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ダンス・ミュージックとクラブ・カルチャーを楽しむためのオススメのオンライン・リソース
  - エレクトロニック・ダンス・ミュージック入門 (14) | MUSIC & PARTIES #040
2024/10/07 #040

ダンス・ミュージックとクラブ・カルチャーを楽しむためのオススメのオンライン・リソース
- エレクトロニック・ダンス・ミュージック入門 (14)

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SUNDAY
英語教師 / 写真家 / DJ

目次


1.プロローグ

このシリーズではこれまで1970年代から現在に至るまで、エレクトロニック・ダンス・ミュージックの進化を辿ってきました。その中での重要な人物や出来事、歴史的な作品やイヴェントを紹介しました。

1970年代の世界的なディスコ・ブームの絶頂と衰退
シカゴ・ハウス、デトロイト・テクノ、ニューヨークのガラージ・ハウス
イビザ島のバレアリック・サウンドと英国発の“セカンド・サマー・オヴ・ラヴ"
英国発のビッグ・ビート (前編 / 後編)
トリップ・ホップ/ジャングル/ドラムン・ベイス/ガラージ/2ステップ
サシャとジョン・ディグウィードがダンス・ミュージックにもたらした“プログレッシヴ"な革命
ドイツ生まれのダンス・ミュージック/スヴェン・ヴァスとベルリンの壁の崩壊後のジャーマン・テクノ
フレンチ・スタイルの“オシャレな"ハウスとエレクトロ/ダフト・パンク、ジャスティスとKITSUNÉ
ヨーロッパが生み出した感情的な“エピック・トランス"
インド生まれのゴア・トランスとサイケデリック・トランス
日本のロック・フェスが世界に示したレイヴ・ミュージックの商業的な成功例
ハウス・ミュージックのメインストリーム化とEDMのお世界的な大成功
脳を刺激するアンビエント・ミュージック/ニュー・エイジ・ミュージック/IDM

2010年代に世界的に流行したEDMはメインストリームな音楽ですが、それは例外的な出来事であり、エレクトロニック・ダンス・ミュージックの歴史というものは主にアンダーグランド・カルチャーの歴史です。そのため、ポップ・ミュージックに比べてこのシーンの情報を取り扱っているウェブサイトや、クラブ系の音源を専門に取り扱っている配信/販売のサイトの中には一般的に知られていないものが多いです。

このコラムでは、ダンス・ミュージックとクラブ・カルチャーに特化したオンラインのリソースを紹介します。


2.クラブ・カルチャーの総合誌「Mixmag」

「Mixmag」は1983年にロンドンを拠点に創刊されたサブカルの雑誌で、MUSIC & PARTIES #032でも取り上げたように、英国のプログレッシヴ・ハウス・シーンの発達に大きく貢献しました。当初は、Disco Mix ClubというプロのDJ向けにリミックスをリリースしていたレイベルが、16ページの白黒のニューズレターとして発行していました。80年代にハウス・ミュージックが英国に輸入され、アンダーグラウンドのシーンが芽生えると、編集者のデイヴ・シーマンはMixmagをニューズレター形式からダンス・ミュージックの総合誌としてリニューアルさせました。

こういった背景から、Mixmagはクラブ・カルチャーを大きく取り扱っており、よりコンシューマー向けの内容となっています。クラブ業界関連のゴシップ、ファッション、ドラッグ・カルチャーを積極的に取り扱っている記事で知られます。2000年代ごろからは「Global Drug Survey」という団体と共同で英国のナイトライフ・シーンにおける薬物の使用と飲酒についての調査を実施し、2010年に入ってからはその調査規模も全世界に拡大されました。2019年以降は、パートナーは「DJ Mag」に変わっているようです。

Mixmagのウェブ上の1つの人気コンテンツが、毎週公開される『The Lab』という動画シリーズです。毎回違うDJが、ロンドンやL.A.などにあるMixmagのオフィスを訪れ、1時間のセットをライヴで配信しています。(新型コロナウイルスの感染拡大以降は、自宅からの配信が増えています。)

また、Mixmagは以前、毎月1組のDJが手がけた同封のミックスCDが1つの目玉となっていましたが、CDのニーズの低下に伴い、現在では「Soundcloud」や「YouTube」にてデジタル配信のみとなっています。音質がCDに比べて劣っていることは残念ですが、様々な著名DJのミックスがアップされていますので、是非聴いてみて下さい。以下にいくつかのオススメのミックスを紹介します。

Mixmagはこれまで英語版に加えて、フランス語、ドイツ語、ポルトガル語、韓国語、クロアチア語、ロシア語、中国語という複数の海外版を展開してきました。2017年の夏に日本版が創刊され、英語版の翻訳記事に加え、オリジナルの記事がネット上で公開されています。また、フリー・マガジンも同時に発行され、日本全国のタワー・レコードを中心に配布されていましたが、2019年6月号を最後に休刊しているようです。

Mixmag: http://www.mixmag.net
Mixmag日本版:http://www.mixmag.jp/


3.DJをクラブ・カルチャーのスターと捉えた「DJ Mag」

「DJ Mag」はその名前の通り、より“DJカルチャー"に特化しており、業界のニューズや音響機材のレヴューなど、業界人向けの企画が比較的多い印象があります。本誌は80年代末に「Disc Jockey Magazine」というDJ専門誌としてスタートし、91年から「DJ Mag」としてリニューアルしました。1994年にはアンダーワールドが表紙を飾ったり、95年からイビザ島の取材が増えたり、2002年にはブライトン・ビーチでのフリー・レイヴを開催したばかりのファットボーイ ・スリムが特集されるなど、ダンス・ミュージック/クラブ・シーンの歴史を記録してきた貴重な雑誌です。

「DJ Mag」の恒例企画は、『Top 100 DJs』『Top 100 Clubs』『Top 100 Festivals』といった読者投票による番付です。特に『Top 100 DJs』のランキングは1つの権威とされ、それによって大型フェスにおける出演のギャラが大きく左右されるとも言われています。ただ、このランキングに関しては批判の声も多くあります。本来ならDJはパーティーの主役ではないはずなのに“人気度ランキング"となっていることや、その結果、EDM系のDJ(中でも男性DJ)に偏りよぎ過ぎているという指摘があります。ランキングにはダンス・ミュージックのいわゆる“レジェンド"たちが登場することは稀で、一方、ラス・ヴェガスのレジデントを務めているようなメインストリーム(“売れ線")のDJがトップ10の常連となってきています。その点で『Top 100 DJs』のリストはDJのランキングである以上に、ダンス・ミュージック界の動向を示したものであり、ここ10年間EDMがいかに世界を制覇したかを物語っているといえるでしょう。また、こういった批判の声も受けて、「DJ Mag」は数年前からダンス・ミュージックの音源ダウンロード・サーヴィス「Beatport」のセールズなどを基にしてハウスとテクノに特化した『Alternative Top 100 DJs』のランキングも発表しています。こちらでは2年間連続でカール・コックスが首位を取っています。

「DJ Mag」も「Mixmag」と同様、かつては毎月同封のミックスCDが1つの目玉となっていました。(読者の中には、そのミックスCDのみを目当てに本誌を購入する人もいました。)現在では主に「Soundcloud」に音源をアップしています。以下、いくつかのオススメのミックスを紹介します。

2016年の春には「Mixmag Japan」より一足先に「DJ Mag Japan」がオンライン・マガジンとしてスタートしました。コンセプトは「日本のダンスシーンを“ガラパゴス"から世界標準に」です。海外の情報を日本国内向けに紹介するだけでなく、国内の情報を海外に発信し、日本のダンス・ミュージック・シーンを世界標準のレヴェルまで引き上げていくことを目指しています。

DJ Mag の恒例企画である「Top 100 DJs」「Top 100 Clubs」の和訳はもちろんのこと、日本の若手 DJ/プロデューサーからNo.1を決める『DJ MAG JAPAN TOP 10 DJs Ranking U-29』や、日本のトップ10のナイトクラブを決める『Best of Japan – CLUBS Ranking』の投票をLINEを通して行なっています。また、「日本にいる才能ある若手プロデューサーや DJ を世界に発信していくプロジェクト」として 『DJ MAG JAPAN Creators Salon』というワークショップも2018年に開催するなど、積極的に日本のダンス・ミュージック・シーンを盛り上げようとしています。

DJ Mag: https://djmag.com/
DJ Mag Top 100 DJs: https://djmag.com/top100djs
DJ Mag Top 100 Clubs: https://djmag.com/top100clubs
DJ Mag 日本版: https://djmag.jp/


4.アンダーグラウンドのクラブ・カルチャーを取り扱う「Resident Advisor」

アンダーグラウンドなダンス・ミュージック・シーンに特化し、コアなファンの間で重宝されてきたのが「Resident Advisor」(略して「RA」)です。RAは2001年にオーストラリアのダンス・ミュージック・シーンを取り上げるオンライン・マガジンとして始まりましたが、翌年には世界各国のシーンへと対象を拡大しました。興味深い記事やシングル/アルバムのレヴュー、オピニオンが掲載されており、EDM以外のダンス・ミュージックに興味のある方にオススメです。

RAは世界各地のナイトクラブやパーティー、音楽フェスのリスティングがとても充実しており、一部のイヴェントに関してはチケットの販売も行っております。また、新型コロナウイルスの世界的な大流行の中で各地のイヴェントが中止となり、パーティー・ピープルやレイヴァーたちが引きこもっている中、RAは2020年4月から「Streamland」と名付けて、ヴァーチャルで開催されている音楽配信のリスティングも公開しています。

RAは動画コンテンツにも力を入れており、特にロンドン、ベルリン、ニューヨーク、東京など、世界のクラブ・ミュージックの主要都市を取り上げた20分前後のミニ・ドキュメンタリー・シリーズ『Real Scenes』が話題となりました。注目のアーティストのDJプレイやライヴ・パフォーマンスを捉えた『RA Sessions』のシリーズもオススメです。

2011年よりサイトの日本版も公開されており、英語版の記事の翻訳に加え、日本のナイトクラブの情報やパーティーのリスティングも充実しております。そのため、日本を訪れる外国人のクラブ好きの間ではとても大事なリソースとなっています。


5.音楽界の大物のレクチャーを受けることのできる「Red Bull Academy」

「レッド・ブル・アカデミー」は、例の「翼を授ける」というキャッチコピーで有名なエナジー・ドリンクが1998年より開催している音楽業界関連のイヴェントです。毎年違う都市にて5週間に渡って開催され、業界人向けのワークショップやコラボレイション・セッションからなるプログラムと、コンサートやパーティー、アートの展覧会やトーク・イヴェントからなる一般人向けのプログラムがあります。2014年には東京で初めて開催されました。初期はエレクトロニック・ダンス・ミュージックが焦点となっていましたが、近年はより幅広いジャンルの駆け出しのミュージシャンが参加するようになっています。

これまでのイヴェントで行われたレクチャーやインタヴューの多くは「レッド・ブル・アカデミー」のホームペイジで公開されており、著名なアーティストたちがディープな話しをざっくばらんに語る様子を観ることができます。 フランキー・ナックルズ、ケヴィン・ソーンダーソン、ジェフ・ミルズなどクラブ・ミュージックの巨人たちのみならず、ジョルジオ・モローダー、ブライアン・イーノ、冨田勲、ディアンジェロ、ジャム&ルイスなど名だたる音楽家が登場しており、ミュージシャンやDJを目指している方はもちろんのこと、音楽史に興味のある方にとっては必見です。また、各動画の英語の書き起こし原稿も掲載されているのもとても親切な点です。

Red Bull Academy: https://www.redbullmusicacademy.com/lectures


6.日本のクラブ・シーンの情報を発信する「iFLYER」と「clubberia」

日本版の「Resident Advisor」ともいえるのが、日本のクラブ・シーンに特化した「clubberia」です。2000年にオープンしたclubberiaは、ニューズ、ナイトクラブやパーティーのリスティング、イヴェント・レポート、インタヴュー記事を掲載しており、毎回1組のDJのミックスをフィーチャーした『clubberia podcast』を展開しています。

clubberia: https://clubberia.com/ja/

同じく日本の音楽イヴェント・ポータル・サイトとして有名なのが「iFLYER」です。2006年にオープンしたiFLYERは、コンサートやフェスティヴァルの情報とチケットの販売をメインに、音楽ニューズやアーティストへのインタヴュー記事を掲載してきました。クラブ系のパーティーだけでなく、日本のインディ・ロックやアイドルのコンサート情報も多く掲載されています。新型コロナウイルスの影響でクラブやライヴ・ハウスの営業が控えられていることを受けて、ネット上のライヴ配信の情報も多く掲載されております。同サイトには“英語版”もありますが、残念ながらあまり使える内容になはっていません。

iFLYER: https://iflyer.tv/

iFLYERとclubberiaは、日本の音楽カルチャーの発展やナイトライフ産業の活性化を図るために、2018年より業務提携をしており、それぞれのポータル・サイトの情報がより充実するようになりました。また、日本のイヴェントでResident Advisorには掲載されているがiFLYER/clubberiaには掲載されていない、また、その反対のケースもありますので、日本のパーティー情報を知りたい方にはそれぞれのサイトをチェックすることをオススメします。


7.DJ向けの音源や音作りのための素材が簡単に入手できる「Beatport」

「Beatport」はエレクトロニック・ダンス・ミュージックに特化したオンライン・ミュージック・ストアの最大手です。2004年にアメリカで立ち上げられたこのサーヴィスは主にDJを想定しており、ハウスやテクノからヒップホップやR&Bまで、また、ありとあらゆるサブジャンルの“DJ用”音源を入手することができます。( DJ用音源とは、曲と曲を繋げやすくするためにイントロとアウトロが長めに作られている6〜10分の音源のことです。“extended mix” (延長版)と表記されることもあります。一方、レイディオ放送向けに3〜4分に短く編集された音源は “radio edit” と表記されています。)

音源は複数のフォーマットで入手可能で、320kbpsのMP3はもちろんのこと、1トラックにつき追加料金を払えば、CDクオリティーに匹敵するいわゆる“ロスレス”(無圧縮(16 bit/44.1 kHz)のWAVとAIFFのフォーマットを選択することもできます。(WAVはWindowsの標準の音声ファイル形式なのに対して、AIFFはMacの標準の音声ファイル形式です。WAVに対応しているMacのソフトは多いのに対して、AIFFに対応しているWindowsのソフトは少ないです。一方、WAVファイルには楽曲情報やアルバム・アートを書き込めないのに対して、AIFFファイルには書き込めます。)頻繁にセールも行われているので、一気に大量の音源を購入するDJも多くいます。

DJ向けということで、主に取り扱われているのはシングル形式(単体の曲、あるいは曲+リミックス)の音源です。取り扱いがあるアルバムに関しては、ミックスCDの場合は、全曲がノンストップで繋げられている一般視聴者向けの“continuous mix”と、それぞれの曲がバラバラにされたDJ向けの音源が一緒にパッケージされていることが多いです。

DJという仕事に興味のある方にとってとても勉強になるのが、人気DJがお気に入りのトラックや現在クラブでヘヴィー・ローテイション中のトラックをリストアップした“DJ Charts”です。また、音楽制作に興味のある人向けには、他のDJやプロデューサーが作った“ループ音源”(音の素材)や、人気のトラックをパーツごとに分解した“ステム”も豊富に揃っています。Beatportの大きな弱点は、トラックの一部しか試聴できないことです。

Beatport: https://www.beatport.com/


8.英国寄りの幅広いデジタル音源やレコードを取り扱う「Juno Download」

「Juno Download」は「Beatport」に続いてDJの間で高い人気を誇るオンライン・ミュージック・ストアです。アメリカを拠点としたBeatportはEDMにかなり力を入れているのに対して、英国を拠点としたJuno Downloadは、より英国寄りの折衷的なテイストが際立ちます。主にエレクトロニック・ダンス・ミュージックに特化していますが、一部ファンク、ジャズ、レゲエ、ロックンロールなどの古い曲の取り扱いもあるのも特徴です。少し見えづらいインターフェイスが最大の弱点です。

また、Juno Downloadにはレコードを販売する「Juno Records」という“姉妹店"があるのも大きな特徴で、DJ機材やレコーディング・ストゥディオ用の音響機材の販売も行なっています。日本のシティ・ポップを含むレコードの最新のリイッシュー版も取り扱っています。Beatportと比べると、アメリカ人にとっての「音楽の趣味の広さ」と英国人にとっての「音楽の趣味の広さ」がいかに違うことが分かるのも1つの楽しみです。

Juno Download: https://www.junodownload.com/
Juno Records: https://www.juno.co.uk/


9.アンダーグラウンドのハウス・ミュージックのデジタル音源を専門に販売する「Traxsource」

メインストリーム寄りの「Beatport」と幅広いジャンルを取り扱った「Juno Download」に対して、「Traxsource」は“本物"の良質なハウス・ミュージックをメインに取り扱うオンライン・ミュージック・ストアです。「インディーズのレコード・レイベルのアティチュードを持ったミュージック・ストア」をコンセプトにしたこのサーヴィスでは、アンダーグラウンドのクラブ・シーンの音楽を熱く紹介しています。『Spotlights』というコーナーでは様々なハウス・ミュージックのレイベルが特集され、一押しのトラックのセレクションに加え、インタヴュー動画やライヴDJプレイの動画が紹介されています。音源はMP3 (320kbps)、WAVとAIFF(共に16 bit/44.1kHz)で購入することができます。

また、Traxsourceは毎週『Traxsource LIVE!』というDJミックスのレイディオ番組を制作しています。世界中の80以上のレイディオ局から放送され、1000万人にも登るリスナーを誇るこの番組は、ダンス・ミュージックのアンダーグラウンド・サウンドを知るために最適なリソースの1つです。

Traxsource: https://www.traxsource.com/


10.アーティストが自由に価格設定できる「Bandcamp」

アーティストにとって良心的だということで近年評判が高いのが、「Bandcamp」という音楽のダウンロード販売のプラットフォームです。「Beatport」のような音楽配信ストアの場合、1曲の価格が大体1.5ドルから2.5ドルの間で、その収益の半分くらいがサーヴィスの取り分だと言われています。残りの半分はアーティストとレイベルの間で分けられることとなります。Bandcampではアーティストは音楽のデジタル配信に加え、その他のグッズを販売することができ、自分で適正価格を自由に設定することができるのがアーティストにとって大きなメリットです。サーヴィスの取り分はデジタル音源の場合は15%+支払いの処理にかかる料金(グッズの場合は10%)だとされています。更に、過去12ヶ月の間での売り上げが5,000ドルを超えている場合、その割合は10%に引き下げられます。

Bandcampが取り扱っている音源はMP3 (320kbps)、WAVとAIFF(共に16 bit/44.1kHz)などのフォーマットで入手することができ、合わせてアーティストが希望すればCDやレコードとのパッケージ販売も可能となっています。トラックの一部しか再生できない多くの配信サーヴィスに対して、Bandcampではウェブサイト上で曲の全体を試聴できるのも嬉しい点です。また、アーティストは“name your price”という価格設定にすれば、ユーザーが1ドル(あるいは0ドル)から好きなだけ払える仕組みも評判が高いです。こういったことから、Bandcampはエレクトロニック・ダンス・ミュージックに限らず、様々なインディーズのアーティストにとって人気の宣伝プラットフォームとなっています。

Bandcamp: https://bandcamp.com/


11.エピローグ

このコラムで見てきたように、エレクトロニック・ダンス・ミュージックの情報や音源を取り扱っているサイトには、メインストリーム寄りのものからアンダーグラウンド寄りなもの、商業的なものからインディペンデント寄りのものが存在します。また、従来は特別な才能を持ったミュージシャンが、レコーディング・ストゥディオを借りて音楽制作に取り組んでいたのに対して、現在ではDJ/プロデューサーとリスナーの境界線が非常に曖昧になっており、プロと同じレヴェルの音作りのための素材を入手することはかつてないほど簡単になりました。これこそ、ナイトクラブを訪れたことのないような若手(あるいは未成年)のプロデューサーたちが多く出現している大きな理由の1つと言えるのではないでしょうか。

ダンス・ミュージックはそもそもアンダーグラウンドなシーンとして始まり、ナイトクラブはゲイの人々など社会のアウトサイダーたちの安全地帯として機能し、DJはその影で活躍する無名の存在でした。しかし、EDMの商業的な成功と、デジタル環境での音楽制作のためのツールが進化したことによって、大衆向けの遊び場として“大型フェス"が発達し、DJたちは純粋に音楽性を追求する“アーティスト"から自分をブランド化する能力のある“クリエイター"になることが求められるようになりました。

その中で重要な1つの指標となり、その動きを更に加速させているのが、DJのランキングや音楽チャートです。前述のように、「DJ Mag」や「Mixmag」のランキング企画での評価、「Beatport」などのサイトにおける注目度によって、DJがナイトクラブやフェスで のブッキングの頻度やギャラが大きく左右されます。聴こうと思っても聴ききれないほどの新しいトラックやミックス音源が毎日のようにネット上で大量に発表されている中、自分のトラックをいかに多くの人気DJに取り上げてもらい、チャートの上位にランクインできるかが勝負となります。現在それらのチャートに目を通すと、ラス・ヴェガスなどEDM系のナイトクラブでレジデントDJを務める、主に白人の若い男性が上位を占めていることが目に見えてわかります。それはダンス・ミュージックのルーツから大きく離れた事態となったと言えると同時に、女性DJの活躍が目立つ近年のアンダーグラウンド・シーンの現状をまるで反映していないことも問題視されています。

「Resident Advisor」でも長年、読者によるDJランキングが恒例のコンテンツとなっていました。その目的は、EDM系のDJばかりが際立つ「DJ Mag」や「Mixmag」のランキング企画では取り上げられないような、ハウスやテクノの“アンダーグラウンド"なDJにスポットを当てることでした。しかし、やがてその“アンダーグラウンド"の番付ですら、RAのサイト上で最も人気のコンテンツとなったそうです。それによってDJのギャラやクラブ・シーンの空気に影響を及ぼすことは、むしろRAのミッションとは対抗するということで、2018年よりランキングの企画は中止しています。メインストリームとアンダーグラウンドの両方の面があり、双方が密接に絡み合っているダンス・ミュージックの業界では、こういった“心の葛藤"がいろんなところで伺うことができます。

RAのウェブサイトでは、編集部の考えをより細かく述べたとても興味深いコメント文が発表されており、一読の価値があります。
英語:https://www.residentadvisor.net/features/3105
日本語: https://jp.residentadvisor.net/features/3114


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