって意味が変わってきます。“during the last decade"というと「ここ10年間」という意味になりますが、“the last decade of the 20th century"というと「20世紀の最後の10年間」、つまり「90年代」のことになります。一方で、代名詞が間に入って“during his last decade"となりますと、「彼の生涯の最後の10年間」という意味になります。

収録の合間にMCのはるひさんが「じゃあ、20周年記念のことを『two-decade anniversary』とも言えるのかしら?」と気になっていましたが、これには少しややこしい問題があります。 “twenty-year anniversary"や“twentieth anniversary"とは言いますが、 “two-decade anniversary"とは言いません。なぜなら、“anni-"はラテン語で「1年」を意味する“annus"から来ていて、“anniversary"は「1周年記念」のことだからです。よく、付き合って半年経ったことを記念して“six-month anniversary"を祝うカップルがいますが、この表現は正確にはおかしいことになります。また、「10周年記念」を意味して“decaversary"という表現は存在しますが、この表現は一般的ではないです。パートナーが言語学者ではない限り、「20周年記念おめでとう」という意味で “happy second decaversary"と言ったとしたら、ロマンチックなムードを一気にしらけさせることは間違いないでしょう。

一方で、「100年」は“century"ですが、 接頭辞の“centi-" は「100」または「100分の1」という意味で、ラテン語に由来しています。例えば“centimeter"は1メートルの100分の1のことです。また、節足動物のムカデは足がいっぱいあるということで英語では“centipede"と言います。そして「100年の」「100周年記念」「100年祭」を意味する“centennial"は一般的にもよく用いられる表現です。アメリカ合州国が設立200周年を迎えた1976年には、“bicentennial"の祝いが盛んに行われました(“bi-"は「2つ」「2回」を意味します)。

そして、「1000年」は millenniumです。 “milli-“は「1000」という意味のラテン語に由来する表現で、“millimeter"のように「1000分の1」という意味で主に使われます。(一方で同じく「1000」を意味する“kilo-"はギリシャ語に由来しています。)そして近年よく耳にする“millennial"は、主にアメリカ合州国において2000年代ごろに成人した世代のことを指す言葉です。

アメリカではメートル法が浸透せず、長さは「インチ」や「フィート」、重さは「パウンド」や「オンス」などの単位が一般的ですが、 “時"の感覚はこのように、10進法が用いられています。


4.アナログ時代の大量のホーム・ムーヴィーの活用法

#MothersDayについて書いたLANGUAGE & EDUCATION #019では、もっと頻繁に親と連絡を取り、親孝行をしたい気持ちについて書きました。#DearMeTenYearsAgoのツイートの中にも、10年前の自分に「いつまでもあると思うな親と金」のような戒めを送る方も多かったようです。父が生きている間にもっと気持ちを伝えればよかった、もっといろんな話を聞けばよかった、と嘆く投稿者に、MCのはるひさんもパートナーのヒデさんも胸を打たれていました。「親の心子知らず」はどこの国でも共通なのでしょう。

先日、父と電話で話した時、「10年前の自分に何かメッセージを届けられるとしたら、何を伝えたい?」と聞いてみました。父はしばらく何も言わずに考えていると、「ここ10年でブルーレイの普及やデジタル・データがここまで進歩していることを考えると、家にあるVHSテープをDVDに変換するのにあれだけの時間を費やすな」と笑いながら言いました。

父は、僕と3歳年下の妹が幼かった頃から、カムコーダーを使って日常のなんでもない瞬間から、ピアノ・リサイタルや運動会などのイヴェントまで、時間が許す限り色々撮っていました。1990年代に録画しVHSに書き出したものを、2000年代にわざわざDVDに変換し、更には2010年代には改めてデジタル・データに変換した父にとっては、DVDに書き出す手間を省けばよかったのでしょう。夜遅くにDVDにちゃんと映像が変換されているかを丁寧にチェックしていた父の姿を何度も見ていた僕は、思わず電話越しに笑い出しました。

お互いの笑いがおさまり、またしばらくの沈黙が続くと、父は「冗談はさておき、変換する時に映像を色々見返す中、君たちが小さかった頃を思い出したり、懐かしんだり、オトウサンとしてやってきたことを顧みる時間は感慨深かった」と打ち明けました。今はリタイアしていて、時間が有り余っているということもあるかもしれませんが、今まさに大量のDVDを改めてデジタル化する作業も同じように感慨深く、決して無駄な時間だとは思っていないと言っていました。

その一方で、スマフォで四六時中、子供の1日を記録し続ける親や、自分の一番かっこいい場面だけを写真や動画に収める人については、「彼らはそれを撮ったきりで見返すことはせず、撮ることに満足しているんじゃないかな」とコメントしていました。


5.今回の衣裳について

「麻布テーラー」のオフ・ワイトのダブル・ブレストのジャケット

「麻布テーラー」のオフ・ワイトのダブル・ブレストのジャケット
この商品は、以前紹介したのでLANGUAGE & EDUCATION #008を参照してください。

「伊勢丹」のグレイ・シャツ

「伊勢丹」のグレイ・シャツ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #021を参照してください。

「MFYS」の黒いのカフリンクス

「MFYS」の黒いのカフリンクス
この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #011を参照してください。

「グローバルスタイル」の黒いスーツのズボン

「グローバルスタイル」の黒いスーツのズボン
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #011を参照してください。

「タビオ」のカーボン・グレイのソックス

「タビオ」のカーボン・グレイのソックス
この商品は、以前紹介したのでCINEMA & THEATRE #015を参照してください。

「リーガル」の黒いウィングチップ・シューズ

「リーガル」の黒いウィングチップ・シューズ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #009を参照してください。

「ゾフ」の黒いメガネ

「ゾフ」の黒いメガネ
この商品は、以前紹介したのでFASHION & SHOPPING #006を参照してください。

LANGUAGE & EDUCATION #022

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